Muv-Luv ALTERNATIVE 業   作:ROGOSS

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逃げる

「3番格納庫開放完了です!」

「補給を優先しろ! 補給完了後すぐに出撃だ!」

「破損している機体は奥にまわせっ!」

「近衛中隊帰還します」

「よっしゃ、4番から入ってもらえ!」

 

 整備兵の声が格納庫に響き渡る。

 BETAが帝国本土に侵攻して以来、彼らに休む暇はなかった。いつでも最良の状態で出撃ができるよう、ありとあらゆる設備を点検し続けている。疲労のあまりふらつく者もいたが、誰も泣き言は言わない。

 ここにいる大多数の整備兵は、戦術機適性検査で落第した者達だった。前線へと出られない分、後方でともに戦おうという熱い闘志がそこには見えていた。

 そんな整備兵(かれら)を鼓舞し続ける整備長もまた、時代の流れとともに必要ではなくなったかつての歩兵の一人である。彼もまた、後方で支えることを生きがいとしていた。

 第23近衛中隊の面々は、整備場に隣接している部屋に集められていた。

 前園が神妙な顔で中隊員達を眺めている。

 

「先の戦闘はご苦労だった。補給と整備のため、一時帰還したわけだが……近衛省から新たな指令が入った」

「これより、我々第23近衛中隊は臨時首都となっている仙台へ帰還する」

「こ、このタイミングで?」

「ここを放っておいていいのかよ……」

「やっと帰られるのね……」

 

 姫川の言葉に隊員が各々に言葉を口にする。

 おかしい。

 黒金はその指示に違和感を覚えた。

 日本海側を侵攻しているBETA軍は、今や目と鼻の先におり、ここを突破されれば事実上防衛ラインの瓦解となるはずである。太平洋側のBETAが横浜付近で停滞しているならば、今こそ新潟に戦力を集中させBETA殲滅にあたるべきではないのか?

 一機で多くの戦術機が必要なはずの今、どうして撤退命令が下される。それも、近衛軍だけに。

 そこから導き出された答えに黒金は震撼した。

 同じ人間であり、同じ志を持ち、同じ目的で戦っているというのに、くだらない区別をつけ、机の上で戦術を練るだけの人物が人の生死を決めていいとでもいうのか?

 黒金の視線に気が付いた前園は、顔をせむけると肩を震わせた。

 前園もこの指令の意図を掴み、納得してはいないのだろう。ならば……

 

「静かにしろ! まだここは戦場だ。全員、一時待機だ。黒金は私と一緒に来い。前園大尉と話すぞ」

「りょうか……」

「待ってください!」

 

 黒金の言葉を遮ったのは西だった。

 姫川は怪訝な顔をしながらも、どうかしたかと聞き返す。

 

「黒金中尉は小隊長としていささか問題があると思われます!」

「……どうしてそう思う」

「中尉は我々小隊員の指揮を放り出し、人助けという自己満足のために単独行動をするお方です。そのような人のもとで、これからも戦い続けることは出来ません!」

「だったら、お前がやるか? 西少尉」

「前園大尉……」

 

 意外にも西の言葉に返事をしたのは前園だった。

 

「小隊員を放り出した? 確かに放り出したのならば小隊長失格だな。だが、黒金はお前たちの力を信じて任せたのではないのか?」

「それは……」

「人間はBETAとは違う。無尽蔵に生命を生み出せるわけではない。命は尊いのだからな」

「ですが……!」

「明日へ戦い続けるために。そのためには、帝国軍・近衛軍といった垣根を払い、ひいては国籍すら取り払った助け合いが必要なはずだ。俺は黒金の行動が間違っているとは思わない。西、お前は少し頭でっかちになりすぎだ」

「……大尉はそうおっしゃいますが、ですがっ!」

「くどいっ! 身の程をわきまえろ、西少尉!」

 

 最後は姫川の言葉で西は言葉をやめると、ふてくされたかのように俯いた。

 歩き出した前園と姫川の後についていく。

 扉の先にはさらに小さな部屋がこじんまりとあった。

 

「黒金。お前は間違っていない。そう思うだろ、姫川」

「……そうですね。今は一人でも多く戦える人員が必要です」

「別にそういうつもり救助したわけじゃないが……まぁ、いいや。それであの指令は」

「そうだ。裏がある。明朝防衛拠点としている万代橋を爆破し、BETAをみなとトンネルへ誘導。そこを軌道降下部隊で一気に強襲殲滅作戦、オペレーション「ユキツバキ」が行われる」

「ちょっと待てよ! それじゃ……万代橋に展開している第12師団は……」

「BETAの餌食なるだろうな。それどころか、この作戦は第12師団そのものを囮する作戦だ」

「……帝国軍は知っているのか?」

「おそらくは……」

「胸糞の悪い」

 

 姫川が全員の気持ちを代弁する。

 重たい沈黙が流れた。

 姫川の言葉の通り、何とも胸糞の悪い作戦だった。

 何千ではない、何万もの命が一瞬で奪われることをわかっていながら、参謀本部は実行しようとしているのだ。

 それをただ見ているだけで、あまつさえわかっていながら逃げるなど出来るわけがない。

 

「俺は残るぞ。たとえ教えることが出来ないとしても、一人でも多くの命を救うために戦うぞ」

「待てっ! 我々は帰還命令が!」

「まあ、そう言うな姫川。今日だけで、黒金がどんな男かはわかっただろう?」

「それは……そうですが」

「これより、命令を下す。姫川副隊長は第23近衛中隊を連れ仙台に迎え。俺と黒金はここに残り、一時第12師団の指揮下に入る」

「ちょ、何をおっしゃているのですか! 中隊長が抜けるなどありえませんっ!」

「姫川っ! これは中隊長命令だ」

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