Muv-Luv ALTERNATIVE 業 作:ROGOSS
「G弾……それはなんだよ」
「詳しいことはわからない。ただ、一発でハイヴを破壊することができる威力をもつ特殊な兵器という情報だけが公開されている」
「ハイヴを破壊できるなら最初からそのG弾を使えばいいんじゃないですか?」
「たった一発でハイヴを破壊できる威力……そんなものが、周囲の環境にどれだけの被害を及ぼすか未知すぎる。日本が……アメリカ人に破壊されるぞ」
姫川の言葉を聞き、皆が黙った。
近衛の一員として日本を守る思いは人一倍持っている。日本を破壊される、それも異国の手によって……そんなことが許せるわけがなかった。
「どうしたら止められるんだ」
「……ハイヴを早急に破壊する必要がある」
「米軍といえば、今回の作戦に対してどうも中途半端な感じですよね」
「まさかとは思うけど、突然ぶっぱなしてきたりはしないやろな?」
「不穏なことを言うな栗沢」
「すんまへん」
栗沢はケラケラと笑う。
あながち彼の言うことは間違いではない可能性が高い。結局の所、他国から見れば今回のハイヴ攻略に対して直接の利益がある国は少ない。アメリカは極東の最終防衛ラインとなっている日本の治安を守ることで自国への東部からのBETA侵攻を食い止める……などとお題目を唱えているが、アメリカ自身がハイヴを完全に沈黙させることができる兵器を持つことになれば話は変わってくる。
今だ各国が叶えることができていない、完全なるBETAに対する対抗手段の所持。その悲願を叶えさせてしまうことは、危険すぎる。
最終防衛ラインなどなくとも、たった一発で自国を守れることが証明できれば、アメリカはいつでも日本を切り捨てるだろう。
現場には出ていない、軍の上層部は何もわかっちゃいない。今も昔も、泥水を飲む羽目になるのは現場の人間だけだ。
「許せない。なんとしても止めないと」
「落ち着け黒金。まだ噂の段階だ。ただ、近衛に対して一時、防衛ラインを下げるよう命令が下った」
「な、なんでですか!」
「……間島、わかるだろう。上の連中は半分わかっているんだよ。この戦場がBETAではなく人の手によって地獄に変わる可能性があるってことをな」
「口を慎め黒金! これは将軍命令だ」
「……チッ、日本はアメリカに首輪をつけられているわけじゃないんだぞ」
「小隊長、それは言ってはいけません」
西が俺を制する。俺はわかっていると西に視線を送った。姫川はため息を一つ付くと、突然俺に渾身の右ストレートを放った。一歩も退くことなく俺は拳を受けきった。
「今のでさっきの言葉は聞かなかったことにしてやる。だが黒金、勘違いをするな。我々は撤退するわけではない、あくまでも戦術的後退をするだけだ。最前線では、当初の勢いは失われ劣勢に追いやられている。ハイヴ戦闘になれていない中東連合が若干ながら足を引っ張ってしまっている。その対処にいつでも当たることが出来るように後退するだけだ。決して……逃げるわけではない」
姫川に言われるまでもなく、そんなことはわかっている。
俺は深呼吸を一つだけすると自機へと向かった。誰も止める者はいない。気がつくと自由解散となっていた。
ハイヴの中層へ一度だけ攻め入っただけでこの傷だ。最深部へと足を踏み入れた時、どうなってしまうのだろうか。
「最深部……」
頭が痛む。連続するフラッシュバック。顔にモザイクが入ってしまい、誰だかはわからないが自分へと想いを託して死んでいった者達。突然現れた要塞級の軍勢、爆発する孔への入り口、最後に誰かに告げられた言葉はいったいなんだっただろうか……
「俺は一度、ハイヴの最深部へ行ったことがある……?」
現段階の記録では、ハイヴの最深部へと到達した者はいない。そんな記録はどこにもない。
ならばこの記憶はなんだろうか? 空想にしては妙にできすぎている。
「俺はいったい誰なんだ……」