ビターカップ、それは厄災の別名でもある。
ビッグタウンの連中が残らず関わり合いに成りたく無い女ランキングで、ぶっちぎりで一位を独走する女、と言えばニュアンスは掴めるだろうか。奴に対する評判を聞く機会があれば、是非とも聞いて見れば良い。大概はどんな奴だよと笑い飛ばすか、行動に顔を顰めるかの二択だと思う。ウェイストランド人をしてそんな評価になる奴はそうはいないだろう事を考えると、逆に大人物なのかもしれない──とてもそうは思えないがな。
ビターカップとはビッグタウンの男共を吸い尽くす、
それは兎も角、ビッグタウンの名士と言っても良いこの女の家で、白昼堂々と事に及んだのが何を隠そうビターカップだった。女の目を盗んで粉を掛け続け、そしてついに事に及んだビターカップは男の上に跨って腰を振ってた処を見つかった──時間を忘れて夢中になった、などと言う当人の感想はこの際棄てておこう。
怒り狂った女に何故か立場を弁える事も無く、逆に罵声を浴びせて悠々と立ち去ったらしいビターカップの精神性が俺には分からんが、兎も角その日の夜に女は姿を消した。数日後に近くに群がっていたラッドローチの群れを虐めて悦に浸ってたショーティーの奴が、女が着ていた服に見える布切れを巻き込んだゴアパックを見つけたってのが一連の事の落ちとだけ伝えておこう。元々勘気が強い勝気な女で、色々と月一で苛立つ日の夜に恐らくは自分用に手にいれていたのであろうこの集落に存在するべくもない.44口径リボルバーを持って外でストレスを発散していた、とか言う事らしい。まあ、多分その日課中にスーパーミュータントにでも攫われたんだろうと言うのが大方の見解らしい。
そんなわけでまあ、控え目に見ても碌なモノを撒き散らさない歩く劇物とも言える女である。
さて、我らがビッグタウンに住まう連中も、何だかんだで一応はリトルランプライトから走り詰めで一昼夜程はあるここまで辿り着いただけあって単純な戦闘であればそれなりに使える奴もいない事も無い。と言っても戦闘力云々以前に絶対数が絶望的なまでに足りないので、組織的な自衛など考えるだけで笑えるレベルだった。使えると言っても其処らの丸腰に近い開拓民よりはマシな程度であるが故に各個撃破されてしまえば元も子もなく、奴隷商人にうまうまと商品を補充され、スーパーミュータント共にゴアパックの材料を提供してきたと言うのがこの集落の略奪の歴史でもある。当初はまだ戦闘力が有る奴が多少はいたらしいんだが、そんな連中に限って何を思ったか直線的に突っ込みたがるという、レイダー張りの猪戦法を取るらしい。
良く良く考えればここの連中の知る戦闘とは、リトルランプライトの強固に過ぎる要塞を使った籠城防衛戦であり、脆弱な集落防衛ではない。それなのにそれをビッグタウンの防衛に適合させるなど上手く行くわけが無い、前提条件が違い過ぎる。結局の所、集落に入り込まれる前に積極的に敵を排除しなくてはならないのだが、まず武器の貧弱さがそれを阻んだ。
普通に考えてわかる事だが、リトルランプライトの連中が憎きムンゴ相手に一欠片でも重要な武装を渡すはずもない。結果、徒手空拳でウェイストランドを何とか乗り越えてきた連中が頑張って鹵獲できるのは、チャイニーズピストルや10mmピストルが関の山だろう。稀に何らかの要因でくたばったスーパーミュータントからアサルトライフルでも拾えれば僥倖、と言ったところである。つまり、ビッグタウンの戦力は防衛戦にせよ攻撃戦にせよ、圧倒的に手数が足りないのだ。そんな連中の中での主力である言うモノなのなど所詮は高が知れているのだが、その事実を見事に理解していないのが猪戦法のそもそも全ての原因なのだろう。メガトンやリベットシティの様な大集落の中でぬくぬく育った様なウェイストランド人の風上にも置けぬ連中や、そもそも生存競争を野蛮と見下すテンペニータワーの御歴々よりは……それでもまあ使えない事も無いのだが。
そして、そんな根拠の無い自信と共に猪戦法を取る阿呆の一人が目の前にいるショーティーと言う男であり──ビターカップについてまだまともに語ってくれるある意味生き証人だ。
「なんだなんだ。傭兵、お前いつの間に帰ってきたんだよ!」
「昨日だ、スーパーミュータントからダース単位でダンスのお誘いがあったんだよ。死ぬかと思ったぜ」
「くーっ、俺にも10mmマシンガン程度でも上等な武器がありゃ、奴等なんか目じゃないのによ!?」
「俺としては壁の花で十分だったんだが……まあそうかもな。で、ビターカップの奴は何処にいるか知らねえか?煙草を仕入れたい」
「あん?あんなクソアマなんて知らねえよ!」
聞く気も起こらぬと言わんばかりのこの拒絶反応こそが、ビターカップと言う女のそのままの評判だろう──何時もよりも若干反応が強い気がするが。ビターカップ教でも比較的まだまともな軽度の信者のこいつからですら、ビターカップの居場所を聞き出すには色々とコツがいる。マシとは言え、ショーティもまたビターカップの毒牙に掛かって、一時期はめでたくビターカップの何番目か知らない男として暗黙の内に知られる男であったからだ。重度の信者になると、ビターカップと言う名前を聞いただけで話が通じなくなる……パピーなんかが良い例さ。
「そう、あからさまに嫌悪感を出すんじゃねえよ。単に用があるだけだ」
じゃなきゃ、あんな奴をわざわざ探しなぞしない──口元を苦笑に歪ませた後半のこの言葉はあくまで口に出さない。ショーティーの言葉に一見沿っている様に見えるこの言葉だが、言ったが最後これもこれで面倒事を引き起こす。俺には理解出来んが、何ともビターカップって女は魔性だって事だろう。一方的に喰われて挙句に捨てられた癖に、敵意を抱き切るまで行かないと言うショーティーのこの体たらくを見れば明らかだ。何とも奴はどうしてか知らんが、ここの男の様な初心な奴を天才的な手腕で狂わせるらしい。重ねて言うが、俺には理解出来ない。
「煙草なら、俺のをやるよ。あんな奴に近付くなって──アンタはビックタウンの
「話が飛び過ぎだ。俺だって何故かあの女が補給庫の管理じゃなけりゃあ、近付きゃしない。くれるってなら有難いが、お前から煙草を貰ったって一時凌ぎだろ。カートンをダースでくれるなら別だけどよ?」
「ま……まあ、な。そう言う理由でならまあ仕方ねえけどよ」
渋々と言った感じで頷くショーティに果てしない脱力感を感じながらも、口元の苦味は絶やさない。絶やした瞬間に、色々と内心がだだ漏れて来そうだ。結局の所、
「まあ、面倒な事を言い出しそうだがな。んで、何処にいるか判るか?」
「……さっきまで、あの尻軽が診療所近くでタイムボムの奴と一緒にいるのは見たぜ」
「……ああ、不機嫌なのはそのせいか」
「誰が不機嫌だって?!」
「ああ、いやなんでもない。助かった、じゃあな」
ショーティーのビターカップ反応が何時もよりも多少敏感だと思ったら、原因は他の男といちゃついてた事らしい。手の内から離れると言う表現よりは彼方にすっ飛んでいったと言う方がしっくりくる女に対しての反応にしては随分と強い執着心に、ついつい本音が漏れちまった。だがまあ必要な話は聞いたから、別に大してフォローを入れる必要も無い。適当にあしらって移動する事にした。
「マークス、今度10mmマシンガン拾ったら絶対俺にくれよな、絶対だぞ!」
「あー、はいはい」
投げやりに手を振りながら喚く声を聞き流し、医療所に向かう事にする。ショーティーの意味不明な要求については、恐らく次にマシンガンを鹵獲した頃には忘れていそうだが。何でそんなにマシンガンに拘るのかもよく分からん。使ってて言うのもなんだが、優秀には違いないが弾薬と銃身の耐久性が面白い程減って行く金食い虫だ。雑魚程度にならば有効過ぎる程には制圧力がある上、いざ現地補給になると一番補給しやすい弾丸を使うって言う部分は大きいが。さて、医療所に行くならついでにレッドをとっちめたいところだが、あれはどちらかと言うと今回のメインイベントだ。補給なんて言う謂わば日常のサブイベント物のついでに、事をすます訳には行かん。恨み晴らさで置くべきか、だ。
ジェット、ことにウルトラジェットの恨みは、戦前の新品パワーアーマーの値段よりも高いものに付いているのだから。
怒りと言う燃料を心にくべ直して、俺は医療所へと足を向けた。