Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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黒金を継ぐものとして

 黒金邸は思っていたよりもこじんまりとした佇まいであった。

 代々将軍を支える斯衛軍参謀を輩出し続けた名家であったが、どうにも子宝に恵まれず今の代でつぶれてしまうだろう、というのが世間の評価であった。

 実際、現当主である「黒金 泰三(くろがね たいぞう)」もそうなるものだと思い込んでいた。参謀本部を退官した後は、妻と共にのんびりとした余生を過ごしたい。そう考えていた時の、BETA上陸であった。しかし、今や老兵の手などを借りずとも参謀本部はしっかりと機能していた。

 将軍を安全な仙台まで護送し、ついにお役御免と思っていたその時だった。親戚にあたる前園家から連絡がきたのは。 

 身元不明の男を養子として欲しい。

 平時ならばそんなお願いを突っぱねてしまうだろう。だがしかし、今は戦時。

 おまけに何かと便を図ってもらっている前園家からのお願いだだった。無下にすることもできまい。

 そんな軽い気持ちで泰三は猛を受け入れていた。

 どうしたものか、猛という男は予想以上に聡明でな男であった。

 なるほど、確かに彼にならば、知り合って間もないとはいえ「黒金」の名を継がせることができるやもしれない。一目見ただけで泰三と妻の思いは同じだった。

 BETA後退に伴い、斯衛軍の一部に休暇が出されていた。

 猛は初めて来た黒金邸で必死に、上流階級者としてのマナーや心得を学び続けていた。

 

「猛や。お前は黒金家のルーツを知っているかね?」

「いいや、知りませんが……」

「猛、いつも言っているでしょ。ここはあなたの家ですよ。そんなに肩肘張らずとも、誰に咎められることなどありません」

 

 老夫婦はニコニコと猛へと話しかける。

 ここまで来れば自分が決して彼らに押し付けられたのではなく、心底歓迎されていることが察することができていた。

 猛は一つ息をつくと、もう一度聞き直す。

 

「知らないけど……できるなら教えてくれないか?」

「もちろんだとも。黒金家は初代将軍の頃から今も変わらず参謀を務めてきた」

「数百年も?!」

「そうじゃ。そうして気が付くと、今の地位になり右腕と呼んでいただけるようになったのじゃ」

「す、すごいんだな……黒金家って」

「今頃気が付いたのかえ?」

 

 初代将軍といえば江戸時代の話だろう。

 数十家と将軍に仕えている名家はあるはずだ。その中でも右腕と呼ばれる立ち位置にいることは、驚くべきことであり、同時にどうしようもないほどの不安と責任を感じざる負えない。

 もっとも、責任などとうの昔から理解して背負っているつもりではあるが。

 

「ゆえに、たまにじゃがな、本当にたまに将軍様がいらっしゃるのじゃよ」

「どこに?」

「ここじゃよ」

「はあっ?!」

「そう驚く出ないぞ」

 

 何をサラリとあり得ないことを言っているのだろうか。

 いや、さすがに将軍を冗談のネタにするなど目覚めが悪い。そうなると、本当に将軍様が非公式でこの家を訪れると言うのか? 言葉に表せないすごさを猛はさらに自覚する。

 

「猛や。もし、将軍様がいらっしゃた時は礼儀正しく頼むぞ」

「当たり前だろう……さすがに、無作法はできないぜ」

「その意気じゃ。では、続きといこうかのう」

 

 猛が将軍の右腕として動き始めるのはまだまだ先の話である。

 だが、今この時から、運命の歯車は徐々に動きを速めて行っていた。

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