Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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上に立つものは、見えない力に縛られるものである。


力あるもの

 斯衛軍に入って、3年の月日が過ぎた。

 名家の西家に生まれ落ち、女であるながらも男であるよう教育を受け続けた。生まれてからこのかた、自分が女だと思ったことはない。

 胸の膨らみがあろうとも、体の曲線が柔らかかろうとも、私が私である限り、男などに負けぬように戦い続けたい。前線で常に将軍様をお守りしたい。

 だが、内地勤務である斯衛軍に入隊してからは自分が戦場に立つことはないと思っていた。斯衛軍が戦場に出るということは、国家総動員の作戦に参加するか、この祖国にBETAが足を踏み入れた時だからだ。

 ゆえに、BETAがあっという間に九州を占領し、本州へ上陸したとの知らせを受けたとき、どこか心の高まりがあったことを私は理解している。誰かに言えば、不謹慎だと罵られるであろう。構わない、それで構わない。私の思いは、私だけが知っていればいい。

 誰よりも自分に厳しくあれ、他人には優しくあれ。それが西家に生まれた者の運命(さだめ)

 その家訓を胸に刻み付け、今日まで生きてきた。

 しかし、許せないことがに起きていた。

 ポッと出の男が、自分の小隊の小隊長となったのだ。

 激戦の京都から帰還したのだから、腕前は確かなものなのだろう。だが、素性も知れない男が、そもそも由緒正しい近衛軍に入っていいものか、姫川副隊長も最初は否定していたが、今ではどこか黒金という男の腕前を信頼している節がある。

 

「許せない」

 

 そう思い出撃していた。

 実際はどうだ。

 目の前に迫りくるBETAに対処しながらも、的確な指示を飛ばし、操縦技術がやや未熟な間島のフォローにも当たっている。目に見えて、一番撃破しているのは間違いなく黒金機だ。

 

「これが、実践を経験している者の証だというの?」

 

 驚きを隠せない。

 私自身も彼を信用しようとしていた。

 目に見える形で力を示されてしまっては、従わざるをえない。服従ではない、あくまでも私が主体の考えであり、彼を認めたのだ。

 

『西少尉! ボッとするな!』

「すみません!」

『なんだ西。出撃前には張り切っていったくせに、もう怖気づいたか』

「黙れ、南雲。後ろから撃たれたいか」

『おお、おっかねえ』

 

 くだらない会話ができるのも、ひとえに小隊長の働きが大きいからだ。私たちはまだ、黒金の存在がなければ闘うことすらできないのだ。

 認めていた。認めかけていたからこそ、次にとった黒金の行動がとても信じられなかった。

 

『こちら、帝国陸軍機甲化師団……BETAの進行を阻止できない。至急援軍を……』

『……すぐ隣の戦場か。距離的には……1キロもない』

 

 黒金の呟きに背筋が凍る。

 ただでさえ、4機の戦術機にしては大きすぎる範囲を受け持っているのだ。だというのに、これ以上戦場を拡大しようというのか? 敗れた部隊は最後まで抗い、僅かでも多くの被害をBETAに与え、潔く散るべきではないのか?

 味方であろうとも、助けるなどと愚行犯すことを小隊隊員である私は許していいのか? 否、許していいわけがない。

 

「だめです! 我々は、この範囲の守備を受け持っています! これ以上の戦域拡大は、隊の間延びを大きくさせます! そうなっては……各個撃破されるのがおちです」

『では、目の前の命が消えるときに、西少尉はそれを見逃せと』

「彼らもまた兵士である以上、そうなることを予期していたはずです。恨み言をいう権利などないのです。我々は、生きている者として、最大限の努力を全うするべきです!」

『まだ戦おうとする意志があるから、救援を求めているのだろう』

「なっ……」

『ここで手を差し伸べれば、戦う意思をもった鬼神が再び立ち上がることとなる。それこそが、戦力の限られている現場では必要なことではないのか』

「隊長! それでは、我々隊員はどうしろというのですか!」

『耐えよ』

「隊長っ! くそっ!」

 

 怒りに任せ引き金を絞る。

 残弾はまだ十分すぎるほどある。

 遠ざかっていく黒い武御雷に恨みがましい視線を向けた。

 戦えるものがいるのならば手を差し伸べ、再び戦えるように保護する?

 そんなことが毎回通るわけがない。通っていいわけがない。

 戦場(ここ)へ出てきてしまったら、すべては自己責任で完結するのだ。倒れるのは日々の鍛錬が足りていなかったから、精神にまだ不完全な部分があったから。

 

「そうだというのに……」

『西、状況が変わった。ここからは俺たちの連携で何とかするしかない。隊長は数分で戻ると言っている。幸いにもBETAの勢いは衰えてきた。これなら俺たちでなんとかできるぞ。きばれ!』

「……あぁ」

『おい、西! しっかりしろ! 隊長が理想主義者だとしても、あの力は疑いようもねえ。だったら、信じるしか今はないだろ!』

「言われなくともわかっている! 南雲、お前こそ目の前のクソ野郎どもに集中しろ」

『……わかった』

 

 そう、私は別に気にしていない。

 やることは変わっていないのだから。

 神聖なる国に足を踏み入れた、愚かな異星起源種を殲滅する。

 ただ、強いて言うならば……。

 

「幻滅しましたよ。黒金小隊長」

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