Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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お待たせしました。
次回から横浜ハイヴ攻略戦です。


明星

 眠れないのは興奮のせいか? あるいは緊張しているのか?

 黒金は一人、自機の前で静かに盃を掲げた。死ぬ前の一杯ではない。必ず生きて帰ることを誓うための一杯だ。自分は多くの人に助けられたと痛いほどに感じている。何者かわからない自分を、お節介な程保護してくれた前園大尉。恨みながらも、副隊長として頼り続けてくれる姫川。正体不明の自分を養子としてくれた黒金の家。

 人は一人では生きられないと、常々誰かが言っているが成る程、確かにその通りなのかもしれない。

 仮に、あのまま前線と化してた京都で一人取り残されていたら、今頃BETAの腹の中で死んでいただろう。誰かにもらった命であるならば、誰かのためにつかわなくてはならない。誰かの燃えカスで生きているならば、自分もまた燃え尽きなくてはならない。何度も何度でも、助けるために全身全霊でいなければならない。

 横浜ハイヴへの攻撃が正式に発表されたのは、一週間前だった。人類二度目のハイヴ攻略戦に多くのものは不安を抱いていた。

 国連軍全面協力の元で行われる作戦。故に、仮に敗北した場合、人類は完全にBETAに勝つための希望を失うこととなる。ハイヴ攻略は地球上のBETAを一掃するためには必要不可欠であり、BETAに勝つことを示すためにも成功が絶対条件となっていた。

 作戦名は「明星作戦」。人類にとって、暗い夜を照らすための光が見える作戦となるのか。あるいは、二度と朝など来ない絶望を味わう作戦となるのか。

 結果など、振ってみなければわからないダイス目と同じであり、なるようになる、という曖昧な回答しかできない。それでも間違いなく、この作戦に関わる誰しもが「勝ちたい」と意気込んでいる。

 ヨーロッパ戦線での戦闘が収束の影を見せている今だからこそ、これほどの大規模な戦闘を起こせているのだ。

 

「そうだ。俺たちが勝つんだ。異星起原種だかなんだかは知らないが、俺たちの地球から出ていけ」

 

 黒金が呟いた時、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、予想と反した人物が黒金を見つめていた。

 彼女もまた眠れないのだろうか? 震える彼女の拳を見て、黒金は静かに微笑む。それを見た彼女は、嫌悪感を浮かべると、黒金へと話しかけてきた。

 

「なにをしているんですか、黒金副隊長」

「興奮しちまってな。先に自分の戦術機の様子を見に来たんだよ。お前こそどうした、西」

「私も……自分の戦術機の確認をしに来たんですよ。まさか、副隊長殿が先にいるとは思いませんでしたが」

 

 副隊長を強調して言っているあたりが、西なりの嫌味のつもりなのだろう。残念ながら、もう、そんなものは大した心理的ダメージにもならないというのに。

 視線を忙しなく動かしながら、西は答えると再び黙りこくった。

 沈黙が流れ、格納庫の設置されている柱時計の秒針の音が響き渡っていた。不気味なほどの静寂。

 カチカチという音があまりにも鮮明に聞こえるため、今にでも発狂してしまいそうだ。

 

「西、お前が俺をどう思っているかは理解しているつもりだ」

「何の話ですか、副隊長。私は別に……」

「だがな、お前の個人的な感情で隊を危険にさらすことだけは許さない」

「なっ……!」

「余計な憂いは取り除いておけ」

「……だったら」

 

 西の肩がワナワナと震える。まさに噴火寸前の火山と形容するのが正しいだろう。

 そうだ。言いたいことがあるなら先に言え。言えずに後悔して死ぬなんて、間抜けすぎるだろう。

 

「あなたはどうして、前園大尉をお守りできなかったのですか! あなたが本当に実力者なら出来たはずだ!」

「お前も大尉を尊敬していたのだな」

「当たり前です! あの方は、誰からも好かれる素晴らしいお方でした!」

 

 姫川とは違い、純粋に前園を尊敬していたことが感じられた。

 さて、どう答える。どう答えれば地雷を踏まずに済む。

 そんなことを考えている間も、西の罵詈雑言は止まらなかった。次から次へと、黒金を否定する言葉が飛んでくる。やがて、黒金は考えることがめんどうになった。

 

「お前の言いたいことはわかる。では、聞かせてくれ。尊敬すべき人が選んだ選択を、どうして否定できる」

「え……?」

「尊敬に値すべき人が、最後の選択をしたとして、それの正しさを問うわけではない、だが、その選択を否定することはその人自身を否定することじゃないのか?」

「それ、は……」

「俺は止められなかった。短い期間だったが、前園が確かな人格者であり、これ以上ない人間味あふれる人物だったからこそ、止められなかった。お前なら、止められたのか?」

「私は……」

 

 西が言葉に詰まる。何度目かの秒針が鳴り響いたのをきっかけに、黒金は窓の外を見た。

 朝日が漆黒の闇を割き、世界中を照らそうとしていた。

 

「明星だ。もうすぐで朝になる」

「……そうですね」

「憂いは取り除けたか?」

「わかりませんよ。ですが……私は黒金副隊長のことを勘違いしていたのかもしれません。てっきり、守れる力があるはずなのに、使わないで逃げたのだと」

「勘違いじゃないことがわかってもらえたなら、それでいい」

 

 西の副隊長という言い方かたは、既に皮肉が消えていた。

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