Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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何を守りたい

1998年 5月4日

新潟市 帝国軍北陸守備隊本部新潟司令部地下

 

 暗い廊下を姫川と前園は進んでいく。

 電力の供給は軍事施設が最優先とされているが、それでも普段通り使うの難しいものがあるのだろう。

 このご時世に捕虜のためにわざわざ貴重な食料や資源を分け与えているだけでも、帝国軍としては感謝してほしいものだと言いそうだ。

 近衛軍の圧力がなければ、捕虜など非公式に殺してしまっている。

 戦時中という言葉は、いかなる卑劣な行為も正当化してしまう魔性の力があるのだから。

 

「亀岡、小浜、大阪を結ぶ最終防衛ラインを突破したBETAは、二軍に別れ進行を継続。太平洋方面のBETA掃討は順調のようですが、日本海側は苦戦を強いられているようです」

「当たり前だ。第二帝都のある仙台防衛のためには、まずは太平洋側のBETA掃討が優先されることなど最初からわかっていた。ただ……よくやるものだ。このままでは北陸全域を制圧されるぞ」

「我々も舞鶴からここまで逃げ延びましたが……帝都に帰れる日はいつになるのでしょうか」

「斑鳩家の方でも色々あるらしい。今は、将軍様の御下知を待つしか仕方あるまい」

「ですが……! それまで臨時だとしても。帝国東部方面第12師団の指揮下に入るなど……我々近衛軍が行うことでは!」

「なら、どうする。補給も休養もできないまま戦い続けろと?」

「それは……」

「耐えろ。同じ日本人ではないか。くだらないプライドなど捨ててしまえ」

「はい……」

 

 前園はチラリと姫川を見る。

 有能な右腕だが、異様に近衛軍であることに固執している傾向がみられるのはいつものことだった。

 誇り高い戦士ととらえるか、ただの意固地と見るか。

 難しいところだ。

 小さく嘆き、前園は見張りの兵士に敬礼をする。

 話は既に通してあった。

 すんなりと部屋の中へ二人は入ると、椅子の上で静かに座っている黒金に前園は声をかけた。

 

「元気か」

「こんな暗い部屋に閉じ込めておいてよく言う」

「貴様……! 前園大尉に敬語を使わんか!」

 

 姫川の鉄拳が飛んだ。

 殴られた黒金はしばらく呆然とするも、ニヤリと笑みを返しさらに挑発を続ける。

 

「姫川っ!」

 

 前園の一括で我を取り戻した姫川は、忌々し気に黒金を見ながら後ろへ下がった。

 

「話を続けよう。もう一度聞かせてくれ。貴様はどこの誰だ」

「わからない。あんたが名前をつけてくれたっていうならば、俺は黒金猛だ」

「……どこの部隊にいた」

「帝国陸軍の小隊だ。何回も言っているだろう、俺は何もわからない。ただ……戦う術は知っている」

「ふむ……あの黒い武御雷はどこで見つけた」

「拾った」

「それはおかしな話だ」

 

 前園は黒金の対面に座る。

 決して拷問をされているわけでも尋問をされているわけでもない。

 ただ、対等な立場として話し合いをしているつもりだった。

 だが、前園からは本当のことを話さなければこの場で殺すことも厭わないという殺気が感じられた。

 黒金はゴクリと唾をのむ。

 初めて緊張していることに気が付いた。

 

「武御雷は近衛軍の中でもごく一部の部隊にしか配備されていない。しかもだ、俺の部隊に黒いカラーリングの機体は存在しないはずなんだ。なのに、どうだ。お前は、黒いカラーリングの武御雷に乗り、おまけに第23近衛中隊のエンブレムまでつけていた。どう説明する」

「説明できるわけがないだろう。俺だってわからないんだ」

「それじゃあ、いつまで経ってもここからは出せんな」

「くそっ!」

 

 悪態をつき、黒金はそっぽを向く。

 ここまではいつも通りだった。

 毎日訪問する前園達、毎日同じ質問、そして答え。

 しかし、今日はそこから変化が見られた。

 

「外はどうなっているんだ?」

「気になるか」

「当たり前だ。俺は……この国を守りたい。この国のために尽くしたいんだ」

「ほぉ……」

 

 その言葉には姫川も目を丸くしていた。

 まさか、黒金(こいつ)からそんな言葉が出るとは思ってもいなかったのだろう。

 前園は少し考えると、黒金猛という人物をテストしたくなる衝動にかられた。

 ほんの子供っぽい、幼稚な考えだということは自覚している。

 それでも、この国を守りたいなどとほざくのならば聞かなければならないことだった。

 

「お前に守りたい人がいるのか?」

「え?」

「この国を守りたいなど、お前ひとりでどうにかなるようなことではない。だがな、誰かひとりを守りたいっていうなら話は別だ。人は大切な人のためならば、命を落とせる」

「大切な人……」

「どうなんだ、答えろ」

 

 僅かな沈黙。

 今もどこかで戦闘が行われているのだろうか。

 振動が地下室によく伝わってきていた。

 やがて、黒金はゆっくりと口を開いた。

 

「実際にいるのかは自信がない。だけど……それでも、俺は純夏を守りたいんだ」

「すみか……?」

「俺の大切な幼馴染だ」

「……出ろ、黒金猛。ようこそ、俺の部隊へ」

「大尉! そんなっ! 彼は得体のしれない!」

「黙れ姫川! こいつは守りたい人がいて、信念がある。そんな奴を、こんな暗い部屋に閉じ込めたままでいいのか?」

「それは……ですが……でも……」

「おまけに技術もある。使わない手はないだろう」

「……かしこまりました」

「よろしく頼むぞ、黒金猛少尉」

「あぁ」

 

 前園の手を黒金がとる。

 第23近衛中隊としての黒金猛の物語が始まろうとしていた。

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