気が付いたら生を受けていた。存在していた。目の前には、毛むくじゃらの生物が大小合わせて6匹。大きい方が小さい方に乳をあげている。突如腹が鳴る。なのでその輪に交じって乳をもらった。これが生まれた最初の記憶。
乳をもらい寝る。その生活を、一か月ほど繰り返す頃には、住処の洞穴を歩き回れるようになった。まだ親の目の届かない場所には行けないが、歩くのは楽しい。
それから二年ほどたつころには、自分も兄弟も、親と同じ大きさの身体を手に入れ、住処に残るもの、外へ旅に出るものに分かれた。そして自分は後者であり、住処をでて旅に出る。
旅に出てから早十年、だんだんと言うことをきかなくなった体、まずい。。。 そもそも自分や兄弟が旅に出たのは、外へ出て嫁さんを見つけ新たな群れを形成することにあった。だというのに自分ときたら、嫁さんを見つけることもせず旅を満喫していた。春の桜、夏の水辺、秋の紅葉、冬の雪、四季折々の良さがある。そんな情景を毎年追い続け旅をするのだから、こんなに時間がたってしまうのも無理はない。そしてもう手遅れだ。年を取りすぎた。後生きれて二年、自分の身体だ、残された時間位わかる。今から嫁さんをもらって群れを作るなど時間が足りない。まず、昔住んでいた住処から遠く離れすぎた今、帰るのにも時間がかる。はぁ~っと溜息が出る。父さん母さんごめん。自分は立派な雄にはなれませんでした。。。
とぼとぼ歩く今の季節は夏。太陽に照らされ自分の身体に熱がたまり、先ほどの父さん母さんへの罪悪感による相乗効果で、自分はとてつもないどんよりとしたオーラを纏ってること間違いないだろう。あつい・・・とりあえず森の泉で水でも浴びて来よう。そう思い森に入る、瞬間、嫌な臭いが漂ってくる。血の匂いだ。血の匂い自体は肉を食らう自分としては嫌な匂いではない。しかしその血を纏ってる物の臭いは酷く嫌悪感を抱かせる。これは・・・この森に来てから数か月たってるのでこの臭いの正体に心当たりはある。何度か出会ってしまったこともある。・・・妖。好んで人を食らい、同じ森に棲む動物たちも餌としてしかみていない化け物。
しかし不自然である。この森の泉に、水浴びに来た自分からもわかるようにある条件をクリアすれば森はそこそこ安全になる。その条件は、日がのぼっている時間であること。妖の住処には近寄らないこと。夜は絶対に住処からは出ずじっとしていること。この三点を守れば、この森は妖がいるということで人に荒らされず、自分のような肉食動物も集まってしまうものの、数の多い人間ほど食う量は少ないことから、人が来ない森として多種多様な動物が集まる楽園になる。であるはずだが、日が昇る正午のこの時間に妖が起きている。しかも人を食らっている。そのことから考えると・・・人が妖に奇襲を仕掛けて起こしてしまったのか・・・。馬鹿な奴らだ・・・人の数は匂いによると四人で、血の匂いからわかるように内一人はすでに食われている。残りの三人は固まって森を抜けようと逃走している。しかし、妖は
「そこの・・狼さん、私を連れて・・逃げて・・くださらない?」
何を言ってるんだこの女は?自分は別に人間大好きの犬ではない。どうでもいい女を助けるほど善意に溢れているオーラを放っているわけでもない。助けるわけがない。そんなこと、人間が近づかないこの森にいる狼だということからすぐにわかるだろう。なのになぜ? 女は続ける
「もしかして・・自分の置かれてる立場が分かってないのかしら?・・あなた・・今怪我をしているのよ?」
女が言う怪我。それは先ほどの矢で受けた後ろ脚のことだろう。しかし矢は避けたので掠っただけだ、痛みもなければ走れないわけでもない。なぜそれがこの女を助ける理由となるのだろう?・・・まぁいい、今はここから立ち去るのが先決。早く逃げねば、こちらに向かって来る妖に自分まで食われる。妖の臭いをたどるに、先の男は食われ、妖は移動してる。おそらくこちらに向かているのだろう。この女の人間の匂いをたどって・・・ふとここにいる女以外の匂いが漂ってることに気付く・・・なんだ?・・・血?女の?瞬間気づく。矢を受けた後ろ脚・・・ああ自分の血だ。まずいまずいまずい!妖が近くにいない時なら血の匂いなど消えるまでこの森から離れていればいい。しかしこちらの方向の女の匂いを追っている今、同じ方向にいる自分の血にも気付いてしまっただろう。現に女に対する殺気以外にも自分に殺気が向いている。そこを動くなと、今からお前も一緒に食ってやると。自分の顔から血の気が引いた。それを見て気付いたのか女は、
「あら、ようやく気付いたのかしら?そうよ、あなたも狙われてる今、私を置き去りにしても、妖は私を殺した後あなたを追いかけるでしょうね。私たちがこんな真昼間に起こしてしまったんですもの。相当気が立ってるわよ。」
どうすれば良い?この女の言った通り妖は自分をも餌として認識した。逃げるにしても自分と同じくらい早い妖を撒くのは至難の業だ。隠れようにも血の匂いがある。ことは一刻も争う早く逃げなければいけないのにどこに逃げればいい?
「逃げる場所に当てならあるわ。人が住む都に逃げ込めばいいのよ。あそこなら仲間もいるし妖を追い返すことぐらいできるわ。ただ都に入るには私の力が必要だけどもね。どうする?」
女は微笑む。こちらがこれを断れないの分かっているようだ。遺憾ながらそれしか方法もないように感じる自分がいる。仕方ないその提案にのるとするか。
決まってからの行動は早い。すぐ女に駆け寄り女の後ろ襟を加えて自分の背に乗せ、多くの人の匂いが集る都の方向へ走り出す。女はそんな自分の行動をみて満足したのか
「あら、賢い選択ね。相当お利口さんだわ。まるで犬ね。」
と上機嫌だ。こちらとしてはお利口さんな犬ではなく賢狼と呼べ賢狼と、グルゥと唸って抗議する。
そうこうしてる間に森を抜けて平原の最中遠くに都が見えてきた。ここまま振り切り都に逃げ込めれば、なんて希望を一瞬で絶望に変える妖の足音と咆哮が後ろから聞こえてきた。たとえ軽い人間の女であっても、もともと走る速度が同じだった自分と妖の速度は、女の重さを加味すると若干自分の方が遅いらしく、徐々に距離を詰められていく。距離が詰まっていることに女も気付いているのだろう。女は妖に向かって弓を構え矢を放つ。矢は弧を描くのではなく、一直線にその速度を失わず妖に向かい飛んでいく恐ろしいスピードだ。そんな矢を妖は四本足の前右足で弾き飛ばす。あのような矢を射てるこの女もすごいが、それをいとも簡単にはじいたまま追いかけてくる妖も妖だ。そんな攻防を続けていくがいまいち妖に傷を負わせられない。しかし、こちらは走りながらでも矢を射てるが、妖は走るために使っている一本の足をはじくために使わくてはならないために速度が若干落ちて距離は詰められなくなってきた。そうこうしてるうち都の目の前まで来ている。後二百メートル先だろうか、大きな門が見えそこから武装した人がわらわらと出てくる。武装した人々は両手で銃を持っていて妖狙いを定める。そして、武装した人々の先頭に立った一人だけ服の色が違う男が号令
「撃て!!」
その合図をもとに銃の砲身から玉が発射し、それが妖の身体に傷をつけていく。さすがの妖も無傷とはいかない攻撃にひるみ踵を返して森の方向へ走っていった。妖が去っていった安心感か自分は足を止めその場に伏して脱力してしまった。それに伴い背に乗っていた女の足も地面につき背から降りた。
「ご苦労様。よくここまで運んでくれたわね。助かったわ。ありがとう。」
そんな言葉を聞いたのを最後に自分は意識を手放した。