Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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不穏と不当の代価

「黒金小隊、一時撤退を完了ッ!」

『よし、前面のBETAは蹴散らした! 後方のBETAは奴らの死体で脚止めされているはずだ、今のうちに一時撤退するぞ!』

『「了解!」』

「振り落とされるなよ、間島」

『了解しました』

 

 間島の武御雷を放棄するわけにはいかなかった。本来ならば、間島を別機体に収容するべきなのだろうが、機密情報の塊である武御雷を放棄することは近衛軍の中で重大な軍規違反となってしまう。他国に戦術機の情報を盗まれ、流用や悪用されることを恐れての処置だということはわかっているが、人命と技術を天秤にかければどちらが重要なのかなど考えることなどないはずなのに……だがしかし、武御雷を開発した技術者達も身命を賭して製作に当たったはずだ。そう考えると黒金は、この軍規を一方的に敵視することができなかった。

 幸いにも艦砲射撃が先程まで行われていたおかげなのか、BETAの影は見えない。第一波は乗り切ることができたようだ。それでも戦況は決して好転していない。それよりも悪化している。ハイヴ内に突入した部隊のほとんどが全滅又は消失したとの無線が流れ続けている。本当に幸運なことに黒金の部隊が全機生還できたのは奇跡だろう。

 黒金は思わず笑った。この世界に初めてきた時からというもの、どうにも運命は味方をしてくれているようだ。いつまで微笑んでくれるのかはわからないが、世界が俺を殺すつもりがないならば、その間に大暴れしてみせるまでだ。

 やがて水平線が見える。日本帝国の日の丸も見えてきた。隣には菊の家紋も見える。仮説本部の姿を見て、少しばかり安堵する。

 

『これより補給を行う。現在、国連第25師団及び大東亜連合軍第40機甲師団がハイヴ入り口に牽制を仕掛け、次なる突入作戦の準備を進めている。奴らは待ってくれないぞ、急げ』

「了解しました!」

 

 俺はパイロットスーツの圧縮機能を少しだけ緩める。スーツの中に入り込む外の空気が絶妙な心地よさを醸し出す。俺はまだ生きている。俺はまだ戦える。運命のXデーまで戦い続けられる。ハッチを開け、黒金は大地へと降り立った。部隊員のほとんどが疲弊した顔をしている。唯一、姫川だけが気丈に振る舞い、本部と連絡を取り、次の作戦の準備を進めている。さすがは隊長だというところだろうか。彼女は前園の意思を確かに継いでいるように感じられた。

 

「さすがは副隊長や、見直したで」

 

 強く背中を叩かれ振り向く。そこには茶髪にピアスをした近衛軍には似つかわしくない容姿の男が立っていた。

 同じ近衛第21大隊であるが、今まで一度も話す機会がなかった男だ。名前はたしか栗沢 卓(くりさわ すぐる)、年齢は32歳。一見して20代前半に見えなくもないが、大隊発足時から前園と一緒に戦場をかけ続けた貴重なベテランだ。

 

「そりゃ、どうも」

「なんや素っ気ないな。少しは嬉しそうにせえや」

「俺の部隊のせいで、姫川の部隊にも迷惑をかけた。褒められることはないと思うんだが」

「そんな些細なこと気にしても仕方ないやんか。大事なのはその後や。アンタは仲間の状況を素早く分析して、的確な指示と行動をした。こいつはなかなかできへんで。アンタ……本当にパイロット3年目かいな……?」

 

 栗沢の目が怪しく光った。ゴクリと固唾を飲む。

 いったいどうしていつも瞬間的に体が動き出すのか? その疑問は俺だって思っている。だが、答えは出てこない。いつも勝手に体が動き出す、それ以外の何者でもないのだから。

 

「まぁ、ええわ。俺はアンタが前園を殺したと思ってたくちなんだ。だが、一緒になってはや数年……アンタは仲間を見捨てるような奴じゃないってことはよくわかったつもりや。だからな、その志は最後まで貫くんやで」

「ま、待ってくれ! アンタはどうなんだ、前園を殺したのは……俺なんだぞ! 恨んでないのか!」

「恨みでBETA殺せんなら、とっくにアンタを殺してるさ」

 

 栗沢が去って行く。

 不思議な奴だ。よく聞けば、関西弁で話すと思っていた栗沢は似非関西弁でしかない。

 

「小隊長」

「どうした間島」

 

 間島がうつむきながら話しかけてきた。

 まったく俺に休憩時間はないのか。

 

「すみませんでした。僕はあの時……諦めていました」

「だろうな」

「でも黒金小隊長は見捨てなかった。どうしてですか?」

「……いつか、俺が小隊長だった時に仲間が全員死んだ気がするんだ」

 

 記憶に靄がかかる。あれはいつの記憶なのだろうか。仲間がいたはずだ。名前も顔も思い出せない。それでも確かに彼女達と仲間で、親友で、恋人で……大切な人達だった。俺は彼女達を信じ続けた。結果として俺は目的を果たしたが、手のひらからは彼女達の命がこぼれ落ちていた。俺は目的を果たすためだけに前に進み、後ろで俺を支え続けた彼女達に振り向く余裕がなかった。戦争には勝ったが、戦いには負けた。

 あんな思いはもうたくさんだ。俺は前だけを進みのはやめる。後ろで倒れそうな仲間がいるならば手を差し伸べ続ける。この手からこぼれおちる命を二度と出したくはない。

 

「忘れてくれ。俺は小隊長として責任をまっとうしただけだ」

「ですが……次は見逃してください。あんな事、何回もできるもんじゃありません」

「そうだな。もしも、間島、お前がハイヴを完全に破壊するために命を投げ出すならばお前の意思を尊重しよう。だがな、自己満足の死は許さない。お前の中の生きたいという叫びを無視するな」

 

 間島の胸を拳たたく。

 我ながらきざ臭い台詞(セリフ)だ。だけど、この場では正しい言葉の選択をしたと思う。

 

「全員聞いてくれ」

 

 ようやく休憩をとろうとしていた時だった、姫川が招集をかけたのは。

 

「我々はこれよりハイヴ内での活動をしない」

「どういうことだ」

「米国がきな臭い動きをしている。奴ら……G弾を使うかもしれない」

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