Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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目覚め➂

「前線に出ている衛士の収容は終わったか?」

「はっ! 連絡の取れる全衛士の収容は完了しましたが……まさか、帰ってくる衛士の数が50人にも満たないなんて……」

「……身命を賭して帝都を守ろうと戦い続けたのだろう。今でも、斑鳩少佐は帝都で戦っているはずだ。補給物資を早く届けたいものだが……」

「参謀司令部は、既に第二防衛ラインの放棄を決定しているようです」

「逃げ足だけは相変わらず早い奴らだ」

「隊長、その発言は……」

 

 心配する副隊長姫川に第23近衛中隊隊長前園大尉は、心配するなと小さく告げるとため息をつく。

 前園家は代々五摂家の斑鳩家に仕えてきた名家の一つだ。

 現当主ではないが、斑鳩家の人間が戦場で散っていくさまをただ指をくわえて見ていることしかできないというのは、何とも複雑な気持ちだった。

 何の許可もなく出撃すれば、確実に軍法会議ものの罰をうけるだろう。

 未だにBETAによって蹂躙されている地に赴くということは、十数人の部下に命を捨てろと言うものだ。

 

「私の独断では到底できないことさ」

 

 前園の独り言に姫川は聞かなかったふりをする。

 彼女もまた斑鳩家に仕えてきた名家出身の一人だが、これだけ優秀な右腕は大日本帝国には存在しないと前園は思っていた。

 

「隊長! あれをっ!」

 

 部下に渡された双眼鏡を除く。

 山の稜線の影からフラフラと一機の戦術機が現れた。

 元は漆黒のカラーリングであったであろう機体は、BETAの血によって深紅に染めあがっていた。

 

「あの部隊証は……」

「間違いありません。我ら第23近衛中隊のものです。おかしいですね、黒い武御雷は私の部隊には配属されていないはずですが」

「むぅ……とにかく、アレを収容してやれ。信号弾発射。事情も詳しく聞かなくてはならない。生きてここに連れて来い」

「了解!」

 

 部下が戦術機に乗り、未確認の黒い武御雷へと近付いていく。

 幸いにも今現在は、第二防衛ライン近辺でBETAが現れたという情報はない。

 あの武御雷がどこから出てきたのか予想することすらできない。

 もし、仮に京都の前哨基地に置き去りにされた衛士だとしたら、彼はBETAを後方から追いかけるように師団規模のBETAを抜きここへやってきたというのだろうか? 

 エース級のパイロットならば、容易くやってしまうことかもしれない。

 だが、エースと言われる者達のほとんどは、帝都防衛のため殿を任されているはず。

 いったいこれはどういうことだ。

 数分後、黒い武御雷のハッチが開き中から若い男が降りてきた。

 命からがら生き延びたという感じだ。

 強化装備は第23近衛軍のものではない。

 

「答えろ、お前は何者だ」

「俺が何者か……?」

「そうだ。場合によっては、ここで銃殺する」

 

 姫川の合図で小銃が男に向けられる。

 男の顔はひきつったまま動かなくなった。

 

「姫川、脅してどうする。話してもらうためにはこちらも相応の態度を取るべきだといつも言っているだろう」

「で、ですが……」

「聞かせてくれ。お前はどこからやってきた?」

「……俺は京都市街地防衛隊にいた」

「市街地防衛隊……そうなると帝国陸軍戦術機部隊第5師団か?」

「……わからないんだ。気が付いたら俺は戦術機に乗っていて……無我夢中で戦ったが、俺達はBETAに飲み込まれた」

「……それで?」

「目が覚めると俺はまだ生きていた。とにかく第二防衛ラインまで戻れば生き残れると思い必死に歩いていたら、この武御雷を見つけて」

「乗ってきたと……」

 

 にわかに信じ難い話だ。 

 なぜ戦っていたのかも知らず、突撃(デストロイヤー)級の襲撃から生き残り、運良く見つけた武御雷でここまでやってきたと。

 まるで、どこかからか見えない神の力で守られているような。

 姫川は明らかに疑いの目を向けている。

 だが、ここで嘘をついたところでここで何のメリットがある?

 米国の手先だとしても、奴らはすでに逃げた後だ。

 今更、滅びゆこうとしている国の政治体制にとやかく言おうとはおもっていないだろう。

 

「名前は何という?」

「わからないんだ……」

「貴様! ふざけるな! 自分の名前がわからないだと! ふざけるのもいい加減にしろ!」

「嘘は言っていない! 本当に……わからないんだ」

「……黒い機体にのり勇猛果敢に戦ってここに来たと?」

「そうだ……ここに来るまでに多くのBETAを殺した。奴らは10km圏内にまで近づきつつある。早く後退しないと!」

「どこの馬の骨とも知らない奴の情報を信じられるわけ…!」

「やめろ、姫川。黒金(くろがね)(たける)

「え……?」

 

 男はキョトンとする。

 前園が一瞬の間に決めた名前。

 名前など、肉体を識別するための記号に過ぎない。

 記号がわからないままというのは判別し辛いことこのうえない。

 ならば、こちらが勝手に決めても問題はないはずだ。

 

「今日からお前は黒金猛だ。わかったな」

「……」

「わかったか!」

「わかった……」

「よし、おい、黒金を一度営倉へ連れていけ。第二防衛ラインは放棄する。一気に後退するぞ」

 

 部下に連れられ、抗議の目を向ける黒金の視線を前園は無視する。

 

「さて……これから忙しくなるぞ」

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