なるべく短い内容で更新していきたいです。
月日は立ち、今日から僕は高校生だ。
県でも進学校で有名な私立烏田高等学校になんとか滑り込むことができた。
それに伴い独り立ちを決意、今までお世話になった施設「宿り木」から出ることにした。
おばあちゃんは好きにしなと言ってくれた。
いまだに収入源が謎だった施設「宿り木」だったけど、返しても返せないくらいのオンがある。
だからこその独り立ちだ。
少しでもかかるお金を少なくしようと思い、けどそれを正直に言ったらおばあちゃんはきっと怒る。
怒るっていうか殴る。
餞別だと言い、携帯電話をもらった。
実を言うと高校生になるまでに僕の本当の両親から連絡を何度かもらっていてた。
しかしその内容と言うのが、ムー大陸を探しに行くとか、アトランティスを探すとか割と本気で病院での診察をお勧めするレベルの内容を報告するくらいのことだったのであえて返事はしなかった。
その両親の連絡先も一応、携帯に入っているらしい。
かけることは一生ないだろうなぁと思った。
そんな携帯を週に一回連絡を入れることを条件に、携帯代を出してくれるという。
さらに知り合いに頼んで格安で一人部屋を貸してくれることになった。
なんだか僕の心を見透かされたような気がした。
入学してから1週間がたった。
進学校ではあるが、当然普通の人間ばかりである。
良かった。
これでいきなり「殺し合いを始めてもらいます」なんて言われたり、命がけのだるまさんが転んだとか起きたらどうしようかと思った。
まぁ…転生はしたもののどうやら普通の世界みたいだ…まだ油断はできないが。
人はお腹が空くと突拍子もないことをする。
前世の話になるが僕は大手小売業、つまりはデパートに勤めていた。
その中でも過酷な食品部門、いわゆる食品売り場に配属された。
今思えば食品に配属された時点でブラックまっしぐらの運命のレールに乗っていたのだろう。
食品売り場に配属された同期300人はドラゴンボールのように各都道府県のデパートへと散り散りになった。
そしてとある店舗に僕を含めた8人が着任する。
鮮魚コーナー担当になった川原君は僕たち新入社員の中でもとびきりのメンタルが弱かった。
まぁ彼についてはいろいろ言いたいことはあるのだが、とりあえず新入社員だというのにろくに休憩をもらえなかった彼は一日ぶっ通し魚を切り続けた。
ある日、疲れがピークになったのか上司から
「遅い!もういいからお前はうろことっとけ!」
と怒声を浴びせられ、彼はうろこを取り続けていた。
休憩をくださいなんて言える雰囲気ではなかったらしく、僕がたまたま鮮魚コーナーの前を通りかかったとき、川原君はうろこ取り機で魚をすりおろしていた。
意味が分からなかった。
おそらくだが、うろこを取り終わったことに気付かず、その身までもうろこ取り機で削っていたのだった。
彼の眼はその魚のように死んでいた。
川原君のお腹からはぐうううと漫画のような空腹音が止まず、僕がどうしたらいいのか分からず立ち尽くしていたら川原君の上司が気づいたようで彼をバックへと引きずっていった。
なんでこんなことを僕は思い出しているのかというと、僕の現在の状況がそんな感じだからだ。
いや、死んだ魚の眼をしているとかじゃない。
お腹が空いたら突拍子もないことをするというところだ。
独り立ちをした僕は、はっきり言って無駄に使えるお金なんてない。
いやそもそも無駄に使えるお金なんてこの世にはないのだろうけど。
なんとかアルバイトを探して朝の新聞配達や夜中の警備のバイトとか見つけることはできたけどそれでもギリギリだ。
ギリギリ足りていない。
満足いく食事ができていないのだ。
昨日なんて飴だけだ。
なんだそれ、火垂るの墓か。
せっかく地獄の社畜人生から転生できたのに…美味しいものが食べたいのに。
そこで僕は思った。
前世、僕はどこで働いていた?
そうデパートの食品売り場だ。
なら、知っているはずだ。
日本のスーパーには、『半額』という神の与えた奇跡があるのを。
売り手側からしたら損以外の何物でもないんだけど。
というわけで僕は部屋から近いスーパーへと足を運んだ。
ドアをくぐるとそこにはなんだか懐かしい雰囲気を感じた。
いやまぁ、転生してから何度もスーパーによることはあったのだけど。
しかし、そこで僕はなんだか嫌な気配を感じた。
嫌と言うにはあまりに漠然としたものだけど、なんだか見られているような気がする。
それも多数方向から。
しかしそれはすぐになくなった。
まるで興味がないとばかりに。
何だったんだろうと思い、僕はお総菜コーナーへと向かう。
現在、30%off。
僕の経験からして、この鮮度ではもうそろそろ半額になるだろうなと考える。
これからたぶん、毎日お世話になるだろうので半額になる時間を覚えておかなければ。
さて、目的のお弁当だけど…なんだこれは。
僕が前世で働いていた店では良くも悪くも普通のお弁当ばかりだった。
でも、このお弁当は…
まず目についたのは
『漢の血となれ肉となれ!春のニンニク焼肉弁当』
真四角の容器に肉が一面に敷き詰められている。
蓋の上からでもわかるその脂ギッシュなテカりは男子高校生である僕の胃袋をギュッとつかんだ。
他にも
『来たれ新人よ!新しいステージへの第一歩はフライでYOU CAN FLY』とかいう平仮名とカタカナと漢字と英語が入り混じったカオス溢れる弁当なんかもあった。
弁当の中身は様々な種類のフライが入っている。
きっと作成者は揚げ物のフライとFLY(飛ぶ)をかけたのだろうけど意味が分からない。
第一歩って言ってるのに飛んでどうする。
ここの作成者は頭があれなのかもしれない。
春だしなぁと弁当片手に思っていると、また視線を感じる。
それも先ほどの視線とは比べ物にならない怒気を込められている。
なんだ…なんなんだ…まさかバトル物の世界だったのか!?
仮面をつけた化け物でも出たのか!?
それを死神が退治するのか!?
すると扉が開く。
それは従業員が出入りするときのドアで、一人の男が出てくる。
目の前まで来たその男は手に収まる機械でお弁当のバーコードをスキャンしては、その後に出てくるシールを弁当に貼っていく。
そう、『半額』シールだ。
先ほどの視線に疑問を持ちながらも、半額シールが貼られ終わった弁当を手に取ろうとする。
目の前にいた従業員はいつのまにか出てきたドアをくぐり、そのドアが閉まったのを見た。
そう、見たのだ。
閉められた直後、僕に迫る10を超える拳や蹴りを。
「ふぇ?」
とっさのことで意味が分からなくなったとき、僕の口から出たのは幼女のみが使うことを許された呪文だった。
大小さまざまな拳と蹴りをその身に受けた僕は当然吹っ飛び、鮮魚コーナーの冷ケースにぶつかることで勢いを殺す。
そして僕が見たものは、半額弁当を死に物狂いで奪い合う15人の人間の姿だった。
薄れゆく意識の中、僕は理解した。
ここはベン・トーの世界だ、と。