ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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お久しぶりです。

こんな小説を待ってくださってる方がいるかどうかわかりませんが、久々の投稿です。
今回から2巻目になります。
もしもよろしければまたお付き合いください!

更新が遅れた理由?
会社内で異動があり、違う土地に来ててんやわんやしてたのです。
再開した理由?
知らない土地で寂しいので、誰かと繋がっていたいからです。



ザンギ弁当295円
1食目


そこはスーパーと呼ぶには小さく、かといってコンビニと呼ぶにもまた大きすぎた。

チェーン店ではなく個人で経営しているであろうその店には、すべてが揃えられていた。

お菓子も、酒も、弁当も。

当然、それらを値引きする(半値印証時刻)《ハーフプライスラベリングタイム》も…存在した。

 

弁当コーナーは、やはり通常のスーパーよりも小さくここでの戦い方も通常のそれとは勝手が違い、特別なスキルや技が必要とされる。

故にこの場に集う狼は新規のものはほとんど姿を見せず、古くから存在する古参、限られた狼しか訪れることはない。

極まれに、その中でもとりわけ古くから争奪戦に参加し、すでに一線を退いた【古狼】と呼ばれる狼たちが現れることで有名でもあった。

 

いつも通りならもうそろそろ半額神が現れ、半額という神の奇跡をお与えになる時刻だと、大学生や40手前の狼は身構え、その時をただ待った。

 

その時だった。

立てつけの悪い自動ドアを通り抜けて入店してくるものがいた。

その場にいた狼は残らずその来訪者に目を奪われた。

 

寝起きなのか、ボサボサの長髪に眼鏡、汚れが目立つスニーカー、そして何よりも頭の悪いヤンキーの染めた金髪とは根本的に違う、ナチュラルな黄金の髪を靡かせる一人の娘。

狼達は、その娘から威圧感を感じた…わけではなく、ここ最近ある噂を聞いていたが故に身構える。

 

―――曰く、ここ一ヶ月で頭角を現した雌狼がいる。

―――曰く、眩しいくらいの黄金の髪をしている。

―――曰く、外国人の美しい娘である。

 

彼女は、軽い足取りで30%オフのシールが張られた弁当コーナーに歩いていき、ざっと一瞥し、頭をぽりぽりとかき、駄菓子コーナーへと向かった。

 

バックルームから一人の男が現れる。

この店の半額神だ。

彼はジャンパーからシールを取り出し、弁当にシールを貼っていく。

新顔である彼女を一瞥し、バックルームに戻っていった。

その瞬間、争奪戦が始まった。

 

 

 

数分後、彼女は外していた眼鏡をかけなおし、弁当を片手に帰路に就く。

通常とは違う戦いの場で、初の争奪戦だというのに弁当を獲ることが出来たことは、偉業と言っても差し支えはない。

力がついてきたことに、彼女はむふふと一人笑う。

風が彼女の髪を撫でていった、のと同時に声が響く。

 

「あなた宛てに、言付けを預かっております」

 

男の声に、立ち止まる。

場所は駐車場から聞こえてくるがその場には誰もいない。

あるのは何台かの車とバイクだけ。

声の主を探そうと辺りを見回すが、その姿どころか影さえも見つけられない。

 

「今宵、丸富大学部室棟最上階にある庶民経済研究部室に来られたし、とのことです」

 

「誰?そこにいるの」

 

彼女は問いかけるが、答えはない。

しかし、だからこそ彼女にはその正体に心当たりがあった。

 

―――影のように暗躍する諜報部隊。

 

「なるほどね。噂には聞いてた。空に吠えたてるもの…【ガブリエルラチェット】か」

 

その正体に当たりをつけ、再度問いかける。

 

「という事はその言付けは【帝王】(モナーク)から?」

 

「…ご名答」

 

「そこに行けば、何か面白いことがあるの?」

 

「【二つ名】持ちの狼ならば、損はないかと」

 

その言葉を最後に、かすかに感じていた存在感は霧散し辺りには静寂だけが残っていた。

 

フム、と彼女は頭をかく。

ここ最近、自分の実力も上がってきており、弁当もそれなりに撮れるようになってる。

【二つ名】もつけられた。

ここらで更なるステップアップを目指すために、この誘いに乗ってみるか、と考える。

どこにでもいる狼達とではなく、【二つ名】を与えられた強者との闘いが出来れば面白い、と彼女は思った。

 

今回の誘いは渡りに船だ。

噂でしかないが、ここら東区だけではなく西区、果ては県外の狼たちの情報を集める組織の本拠地が丸富大学にある、庶民経済研究部であるときいたことがある。

もしそうならば、自分の望む戦い、望む強者がどこにいるか、教えてもらえるかもしれない。

 

そう思うと、先ほどよりもいっそう足取りが軽くなり、ついにはスキップまでしてしまった。

 

 

 

―――彼女は面白いことが好きだった。

面白いことが大好きだった。

面白いことのためなら多少の面倒ごとや壁も苦にはならず、むしろそれを乗り越える事にも楽しみを見出していた。

そして彼女は一か月前、争奪戦に出会った。

一部の貧しいものを除き、そこを駆ける狼たちは全力で手を伸ばす文字通り命がけの競争。

自分もまたその場に魅了され、すっかり入り浸ってしまっている。

美味しい食事と、それ以外の楽しみを。

 

彼女は丸富大学付属高等学校一年、著莪あやめ。

興趣にただただ貪欲な娘にして、厳しき極狭領域を駆ける、新たに台頭した一匹の狼。

またの名を―――【湖の麗人】(みずうみのれいじん)と言った。

 

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

 

「ちょっと…これすごくない?」

 

僕こと、新道心羽は誰に問いかけるでもなく、思わずそう零してしまった。

もはや日課となってる争奪戦に赴き、弁当コーナーを物色してる時にそれは起こった。

金銀財宝のイメージ。

思わず走り寄ってその弁当を見る。

 

『これを食せず、漢を名乗るな!限界に挑戦、これぞ究極の親子丼Ⅲ』

 

楕円形のトレー容器のそれは弁当コーナーの中でもとりわけ異色を放っている。

間違いない…これは月桂冠だ!

ご丁寧に『午後から加工しました』シールが貼られている。

金銀財宝のイメージはこの弁当からだったのだ。

そして何がすごいって、親子丼と書いてあるのにどう見てもオムライスだという事。

しかもそれだけではない。

オムライスの横に、我もまた主役たらん!と爆弾のような唐揚げがある。

鶏肉と卵で親子丼という事なのだろうが、どうにもここの半額神のネーミングセンス力は53万あるみたいだ。

さらに言えば、ナンバリングが3という事は試行錯誤を繰り返してここにたどり着いたという事か。

いや、もしかしたらここもまだ通過点なのかもしれない。

ゴールはまだ先、そう考えるとここでこの弁当を食べておかなければ、続編の弁当を心から楽しむことが出来ない。

まぁそれを抜きにしても、月桂冠だ。

狙わない理由はない。

 

周りを見渡すと、今日はあんまり知った顔はいない。

印象に残る狼がいない。

茶髪も今日はジジ様のほうの店に行ってるのかな。

顎鬚や坊主、佐藤君もいない。

せっかくの月桂冠、強敵を倒して食べたいのだが、雑魚狩りになってしまいそうだ。

特に佐藤君にはリベンジをしたかったのだが。

この間、【ダンドーと猟犬群】を駆逐した後、一騎打ちをしたのだが、他の狼たちは残らず意識を刈り取ったのだが佐藤君は最後の最後まで意識を保っていた。

次会ったときは、完膚なきまでの敗北を…と思ってたのだが残念だ。

 

 

「お前が【ゴキブリ】か?」

 

…いい加減、僕にこんな不名誉な【二つ名】をつけた愚か者を探したい。

探偵でも雇ったら探してくれるのだろうか、いや駄目だお金がなかった。

悲しい、この世は資本主義だ。

 

「人違いです」

 

「いや、お前だ、写真で見た顔だ」

 

「は?」

 

写真と言ったか?

僕の写真が出回っている…恐ろしすぎる。

いつから日本は肖像権という法律がなくなったのだ。

むしろなくなったのならなんで僕は知らない?

肖像権がなくなったのなら…○○○なことや○○○な画像が…!

いや、やっぱりだめだ。

白粉というクリーチャーが水を得た魚のように活発になる恐れがある。

まぁ、そんなことは置いといて。

 

「どういう意味?」

 

「知る必要はねぇよ。お前はここで脱落するんだ」

 

不敵に笑うのは嫌に長身痩躯な男だった。

髪は短く刈り揃えられいわゆる五輪カット、金髪、というよりかは黄色に染められた色。

 

「悪いけど、意味が分からないんですけど…」

 

「何度も言わせんな、知る必要はねぇ…が知りたいなら俺を倒してみな。この【ヘカトンケイル】を」

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

争奪戦が始まってから誰一人として弁当を獲ることが出来ていない。

それはひとえに目の前の男、【ヘカトンケイル】と名乗った狼による妨害のおかげだ。

ヘカトンケイル、かのギリシャ神話に登場する巨人の神であり、百の腕を持つ異形の存在。

これが【二つ名】だと聞いたとき、厨二くせwwwwと思ったがよくよく考えてみれば【ゴキブリ】なんかより億倍良い。

改めて涙が出てきそうになっていたが、そんなことはどうでもよくって、この【二つ名】、言い得て妙だと思った。

この男、手足が異常に長い。

人の倍は制空権がありそうで、そんなわけだから近寄った瞬間に攻撃される。

しかもその攻撃も中々えげつない。

ピンポイントで胃を攻撃してくるし、拳が触れる瞬間、捩じるように抉ってくるので一発一発が重い。

まるで弾丸のような攻撃に何匹もの狼が沈んでいった。

そしてそれ以上に厄介なことが…。

 

「オラオラオラァ!どうした雑魚どもぉ!西区の狼はこんなもんかぁ!?」

 

叫び、挑発する狼を僕たちは大きく見上げながら立ち向かう。

【ヘカトンケイル】は…あり得ないと目を疑ったのだがどう見ても天井から逆さまになり攻撃してきていた。

な、何を言ってるかわからねーと思うが、おれも何を言ってるかわからなかった…とか言ってる場合じゃなく、この敵はあろうことか天井付近の棚の上に陣取り、上空から攻撃してきているのだった。

ご丁寧に商品棚の商品には靴の先も触れずに器用に立ち回っているあたり、一応、店の商品を足蹴にしないという最低限の常識は持っているようだった。

まぁ、はっきり言って商品棚の上から奇声を上げながら攻撃してくるなんて、それなんてヤーナム?と首をかしげたくなるのだが。

 

「あらかた雑魚は片付いたか。にしても【ゴキブリ】…てめーは期待外れだな。

こんなことなら【氷結の魔女】のほうに行けばよかったか?」

 

やれやれ、と言った感じで首を振る【ヘカトンケイル】。

争奪戦に於いて、視線を相手から外すなんて言うのは自殺行為も甚だしいのだが、それを可能にするのが彼の間合いの長さ。

いや、単に余裕アピールなのかもしれないが。

 

「…さっきから、本当に僕のわからないことを好きかって言ってるけど、小学校の道徳で習わなかったのかな、人とお話しする時はきちんと目を合わせて、相手に伝わるように話しましょうって」

 

「っは!口だけは達者だな。いや、お前のそれが❝毒❞か?確か情報にあったな、つたないながらも❝毒❞を使うと」

 

「情報…」

 

なんかよくわからないけど、この人の言った言葉を整理すると、なんか西区じゃない狼さんが誰かから情報を聞いて西区に遊びに来てる、って感じかな?

そういえば前に茶髪が東区にそういう情報の収集をする団体さんがいるとか言ってたような…。

ふむふむ、つまるところ、僕がいるとわかってて来たという事か。

僕を相手にして、弁当を獲れると、そう思ったわけか。

それだけの自信が…あるというわけか。

 

「燃えるぜ」

 

僕がすることは変わらず一つ。

完膚なきまでに叩き潰すこと。

 

「まぁいいか。どうせ本番はもう少し先なんだ。今日はつまみ食いしに来ただけだしな」

 

「そんなつれないこと言わずに、たくさん喰っていけよ」

 

「あ?」

 

ゴキブリダッシュ。

一瞬で加速し、相手の間合いに入る。

さすが【二つ名】持ちというべきか、即座に反応し、すぐさま突き放すように拳を放ってくる。

が、それはもう見た。

❝暗記時間❞。

確かに天井から攻撃してくるのは想像だにしていなかったが、要はそれだけである。

その長く細い腕で遠巻きにチクチク攻撃してくる特異な技でもないその攻撃は、すでに覚えた。

❝暗記時間❞で覚えたそれを半身をひるがえすことですり抜け爆速的なダッシュで一気に【ヘカトンケイル】の足元…この場合は逆さまになってるから頭上?に辿り着く。

 

「テメっ」

 

焦った顔が目の前にある。

ここまで接近されたらその長い手足は逆に邪魔にしかならないだろうと当たりをつけたのだが、どうやら正解のようだ。

ていうかゴキブリダッシュが応用効きすぎて笑える。

【ヘカトンケイル】は宙づりで、手を伸ばした先の上空にいる。

ならば、出す技は決めていた。

 

自分も飛び上がり、【ヘカトンケイル】の足を払い、自由落下に身を任せる。

そして落ちてきた相手を逆さまのまま、両足を両手でつかみ、再度飛び上がる。

今度はより高く、もっと高く。

 

「な、何をする気だ!?」

 

「光栄に思ってくれ…今からお前にかける技はプリンス・カメハメの48の殺人技の一つなのだから」

 

何がどうなるのかわかっていない【ヘカトンケイル】はなんとか逃げ出そうともがくが、相手の顔を自分の首でフックをかけて逃げ出さないようにする。

ここまで来たらもう終わりだ。

あとは瞬きをする速さで、こいつは終わる。

 

この技は、プリンス・カメハメの誇る48の殺人技の一つ。

かの有名なキン肉マンの代名詞ともいえる技。

実際のプロレス技にもあり、ラ・マテマティカと呼ばれている。

空高く舞い上がり、相手をロックし、着地の衝撃で首折り、股裂き、背骨折りを同時に行う別名「五所蹂躙絡み」と呼ばれる相手を顧みないまさに必殺の技。

その名も―――。

 

「喰らえ…!」

 

❝筋肉バスター❞!!!

 

「まっ――」

 

ガコン!と鈍い音が響ききれいに磨かれた床が陥没したのかというほどの衝撃が轟く。

 

他の狼たちは見ていた。

流れるような一連の技を。

そして、見た。

あの【ヘカトンケイル】が、ただの一撃で泡を吹き、曲がってはいけないような方向にいろんな箇所が上がっているのを。

 

訪れる静寂。

誰も向ってこないことを確認し、小さく舌打ちをして僕は弁当を獲る。

月桂冠、だというのに何だか不完全燃焼だ。

【ヘカトンケイル】、確かに強かったが、相性が悪かったんだろうなと思いながらレジを通過する。

僕のようにスピードのある技を持つ狼や、白粉さんのような狼とは相性がよくないのだろう。

しかし、それでも【二つ名】だ。

燃える相手だったはずなのに、最後の最後で台無しだ。

他の狼たちが戦意をなくし、こちらを遠巻きに見るしかなくなった。

あの光景のせいで、心にもやもやが残るなぁ…。

明日は茶髪とか佐藤君、こっちに来てくれないかなぁ。

そしたら❝筋肉バスタ―❞かけてやろ。

…いや、あの技は女子にかけてはいけないな。

多分、捕まる。

そんなことを考えながら帰路に就く。

…はぁ、なんか退屈だ。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

―――えぇ、【ヘカトンケイル】がやられました

―――作戦開始の前に、大事な戦力が…

―――先走るからだ…命令に従えないなら浮いた駒だ

―――その通り、それよりもどうだ?【湖の麗人】は【変態】に接触できたか?

―――はい、確認しました

―――そこには【氷結の魔女】もいました

―――ならばよい。大事な作戦だ…【湖の麗人】にはしっかりと漏らしてもらわないとな

 

 

新道が争奪戦を終え、また佐藤たちHP同好会も【湖の麗人】と戦い、顔合わせを済ませたという情報をやり取りする者たちがいた。

【ガブリエルラチェット】…その情報はすぐさま全体に共有され、主である【帝王】(モナーク)に献上された。

【帝王】(モナーク)はほくそ笑んだ。

もう少しだ…もう少しで最強の名は自分のものに…!

 

夜の月に、一匹の獣が慟哭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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