東方外伝・鉄砲伝来の章   作:お試し期間

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今回は八雲紫の語りをナレーション風味にした感じです。
※紫の語りは真贋合わさってこそ味が出ると思います。


結界の歴史

人間にとって生きている人間はこの世で間違いなく、一番恐ろしい存在。そして人間は忘れる生き物。ならば人と幻想の戦いから、人と人の戦いに移り変わるのは必然であり、幻想が忘れられるのは当然の理だったのかもしれない。切っ掛けは人間同士の戦が世界中で主に行われる事になった事が原因だと推察する。

 

 

結界で隔離された世界、幻想郷。嘗てこの場所では三度、結界が張られた。

 

 

事の始まりは月面戦争から帰還した一人の人妖とその従者達が辺鄙な土地に住まう事から始まる。人妖は悪さを人に対してするが、訳の分からない悪さばかりした。人を殺して暴れまわる事や苦しめる悪さではなく、意味不明な悪さばかりした。退治しようとする人間もいたが何故か失敗ばかり。なぜ失敗したのか。どの様な術や力を使う妖怪なのか。それらが不明なその妖怪に対して人間が抱いた感情は未知の恐怖という、与えられる妖怪にとって最も誇れる恐怖だった。人を殺めて恐怖させる妖怪は三流。力を見せ付けて怖がらせる妖怪は二流。未知なる恐怖を人に抱かせてこそ真の大妖怪。その噂を聞いた妖怪達はその妖怪の住まう場所に自然と集まった。理由は大妖怪と呼ばれる妖怪の近くで暮らせば人に退治される危険が減る事と、肝心の大妖怪が同じ妖怪から見ても同胞に対して無茶をやる凶暴な妖怪に思えなかったからだ。 妖怪の数は増え、それに比例して幻想郷から齎される人間の妖怪に関する被害も増えた。大妖怪は他の妖怪に人間に対して必要以上に怖がらせる事を許さないと告げたが人間を襲うなとは命じなかった。幻想は己の存在を人に対して知らしめなければならない。人に信じられなくなった幻想は存在の消滅を意味するからだ。それからしばらくして、妖怪と戦う事を生業とする人間達、幻想に惹かれた人間等が辺鄙な土地に集った。

 

 

この時期、人々の信仰は幻想ではなく文明、科学に移り変わりが始まっていた。

 

 

一度目は人の世の為。人にとって害となる妖怪と、これからの人の世には存在そのものが人の世にとって不都合になるであろう妖怪に係わる人間達を閉じ込める為にこれからの人の世を憂う僧侶達が力を結集して創り上げた広大な結界。人の世に害を為す妖怪と、幻想を信じる心からこの世に生まれる妖怪を想起させる要因になりかねない、幻想と係わる人間達を排除する為に。僧侶達は結界の中の者達は人知れずに滅びるだろうと確信していた。だが隔離された妖怪と人間達は滅びなかった。僧侶達の誤算は妖怪の存在を誤認していたの一言に尽きる。『幻想は人の力ではその時代、時点で再現、説明による証明ができない存在』だからこそ生まれた。『人の力で再現、説明できる事象は幻想ではない』という根本を誤認していた。人が地力で生み出した幻想で創られた結界等如何程のものか。妖怪は逆に結界を利用した。何時でも解除する事が可能な結界を敢えて維持して僧侶達に滅んだと勘違いさせた方が妙な企てをされる心配が無く、外界からの脅威を退ける事が出来ると考えた。だが、妖怪にも不都合が無かった訳ではない。同じく閉じ込められた人間達の大半はそんな妖怪達と戦う為に集まった人間達であるという事だ。しかし、彼等の磨き上げた霊力や妖怪に対する思想等は妖怪を相手にするのに必要なだけであり、文明や科学を信仰する、移り変わる人の世で意義を見出す事が出来たのかは不明である。

 

 

誰にも知られぬ、人間と妖怪の戦が幕を開く。

 

 

二度目は妖怪の為。閉じ込められた人間達は力を合わせて里を築き、妖怪と戦い抜いた。己の存在意義を勝ち取る為に。妖怪を殺める為の術を磨き、退魔の力と妖怪に対抗する独自の文明を発展させた。並みの妖怪に負けない霊力。増えた人の数。限られた資源を用いて対妖怪の為に、信仰を持たせる事を前提に作られた武具や妖怪に向けた効果的な毒の開発。それらは妖怪達を人の数、独自の文明という力で脅かした。

 

少し話が逸れるが補足として説明をしよう。何故信仰を持たせる事を前提に作られた武具を作り、妖怪退治の人間達が用いたのかは資源や分野による知識、技術の問題も有るが人間相手の戦と妖怪退治が根本的に違うからだ。妖怪は精神に依存する。人間では命に関るといえる、手足を失う様な大怪我でも妖怪にとっては致命傷にはならない。出血や傷の処置等を気にしなくても精神が無事なら時が経てば復元するのが妖怪だ。普通の武具のみで仕留めるなら肉体に動けない程の傷を負わせた後に急所を潰す位の事をしなければ仕留める事は難しい。幻想の力が宿る武具の前では妖怪は普通の生命体と何ら変わりない傷と痛みを負う。それどころか武具に宿る信仰次第では些細な傷でも致命傷に為りかねない。幻想の力を宿す武具の使い手は妖怪にとって相手の技量や霊力次第では火薬を用いた兵器を扱う者より遥かに恐ろしく、厄介な相手となる。妖怪に向けた毒に関しては霊力を余り持たない人間や幻想を宿す武具が無くても妖怪を仕留める為に考案された。精神に依存する妖怪は普通の武具では傷付ける事は出来ても仕留める事は難しいが毒は話しが別になる。体を蝕む苦痛によって精神的に追い詰める事が出来る毒は妖怪すら抗う事が難しい効果的な武器となる。

 

結界を司る妖怪は自身と身内の身を護る為なら問題は然程なかった。大妖怪が本気で力を振るえば人間の里を壊滅させる暴威を容易く振り撒く事が出来る。その事を理解しているが故に妖怪退治を生業にしている者達はその妖怪にだけは明確な敵対行動を仕掛ける事は無かった。もし敵対すれば報復の攻勢を恐れた人間達が頑丈な具足を身に付け、防備を固めた人里に閉じ篭っていようが単独で『誰でも暗殺』する事が可能な妖怪を敵に回す事になる。『力』と知を用いた変幻自在の工作。鉄砲隊による死角からの全包囲狙撃が如き攻勢による奇襲。それらを単身無手の状態から距離に関係なく何時でも行える『力』を持つ暗殺者を敵に回す恐怖を想像すればいい。直接的な強さや怖さ比べなら、他にも巨大な『力』と恐怖を持つ著名な大妖怪は思い浮かぶ。しかし殺人の意味で人間が敵に回した時の恐ろしさは他の妖怪の比ではない。百にも満たぬ勢力で火薬や攻城兵器を備えた軍勢と渡り合える戦力を所持していても無駄な力押しをせず、敵を確実に仕留めるなら一滴の毒を用いる手段を選ぶ。この妖怪が他の名立たる大妖怪に一目置かれる畏怖をされる真の恐怖と理由だ。特定の分野では並び立つ者はいない、大妖怪と呼ばれる実力が確かにある。

 

だが、他の妖怪まではそういう訳にはいかない。血に飢えた野生動物が跋扈する環境でも個で生活する事が出来る妖怪とはいえ集団で連携を駆使する人間達の力と知恵は個で太刀打ちするのは厳しい。とはいえ妖怪は基本的に同胞であろうと他の妖怪と馴れ合いはしない。それ故に多数対少数という結果が必然的に生まれて妖怪達の首を絞める事になった。この様子を危惧した大妖怪は結界の外にいる妖怪を呼び込み、人間に負けぬ程の数を集めようと考えた。その為に結界を新に張り直した。外界から消え去る幻想を収集する力を持つ結界を。

 

そして妖怪と人間の勢力は一変する。今までは見知った妖怪の力を分析して勝機を見出し、弱点を突き、集団対個の戦力で凌駕する戦いをしてきたが、方法に限界が訪れる。分析する暇など与えぬ様に増える妖怪達。数だけではなく個の力の質も只の妖怪とは訳が違う者が集う。幻想郷の噂を聞き、自ら訪れた『力』自慢の妖怪達も集まったのだ。他の妖怪では真似出来ない独自の『力』を持つ妖怪達の存在は皆、単体だけでも脅威と言える存在だ。少数だが幻想の『力』を持つ人間も結界に惹かれて幻想郷を訪れ、人間と妖怪の戦いに加わったが大勢に大きな影響を与える事は出来なかった。

 

人間にとって絶望的と言える状況が訪れる。それでも人は戦った。死を恐れるが故、恐怖という感情があるからこそ、人は最後まで絶望する事なく足掻く事が出来る。人間の最大の強みだ。それは鬼という恐るべき妖怪達を策で退ける結果まで出した。だが現実問題で言えば人の滅びは時間の問題と言えた。その時、今まで静観を決め込んでいた結界の主と呼べる大妖怪が有力な妖怪達と人間達の長に接触を図った。内容は簡単に言えば終戦協定だ。結界の主は『妖怪が人間の里で暮らす人間を夜間外出している時以外で襲う事を禁ずる。人間も無益な妖怪退治を辞めれば自身が生活を援助して安全を保障する』と申し出た。大半の妖怪と人間は結界の主の実力と平穏な生活に焦がれる想いから終戦に賛同した。しかし納得のいかぬ妖怪や人間、 血に飢えた者、受け入れ難き異能を持つ者、仲間や同胞の敵と叫ぶ者、そんな平和等まやかしだとあざ笑う者。そういった人間達や妖怪達は安心出来る生活を求める者達から迫害され幻想郷の地下に去るか、幻想郷に見切りを着けて出ていった。増長する妖怪も大勢いたが、結界の主を中心にゆるゆると安息に向けて進んでいった。当たり前だが、小規模な戦いはその後も暫くの間続く事になる。殺し、殺される関係は容易く終わる訳が無い。だが、大規模な戦いは確実に終結した。

 

これを期に結界の主は本格的に幻想郷の安定に力を入れた。複数に分かれて存在する様々な勢力や種族、それらの気性に頭を抱えながら安定を目指した。しかし画策は兎も角、元から表立って大衆を率いる事は己には不向きと結界の主は理解していた故に『裏』から流れを操る管理者として環境を整えていった。こうして結界の中では僅かづつだが穏やかな流れに向かっていった。

 

 

世界的規模での幻想と人の均衡が崩れる足音が聞こえ始める。

 

 

三度目は滅びに抗う為に。結界の主は幻想郷には無い塩等の生活に必要な資源、里の人間に害を為す危険な妖怪の情報等を人間に提供しながら巧く妖怪との勢力を整えて、幻想郷の安定を目指していたが外界では大きな変化が齎されていた。

 

天文11年~12年の間にポルトガル人から二丁の火縄銃を種子島の島主が購入したことから始まり、日本は銃、黒色火薬、ネジ等の新しい科学を積極的に取り入れ始めた。これから語られるのは二度目の結界から最後の結界の結界が張られる間に起こった、幻想郷の『鉄砲伝来』に纏わる物語。




最後の結界は当分の間は先になります。
戦国時代での幻想郷がメインです。
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