Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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激動

『戦闘シミュレーション終了。搭乗員は速やかに降車してください』

「ふぅ……」

 

 新潟での戦いから既に半年以上経っていた。

 前園大尉を尊敬していた姫川大尉は、最近になってから、やっと悲しみの陰りを見せることがなくなった。本人はズッと隠してきたつもりだったのだろうが、隊員からしてみれば、毅然な表情の中でどことなく見せる影をわかっていた。

 もっとも、一部のアホな男性衛士はその表情が良いなどとほざいており、吐き気がしていた。

 姫川の変わりようには、少なからず副隊長となった黒金の存在が大きいのだろう。

 隊長、副隊長の枠を超えていると思わせるほど二人きりの時間が多い彼らに、疑惑の視線を向ける者は多い。

 誰が誰と恋愛しようと関係ない、と思っている西からすればどうでもいいことなのだが……。

 そもそも、無断出撃に等しい形で出ておきながら、前園大尉を殺し、おめおめと帰ってきた黒金に姫川が恋などするものか。黒金は卑怯者だ。

 姫川は私の目標としている凛々しい尊敬に値する最高の衛士だ。いつしか、彼女を超えたいと思っている。

 私は……。

 

「おい、聞いているのか西」

「あ、え……すみません」

「大丈夫……? 最近、ボッとしてること……多くない……?」

「俺も間島もお前が体調不良じゃないかと最近思っている。大丈夫なのか?」

「当り前よ! 衛士にとって体調管理も仕事なのだから!」

「何かあるなら、遠慮なく言え。今から、医務室へ行ってもかまわないぞ」

 

 その言葉に思わず西は黙る。

 わかっている。黒金は小隊長として、中隊副隊長として私を気遣っていることは。それでも……彼の前では素直になることができない。恋愛感情ではない。心の奥底で、未だに信用できない自分がいる。多くの出撃を共にし、何度も窮地を救われているが、信用してはいけないという心の警鐘が鳴り止まない。

 突然黙る西に、黒金は心配そうな視線を向ける。

 やめてくれ。私は、あなたにそんな視線を向けられる権利などない。あなたを信用していないのだから……。

 

「西?」

「問題ありません。ですが、少し気分が悪いので抜けさせて頂いたて構いませんか?」

「あぁ……いいぞ。無理はするな」

「はっ! 緊急出撃の際には、すぐに戻ります」

 

 その場にいることに耐えられず、西は逃げ出すことを決めた。

 どっちが卑怯者よ。

 今すぐにでも、壁に頭を打ち付けて、錯乱している様子と誤魔化しながら本音をぶちまけたい。ぶちまければ何か変わるような気がする。

 

「まったく……何やっているんだろう……」

 

〇 〇 〇

 

「それはつまり……?」

「だから言っているでしょう? 横浜にあるハイヴに総攻撃をしかけるのよ」

「本気で言っているのでしょうか……?」

「真面目よ真面目。勝算が一割もないなら、やらないわよ」

「一割しかないのに……」

 

 黒金の言葉に香月は目を細める。

 しまった地雷を踏んでしまったか。

 どのような罵倒が来るかと身構えていた黒金に、香月は突然笑みを浮かべた。

 

「ははは、いいわ、そういう皮肉嫌いじゃないわよ。なんだか……あなたと話していると不思議な感じがするわ、黒金。まるで……いや、何もないわ。ともかく、そういうことよ」

「受け入れざる負えないのでしょう。ましてや、国連軍も出撃するとなれば、我々大日本帝国が兵の出し惜しみをするなど、もってのほかでしょうし」

 

 訓練後、突然の放送で呼ばれた黒金と姫川は研究室へと呼ばれた。

 研究室があるという存在は知っていたが、はたして何を研究しているのかなどの情報は一切知らなかった。

 ましてや、半ば冗談だと思っていた人物が本当に責任者などとは……。

 香月と初めて会ったのは、食堂だった。軍人にしては派手な服装であり、どこかのお偉いさんかと思い無視していたところを「視線があった」、などという今時聞きもしないチンピラの理屈で絡まれたのだった。よくよく聞くとまだ、大学生であり、帝国研究室の責任者だと彼女は名乗ったが、冗談が過ぎるとその時は相手にしていなかった。

 

「何よその目。黒金、あなた、私の言っていたこと信じてなかったでしょ?」

「ははは、そんなまさか」

「おい、思いっきり棒読みになってるぞ。階級は彼女のほうが高いんだ。お世辞を言うなら、もっと気合を入れろ」

「馬鹿にしているの? 全部聞こえているのだけども?」

「さ、さて……」

「はぁ……まあ、いいわ。天才のあたしの思考なんて、凡人には理解できないわよね。ともかく、これが作戦の概要よ。特殊部隊のあなた達には、ちょっと変わった依頼をしたいから……先に伝えておいたわ。いい、正式な発表があるまで他言無用よ」

「はっ!」

「この作戦がせいこうすれば、人類はBETAに勝つ希望を得られる」

 

 香月の顔はいつも以上に真面目なものとなっている。

 その通りだ。BETAに一度侵略された土地は取り返さないものだと思われている。ハイヴなど建築されたのならば、なおさらそう思えてしまう。

 その常識を覆すことができるのならば……。

 人類は希望を糧に再び立ち上がることができる。

 

「なんとしても成功させるぞ、黒金」

「わかってる」

 

 決意は固い。

 技術もある。

 問題があるとすれば……。

 黒金は天井へと目を向ける。何もないはずの宙へ彼は静かに誓いを立てるのであった。

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