ベン・トーの世界に転生者がいたら   作:アキゾノ

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未だにこのしょうもない小説を待ち続けてくれてる方がいる…。
感謝するぜ、これまでの全て(の読者)に!


やっと転職が落ち着いて転勤も落ち着いて時間が取れたのでリハビリがてら投稿…。
ただ今回はほとんど原作沿いです。
うちの主人公出てこないです。
次からは絡めていきたいです!
もしまだ見てくれてる方がいれば次もよろしくお願いします!


5食目

「来たぞ佐藤、あれがこの店の半額神だ」

 

著莪の言葉に佐藤が目を向けると、そこには若い女性店員が売り場を綺麗に手直ししながら弁当コーナーに向かっていくのが見えた。

 

「女…?しかも若い…」

 

今まで佐藤が見てきた半額神は年配の男性がほとんどだったため、新鮮な驚きがあった。

白いエプロンを身にまとい、頭に巻いたバンダナから伸びるややラフなポニーテール。

不思議な色合いの髪色で、ポニーテールは黄褐色なのだがまとめている部分から黒色になっている。

おそらくは染めた髪をそのまま伸ばしたのだろうがそこに不潔さやずぼらさは感じられず美しいとさえ表現できる。

そう…まるで綺麗な蝶のような色合いだった。

 

そして霧雨が降り注ぐかのように、優しく弁当に半額シールを貼っていく。

バックルームへ戻っていく際、一礼をしここに争奪戦は開始された。

 

 

走り出す狼。

先頭を走るのは【氷結の魔女】。

西区の狼、しかも【二つ名】が来ているとあって店内はある種、異様な興奮に包まれていた。

意地からか、槍水が弁当を奪取するのをある狼が文字通り死守する。

その隙を逃さず著莪が加えて魔女へ攻撃するが、それを難なくかわし、そしてまた著莪に別の狼が攻撃を加える。

いつもと変わらない乱戦。

瞬間、著莪が横合いから掌底で一メートルほど飛ばされた。

槍水の攻撃だった。

しかしそこは【二つ名】持ちの著莪、すぐさま体制を整えて再び槍水へと攻撃を仕掛けようとしてその手は止まる。

 

すでに槍水は弁当を奪取していたのだった。

佐藤はその一部シーンを見ていた

槍水の掌底によって著莪もろとも周りの狼をよろめかせ、弁当へと手を伸ばすスペース、時間を作り出し、あっけなく手に入れていたのを。

 

弁当を奪取したものを攻撃してはならない。

それは絶対のルールであり、ここに【二つ名】同士の戦いはまたもや槍水の勝利で終わった。

 

そして著莪は見た。

巻きまれた乱戦にて、一人の少女がまるで実体のない幻影のようにその乱戦の中を縫うように最前線までたどり着き、弁当を奪取していったのを。

 

白粉だった。

著莪は自分の見たものを夢とでも疑うかのように、しかし確実に起こった現象に度肝を抜かれた。

 

「佐藤、逃げろ!!」

 

その魔女らしからぬ悲鳴にも似た叫び声に、著莪は佐藤を見る。

愛すべきバカの従弟が大きな白い影のようなものにむちゃくちゃに叩きつけられては放り投げられていた。

著莪はその存在を知っていた。

この東区ならば誰もが知っていた。

 

佐藤は今自分がどうなっているのかわかっていない。

ただ、体中をかけめぐる痛みだけが自分がまだ気絶していないということを伝えている。

膝をつき、手をついて立ち上がろうとするがその大きな白い影に胸元を掴まれ強引に持ち上げられる。

そこで佐藤はやっと気づいた。

この大きな白い影は、白いコートを羽織った長身の男であるという事に。

そして、東区最強の【帝王】であるということに。

【魔導士】とはまた違った、禍々しい強者のオーラ。

 

「魔女に飼われし犬か」

 

犬と言われ、佐藤の体に力が戻る。

怒りに任せた拳は【帝王】の顔に吸い込まれるように入った。

しかし、渾身の怒りを目の前の男は微動だにせず受け止めてみせ、その顔つきが凄惨な笑顔へと変わった。

 

「威勢がいい」

 

そしてその拳を握られ、万力のような握力によって引きはがすこともできず、【帝王】は無防備な佐藤の顔、腹を重点的に殴り続けた。

その一発一発が必殺の拳であり、受けるたびに佐藤は血と吐瀉物をまき散らし、いっそこのまま倒れてしまおうと考えたが握られた手がそれを許さず、佐藤の意識は手放された。

 

「やめろぉ!」

 

著莪が【帝王】の手を思い切り蹴り上げ、ようやく佐藤は床に沈んだ。

 

「喜べ犬。今宵、貴様は歴史に名を刻むこととなる」

 

著莪を意に介さず、虫でも追い払うかのように他の狼ともどもたったの一振りの腕で弁当コーナーの最前列には佐藤と【帝王】しかいなくなった。

 

「その血でもって開戦の狼煙となれ」

 

すでにほぼ意識のない佐藤に、とどめを刺すかのようにつま先がめり込む。

薄れゆく意識の中、佐藤が見たものはピアスをした一頭の狼が佐藤を庇うかのように【帝王】の前に立ちふさがり、その狼を巻き込んで吹き飛ばされていく風景だった。

死というおおよそスーパーマーケットでは感じることのない今日をその身に刻まれながら今宵の争奪戦は終了した。

 

 

 

 

 

 

「貴様っ!」

 

槍水がレジを通過してきた【帝王】に噛みつく。

 

「うるさいぞ魔女、店に迷惑がかかるではないか」

 

ニヤニヤと心底楽しそうに男は言った。

 

「何故あそこまでやった!?貴様の攻撃は過剰に―――」

 

「犬のように声を荒げるなという…礼儀を用いて誇りを懸けよ。それが我々の掟ではないか…見すぼらしい真似はするな」

 

どっちがだ、と槍水は声を上げようとするが目の前の【帝王】こと、遠藤忠明に首を絞められ持ち上げられてしまう。

 

「その反抗的な目は良いのだが、それは争奪戦の時だけにしておけ。終わった今ではお前はただの小娘だ」

 

手を離した拍子に槍水は尻餅をついてしまう。

それを抱き起そうと著莪が近づいてきて、【帝王】を憎悪のこもった眼で見る。

 

「麗人、何だその目は?魔女のペットを潰すという事にはお前も了承していたではないか」

 

その言葉を受けて槍水は著莪の手を突き飛ばすようにして距離をとる。

 

「ち、違う!あたしは了承なんか…!」

 

していない、とは言い切れなかった。

著莪はこの作戦を知っていたからだ。

東区による西区侵攻作戦。

【魔導士】を叩くための重要なファクターであるHP同好会の殲滅。

そう、知っていたのだ。

それを佐藤に伝えようとした。

けれど著莪はそれをしなかった。

自分の、わがまま故に。

 

著莪は慌てて何かを言おうとするも、動くのは口だけで声が出なかった。

 

「よくも…よくもそれで佐藤とじゃれあっていられたものだな!」

 

槍水の言葉が胸に突き刺さる。

【帝王】の笑い声が響く。

 

「その辺にしといてやれ魔女。麗人は【二つ名】を有してはいるが所詮は未熟な犬なのだ」

 

その言葉に著莪は目を見開いた。

【帝王】は続ける。

 

「そうだろう?お前はこの場を何かの遊び場だと思っていただろうが。まるでゲームの世界だとでも。馬鹿が。愚か者め。この場は世界の縮図を体現した弱肉強食の世界だ。誰もが命を懸ける場所なのだ。勝つという事は他者を殺すという事なのだ。その果てにこそ、勝者には栄光と半額弁当が、敗者には屈辱と震えんばかりの空腹が与えられる。真剣にこの場にいるものであれば、数日前にHP同好会を潰すと言ったときに気付けたはずだ、それがどういう意味なのかを。だがお前はそうじゃなかった。お前は所詮、見てくれから【二つ名】をつけられただけの…犬だ」

 

【帝王】は歩き出す。

著莪とすれ違う際、著莪の頭に手を置きくしゃりと撫でた。

 

「…まったく手をかけさせる、駄犬が。大人しく俺の手の上で踊っていろ」

 

そしていよいよ著莪はうつむいてしまい、【帝王】は笑いながら店を出る。

 

「これから面白くなるぞ。変革の時はすぐそこだ!」

 

 

 

 

 

 

☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆

 

 

 

 

佐藤が目を覚ますと、そこはスーパーのスタッフルームだった。

争奪戦で傷を負い、意識を失った際に半額神が閉店作業の邪魔になるからと、狼たちの避難場所としてよく運ばれるのがここ、スタッフルームだ。

そして目の前にいる女性こそ、この店の半額神だったと佐藤は痛む体をさすりながら思い出す。

 

「そうか…僕は負けたのか」

 

「大丈夫?かなり酷い怪我だったから心配したよ」

 

目の前の女店長、半額神である女性は多くの狼達から「まっちゃん」という愛称で呼ばれている。

痛む体を抑え、佐藤は何が起こったのかを思い出そうとするがよく思い出せない。

まるで思い出すのを頭が拒んでいるような感覚がした。

 

「頭が痛い…なんだ、何が…?」

 

「…覚えてないのも無理ないわ。あれだけひどい目に遭ったんだもの。

あなたは【帝王】と交戦し、負けたの。その傷は【帝王】からの洗礼…」

 

「【帝王】…」

 

佐藤は頭を抱える。

(違う…それじゃない…僕は何かを忘れている。)

【帝王】は恐ろしかった。

今まで戦ってきた狼達の誰よりも恐ろしく強かった。

【魔導士】と互角の化物、その評判通りだ。

下手すると【氷結の魔女】よりも…という考えが頭をよぎるが、今はそれよりももっと思い出さなければならないことが佐藤にはあった。

 

「そうだ…僕がやられたとき、ピアスの狼が僕を庇ったような気がして…」

 

「!!…っそう…あの子はまだ…」

 

半額神の顔に影が曇る。

 

「ピアスの彼なら、さっき意識を取り戻して帰ったわ」

 

どこか寂し気に告げる半額神に佐藤は納得をし、痛む体をさすりながら立とうとする。

しかし、ダメージは大きくどうにも力が入らない。

 

「無理はしないで。君が目が覚めたこと伝えてくるわ」

 

これ使って、と男性用に服を渡された。

旦那さんの服をセーラー服の佐藤に渡し、そう言って半額神はバックルームから出て行った。

 

「…あれが【帝王】…」

 

少しづつ記憶が蘇るり、苛烈な攻撃を繰り出す【帝王】に戦慄を覚える佐藤。

一撃が重く、鈍器で殴られているかのように思えた。

そしてなによりもその凶暴性。

相手が倒れてもお構いなしに攻撃を続ける。

弁当よりも何故か自分を攻撃してきたように思えるその行動に、佐藤は脳裏に【二つ名】を持つ同級生を思い浮かべる。

しかし、彼とも違った。

新道も弁当よりも相手の殲滅に重きを置いている。

しかしそれは根底に弁当をよりおいしく食べたいが故の戦闘だったが【帝王】にはそれが感じられなかった。

もっと低俗で、だけど渇きを覚えるような意思だった。

狼として正しいのかはわからないが、強い。

それだけは確かだった。

考えたいことは沢山あった。

 

まずは痛む体のこと。

次に、いい加減に服を着替えたいという事(佐藤は現在、セーラー服姿)。

そして、何故か硬くなっている自身の体の一部…もとい息子をどうして鎮めるかという事。

佐藤の名誉のために言うと、殴られて興奮したからこのような状況にあるわけではない、夜間陰茎勃起現であるだけである。

 

まぁ、最後の問題は今誰もいないし、落ち着くまで座っていようと思い、服を脱ぎ半額神から渡された旦那さんの服を着ようと立ち上がる。

 

「目が覚めたか、佐藤」

 

槍水が著莪を連れ佐藤のもとへ来る。

佐藤は大人しく座りなおす。

背中に嫌な汗を流しながら。

 

「あばば」

 

人間というのは、予想外の事が起こると得てして誤作動を起こす。

佐藤は着替えようとしていたので、現在下着を残してすべての衣服を脱いでいる。

薄暗いバックルーム、床には脱ぎ棄てたセーラー服。

痛みのせいで思うように動かない体。

そして槍水という憧れの女性、しかも先輩という立場。

息子が自己主張を始めた。

…立てるわけがない。

ある意味では勃ってるとかやかましいわ。

 

「…どうした佐藤?立てないのか?」

 

心配そうにのぞき込む槍水。

 

「いや、さっき立ってたじゃん。何?急に甘えようとしてるわけ?」

 

著莪が不機嫌な顔をして佐藤に近寄る。

 

「いや…あの…恥ずかしいのでお二人には出て行ってほしいというか…」

 

「さっきまでのアンタの格好のほうが恥ずかしいわ。さっさと着替えちゃいなよ。マっちゃんが車で送って行ってくれるって言ってんだから早くしなよ」

 

「いや、待て。まずは傷の手当てだ。スカートで戦っていたのだから足のほうも傷があるだろう」

 

絆創膏を取り出しながら槍水が佐藤の足を触ろうとする。

 

佐藤は思案する。

どうしたものか、と。

憧れの先輩に傷の手当てをしてもらえる。

そのシチュエーションは素晴らしい。

しかし今に限ってはそうではない。

しゃがみこんで佐藤の足首を触る槍水の少し上では鼻高々とそそり立つ凶器が布一枚越しに存在している。

何も知らずにいる槍水、バレない様にと緊張と非日常間に襲われながら佐藤は混乱する。

 

「なんか挙動不審だぞ佐藤…ん?…あれ?うそ、ちょ、まじ?佐藤、まさかお前…」」

さすがは従妹というべきか、著莪はこの状況をいち早く理解し、悪魔のような笑みを浮かべおもむろにその凶器に手を伸ばす。

 

「うわぁ!ひでぇ!なんで!?」

心底嬉しそうにナニを掴んでくる著莪と、それを手で払いのける佐藤。

 

「…仲間外れか?」

 

と、拗ねる槍水に佐藤はいっそ、立ち上がり最高にハイってやつだとでも叫ぼうかと思ったが、なけなしの理性がそれを留める。

その間にも著莪は手でもみくちゃにしてくるし、槍水になんと説明したらよいかわからずあたふたしてると、ドアが開き白粉が入ってくる。

 

「白粉、これは、その、ちがうんだ」

 

ここにきて白粉にまで面倒くさい誤解をされたらもう学校でいきていけないとおもったのだが

 

「…全員男にすれば使えるかな」

 

と呟きながらメモを取る白粉を見て、こいつに限っては特に心配することはなかったと思う佐藤だった。

 


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