Muv-Luv ALTERNATIVE 業 作:ROGOSS
介入
1999年3月12日 国連軍所属特秘潜水艦バルバロッサ
大日本帝国にBETAが上陸してから、間もなく一年が経とうとしていた。この一年、大日本帝国は自国領土内にBETAがいるという事実に肝を冷やしながらも、まったく動きを見せないBETAのおかげでどうにか戦力を再び整える算段をつけることができていた。
辛うじて機能している関東圏北部に存在する軍需工場をフル稼働させ、対BETA兵器の要である戦術機と地上戦力を製造していた。また、相模湾近郊には琵琶湖で展開していた第4機動艦隊を配備し、順次艦砲射撃を行うことで確実な間引きを行っていた。
しかしながら、BETAが一年近くもまったく動きを見せないのには当然のごとく理由があった。
最新の偵察衛星の画像からもはっきりわかるほど、かつて横浜と呼ばれていた地区に巨大なハイヴが建造されつつあったのだ。
BETAの進行が止まる時、すなわちそれはハイヴが建造されている時。言いえて妙とはまさにこのことだろう。
このままこれを放置しておけば、小さな領土内に大日本帝国は、二つ目のハイヴ建造をみすみす見逃さなくてはいけなくなっていた。
もちろん、大日本帝国側もそれを良しとすることはできなかった。
オルタナティブ第4計画を主導している香月博士の発案による、横浜ハイヴ攻略作戦が国連へと提出されたのが4か月前。そのあとは、異例の速さで国連は作戦を承認。大東亜連合へと作戦を打診し、いまこうして、作戦に参加するであろう連合軍の首脳が集まる場が提供されていた。
やや居心地の悪い潜水艦の堅い椅子にしかめっ面を浮かべながらも、榊は冷静になるよう努めた。
あと少し議論を詰めることができれば、ハイヴ攻略作戦の目途が立つだろう。
「なるほど。Mr.榊。あなたの言う通り、本件は正式な国連の依頼として我々は受け取っている。BETAによる侵攻をいまだに受けていないアメリカは、全面的にそのサポートに回ることを誓おう」
「では……各国の方も、よろしいですかな?」
「異議なし」
「これにて評決といたしましょう。些事に関しては、各国連携のもとまた後日に」
議長の一言により、議会が解散される。
各国代表が頭上に気を付けながら部屋を出て行ったのを見送ると、榊は大きくため息をついた。扉の近く渦中の香月がいるのを見かけると、よいしょと言いながら榊は立ち上がり近付いていく。
「どのようにして、あのアメリカを言いくるめましたのかな?」
「あら、随分な良いようですわね、首相どの」
「BETA進行の際、安全保障条約を一方的な破棄を言い渡し逃げて行った彼らがなぜ、これほどまでに協力的なのか。疑問に思わぬほうが無理があるのでは」
「……確かに。ですが私は今回、大したことはしていません。ただ、彼らにとって横浜を奪還するということが何かしらのプラスになると考えただけではないのですか? あの国は、今を見ていません。見ているのはBETAがこの地球から消えた後の話」
「この辺にしておきましょう。余計な詮索は、寿命を縮めるだけだ。なんにせよ、香月博士立案の作戦。首尾よく進むことを願うばかりです」
「ご安心を。なんといっても天才を私が立てたものですから」
香月の揺るぎのない発言に、榊は思わず苦笑する。付き合いは長くはないが、彼女はどこまでも自信過剰であり、そしてその自信になった成果を生み出していることは周知の事実だった。
大日本帝国がどうなるか。それをこの目ではっきりと見るまでは死ぬわけにはいかぬ。
両のこぶしを握り締め、榊は新たに決意する。自分の作戦で多くの兵を既に死なせている。この先、どうなるかはわからないが、一度決断したものの責務として見届けなくてはいけない。たとえそれが、破滅のものだとしても、責任を放棄することは許されないのだから。
「これより、大日本帝国は準備に入ります。香月博士の研究も……良い方向へ向かうことを切に願っておりますぞ」
「ええ。まったくです。私もうかうかと、こんなところで油を売っている場合ではありませんから」