モンスターの生態   作:湯たぽん

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またもモンハンワールドからのお話です。
爛輝龍マム・タロトが実装されて、このお話を思い付いたのに、書き始める前にもう次の新モンスターが実装されてしまいました。どんどんアップデートされていって楽しいですねー。

そして今回は珍しく一人称視点で書いております。新たな試み、どうなるでしょうか。


その11 爛輝龍のバリエーション

―――新大陸にやって来るような人は、皆天才か変人か、もしくはその両方か、だ。

 

確か、同期の誰かがそんな事を言っていた。はじめは失敬な奴だなと思っていたけれど・・・・

 

最近、本当にここの奴らは全員変人なんじゃないかと思えてきた。残念ながら、俺も変人なんだと思う。

その理由、というかそう思うに至った原因となるモノは、そこかしこに転がっていた。

 

「いやー、良い気分ですニャ。これひとカタマリあるだけで、クニじゃあ大金持ちですニャー」

 

足元から呑気な声が聞こえる。オトモ猫のネコノフだ。

俺の名前、マコノフにちなんで付けた名だが、猫界ではマスター・ネコノフとして俺より有名になっているらしい。

そんな小憎らしいネコノフが、短い後肢を精一杯伸ばして組んで、偉そうに座っているのは、良い感じに椅子のような形になった・・・・

 

 

 

金塊だった。

 

 

 

爛輝龍(らんきりゅう)マム・タロト。

完全新種のそのモンスターは、全身に金塊をひっつけて歩き回るという、なんとも奇妙な生態をもっていた。大勢のハンターに襲われながらも、マム・タロトは身体中に(まと)った金塊をばらばらと落っことしながら逃げ続け、ついには姿を完全にくらました。

 

その結果、マム・タロトを発見し戦場となった巨大な洞窟には、奴が集めたであろう金塊で埋め尽くされていた。ネコノフの言うとおり、持ち帰れば大金持ち間違いなし。

 

「・・・・なのに、何で誰もコレ持って新大陸から出てこうとしないんだ?」

 

思わず、俺は最近疑問に思っていたことを口に出してしまった。足元からオトモの怪訝そうな視線を感じる。

 

「あー・・・・いや、何でもねえ」

 

適当に誤魔化すと、俺は歩いて洞窟を出た。

 

戻るのは調査拠点、アステラ。

この広大な新大陸に進出しているのは、俺たち新大陸調査団だけだ。当然一般人は含まれておらず、生物と地形の研究者と、拠点建築や武具作成のための技術者、そしてモンスター達の生態調査を実地で行うハンター、それだけで構成されている。

欲にまみれていない連中とはいえ、この金塊に心奪われるものが居ないというのは若干不自然な気がする。

 

「・・・・いや、待てよ?物資流通班の連中は元商人が多いはずだよな」

 

「ですニャ。あの金塊を売り飛ばして億万長者!をやろうとしニャい理由があるなら、彼らに聞いてみると良いかも知れニャいニャ」

 

俺の独り言に、小賢しく付け加えるネコノフ。

彼らオトモ猫は本来足はかなり速いのだが、速度調整が下手なため、ネコノフは走ったり歩いたりわたわたしながら俺についてきている。少しだけ、前に出るとこちらを振り向き、首を傾げながら余計な一言を発した。

 

「・・・・たまには翼竜に乗ってアステラに帰らニャい?ご主人」

 

「酔うんだよ、あれ」

 

しょんぼりとなったネコノフを尻目に、俺はマイペースに調査拠点へと歩を進めた。

 

 

 

「あぁら、マム・タロトの金塊のこと?そりゃあ、あなたたちが一番良く分かってるんだと思っていたけれど」

 

アステラに帰って一番に会いに行った物資班の女リーダーは、逆に意外そうな顔で質問に答えてくれた。調査団メンバーしか住んでいないとはいえ、かなりの人数になる。これらが生活するにはこの調査拠点アステラにも流通という概念が必要になってくる。それを担当しているのが、今俺の目の前にいる物資班のメンバーだ。

 

「そもそも、あなたたち本土に帰ればいつだって英雄でしょ?金塊なんていまさらなんじゃないの?」

 

ウェーブのかかった黒髪を伸ばした頭を傾げて、リーダーは質問を返してきた。

 

まぁ、その通りだ。自分で言うのもなんだが、英雄となった今、金塊があろうがなかろうが新大陸から帰れば豊かな余生を過ごせることは間違いない。でもそんな刺激のない生活が嫌というのもあって、俺や他の調査団メンバーはここに残っているわけだが。

 

「あんたたちはどうなんだ?商売人として心が揺れ動いたりはしなかったのか?」

 

そう問いかけると、褐色の肌の美人リーダーはからからと笑いながらいつも通り軽く答えた。

 

「あはは、無理無理。あれだけの量、持ち帰っちゃったら金相場ぐっちゃぐちゃよ?最悪そのスジの人達に消されるわ。」

 

クイッ、と自分の首を掻き切る仕草をする物資班リーダー。こっそり少量持ち帰るならともかく、と付け加えてから

 

「多分、帰還船の積み荷を申請する時に規制がかかるわ。流通って、繊細なのよ」

 

なるほど。金があれば簡単に即金持ち、というわけでもないんだな。俺が一人で納得していると、物資班リーダーは急に声のトーンを低くして話し始めた。

 

「そもそも、アレ黄鉄鉱かもしれないしね。金に良く似た金属で、愚者の黄金って呼ばれてるんだって。ここには専門家がいないから鑑定できないのよ。」

 

なんてこった。便宜上アレを金と呼んでいたが、本当に金なのかどうかも分からんのか。

 

「あ、でもそういえば、マム・タロトって個体ごとに纏う金属が違うって、生態研究所のおじいちゃんが言ってたわよ。金なのかどうかもそうだけど、より希少なお金持ち間違いなしのモノ纏ったりする可能性もあるんじゃない?話聞いてみたらどうかしら」

 

金持ちになりたくて話を聞きに来たわけではないんだが・・・・。まぁいい、少し面白くなってきたので、俺は言われた通り生態研究所の竜人じいちゃんに会いに行くことにした。

 

 

 

「おう、おう。興味を持ってくれたんか、きみ」

 

生態研究所は、いつも通り本が山積みになっていて、その中央に竜人、耳が尖り肌にウロコが混じる長寿の種族だ、の老人が座っていた。常に本を読み、または書きモンスター達の生態を研究、記録することに情熱を注ぐ、これもまた一種の変人だ。

 

「まぁ、マム・タロトが纏っていたモノが金だったかどうかはもうどうでもいいんだが。他のモノを纏う可能性もあるんだって?」

 

俺が問いかけても、じいちゃんはほとんど本から目を離さない。いつも通りとはいえ、ちゃんとこっちの話を聞いていたのかどうか不安になるね。

そして、返答も本に対して話しかけているようにも思えてなんとも聞きにくい。

 

「そうやな。アレの素材を皆に採ってきてもらって見たけど、金と融合してるわけやない。掴むような構造にもなってない。ただただ、"着てる"ような繋がりや。キリンが雷を呼ぶように、クシャルダオラが嵐を呼び風を巻くように、古龍特有の解析できん特別な力で引き寄せてるんや」

 

淡々と語っているようで、じいちゃんの目は爛々と輝き、身体も小刻みに震えていた。研究者にとっては別の意味で興奮するモンスターだったんだな。

 

じいちゃんの、少し変わった言葉による熱弁はまだまだ続く。

 

「はっきり言って、アレが金を纏っていた理由はよう分からん。でも、少なくとも言えることは、あの洞窟の黄金はマム・タロトが集めたもんや」

 

「やはりか・・・・。黄鉄鉱だか黄金だか分からないが、あれだけ単色でごろごろ塊が固まってるっておかしいもんな」

 

俺が横槍を入れると、じいちゃんは本の向こうで大きく頷いた。お、ちゃんと聞いてくれてたんだな。

 

「そうや。金脈といっても普通は採れるのは砂金や。あんな塊はマム・タロトが特別な力で引き寄せて精練してるとしか考えられん。当然、磁力なんて力でもない。そして・・・・」

 

じいちゃんは一旦言葉を切ると、はじめて本から目をはずし俺を見た。

 

「その力は、金でなくても作用する可能性が示されとる。今回は金だったからきみ、まだ楽なほうや」

 

「鉄だった可能性もやっぱりあるか?」

 

「そうや。硬くて刃が通らんかったやろうな。金属に限らん。ダイヤモンドを纏っていた可能性もあるんやで。もっと硬くて大変や。もっとも、その場合はもし採取できたらそれこそ大金持ちになれたろうけどな」

 

なるほど。物資班リーダーが言ってたのはこのことか。でも、金属に限らんということは・・・・

 

俺の頭の中で生まれた疑問が見て取れたように、再び本に目を戻した竜人じいちゃんはぶつぶつと続けた。

 

「イメージが広がったか。昔、撃龍槍を身に付けた古龍もいたそうやな。兵器を纏ったマム・タロトもありうるんや」

 

うへぇ、恐ろしい。

 

「金属でも別の恐ろしいものもあるんやで。金を精練して纏っていたことから、ある程度金属の状態を操っている可能性があるわけやし・・・・」

 

「水銀纏いのマム・タロトもありうるんや。猛毒やで。下手すりゃ子孫まで影響してまう」

 

液状のものを纏う。若干飛躍してる気がしないでもないが、可能性としては考えておいて損はない、な。

鉛纏いも似たような毒性が考えられるな。その場合の武器防具は柔らかくて使い物にならないだろうが・・・・

 

「専門外の友人に聞いたことあるんやが、プルトニなんとかゆう物質はもっともヤバいらしいんや。放射性物質とかいうらしくてな、新大陸から完全撤退せないかんくなるらしい」

 

・・・・さすがにそんなもん纏ってたらマム・タロト自身が先に死ぬんじゃないか?

 

「あとは毛やら骨やら、生物由来の物質纏いやな。似たようなもん纏ってるモンスターもいるから大概は大丈夫やろうけれど、粘液纏いとか厄介やろな。足はとられるわ刃に付着したら切れ味も落ちるで」

 

なんだか無駄にアイデアが湧き出てきてるぞこのじいちゃん。そろそろ話聞くの面倒になってきた。

 

「オモチ纏いとかきたらヤバいで。熱々のオモチが顔にでもついたら大火傷や。しかも冷えたらあほほど硬なるで」

 

待て待て待て。

 

「納豆纏いはどないしようか。新大陸のモンスターは今まで悪臭やられを仕掛けてくるモンスターおらんかったから消臭玉を開発せんと、回復薬飲めんくなるで」

 

おいおいおいおい。

 

「そういえば硬い物質でもう一個思い出したわ。あずきバー纏いになったら、これもまた金属並の硬さになるらしいで。温度に左右されるらしいから、あずきバー纏いに対しては火属性武器が効くやろな」

 

いやもうなんだよあずきバーって。

 

 

 

「・・・・」

 

俺の冷たい視線にようやく気がついたのか、独白を続けていた竜人じいちゃんがようやく一息ついた。

 

「まあ。ぼくが何を言いたいかというとやな」

 

 

 

次に出てくる言葉が何となく予想できて、俺は待たずに腰を上げた。立ち去ろうとする前に、特に期待していなかったが予想通りの言葉がじいちゃんから発せられた。

 

 

 

「無事に帰ってくるんやで、きみ」

 

「やかましいわ」

 

金塊かっぱらって帰ろうかな・・・・やけくそに適当な強奪プランと、規制抜けの方法を頭に浮かべながら、俺は八つ当たりしに闘技場のほうへ足を向けていた。


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