Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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目覚め②

「クソッ! 開けってんだよ!」

 

 何度目になるのだろうか。

 強化装備のおかげなのか痛みは全く感じられないが、こうして無駄な努力を積み重ね続けているという事実が俺の心を蝕んでいる。

 突撃(デストロイヤー)級の攻撃をから生き延びたとしても、後続に控えている闘志(ウォーリアー)級や戦士(ソルジャー)級といった小型BETAにハッチを壊され、生きたまま食い殺されるのが通常のはずだ。

 しかし、どういう奇跡が起きたのか俺は間違いなく五体満足のまま生き延びていた。

 辺りはシンと静まり返っている。

 BETAの移動音や戦術機がの駆動音が聞こえないところから推測すると、どうやら俺は一人戦場に取り残されたらしい。

 

「さて……どうするか」

 

 酸素の残量を見て俺はため息をつく。

 残量から目算するにもってあと5分だろう。

 

「ははは……」

 

 乾いた笑みがこぼれた。

 せっかく万分の一の確率でBETAの集団から生還できたというのに、まさか酸欠で死ぬことになるなんて。

 もちろん、外の出れたとしても安全である保障などない。

 息を潜めているだけで、BETAがすぐ真下に控えているかもしれない。

 それでも、何もしないままどこよりも安全な棺桶となったコックピットで死を待つだけなど俺には出来ない。どうせなら、最後まで足掻いて足掻いて足掻き抜いて、どれだけの苦痛を伴おうともBETAに食い殺されたほうがまだマシだ。

 俺は呼吸を整え、渾身の力を右足に込める。

 

「いけってんだよ!」

 

 独特の金属音が響き渡り、ハッチが吹き飛ばされる。

 冷たい外気がコックピット内へと雪崩れ込み、オーバーヒート寸前だった俺の体を冷やす。

 近づいてくる物音は一切ない。

 シートの裏から小銃を取り出すと、俺は慎重にコックピットから顔を出した。

 外には文字通り何もなく、根こそぎ破壊されつくされていた。

 気色の悪い異星起源種はもちろん、共に立っていたはずの戦友もいない。木々が生い茂っていたはずの山々は、丸裸となっている。

 

「くそが……」

 

 俺はコックピットから飛び降りると東へと歩き始めた。

 あてがあるわけではない。

 だが、ここでジッとしているくらいならば、第二防衛ラインまで歩き救助を求めたほうが生還率が上がるかもしれない。

 歩きながら俺は考える。

 壊すものと守るもの。

 文字として描くだけならば、ただ相反する意味を持つ言葉としての認識で構わないだろう。

 だが、実際はまったくの別物だといえる。

 守るものは、愛する家族や恋人、隣人のために銃をとり、そして信じる信念や理想、崇高な理念のもと戦場を駆け回る。いわば、思いをもって動き続けているのだ。

 しかし、壊すものにそのようなものがあるのだろうか?

 目の前に物が存在するから壊す、目の前に人が蠢いているから殺す。

 己のエゴにのみ正直に動き、本能の為すまま他人を苦しめ続ける。

 回りのことを一切目に入れずに、自己中心的な考えを展開する。

 それはただの獣であり、人類という理性的な生物とは大きくかけ離れている。

 BETAとはそういうものであり、だからこそ憎み裏み続けるのだ。終わらない戦いがないというならば、いったいこの戦いはいつ終わるというのだろうか? この守護の使命から、命あるうちに解放されることはあるのだろうか?

 このまま、最後の一兵となるまで技術と力の限りたち続けろと言うのだろうか?

 

「怖い」

 

 出てきた言葉は心の奥底に閉まっていたはずの言葉。

 自分が何者であるのか、自分という存在を理解しているはずの自分が一番わかっていない今の状況と戦場に一人残されたという恐怖から出てきた言葉に俺は苦笑する。

 きっと、俺は今までも戦い続けてきた兵士なんだろ? 何を恐れていやがる。前を向け、ここで死ぬことを俺が望んでいない。だから、死ぬわけにはいかないんだ。

 どれだけ歩き続けたのだろうか?

 日は沈み、月が空から地上を照らしていた。

 半日以上休憩無しで歩き続けていたのだ。

 朦朧とする意識の中、それは唐突に俺の視界に飛び込んできた。

 

「こいつは……」

 

 夜の闇よりもさらに黒い漆黒に塗られた機体。

 特徴的な頭部。

 

「まさか……」

 

 風の噂程度に聞いたことがある気がする。

 90年代から正式に生産計画がスタートした超高性能戦術機。

 本土決戦ようにカスタマイズされ、精錬されたボディと性能。

 一般帝国軍の主戦力となっている「陽炎」や「吹雪」とは違った戦術思想に基づいて開発された戦術機(それ)は、まさに日本の中枢を守るために作られた最高傑作と評価しても過言ではないだろう。

 現在でも、さらなる派生機が改良が進められているようだが、これが配備されているのは近衛軍のはずだ。

 

「なぜこんなところに?」

 

 疑問を口にしながらも、俺は武御雷によじ登る。

 ハッチは開いており、なんの苦労もなく俺はコックピットへ体を滑り込ませた。

 シートは真っ赤に染まりあがっており、その出血量から考えるに、この機体の正規のパイロットは衛士は生きながら食べられたのだろう。

 本来ならば滅茶苦茶にされているはずの機器類がまったく無傷なのは、この戦場で起きた2度目の奇跡だろう。

 

「動くか?」

 

 俺は起動ボタンを押す。 

 だが、画面は沈黙したまま一向に何の動きも示さない。

 

「やはり……くそっ!」

 

 怒りを込めた拳をモニターへと叩き付ける。

 機体の右肩に貼ってあったものと同じエンブレムがコックピットの上部に貼られている。

 おそらく、この戦術機が所属する部隊の共通エンブレムなのだろう。

 

「期待させておいて……ここまで来たんだ、俺の言うことをききやがれ!」

 

 今度は両の拳でモニターをたたく。

 僅かな静寂のあと、モニターは息を吹き返しハッチが自動的に閉まり始めた。

 生体認証の手順を何故か飛ばし、俺は黒い武御雷の操作権を得たのだった。

 

「いい子だ。さあ、行くぜ。安全に帰ろうや」

 

 慣れない機動に戸惑いながらも、俺は更に東へと進み始めた。

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