荒野の歩き方   作:あんのうん

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こんにちは、もしくはこんばんは。
思い立ったので作ってみました、ハードボイルドっぽく出来たらいいな。



第1話

破裂音と爆音が間断無く振り注ぐ、どこもかしこも綺麗に耕されたコンクリートの廃墟転がる荒野……詰まる所何時も通りの日常で、俺は追い詰められていた。現状、廃車を背にして何とかかんとか生き延びちゃいるが、所詮は何とかかんとかっていうレベルの話。この中途半端に形が残っている廃車は、忌々しい事にエンジンも搭載されたままになっている、つまりこの勢いで攻撃を食らっていれば今にもレッドアラートが鳴り響いてもおかしくない。攻撃してくる連中がそれこそまだ脳味噌の奥の奥まで筋肉な、緑色したボディービルダーズ共である分、まだ生きていられるってだけの話でもある。

「あー、もうガーガー吼えやがって煩えったらありゃしねえ、クソが!」

.32口径弾が廃車の車体を叩く音に戦々恐々としながら、後ろ手に適当に予備携行の10mm軽機関銃(サブマシンガン)で10mm弾を只管ばら撒く。顔を出して狙った所で10mm程度の弾丸、連中くらいの鈍感野郎共になれば豆鉄砲にしかならん。ヘッドショットをご馳走してやっても、一撃とはいかない──実にあきれたタフネスだ。伊達に緑色をしてるわけじゃねえ、本当に俺たちと比べりゃ化け物といっていいだろう。奴らをスーパーミュータントなんて名付けた奴はさぞウィットに長けてたんだろうよ、少なくとも俺には思いつかねえや。

 

兎も角、お互いに撃ち合いに興じている今こそが逆転のチャンスだ、弾切れ起こして近寄られた日には、そこらに落ちているゴアパックの中身に仲間入りしてしまう。射殺に爆死、斬殺に撲殺などなど多種多様な死に方があるウェイストランドだが、個人的に その死に方は一番したくない死に方ランキングの上位に入ってる。ゴアパックが何かって?その辺に転がっている鉄製のフェンスを丸めた籠の中に赤黒いブツが詰め込まれてるだろ、つまりはそういう物って事さ。丁寧に説明してやってもいいが、そんな事を聞く位ならそこの緑色した愉快な筋肉増強剤(ステロイド)服用者共に聞いてみな。丁寧に優しくアンタを素手で引き千切って、力任せに圧縮してゴアパックの中身にしてくれるだろうよ。

元々このキャピタルウェイストランド市街地に長居する予定は無かった、収穫物を漁る死肉喰い(スカベンジャー)の雇用主の尻の穴を各種危険から丁寧かつ大胆に保護するのがフリーの傭兵である俺の今回の仕事だった。市街地に行くということ 自体がまずフリーの傭兵は嫌がる、何しろ組織の柵から自由になった事と引き換えに各種消耗品の計上や備えは、当たり前だが己で行わなければならない。市街地へ行くということは、収入と支出のバランスが大抵合わないのだ。まあ、合わない理由ってのが支払う側が死ぬか、支払う側も受け取る側も両方死ぬかっていう根本的な問題なんだが。ともあれそんなわけだから、腕がよかろうと悪かろうと市街地に好き好んでいきたがるような破産願望のある博打打ちってのは傭兵じゃあそういない。これが商人辺りだと、結構存在するんだ。基本的に市街地で仕入れられるアイテムって言うのは価値が高い傾向にある、そりゃあなかなか出回り難いモノが多いわけだから当たり前ではある。そこに商魂逞しく目を付け る商人がどこかしこに一人二人は存在するのだ。個人でやるなら物好きで済むんだが、そう言う奴に限って護衛を雇いたがる。傭兵って言えば組織所属の傭兵が一番話が早いが、紹介料から雇用、危険手当に至るまでの料金を値切ることは不可能に近い。近い、と言ったのは値切ること自体は可能なのだ、大抵はその瞬間に交渉相手に蜂の巣にされるのがオチというだけの話で。だから、極力連中はフリーの傭兵を使いたがるのだ。

今回もそのパターンだが、少し話がややこしかった。俺も独立傭兵の口なのだが、今回の件で俺を紹介した紹介者が厄介極まりない人物だったのだ。アリステア・テンペニー翁──恐らくはこのキャピタルウェイストランドで最も個人権力を持つ老人である、彼からの紹介であるとするならばその時点で既に命が天秤の上だ。片皿には断った瞬間から始まる鉄砲玉(ヒットマン)との心温まる触れ合い、もう片皿には引き受けた瞬間からの血沸き肉踊るスーパーミュータント共とのダンスだ。どっちもベッドする最低額が命って言う時点でぼったくりもいいところだと個人的には思ってならない。結果、泣く泣く護衛を引き受けたのだ。唯一の救いは、独立傭兵に払う金額にしては気前がよかったことに尽きるだろう。恐らく向こうも、わざわざここで賃金闘争をしてテンペニー翁の顔を潰すわけには行かなかったのだろうが。

そうしてこの有様だ。スカベンジャーの名の通り、市街地での仕入れとはつまり死体からの装備の剥ぎ取りがメインである。そして、強欲な連中は剥ぎ取る相手を選ぼうとする。確かにレイダーごときを殲滅して根こそぎ剥いでも手間の割には大した収入はない。だからといって……スーパーミュータント共を主に狙うなど、正気の沙汰ではないだろう。

キャピタルウェイストランド市街地は一言でいうと魔界だ、人が化け物と飽くなき生存競争を続け、人が人と些細な理由で殺しあう。全面がキリングフィールドと言ってもおかしくないこの場を主な住処にしている連中がいる、それがスーパーミュータントって連中なわけだ。市街地に入って死ぬ人間の大半はこいつ等に暇潰しに撃たれるか、暇潰しに叩き潰されるか、暇潰しにゴアパックにされるかという経路を辿って最終的に謎の肉になる。俺の必死の忠告も聞かずに、背後からの強襲を迂闊にも行ったスカベンジャーは、開始数分でゴアパックの中身になりやがった──逃亡しようとした俺に向かって助けを求めるという、いっその事見事なまでに最後まできっちりと足を引っ張って。そして、今に至る。がきり、と唐突に右腕が鳴る音で我に返る。経緯を思い出して手に力が入ったらしい。

「嗚呼、クソが、面倒くせえ……」

ちらりと視界の端に見えたのは、近寄ってくるスーパーミュータントが数匹。恐らくは下手な鉄砲で数撃ってはみたもののまるで当たらなかった連中だろう、早々に弾を使い果たしたらしく突撃してきやがった。基本的に近距離戦であの筋肉達磨の阿呆共となんぞ戦いたいわけが無い、どうするか。俺の手元にある愛銃こと中華製突撃銃(チャイニーズアサルトライフル)改は、ようやく銃身が冷えたが、この距離でこいつを撃った所で一匹ひき肉にしている間に、残りの連中が俺をひき肉にしやがる──ならば。

「地獄の母ちゃんから、お前らにイースターエッグをプレゼントだ!」

思考は柔軟に決断は素早く、それがこのキャピタルウェイストランドを積極的に生き抜く人間に必須の条件だ。虎の子の残数を確認しその内三つを引っ張り出す、手早くピンを引き抜いてそれぞれ投擲する。その名もグレネード、取って置きの破壊力を持つ憎い奴だ。その結果は上々、突進してきた勢いを殺しきれない一匹の頭の真横で爆発し、そいつは首無し騎士(デュラハン)もどきと相成った。残り二匹は足を吹っ飛ばされたらしく、その場で這い蹲っている。博愛主義者で通っている俺としてはそれを見るに忍びない、手早く愛銃の5.56mm弾をそいつ等の哀れな頭脳目掛けてそいつ等の両親辺りがいそうな彼岸にまで特急で送り出してやった。この化物共に親なんていうけったいな物が存在するかどうかは、神のみぞ知るところだが。

 

ふと聞きたくもないが聞き慣れた音を聞いた。そいつを確認して、向こうの散発的な弾幕は未だ続いちゃいたがどうやらここは勝負の出処らしいと俺は悟った。一斉射して思い思いに弾を込め直す連中の若干の攻勢の弱まりを突いて、一気に車体の陰から駆け出すことに決めた。向かうはかなり先にある、廃車というにはどう見ても鉄屑にしか見えない黒く煤けた車の形をした物体の陰だ。弱まったと言っても減った訳ではない弾幕だ、正直気は進まない。何せこの圧倒的人数比で下手な怪我をすると、色々と始末に終えない。連中の碌に手入れもしていない狩猟長銃(ハンティングライフル)とはいえ、確率論の次元で言えばそれこそ下手な鉄砲で当たらないとも限らない。一番被弾面積の大きな体表面は自前の黒い対弾対刃の歩兵用防具(コンバットアーマー)が.32口径弾程度であればある程度防いでくれるだろう。だが5.56mmとなると場合によっては貫通しかねない、何しろ耐久度がそろそろやばいのだ。しかし危険を冒すということは、冒さなければいけない瞬間の見極めであり、リスクに伴ってリターンが大きいときに限る。言い換えるとだ、いい加減流石に車体が弾を受けすぎて、俺の左腕から放射能感知器(ガイガーカウンター)警告(レッドアラート)がガリガリ鳴り出した事が俺の決意を猛烈に後押ししたのだった。留まった先にある結果と弾を受ける危険性を秤にかけた所、凄まじい勢いでさっさと車から逃げ出す方に傾いたのだった。

現状、敵は大した連中じゃない。スーパーミュータントと言う輩は、造形はまあ人間に似ている。と言うよりはその他キャピタルウェイストランドに巣食う連中の中では、ぶっちぎりに人間に近いだろう。全身筋肉に覆われた、まさしく旧時代にいたっていうボディビルダーそのものの様な見た目で肌は緑色で統一。その無 駄に太い首の上に乗っかっている顔は全員無個性と言っていいレベルに同じで、禿げ上がった坊主で口元を邪悪な何かに固定されたかのように嘲笑にしか見えない形に固定されていると言った按配だ。そんな連中だが生意気に序列があるらしい。見分け方は簡単だ、装備が良くなればなるほど序列の上って事らしい。勿論耐久力もご自慢の怪力も雲泥の差はあるが、見た目だけだと全然変わらない分、装備っていう目に見えて見分けが楽なのはこっちとしては有難い。

「まだ、ブルート止まりか……このままなら取り敢えず何とかなる、か?」

命からがら逃げ出しながら観察した所、頭を吹っ飛ばされた内の一匹の装備は大金槌(スレッジハンマー)だった。とすると、.32口径に紛れて偶に飛んできた5.56mmは突撃長銃(アサルトライフル)って事だろう。一番下っ端のスーパーミュータント無印だと釘付き棍棒(ネールボード)に、その上位だと金属塊(スーパースレッジ)を持つようになる。聞いた話だと、連中の場合武器の質が権威の象徴のように扱われているらしい。ブルートは小隊長的な身分であり、取り巻きとして無印ミュータントを連れている。これがその上位、スーパーミュータントマスターになってくると分隊支援火器なんかの重火器を持ち出してくる──廃車に囲まれたこんな場所でミサイルやら重機関銃(ミニミ)やら撃たれた日には、生きて帰れる気がしない。さっさと殲滅して逃げるに限る、最悪奥の手も使わなけりゃならないかもしれない。

 

「おーおー、連中我慢が利かなくなったか?」

 

移動した俺に気付いたらしい射撃していた連中が、のこのこと此方に走ってくるのが見える。連中がいた場所からだと射角が取れなかったんだろう、もしくはどいつもこいつも素手やらネールボードやら持参で走り込んでくるところを見ると、単に射撃に飽きて肉を砕きたくなったんじゃないかって言うのも無視できない所だ。殆どのスーパーミュータントは頭の悪い事に直線で突っ込んでくるが、流石にブルート程度になると少しは頭が回る。出来の悪い連中を囮に、自分達は俺から死角になる様に障害物の影に隠れる様に大回りで向かってくる。と言っても、自分の身体のデカさが頭の中からすっぽ抜けてるのか、気色の悪い緑色がチラホラ見えているのはお約束だろう。ともあれ、今はまず馬鹿共のお相手が優先だ。

 

「おら、食い意地張った手前等にご馳走してやんよ、鱈腹喰いな!」

 

鉛玉をな──左手で銃身を固定してストックをしっかりと肩に当てる、そして急ぎ過ぎずに引金を引く。迫るミュータントは五体、三点バーストモード特有の短い三連破裂音と共に、その内正面の頭が吹き飛び頭を失った身体が背後の二体を巻き込んで倒れる。そいつ等が起き上がる前に手早く頭を吹き飛ばして、これで三体。そして残り二体──。

 

「糞が、グレネードか!」

 

仲間の醜態を見て薄い警戒心を引き締めたのか、内一体が足を止めて黒い物体を投げ込むのを見て思わず俺は叫んだ。先程の俺への趣旨返しじゃないだろうが、投げ込まれるグレネードは流石に洒落にならない。焦りで乱れる集中力を総動員して飛来した爆発物を狙い──フルオートで5.56mmを撃ち込む。結果、奇跡的に空中で爆散するグレネードに背中が冷や汗で冷たくなった。もう一体は阿呆丸出しで突っ込んできた為、仲間のグレネードに巻き込まれて既に死体の仲間入りをしていた。存外の幸運だが、こんな綱渡りなぞ誰がしたいものか。

 

「焦らせやがってこの糞化物が、死に腐れや!」

 

「オレ、オマエブチコロス!」

 

俺の心の咆哮にダミ声で片言の台詞を吐き散らかす化物。それに対する俺の答えは勿論鉛玉だった、程なく戯言を垂れ流したスーパーミュータントはその戯言を垂れ流す為の頭を失って実に静かになった。

 

「オマエ、ニクダンゴニシテヤル!」

 

部下を殺されたのが流石の化物も堪えたのか叫び声を上げたブルート、そいつが隠れている遮蔽物の廃車を捉えて弾倉を交換しながら俺は抑えきれない嗤いを堪らえた。先ほども言ったが、この辺の廃車には未だにエンジンが残っている物も多い。旧時代──ここにある廃車がまだ現役だった頃だが、殆どの外燃機関は一つの燃料源で動いていたらしい。

 

その燃料源の名前は核燃料。俺には小難しい事は解らんが、滅ぶ直前辺りには猫も杓子も核燃料バッテリーなる小型燃料で動く物ばかりだったらしい。それは無論車も例外じゃあない。そして偶然にもあのブルートが壁にした廃車は俺が逃げ出した一品だった。ガイガーカウンターが鳴ったのは何故か、それは弾丸を撃ち込まれ過ぎてバッテリーの内容物が漏れ出している他にない。ならば、そこにこうしてみては如何だろうか。

 

「そりゃ有難いな、こいつはその礼だ──奢りだから気にするな」

 

二体のブルートが廃車越しにアサルトライフルを構えようとするのを無視して、フルオートで弾倉の中身を廃車に撃ち込んで、背を向けて更に逃亡。直後、爆音。

 

「汚い花火だな、本当によ」

 

核爆発特有の立ち上るキノコ雲を見ながら、俺は煙草に火をつけた。吸い込み、吐き出す。ようやく戻ってきた現実感を取り戻して、俺は少しだけ気を抜いた。右腕に装着された装置の液晶パネルを確認してみれば、時間はもう昼下がりである。夜になるまでに何とか市街地を脱出しなければ、中々恐ろしい事になりかねない。銃も画面で確認する限りかなり耐久度が減っている、最悪近接戦闘のみでやりきらねばならない。がぎり、と右腕の義手を鳴らして動きを確認し、紫煙を揺らしながらぼんやり考える。

 

「さっさと、帰るか……あー、疲れた」

 

そう呟いて重い腰を上げた。向かう先は散々吹っ飛ばして球を打ち込んでやった死体である。結局の所、俺もこの愛すべき糞ったれなキャピタル・ウェイストランドに住む人間にとって追い剥ぎは避けては通れない道なのだ。

 

俺の名前は傭兵(マークス)、このキャピタル・ウェイストランド──かつて二百年ほど前、ワシントンD.Cと呼ばれたこの荒涼とした地に生きる傭兵さ。




因みに、作者は軍事や兵器には塩をかけられたナメクジレベルの弱さなので、基本的に原作準拠しながら合間をそれっぽく埋めてます、ご了承ください
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