結界を張られている教会内では二人が大暴れしている。外部からの侵入を妨げている以上、助けを大声で呼んだところで二人しかいないこの空間では何の意味はなかった。
「喰らえ!」
「くっ…」
全方向から襲ってくる鎖と既に空中に設置された機雷がクリザリッドを襲う。広い場所での戦闘では彼女の方が有利であるため、クリザリッドは苦戦を強いらている。対して彼女の方は近〜中距離を鎖で攻撃し、遠距離で機雷で爆破させる。懐に入ろうと接近しても、鎖に拘束されかねない。
それでも、彼は彼女へ向かって走っていく。
「死ねっ!」
「デュホン・レイジ!」
最初の方は防ぐだけで精一杯だったが、彼女が動いていくうちにどこに滞在するか検討がついていた。彼女は逃げ回りながら、彼を誘っている。
「…そこだ」
「つっ⁉︎」
クリザリッドは炎でコートを羽織り、紫の焔を一気に飛ばす。焔玉は見事に少女に当たる。コートは近くにあった機雷の爆撃を軽減させ、そのまま燃え尽きた。
悶えているものの死ぬほどのものじゃない。クリザリッドの方は彼女に聞きたいことがあるために、まだ手加減していた。
「遠距離から何度も襲っていれば、防いでいくうちに君が何処に逃げるのかすぐにわかる。
なぜ私の命を狙う?」
「…ねぇ、舐めてんの?」
クリザリッドは彼女のような鎖を用いたりして広範囲に特化した攻撃することはできないが、遠距離の攻撃が全く無いというわけではない。
少女だからと手加減していたことに、彼女は憤っていた。
「殺す‼︎」
少女は遠距離で狙うことをやめて彼を接近して殺そうと襲いかかる。クリザリッドは迎撃する為に、拳を突くが彼と彼女が近づくと鎖が拳を遮ってしまう。
彼の拳が鎖に阻まれて彼女に届かない。
「命令、支援」
更に彼女もずっと手加減をしていたために今度は本気を出してきた。彼女は狼に似た機械を出現させ、実弾を撃ってくる。クリザリッドの方は少し驚いてはいたものの、その攻撃を何とかかわした。
(バルドゥール…実際にあったとはな)
バルドゥールは北欧神話フェンリルをモチーフにして作られたものであるがどんな異能なのかは彼には分からない。
「ほらほらほらほらぁ!」
避けたものの腕に鎖が絡まれ、今度は柱に身体をぶつけられていく。狂気の笑みを見せている少女に鎖を振り回されているが、その鎖を逆に利用する。ひかし、
「ふん!」
「なっ…⁉︎」
少女よりも彼の方が腕力が圧倒的に強く、やられたふりをして隙を伺っていた。腕につけられた鎖を勢いよく引っ張り、モーメント・ペネトレイションで吹き飛ばした。
(これで気絶してくれれば…)
「ケホッ…ゲホッ‼︎」
彼女は気絶せず、思い通りにいかないことに苛立つ。鎖はまだ壊れていない、機雷も残機がある。そのことを確認して微かに笑う少女はまたクリザリッドに襲いかかってきた。今度は真正面から投げつけ、腕で防ぐよりも避ける方を選んだ。彼が鎖を避けた事を予測した彼女は勝利を確信した。
(そうくると思ってた!)
「命令、バルドゥール…皆殺し‼︎」
鎖を引き戻し、バルドゥールを召喚。ビームがクリザリッドに向かって放たれ、直撃する。結界がまだ保ってはいるものの、教会内にある物はほとんどがその少女のせいで破壊されていく。
大爆発を引き起こし、少女の周辺は焼かれていた。
これでクリザリッドを始末したと確信したが、彼は立ち上がる。
「⁉︎…め、命令っ…最大攻撃っ‼︎」
少女は起き上がった彼に驚き、機雷を複数用意し、もう一度にバルドゥールで砲撃を放つ。
ーー見せてやる!我が力を‼︎
対してクリザリッドはエンドオブ・ヘブンで砲撃を防ぎ、その場でライトニングディザスターを発動。
機雷を発動させるよりも早く、攻撃が少女に届いた。
(う、そ…何をされたの?)
*****
教会は半壊状態だった。
クリザリッドがあのビーム砲撃を喰らって生きている理由は、炎で作ったコートで軽減させ、辛うじて生き残った。
「君の衣服が焼けてしまったな…」
クリザリッドは炎でコートを作り出し、そのコートを半裸の少女に着させ、この教会から急いで出ていく。結界は破壊されており、少女を家に連れて行こうとする。
「殺さ…ないの?」
「殺すかどうかは私が決める。君の持っていた武具は回収させてもらった」
負けて身体も動けずにいた少女には、このまま殺される覚悟はあった。仮に生かされたとしても、拷問されるんじゃないかという事も理解している。クリザリッドを始末しろと命令され、教会を使って襲おうとしていたのに彼は優しかった。
「変な人…貴方を殺そうとしたのに」
「誰かの指示なのか?
それとも私を恨んでいたのか?」
情報通り彼は優しいということは少女は知っており、このまま腹部を指す事も可能だ。
だが、彼女はそんなに気なれなかった。
「暗殺者として、襲った…」
「そうか…」
「…何やってんの、アンタ。もしかして私を家に連れて帰ろうとしてる?…馬鹿じゃないの?」
こんな少女に暗殺を依頼した相手をクリザリッドは許せなかった。
少女を背負って帰ろうとする。
「君を、このまま放置にするわけにはいかないだろう。
それに君は、泣いていた」
「へぇ…あたし、泣いてたんだ。
気づかなかった」
(それに、ただ単に私を殺すつもりなら…教会の人質を使ってでも果たそうとしているはずだ)
教会にいた人達は意識を取り戻しておらず、まだ気絶している。確かに防音や被害を考慮した上で結界を張ったのは正解だが、彼らの命を尊重していないのならば人質ごと連れてきた事も考えられる。
「ねぇ…まさか、あたしを生かして、一緒に暮らそうと言わないよね?」
「…そうだ」
「アンタ以外にも殺したりしてるんだよ?こんな穢れた私を本気で受け入れるの?」
「いいや、君は綺麗だ。生きて戻ったところで居場所があるかもわからんだろ」
ほんの少し、照れつつも少女の顔が赤くなっる。荒々しい口調が、可愛らしく拗ねていた。
「あぁもう…好きにして。
もう、どうなっても知らない」
「フフッ…そうか」
彼女の反応に、彼もそれに微笑んでいた。
「あと、アンタが所属している組織もそうだけど…この町を守ろうとする連中だって当然いる。
この町は、アンタの考えを認めない人の方が多い。こんな事が知れたらどうなるか分かってるよね?私を殺さず、保護するっていう事がどういう事か」
「あぁ、分かっている」
この少女を守るために、情報を嗅けながら町を守ろうとする精鋭と戦わなければならない。少なくともクリザリッドのいる組織には、襲われている事がバレている。
キャプテンコマンドーや、牙神幻十郎のように擁護してくれる味方もいるが、殺そうとした暗殺者をただ保護するなんて今すぐに引き渡せとアドラーや皇帝辺りが要求してくるだろう。しかも今回の件は、クリザリッドの独断な為二人がそれを聞いたら弁護出来るかどうかも怪しいと考えてしまう。
(もし彼女が私に心を開いてくれれば何か分かる。私を狙った理由も、裏で何かが起きているのかもしれない)
家にたどり着き、押入れから布団を引っ張っていく。着替えもパジャマではなく身軽なスポンとシャツしかなかった。
「これぐらいしか用意できなくてすまない。
今日は許してほしい。
名前を教えてくれないか、なんて呼べばいい?」
「シャルラッハロート…」
「そうか。では、シャルと呼ばせて貰う。
これからもよろしく」
仲間が少ない彼にとって、暗殺者として襲ってきたその子を返り討ちにして殺す事もなく、保護して守るために戦う道を選んだ。この二人との出会いが、彼女を殺さずに生かす彼の決断が、これから進む過酷な運命へと向かう事となる。