東方外伝・鉄砲伝来の章   作:お試し期間

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幻想郷に於ける鉄砲の役割とは何なのか?
其れを題材にした小説です。


鉄砲

人間から生み出され、忘れ去られた者達が集う幻想郷。

その日の幻想郷では人間の里を中心にお祭りの様な活気に溢れていた。

 

しかし、その主役となるのはお馴染みの紅白の巫女や弾幕ゴッコ等ではない。

普段の煌びやかな弾幕ゴッコとはある意味で対極に位置する物が主役だった。

 

里の人々が見詰める視線の先には鉢金や部分的な胸当て等による軽装の防具と小太刀を腰に差す戦装束を身に纏い、携行性と実用性に優れた三匁五分火縄銃を担いだ男性達と少しばかりの女性達が規則正しく里の中央を行進している。その様子を寺小屋に通う年頃の子供達は興奮しながら見詰め、大人達は頼もしそうに眺めていた。本日の主役となっている存在は人里の見回り組や討伐隊に属する鉄砲隊であり、鉄砲其の物であった。

 

行進する鉄砲隊に少し離れて随伴している道化姿の様な格好をした人物が周囲に呼び掛けを行っている。

 

「行進が終了の後に鉄砲演武を行います。それから鉄砲による射的大会を開始しますので参加を希望する方は事前に詰所へ申し込みをお願いします」

 

その様子を食事処を兼ね備えた飲み屋の二階から眺めている人物達がいた。

 

「鉄砲ねぇ…あんな物騒な物で皆どうして楽しそうなのかしら?」

 

そう言いながら手にあるお銚子に注がれた日本酒を一気に飲み干す霊夢。

 

「霊夢には理解出来ないかしら?物騒だからこそ惹かれる魅力やそれが味方である安心感なんて心は」

 

いつも通りの胡散臭そうな表情を浮かべながら尋ねる紫に対して霊夢は少し憮然とした表情をしていた。紫の奢りで料理や酒を楽しめるというので本日は付き合っているが霊夢にとって鉄砲の祭典等は特に興味の湧く事柄では無かった。それもその筈である。鉄砲は『人間を含め』敵となる対象を効率的に傷付け、殺める為に用いられる兵器だ。最低限の危険はあれど、スポーツの一種でもある弾幕ゴッコ用に威力を調整した物なら兎も角、護身や狩猟の為の武具としては『些か過ぎたる得物』を称える事は曲がりなりにも巫女である霊夢には出来なかった。

 

「それに物騒なんて言葉を霊夢が言っても何だかねぇ~」

 

紫は少し呆れている様な声を発した。スペルカード・ルールや独自の能力等を省いても、博麗の巫女としての霊夢の近接戦闘に関する武力は人の身でありながら驚異と呼べる。素手で人間を引き裂く妖怪を相手に格闘戦を挑める胆力と体術。霊力の補助によりクロスボウに等しき威力と急所を的確に射抜く精度を併せ持つ投針術。天性の直感と幸運で即座に最適解に導き出せる戦術眼。等と他にも上げれば枚挙にいとまがない事が個人の技量的な部分で可能なのが霊夢という『天才』なのだ。…とは言えそれ位の事は才能や努力等に関係なく『博麗の巫女なら出来て当然』でなければならないのだが。

 

少し余談だが同じ人間でも『戦力』という点なら自称普通の魔法使いである魔理沙は霊夢より優れている面が確かにある。しかし彼女は『凡才』だ。彼女は霊夢との才能という絶対的な技量差を様々な経験による模倣や火力等で補っているに過ぎない。その肝心の火力も人間の中なら兎も角、幻想郷全体で考えれば特別に優れているという訳ではない。二人を例えると霊夢が英雄と呼べる存在なら魔理沙は民間で管理、使用が不可能である強力な重火器を扱う為に必要な知識と訓練を独自に積んだ傭兵と言える。『戦力』という点で比べればはどちらにも優れている面は確かに存在する。しかし魔理沙が霊夢と肩を並べられるのは霊夢が務めを果たす上で、過剰な『火力』と『努力』を自身に求めていないからなのだ。

 

「私は良いのよ。だって里の人達にとって一番の敵は傍迷惑な妖怪達でしょ。だったら鉄砲なんかより私の神社を頼れば良いじゃない」

 

人間同士の問題なら凡そ霊夢の出る幕はないが、人間が妖怪達を相手にするなら実力と経験において彼女より優れた者は幻想郷にはいないだろう。それを理解しているが故の発言を霊夢はした。その言葉を聞いた紫はクスクスと小さく笑う。

 

「それは違うわ霊夢。人間にとって最も恐ろしい敵は同じ人間。だから妖怪は忘れられたのよ」

 

自虐しての発言…とは到底思えない雰囲気で紫は答えた。紫の言葉は恐らく真理だ。霊夢も大凡その言葉に賛同するが目の前に存在の様に例外と言える様な輩も幻想郷にはいる。

 

「…私には鉄砲持って行進する人達や刃物を振り回す妖怪なんかよりアンタ一人を敵にする方が嫌よ」

 

妖怪といえど己が肉体や妖術だけで戦う輩ばかりではない。刀や槍は言うに及ばず、弓矢や暗器等の何かしらの得物を武器に戦う武芸者も当然いる。妖怪が使用する事を前提に作られたそれらを手にした者達は妖怪としての身体能力や年月による技量も合わさり、正に『怪物』といった存在にする。その威力は防御用の掻盾や竹束すら紙の如く容易く切り裂き、穿つのだ。だが博麗の巫女を名乗るならそれ位の得物や妖怪達を複数人捌く位の実力がなくては幻想郷の調停者として成り立たない。

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃない。もう酔っちゃったのかしら♪」

 

霊夢は頭が痛くなった様な仕草をした。他の妖怪なら兎も角、この妖怪が石火矢や焙烙火矢等で如何にかなる存在なら幻想郷は遥か昔に滅んでいるだろう。他者の手によって…。

目の前で嬉しそうに料理を食べる妖怪は一言で済ますなら胡散臭い存在なのだ。全知全能等では決してないが、強いや怖いだけでは言い表せない未知のスキマ妖怪。そんな不気味な妖怪だからこそ表立って敵対する者は少なく、確かな実力を伴った曲者揃いの幻想郷は一応今でも無事に存在している。

 

そして幻想郷を守護する博麗の巫女にとって特定の事柄に関しては確かな信用が出来る相手でもある。

 

鉄砲隊の行進する様子を眺めながら、ふと霊夢は鉄砲という存在其の物が気になった。

 

「ねぇ紫…鉄砲は何時どんな理由で幻想郷や人間の里に伝わったの?」

 

その言葉を聞いた紫の箸が自然に止まった。その様子に気付いているか霊夢は言葉を続ける。

 

「何であれ鉄砲は物騒な物よ…それに必要な玉薬もね。幻想郷には色んな奴等が住んでるけど基本的に…言うならば『人間にとって特別ではなくなった物や者』が集まる場所でしょ。アンタみたいに外の世界でも通用する奴は別として、アレは扱い方次第じゃそこいらの小物より物騒な事を『誰でも起こせる』かもしれない物よ」

 

霊夢は何となく不思議に思って尋ねたのだ。人里と密接する程に深い関わりのない一部の集団が優れた技術を独占するのは理解出来る。人間の技術の向上は『特別でなくなった物や者』を生み出す危険性がその分だけ増すからだ。それは幻想郷の主旨に反する。だからこそ気になったのだ。鉄砲が幻想郷に伝来する事になった所以を博麗の巫女として…。

普段の胡散臭さが潜め、紫は静かに喋り出す。

 

「…えぇ。だからこそ里では鉄砲や火薬に関して細かな掟を決めている。狩猟や害獣駆除といった一部の用途を除いて民衆には行き渡っていないわ。その猟師が普段持てる鉄砲や玉も有事の際に用いる物に比べれば可愛い品にしているのよ」

 

里の民衆が許可を得て所持出来る鉄砲や玉は三匁以下の火縄銃と鉄玉か鉛玉に限定している。それより強力な鉄砲や合金玉は見回り組や討伐隊の人員しか所持出来ない。そうする事で万が一の悪用を防ぎ、見回り組が迅速に対処出来る様にしているのだ。

 

「…ふーん。じゃあアレはどういう事なのよ」

 

霊夢は紫から目を逸らさずに行進している鉄砲隊に指をさした。

 

「あの人達も里の一部なのよ。勿論あんな物持ち出しても獣なら兎も角、妖怪を一人で簡単に倒せる訳がないわ。だからアンタも其れなりに認めているし、材料の支援も恐らくしているのでしょうけど…何故、里に鉄砲を広めるのを『妖怪』であるアンタが認めたのか知りたいのよ」

 

人間にとって特別として足り得なければ妖怪や神は存在しえない。結界に護られているが故に、その理が外に比べて緩い世界である幻想郷といえどその事実はどこまでいっても消えない。

霊夢は調停者として…紫は管理者として…役目を終える時までその事実を見据えて生きていく。

其処に寛容する器の広さや性分の甘さはあれど、事実から目を逸らした優しさは存在しない。

 

何かを考え込む様な仕草をする紫を霊夢は見詰めていた。

 

「…そうねぇ。…話しても言いけど長くなるわよ」

 

「別に良いわよ。私は元々暇で今日アンタの誘いに乗ったんだし」

 

漆塗りの徳利に収まっている酒をお銚子に注ぎながらそう言う霊夢に何かを懐かしむ様な表情をしながら紫は口を開いた。

 

「では語りましょう。幻想郷の鉄砲伝来を…」




本編開始は三話からです。
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