Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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お久しぶりです。
とりあえず完結するまでは続けたいと思います。
ここで振り返りを致します。

登場人物

第23近衛中隊
姫川 梓大尉/隊長
黒金 猛中尉/副隊長
西少尉
南雲少尉
間島少尉
故 前園大尉/ユキツバキの際に死亡が確認





迫る闇

 絶望とは常に何の気配もなくやってくるものである。それが特に人間の常識をはるかに凌駕している存在からなるものならば、もはや人間の手にはおえない。それでも彼らは諦めることをしない。撤退は許されても敗北は許されない。意地と誇りにかけて彼らはハイヴ内の情報を最低限持ち帰らなくてはいけなかった。国連軍にこれ以上の被害を出さないためにも、それは急を要していた。

 しかし、現実と理想はかけ離れているものだ。彼らの行く手を阻むように数多くの要塞級が現れる。

 

『小隊長、このままでは全滅です』

『小隊長だけなら……切り抜けられます。僕達は脚止めにまわります』

「そんなことは許さない! 何としても全機で地上に這い上がるぞ」

『……だが、こいつはどうしようもないぜ』

 

 小隊員が珍しく弱音を吐く。悪態をつくことはよくある彼らだが弱音を吐く姿は初めて見たかもしれない。モニター越しの彼らに余裕は見えない。精鋭中の精鋭である近衛であれどハイヴ内という狭い構造が邪魔をして、突撃級や要撃級の追っ手を振り切ることは難しい。

 

「こちら黒金、ロンギヌス1応答せよ」

『ロンギヌス1、どうした』

「ハイヴ内にて要塞級に遭遇。視認しているだけでも数は10はくだらない。加えて突撃級と要撃級による追撃を確認している。現在全力後退中であるものの、追っ手を振りきることが難しい」

『ロンギヌス1了解した。これより援護に向かう。幸いにもこちらはBETAとの遭遇は最小限にとどまっている。撤退を支援する』

 

 とはいうものの……黒金はため息をついた。後ろを映しだしているモニターを見るのが躊躇われる。こんなところで死ぬわけにはいかない。先に突入していた部隊はBETAの強襲によって既に全滅してしまったのだろうか? 連絡をとることができない。

 サイドアームで36mm突撃砲をBETAへと叩き込みながらの後退。面制圧は数の暴力の前では無に等しい。相変わらず気色のわるい姿で奴らは追ってきている。

 

「推進剤が切れることは気にするな。間もなく中隊長達と合流できるはずだ。ありったけの弾丸で脚止めをしながら噴射滑走(ブースト・ダッシュ)で駆け抜けるんだ」

『了解……!』

 

 苦し紛れの声が聞こえる。それでも駆け抜けぬけならばならない。ハイヴの主坑道は直線に作られていることが幸いして、BETAとの追いかけっこはイーブンを保っていた。ありえない話ではあるが、BETAの体力が尽きるか、それとも推進剤が切れて戦術機がガス欠になるかまで両者の追いかけっこは続くように見られる。

 やがて巨大な主坑道が終わりを見え始めた。左右に細い坑道が姿を見せ始めている。蜘蛛の巣のように張り巡らされている(ベント)……下手に迷い込まなければどうということはない。

 しかし、異常はすぐに起き始めた。

 

「どうした間島、遅れている!」

『……すみません。どうやら脚を少しやられたようです』

「あと少し……いけるか?」

『僕にはわからないですね……』

 

 間島機が見るからに遅れ始める。このままではBETAに追いつかれるのは時間の問題となっていた。

 

『小隊長、光が見えます!』

 

 西の通信を聞き、メインモニターを見る。そこには地上の光が映っていた。それでも間島機は段々と遅れ始める。

 あと少しだっていうのに……俺はアイツを見捨てて逃げ出すのか……?

 前園が死んだときの光景が脳裏に映る。あの時は前園の責任と勇気ある決断のおかがでBETAの侵攻を食い止め、大きな被害を出さずに済んだ。しかし、今ここで間島が倒れたとしても人類の勝利にはなんら繋がることはない。こういう表現は好かないが犬死にとなってしまう。

 今、俺は責任のある立場となっている。こういう時、俺ならば何ができる?

 

『行ってください。ここで最後の脚止めをします……!』

 

 間島機が足を止め、反対方向に向こうとしている。

 この撤退は人類が勝利するためのただのほんの小さな足がかりだ。

 

「許さん!」

 

 俺は叫んでいた。反射的に戦術機を反転させ、間島の元へと向かう。

 

『おいおい、どうすんだってんだよ!』

「お前達は行け!」

『副隊長、何を!』

「何も見ずに走れッ!」

 

 やがて俺は間島の戦術機の手を掴んだ。

 

「間島、まだスラスターに推進剤は残っているな?」

『はい……片足のならば……』

「地上までの距離は800mそこらだ、合図をしたら切り離せ」

『えぇ……?』

逆噴射(バック・ブースト)だ、行くぞッ!」

 

 間島機を捕まえたまま逆噴射をかける。前方にはBETAの群れが迫り、背後には希望のための出口がある。

 BETAは逆噴射で速度が低下した黒金達の戦術機にさらに距離をつめる。やがて目と鼻の先に、あとほんの少しだけBETAが加速をしたら追いつかれるまでに奴らはやってきた。

 

『小隊長ッ!』

「今だ、切り離せ!」

 

 間島機の右足からスラスターが切り離される。重力の法則に従い、スラスターは主坑道の地面に一度バウンドするとBETAの先頭集団にまで転がっていった。

 

「フォックス2、いけぇぇぇぇぇぇ!」

 

 120mm滑空砲が発射される。弾丸は一直線に切り離されたスラスターへと吸い込まれた。

 数秒後、スラスターは爆発を起こし、先頭集団のBETAを丸焼けにする。狭い主坑道でおきた爆風は黒金達の戦術機にも襲いかかる。しかし、その爆風は彼らを加速させついには出口へと到達させた。

 

『撃てぇぇぇぇ!』

 

 姫川の号令のもと、出口で待機していた全戦術機から弾丸が放たれる。直線移動をしいられているBETAにはそれを受け止めることしかできない。ミサイルもまじり合う弾丸の雨は固い要塞級の外皮を削りとり、直接体内へとダメージを与えていった。

 

『小隊長……ありがとうございます』

「礼はいらないさ。戦いは終わってないんだからな」

 

 そう、戦いはまだ終わっていない。

 この窮地はどこにもである些末な出来事でしかないのだ。


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