ポケットの中の英霊   作:ACT 07

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新年あけましておめでとうございます。
恥ずかしながら再び戻ってきました。
え? 武蔵? そんな子はうちのカルデアにはいません!

茶番はここまでにして……。

更新が遅くなって大変申し訳ありませんでした。
今回の話は視点が何度も入れ替わって非常に目まぐるしいと思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。


ACT09 それぞれの思い

「……あれ? 俺は、たしか……」

 

俺は気が付くとどこでもない、黄金に輝く草原の上にちょこんと鎮座している岩に腰かけていた。

 

「アーチャーと戦って、勝って……それから……」

 

ダメだ。思い出せない。

それ以降、何があったかを思い出すことができない。

まさか、俺は……

最悪のことが頭をよぎる。

思わず頭を抱えその事実を否定しようとする。

不安と恐怖が俺を襲う。

 

俺は……! 俺は……!

 

恐怖に押しつぶされそうになりそうだった時だ。

 

 

 

『『『『しろー!』』』』

 

 

 

懐かしい声が聞こえる。

幻聴なんかじゃない。

たしかに聞こえたんだ。

思わず後ろを振り返る。

そこには、俺を信じてくれたヒトたちが手を振っていた。

 

『しろー! 早くしないと置いてくぞー! それとお腹が減ったから! はやくぅー!』

 

両手をを千切れんばかりに振っている藤ねぇ。

 

『はやく来いよ。衛宮。お前がいないと、僕の良さが引き立たないだろ』

 

悪態をつきながらうっすらと笑みを浮かべる慎二。

 

『シロウー! はやく来なさい! ほら! お姉ちゃんがついているから』

 

両手を目いっぱい広げて笑顔を見せるイリヤ。

 

『先輩。待ってますから、急がなくてもいいですよ』

 

髪をたくし上げ、静かな笑顔の桜。

 

『……士郎。答えは見つかった?』

 

笑顔を見せながら俺に問いかける遠坂。

 

その姿に俺の目からは思わず、涙が零れる。

そして、悟られぬように涙をぬぐうが涙が止まらない。

 

ぽん

 

俺の肩に誰かの手が置かれる。

 

ああ……。この暖かな手を、俺が忘れるわけがない。

 

『士郎、よく頑張ったね。お疲れさま』

 

いままで変わらぬ声音のじいさん。

 

「う、うう……」

 

涙を必死にぬぐう。

でも、なかなか止まらない。

 

『行こうか』

 

じいさんの言葉に、無言でうなずくしなかった。

 

俺は立ち上がり、じいさんと一緒にみんなの元に歩いていく。

 

そして、みんなは笑顔で声をそろえて

 

 

『『『『『おかえり!』』』』』

 

 

 

「ただいま」

 

 

俺もそれに笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

ナニカ、大事なものを置き去りにして……

 

 

 

 

 

ACT08 

 

 

 

 

 

 

くそったれ!

俺は自分の落ち度に腹が立っていた。

いくらランサーと交戦していたとはいえ、マスターのことに気がいかなかったわけじゃない。

戦闘と同時並行で行っていた索敵は、確かに通常よりも範囲が狭まることぐらいは理解できていた。

だが……ッ!

己のクラスがキャスターであることを忘れ、ただひたすら走った。

 

「くそっ!」

 

ランサーで呼ばれなかったことを己が嫌になることは何度かあった。

だが、キャスターで召喚されたものは仕方ない。

俺がマスターに恵まれなかったことも、仕方ない。

生前、何度も重ねたゲッシュで己の身を滅ぼしたのも仕方ない。

 

そう割り切ることができる。

 

だが、今回ばかりは……!

 

男と男の戦いに、余分な横槍を入れるのも正直言うと気が引けた。

だが、やはりマスターの身を案じるのであればやはりあの時に、無理やりにでも止めるべきだった。

 

しばらく走ると、開けたところに出た。

俺はそこで、信じられない光景を目にした。

そして、俺という英霊。クーフーリンは、この姿を忘れることはないだろう。

 

まさか、こんなやつが今の時代にいるとは思ってもいなかったから。

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

まさかとは、おもう。

嫌な予感しかしない。

キャスターの背中を追い続け、しばらくしたら少し開けたところに出た。

そこに、キャスターもいた。

 

僕は、ここで見た‘衛宮士郎’という男の姿を忘れることはないだろう。

 

 

刀を地面に突き刺し、立ながら息絶えている。

口からは血が零れており、地面の血はまだ乾いていない。

体には、いくつもの切り傷がある。

それでもなお、倒れる(おれる)ことの無い衛宮の姿。

そして、衛宮の手に収まっている刀には罅はおろか、疵一つない。

衛宮の心は鉄よりも強い。

まさに、それが具現化したように見える。

そして何より、彼は円蔵山を背にたっている。

 

まるで、「ここを死んでも守る」といわんばかりに。

 

そうだったな……お前の『理想』は正義の味方になること。だったな。

正直に言うと、お前の正義が正しいのかは、僕にはわからない。

少しだけ分かる部分がある。

大事なものを守るのに、捨てなくてはならないものが存在すること。

 

だからこそ、お前は途中で気づいたんだろ。

自分の力じゃ全部を救うことができないって。

だからこそ、お前は決めたんだな。

1つを守るために9を捨てることを。

 

……衛宮。

僕とお前の共通点は10年前の地獄から始まったんだったな。

燃え盛る炎と立ち込める死の臭い。

助けを呼んでも助からない絶望と孤独。

 

あの事故からお前がどんなところで育ったのかは知らない。

勿論、お前が僕のことを知るはずもない。

地獄が終わってみたのも、また地獄だったことを。

だからこそ、僕は未だに『答え』を見つけられないでいる。

自分のことはどうでもいい。

あの時に死ぬはずだった僕に救いの手を伸ばした王様(あのひと)はもういない。

だからこそ、迷っている。

自分がどうあるべきか。

 

でも、衛宮。お前の答えを見て、少しだけ前に進めそうな気がするよ。

 

お前の『答え』確かに見届けた。

だから、安心していい。

約束しよう。

 

僕は、この聖杯戦争を止める。

 

この身体が滅ぼうとも止めて見せる。

 

男と男の約束だ。

 

衛宮が小さく微笑んだように見えたのは、きっと僕の目にゴミが入ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…。

……。

………。

 

再びみんなに会うことができて、嬉しいはずなのに……。

俺の心のどこかで迷っている。

なんだろうか。

この迷い。

 

ナニカを置き去りにしているような……。

 

俺の大事な相棒……

 

□□□□……。

 

ダメだ。思い出せない。

 

みんなに手を引かれながら俺はついていくだけだ。

でも、なにか忘れちゃいけないものがある。

 

それは――――――。

 

 

――――――ウ。

 

誰だ?

 

 

―――――――ロウ。

 

お前は誰なんだ。

 

―――――――――シロウ!

 

 

!!

 

忘れてはいけないことを忘れそうになっていた。

あの月夜の出会いを。

いっしょに鍛錬をしたことを。

彼女と共に囲んだ食卓を。

 

あの色あせないあの時を!

俺は静かに立ち止まる。

 

『? どうしたの? シロウ?』

 

イリヤが首をかしげながら問いかける。

 

「悪い。イリヤ。俺はまだそっちに行ったらダメみたいだ」

 

『どうしてですか? 先輩。私、……』

 

「ごめん、桜。少しだけ、待っててくれ」

 

俺は桜とつないでいた手を解く。

 

「俺には、まだやらないといけないことが残っているから。まだ、そっちには行けないみたいだ」

 

それを見ていた爺さんは、小さくため息をつく。

 

『士郎は昔から先走る癖があるからね。今回も少し先走りすぎたんだね?』

 

小さくうなずく。

 

『……行っておいで。僕たちはここで待ってるから』

 

爺さんは微笑みながら俺に来た道を行くように促す。

俺は、なるべく後ろを振り返らないように返し来た道を走る。

今振り返ったら、彼女のことを忘れることになる。

それはだめだ。

なぜなら……俺は彼女を守ると決めたから。

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

「ごふっ……」

 

口から大量の血があふれ出る。口を閉じようがお構いなしでとめどなくあふれ出る。

瞼が重い。

だが、最後に俺ができることが一つだけある。

それは――――――。

 

俺は再び薄れゆく視界のなか、セイバーがいる円蔵山を背に仁王立ちする。

どんなことがあっても彼女に手出しはさせない……。

例え、それが間違ったことだとしても。だ。

俺は……絶対に護る。

 

ぜっ……たい……に……。

 

 

 

せい、ばー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

僕は、袖で涙をぬぐう。

それをしり目にキャスターは衛宮の刀をまじまじと見つめる。

 

「見ろ、ぐだお。こいつの刀。お前さんにはどう見える?」

 

キャスターが衛宮の刀を指さして僕たちに見るように言う。

 

「……疵一つない、収斂の証ともいえる。立派な刀だ」

 

「……そうか。お前さんにはそんな軟な刀に見えるか? なわけないよな? こいつは、俺のマスターが生み出した。この世界でたった一つしか存在しないものだ」

 

「………」

 

僕たちは黙ってキャスターの言葉に耳を貸すことしかできない。

そんな状況だ。なんとも言うことができない。

衛宮の刀は、間違いなくただの刀じゃない。

王様の持っていた剣や槍などと、同じ風格をまとっているからだ。

 

「お前も何となくわかってるんだろ? こいつはまごうことなき英霊の持つ武具。そう。一騎当千の英霊が持つ武勇伝、万物不当の英雄たちが具現化させた奇跡。それが『宝具』だ」

 

キャスターはしゃがんで、衛宮の刀の刃をそっとなでる。

 

「この神秘の薄れた時代に、こんなのを生み出すやつがいるとは正直驚いたぜ。主が死んでなお、風化することなく残るこの刀。こいつの曇りなき刃……。マスター。安心して眠んな、あとは俺たちが片付けるからよ」

 

キャスターは立ち上がる。

そして杖を肩に担いで宣言した。

 

 

 

「決めた。俺はアサシンのやろーをぶっ殺す。お前らも異存はないだろ?」

 

「もちろん、最初からそのつもりでいる」

 

僕たち一行の行動は決まった。

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

正直に言うと、キャスターを追いかけるぐだおの胸ポケットで、私は何となく察していた。

彼……衛宮だったかしら? きっと彼が負けた。

でも、この状況を見る限りだと、きっとアーチャーには勝った。

しかし他の何者かに殺された。

考えられるとすれば真っ先に出てくるのがあのアサシン。

黒化してなおも優れた気配遮断。それはアサシンがかなりの暗殺者であることを物語る。

言ってしまえば、試合に負けて勝負に勝った。っていうところね。

 

彼は、勝算があるとか言ってはいたものの、実際のところは勝っても隙を見せたのね。

だから簡単に殺される。

アーチャーは彼からすればかなりの強さだ。

それは普通に考えても、当たり前のこと。

ヒトは英霊には勝てない。

将来英霊になりうる存在だったとしても、あのアーチャーに勝つことはできなかっただろう。

けれども、彼は少なくともアーチャーには勝った。

ヒトは英霊に勝てない。という常識を覆した。

正規の英霊でないから、というのも大きいが、ただの人間が英霊に勝つとは、正直思ってもいなかった。

それに、宝具まで生み出すなんて……。

もしかしたら、彼はこのまま年を取っていたら英霊になっていたかもしれない。

 

だから、私は少し怖い。

 

こいつ(ぐだお)は例え勝てない相手だとしても、向かってくだろう。

 

自分が自分であるため。

あの地獄を生き延び、生かされたものとして、至極当然とでも言うように。

あいつは、今。心のどこかで死に場所を探しているのでは?

と、つい考えてしまう。

この短い時間の間に、生と死を幾度となく見てきたぐだお。

あの骸骨ですら‘ヒト’と認識しているほどだ。

 

だからこそ、怖い。

 

私は、己の生を恨んだ。

己の在り方を呪った。

自分を陥れたフランスが憎かった。

 

でも、今ではそんなこと。と切り捨てることができる。

私のことを、深く聞かずにずっと一緒に居てくれた。

全てを失った私に手を差し伸べてくれた彼。

 

あの時は、私の為に誰よりも怒ってくれた彼を……。

 

 

私は―――――あなたを失いたくない。

 

私の前から、消えないでほしい。

 

 

 

私の思いは胸ポケットの中で握りつぶした。




最後までお読みいただきありがとうございました。
なにか不自然な描写や点がありましたら言ってもらえると嬉しいです。

所で皆さんは、じぃじは来ましたか?

私のところには来ませんでした(白目)

もうすぐバレンタインイベ……邪ンヌからのチョコが貰えんバレンタインなんぞ……私はいらない!
邪ンヌいない歴=1年を迎えそうです……。

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