荒野の歩き方   作:あんのうん

5 / 5
あれ、ちょおひさびさ(誤字に非ず


第5話

ビターカップ、それは厄災の別名でもある。

 

ビッグタウンの連中が残らず関わり合いに成りたく無い女ランキングで、ぶっちぎりで一位を独走する女、と言えばニュアンスは掴めるだろうか。奴に対する評判を聞く機会があれば、是非とも聞いて見れば良い。大概はどんな奴だよと笑い飛ばすか、行動に顔を顰めるかの二択だと思う。ウェイストランド人をしてそんな評価になる奴はそうはいないだろう事を考えると、逆に大人物なのかもしれない──とてもそうは思えないがな。

 

ビターカップとはビッグタウンの男共を吸い尽くす、淫魔(サキュバス)だ、とはある男を寝取られたビッグタウンの女の話だとか。その女も男も今は両方とも彼岸を渡っちまって此処にはいないので確認が取り様が無いが、聞いた話だと、つまりはそういう事が女の家であったそうな。かつてはその女、今は亡き仕入れ担当の人間だったそうで世間知らずのビッグタウンでは黄金の様に重要な女だったとか。この女の為に一軒家が貸し出されたというのだからその程が分かる。実際この女がいなくなってから、それまでは何とか補給されていた各種物資が見事に滞ったそうな。スーパーウルトラマーケット跡地に戦利品を探しに行った帰りに稀に迷い込んでくる流れのスカベンジャーや、何等かの理由でルートを外れたスカベンジャーキャラバンなんかを相手に、一歩も引かずにやりあってたと言うから相当だろう。いっその事、異端児と言っても良い。

 

それは兎も角、ビッグタウンの名士と言っても良いこの女の家で、白昼堂々と事に及んだのが何を隠そうビターカップだった。女の目を盗んで粉を掛け続け、そしてついに事に及んだビターカップは男の上に跨って腰を振ってた処を見つかった──時間を忘れて夢中になった、などと言う当人の感想はこの際棄てておこう。

 

怒り狂った女に何故か立場を弁える事も無く、逆に罵声を浴びせて悠々と立ち去ったらしいビターカップの精神性が俺には分からんが、兎も角その日の夜に女は姿を消した。数日後に近くに群がっていたラッドローチの群れを虐めて悦に浸ってたショーティーの奴が、女が着ていた服に見える布切れを巻き込んだゴアパックを見つけたってのが一連の事の落ちとだけ伝えておこう。元々勘気が強い勝気な女で、色々と月一で苛立つ日の夜に恐らくは自分用に手にいれていたのであろうこの集落に存在するべくもない.44口径リボルバーを持って外でストレスを発散していた、とか言う事らしい。まあ、多分その日課中にスーパーミュータントにでも攫われたんだろうと言うのが大方の見解らしい。

 

そんなわけでまあ、控え目に見ても碌なモノを撒き散らさない歩く劇物とも言える女である。

 

さて、我らがビッグタウンに住まう連中も、何だかんだで一応はリトルランプライトから走り詰めで一昼夜程はあるここまで辿り着いただけあって単純な戦闘であればそれなりに使える奴もいない事も無い。と言っても戦闘力云々以前に絶対数が絶望的なまでに足りないので、組織的な自衛など考えるだけで笑えるレベルだった。使えると言っても其処らの丸腰に近い開拓民よりはマシな程度であるが故に各個撃破されてしまえば元も子もなく、奴隷商人にうまうまと商品を補充され、スーパーミュータント共にゴアパックの材料を提供してきたと言うのがこの集落の略奪の歴史でもある。当初はまだ戦闘力が有る奴が多少はいたらしいんだが、そんな連中に限って何を思ったか直線的に突っ込みたがるという、レイダー張りの猪戦法を取るらしい。

 

良く良く考えればここの連中の知る戦闘とは、リトルランプライトの強固に過ぎる要塞を使った籠城防衛戦であり、脆弱な集落防衛ではない。それなのにそれをビッグタウンの防衛に適合させるなど上手く行くわけが無い、前提条件が違い過ぎる。結局の所、集落に入り込まれる前に積極的に敵を排除しなくてはならないのだが、まず武器の貧弱さがそれを阻んだ。

 

普通に考えてわかる事だが、リトルランプライトの連中が憎きムンゴ相手に一欠片でも重要な武装を渡すはずもない。結果、徒手空拳でウェイストランドを何とか乗り越えてきた連中が頑張って鹵獲できるのは、チャイニーズピストルや10mmピストルが関の山だろう。稀に何らかの要因でくたばったスーパーミュータントからアサルトライフルでも拾えれば僥倖、と言ったところである。つまり、ビッグタウンの戦力は防衛戦にせよ攻撃戦にせよ、圧倒的に手数が足りないのだ。そんな連中の中での主力である言うモノなのなど所詮は高が知れているのだが、その事実を見事に理解していないのが猪戦法のそもそも全ての原因なのだろう。メガトンやリベットシティの様な大集落の中でぬくぬく育った様なウェイストランド人の風上にも置けぬ連中や、そもそも生存競争を野蛮と見下すテンペニータワーの御歴々よりは……それでもまあ使えない事も無いのだが。

 

そして、そんな根拠の無い自信と共に猪戦法を取る阿呆の一人が目の前にいるショーティーと言う男であり──ビターカップについてまだまともに語ってくれるある意味生き証人だ。

 

「なんだなんだ。傭兵、お前いつの間に帰ってきたんだよ!」

 

「昨日だ、スーパーミュータントからダース単位でダンスのお誘いがあったんだよ。死ぬかと思ったぜ」

 

「くーっ、俺にも10mmマシンガン程度でも上等な武器がありゃ、奴等なんか目じゃないのによ!?」

 

「俺としては壁の花で十分だったんだが……まあそうかもな。で、ビターカップの奴は何処にいるか知らねえか?煙草を仕入れたい」

 

「あん?あんなクソアマなんて知らねえよ!」

 

聞く気も起こらぬと言わんばかりのこの拒絶反応こそが、ビターカップと言う女のそのままの評判だろう──何時もよりも若干反応が強い気がするが。ビターカップ教でも比較的まだまともな軽度の信者のこいつからですら、ビターカップの居場所を聞き出すには色々とコツがいる。マシとは言え、ショーティもまたビターカップの毒牙に掛かって、一時期はめでたくビターカップの何番目か知らない男として暗黙の内に知られる男であったからだ。重度の信者になると、ビターカップと言う名前を聞いただけで話が通じなくなる……パピーなんかが良い例さ。

 

「そう、あからさまに嫌悪感を出すんじゃねえよ。単に用があるだけだ」

 

じゃなきゃ、あんな奴をわざわざ探しなぞしない──口元を苦笑に歪ませた後半のこの言葉はあくまで口に出さない。ショーティーの言葉に一見沿っている様に見えるこの言葉だが、言ったが最後これもこれで面倒事を引き起こす。俺には理解出来んが、何ともビターカップって女は魔性だって事だろう。一方的に喰われて挙句に捨てられた癖に、敵意を抱き切るまで行かないと言うショーティーのこの体たらくを見れば明らかだ。何とも奴はどうしてか知らんが、ここの男の様な初心な奴を天才的な手腕で狂わせるらしい。重ねて言うが、俺には理解出来ない。

 

「煙草なら、俺のをやるよ。あんな奴に近付くなって──アンタはビックタウンの傭兵(マークス)であって、アイツの傭兵じゃねえだろ?」

 

「話が飛び過ぎだ。俺だって何故かあの女が補給庫の管理じゃなけりゃあ、近付きゃしない。くれるってなら有難いが、お前から煙草を貰ったって一時凌ぎだろ。カートンをダースでくれるなら別だけどよ?」

 

「ま……まあ、な。そう言う理由でならまあ仕方ねえけどよ」

 

渋々と言った感じで頷くショーティに果てしない脱力感を感じながらも、口元の苦味は絶やさない。絶やした瞬間に、色々と内心がだだ漏れて来そうだ。結局の所、大人の街(ビックタウン)に住む男達は、奴に手玉に取られ続けるお子様だって事だ。兎角童貞共は面倒臭いモノと言うが、同じ女で穴兄弟になった挙句にその女以外を相手した事の無い奴等が群れを成しているなんて……もう考えるだに恐ろしい。どう考えてもビッグトラブルのきな臭さだ、確実に面倒が群れなして襲ってくると言うモノである。ショーティーの餓鬼にも言ったが、俺だって面倒事が群れを為す様なトラブルメイカーになぞ用が無ければ近付きたくもないんだが、この場合の問題は補給物資の集配やら分配やら貯蓄やらの集落の生命線を、心底理解出来ない事に何故かどういう事なのかあのビターカップの奴が握っている事に尽きる。つまりそれが意味するところは、ある程度纏まった量をこの集落で補充したかったらビターカップの靴を唾液で照り輝くまでに舐める必要があるってことだ。弾薬や医薬品、食糧と言った生活必需品は、傭兵契約の一環としてビターカップの文句を挟ませずに補充出来るんだが……流石に嗜好品は無理だ。煙草自体はそれなりに貴重とは言え、物自体は珍しいわけじゃない。大き目の集落でなくとも、店にでも行けば運が良ければ売っている程度には有りふれてはいる。だが、忘れてはいけないのは此処が見放された地であるビッグタウンだって事だ。最近では殆ど見ないが奴隷商人やら見るも愉快な緑巨人共《スーパーミュータント》達が日がな鉄火場作りに精を出す様な、旧市街地なら兎も角もボトマック河対岸の川岸近くじゃあそうそう有り得ない光景が繰り広げられる地でもある。好き好んで此処まで行商しにくるキャラバンは皆無だったし、漸く幾らか静かになった今でやっと小規模なスカベンジャーキャラバンがかなり間を開けるが定期的にくる程度の地だ。そんな場所でも何とか此処までやってこれたのは、襲撃者共が来る度に減って行く人口と、先人達が残したなけなしの蓄えを徹底的な配給制で管理して来たからだ。ビターカップは底無しに碌でも無い女だが、流石に事が集落全体の生存に直結する内容の為か割とその辺に関しては懐が固い。

 

「まあ、面倒な事を言い出しそうだがな。んで、何処にいるか判るか?」

 

「……さっきまで、あの尻軽が診療所近くでタイムボムの奴と一緒にいるのは見たぜ」

 

「……ああ、不機嫌なのはそのせいか」

 

「誰が不機嫌だって?!」

 

「ああ、いやなんでもない。助かった、じゃあな」

 

ショーティーのビターカップ反応が何時もよりも多少敏感だと思ったら、原因は他の男といちゃついてた事らしい。手の内から離れると言う表現よりは彼方にすっ飛んでいったと言う方がしっくりくる女に対しての反応にしては随分と強い執着心に、ついつい本音が漏れちまった。だがまあ必要な話は聞いたから、別に大してフォローを入れる必要も無い。適当にあしらって移動する事にした。

 

「マークス、今度10mmマシンガン拾ったら絶対俺にくれよな、絶対だぞ!」

 

「あー、はいはい」

 

投げやりに手を振りながら喚く声を聞き流し、医療所に向かう事にする。ショーティーの意味不明な要求については、恐らく次にマシンガンを鹵獲した頃には忘れていそうだが。何でそんなにマシンガンに拘るのかもよく分からん。使ってて言うのもなんだが、優秀には違いないが弾薬と銃身の耐久性が面白い程減って行く金食い虫だ。雑魚程度にならば有効過ぎる程には制圧力がある上、いざ現地補給になると一番補給しやすい弾丸を使うって言う部分は大きいが。さて、医療所に行くならついでにレッドをとっちめたいところだが、あれはどちらかと言うと今回のメインイベントだ。補給なんて言う謂わば日常のサブイベント物のついでに、事をすます訳には行かん。恨み晴らさで置くべきか、だ。

 

ジェット、ことにウルトラジェットの恨みは、戦前の新品パワーアーマーの値段よりも高いものに付いているのだから。

 

怒りと言う燃料を心にくべ直して、俺は医療所へと足を向けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。