Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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激昂

「前園大尉がなくなった今、部隊を率いるは姫川中尉。そなたになった。これより、戦時昇格として姫川を大尉へと昇格。第23近衛中隊中隊長に命ずる」

「はっ! 誠に光栄であります」

「うむ。まだまだ戦は続くであろう。諸君ら、第23近衛中隊はその性質上どうしても前線続きとなってしまうが……辛抱してくれ。武御雷完全配備の暁には、名誉の部隊として称えられるであろう」

「……それは前園大尉もですか?」

「ん? 何か言ったかね?」

「いえ、何も。参謀殿に敬礼!」

 

 姫川の号令で中隊員は一斉に敬礼をする。

 参謀は満足げに頷くと部屋を出て行った。

 ユキツバキ発令から1週間。

 どうにかして、黒金は仙台まで戻り第23中隊と合流していた。

 相方は、もうしゃべることのない前園の遺体だった。

 その事実を知った時、姫川にどれだけ罵られるだろうかと身構えたが、意外にも彼女は何も口にすることはなかった。

 BETAとの戦いで戦力を失った部隊が多く存在したため、近衛軍内の臨時編成が各所で発表されていた。 

 第23中隊も例外ではなく、今さっきこうして新たな中隊長が誕生したのだった。

 聞くところによると、京都防衛隊は完全に壊滅。しかし、日本海側BETA、太平洋側BETA問わずになぜか後退を開始。今は、横浜付近まで下がっているらしい。

 確実の個体数は減っているが、上陸した彼らがやることなど一つしかない。

 今頃偵察衛星は必死になって新たに建造されるであろうハイヴを探しているだろう。小さな島国に2つ目となるハイヴが出来上がった日には、まさに絶望の一言しかない。

 

「では、解散せよ。なお、黒金。お前は残れ」

「俺が……?」

「命令だ。解散」

 

 ぞろぞろと中隊員が部屋を出ていく。

 黒金へと向ける視線もまた様々だ。

 名もなき英雄としてユキツバキを陰から支えた者に対する畏敬の念を込めた視線、敬愛すべき隊長を守ることができなかった愚か者を見る視線。 

 前者のほうが僅かに多いが、正直なところ何も言えないことから引けめを感じないこともない。

 中隊員が出ていくのを確認すると、姫川は部屋の扉を閉めた。

 気まずい沈黙が流れる。

 

「……隊長昇格おめでとう」

「私ごときがなっていい役職ではないが。誰もいないのでは仕方ない。幸か不幸か、ほかにいた副隊長候補も隊長候補も皆、死んでしまった」

「……お前は俺を怒らないのか」

「怒る? いったい何を?」

「前園隊長が死んだことだ」

「黒金、お前が殺したのか?」

「そういうわけではないが……」

「ならば、なぜ私が憤る必要がある。大尉は大尉にしかできないことを成しただけだろう。その結果として、命を奪われたとしても……それは本望なんじゃないか?」

「お前! 本気で言っているのか!」

 

 思わず大きな声が出た。

 そうだ、俺が姫川に説教などできない立場だということは俺自身がよく理解している。

 それでも、今のようなやけになった言い方を許容できるほど俺は人間ができていない。出会って数日しか経っていない。何もわからないし、分かり合えたとも思っていない。だがしかし、そうだとしても誰かの命を任務のためならば仕方ないで切り捨てていいのだろうか? 否、いいわけがない。それは、生者が悲しまぬために与える理由にすぎない。なんと、自分勝手なものだ。

 

「いいのかよ! 好きだったんだろ! だったら……そんな自分に言い聞かせているみたいに言うな」

「……ならば、言っていいのだな? お前ごときが私を受け止めきれると?」

「……!」

 

 雰囲気が変わった。

 姫川をどす黒い何かが取り巻く。

 

「お前が……余計なことを言っていなければ、大尉は私達と一緒に仙台へと戻っていたはずだった! 大尉は、自分の部隊から離れるようなお方ではない!」

「がはっ!」

 

 姫川の鉄拳が黒金の鳩尾に決まる。

 

「お前はなんだ! なんなんだ! 生きるはずだった人間を殺して、何を飄々としている! 説教をしている! お前がすべてなだけだろう!」

「ぐっ……!」

「疫病神がっ! 大尉を返せ! あの人は……2度と戻ってこないのだぞ!」

 

 最後の一撃で黒金は吹き飛ばされる。

 机にぶつかり、ひっくり返すと黒金は血を吐いた。

 全身全霊本気の拳。彼女は今、黒金にまったくの嘘偽りのない言葉をぶつけたのだ。それが、どのような内容であろうとも、彼女の本心であることは変わらない。

 

「……そうか……すまない……」

「……どうだ、わかっただろう。私は……お前が憎い!」

「……そうだな」

 

 正しい選択だったかは終わってからわかる。

 前園が生きていれば、大団円で終わる最高の結末だったのだろう。しかし、今は帰ってきていない。助けられた帝国軍にとっては最高の終わりだとしても、第23中隊にとっては悪夢のような終わりなのだ。

 姫川は黒金に厳しい視線を向け続ける。

 

「お前を許す気はない」

「……そうだろうな」

「ゆえに、私の役に立て」

「え? 何を言って」

「黒金中尉。副隊長を命じる」

「な……!」

「いいか。これは罪滅ぼしだ。私のために、部隊のために身命を賭けて働け」

 

 衝撃の言葉に黒金は何も言うことができなかった。

 そんな黒金を尻目に、姫川は部屋から出て行った。

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