デデーン
『オモチ、アウトー』
奇妙な音、そしてアナウンスがどこかから響くと、またどこからか黒子ネコ装備に身を包んだ猫が一匹走ってきた。
「やめやめやめ・・・・あ痛ぁっ!!?」
ばちーん、と派手な音を立て、黒子猫が持った棒で思いっきりお尻を叩かれたのは。白黒毛並みのオトモ猫、オモチだった。雷狼竜の強固な素材で作られた防具に身を包んではいるが、お尻だけは何故か防具に覆われていないのだ。
お尻を叩かれるオモチを見て、隣にいたもう一匹のオトモ猫がバカにしたような声を上げた。
「ふふん、鳴いてはいけ・・・・ない調査団なのに、な、鳴く!からいけ二・・・・ないのだよ白銀のオモチよ」
デデーン
『ネコノフ アウトー』
「えジャッジ厳しくニャいか!!?」
デデーン
『ネコノフ アウトー』
「えええええええ!?」
ばちーん、ばちーん。
「うううゥゥゥぐ」
「ごわわわわわ・・・・」
仲良しの2匹のオトモ猫、オモチとネコノフが居るのはそれほど広くはない四角い部屋。その板張りの床に膝をついてうつ伏せになり、お尻を抑えて。2匹全く同じ体勢でうめいていると
がらり。
分かりやすい音を立てて木製の扉が開き、白髪をたたえた小柄な竜人が部屋に入ってきた。
「えぇか、二人とも」
生態研究所の所長であるこの老人が全ての元凶だった。全身を震わせて縮こまっているオモチとネコノフに対して何事もなかったかのように淡々と告げる。
「移動や。行くで」
「移動ってことは、去年のパターンだと"怒っては いけ・・・・な!い!"かニャ?」
デデーン
『オモチ アウトー』
タタタタタ・・・・
ばちーん
「ぐぎぎぎぎ・・・・」
「・・・・い、いや時間を考えたら"怒っては"とは違うと思う」
必死に語尾を変えてしゃべろうとするネコノフとは対称的に、どうしても『ニャ』が出てしまい叩かれ続けているオモチ。
無言の竜人所長についていくことおよそ15分。
たどり着いたのは、調査拠点からすぐ目と鼻の先にある雪原だった。
「この雪原でな、新しいオタカラの手がかりが、発見されたみたいなんや。二人で捜索してくれるか」
やけにわざとらしい、いかにも用意された台詞を読み上げていますといった感じの竜老人の言葉に、なんとも胡散臭い視線を投げ掛けながらも。オモチとネコノフは素直に雪原中を四つ足で走り回り捜索を開始した。
「オタカラって・・・・今さらねぇ?」
「そーゆー設定・・・・な!んだろうねぇ」
ぶつぶつ言いながら(語尾を懸命に変えながら)雪の中捜索を始め・・・・るやいなや。
「んあ。あった」
なんともあっさりソレは見つかった。
「・・・・尺でも気にしてるのか二・・・・の、のぅ」
デデーン
『オモチ アウトー』
タタタタタ
ばちーん
「ジャッジ厳しすぎる・・・・。と、とりあえずネコノフ、読んで・・・・そのわざとらしいの」
雪原のど真ん中に、わざわざ真っ黒に塗って見つかりやすくした石板が建っていた。当然の話ではあるが、妙に新しい。覗きこむと、ネコノフが読み上げ始めた。
「えぇーと・・・・『この石碑の文字は、必ず一句一言そのまま読み上げる・・・・ニャ』」
デデーン
『ネコノフ アウトー』
「嘘ぉぉぉぉ言われた通りちゃんと読んだよぉ!!!?」
石板にはこれまたわざとらしいフォントで強調された"ニャ"が書いてあった。
タタタタタ
ばちーん
「まぁ、読まされたとしてもルールは破ってるんだからシバかれるよね・・・・」
「ぐぐぅ・・・・もうひっかからないぞ。
えー続きは・・・・『なお、噛んだり違う読み方をした場合も罰隊が現れる・・・・』」
デデーン
『ネコノフ アウトー』
ばちーん
「がああああああ!無視してもやっぱりシバかれるのかああああ!!!」
文の最後にまた『ニャ』が書かれてあったのだろう。お尻を叩かれながら天を仰ぎ吼えるネコノフ。
(ボクが読まニャくて良かったニャあ・・・・)
オモチが腹黒い事を心の奥底でつぶやいている横で、ネコノフは気合いを入れ直していた。
「ぐうぅ、仕方ない。よしっ最後まで一気に読む・・・・よ。『この石板の正面に1人、真横に1人立つニャ。正面の1人が左に12歩、真横の1人は左斜めに9歩歩いて石板を振り返り望遠鏡で石板を覗き見える文字を交互に読むニャ!』」
デデーン デデーン
『ネコノフ 2回アウトー』
ばちーん、ばちーん
「むわああああどうだあ読み上げたぞおおお」
再び吼えるネコノフ。
「お、おおうさすがマスターネコノフ。えーとりあえず真横から左斜めに?9歩歩く・・・・よ!」
オモチが懸命に鳴くのを我慢し石板に指定された場所へ移動する。
「12歩・・・・と。ここで望遠鏡で、ってこの距離じゃあルーペみたいなものだね。あー小さい文字書いてあるある」
石板の表面は複雑な凹凸が全体にあり、指定されたポジションからしか見えない文字が掘られていた。
「えーと、『オチイ小さいッ』・・・・?」
オモチが一人で読み上げるが、意味が成立しないようだ。
「交互に読むんだよ、オモチ」
ネコノフの提案で、両ポジションの2匹が交互に前肢を上げて一文字宣言することになった。
「オ」
「モ」
「チ」
「タ」
「イ」
「キ」
「小さいッ」
「ク」
デデーン
『オモチ タイキックー』
「ぎにゃああああああああああ!!!!?」
♪ちゃ~ら~ ちゃらら~ら~
間の抜けた音楽が辺りに響き渡ると
もこもこもこもこ・・・・
積もった雪の下を何かが潜り進んでいくような痕が出現し、オモチへ向かってきた。
「こここここれはああああ・・・・!!?」
ドコォン!
雪の中から姿を現し、揃えた後ろ足でオモチを空中へと蹴り上げたのは
古竜、キリンだった。
「う・・・・わ・・・・あ」
上空10メートルあたりまで飛ばされただろうか。
「『タイ』って何だあああああああぁぁぁぁぁ・・・・・!!?」
空中で思いっきり身体を仰け反らせお尻を押さえながら叫ぶオモチ。綺麗な放物線を描いて、オモチがやけにゆっくりと墜ちていくのを、半ば呆然とした顔でネコノフは見上げていた。
ブルル・・・・ッ
何事もなかったかのようにキリンが首を一振りしてその場を離れていき、オモチはふわりと音もなく新雪積もる雪原に転がった。
「あ・・・・あぁ・・・・」
この場で声を上げるのはネコノフ1人だった。
「あああああああおっかねぇぇぇぇ!!!!?」
両前肢で頭を抱えて空を仰ぎ大絶叫。
「ね、ネコノフ!?」
何故か平気そうにオモチが立ち上がり心配の声をかけるが、ネコノフの絶叫は止まらない。
「嫌だああああぁぁもう嫌だニャあああああぁぁぁあ!!!」
デデ・・・・ブツッ
ネコノフのあまりの豹変ぶりに、シバき隊を呼ぶ警告音も空気を読んで途切れた。
「ボクならだ、大丈夫だニャ、ね、ネコノフ」
オモチがなおも心配そうに声をかけるが止まらない。
「無理いいいぃぃぃどうせこの後ボクもデンプシーされるんだあああああぁぁぁあ!!!」
この世の終わりが来たかのように泣き叫ぶネコノフ。デンプシーという謎の言葉に反応するようにオモチは首をかしげ、
「デンプシー・・・・?去年のネルギガンテのビンタの事じゃないかニャ?」
デデーン
『オモチ アウトー』
ばちーん
「ぐふゥ、ボクだけか。」
オモチのお尻がシバかれている間もネコノフはわめき続けていた。
「ネルギガンテっつったって!去年の大晦日は歴戦王すらいニャかったんだから!あんニャの"お手"みたいニャもんだニャー!!!」
あまりの剣幕に、ニャを連呼しているというのに罰隊も現れない。
「つ、つまり・・・・今年は歴戦ラージャンが来るってこと?」
恐る恐るオモチが聞くと、不意にネコノフは静かになった。
「・・・・そゆこと。どうせこの後ガッデムさ。」
いきなり素に戻ると、すたすたと調査拠点に向かって歩き始めた。
「やるよ。やるっきゃ無いでしょ。マスター・ネコノフの名が広まるなら三乙しない程度に受けてやるさ・・・・」
完全に"無"の境地に達したようで、菩薩のような顔のネコノフに、壮絶に引いたような声でぼやきながらオモチはついて歩いていった。
「・・・・プロだニャあ・・・・」
デデーン
『オモチ アウトー』
ばちーん
「ぐむむ・・・・二年前、新大陸に来る前は『ガツってはいけない』をご主人達ハンターがやってたのになぁ?」
「あぁ、ガッツポーズとったらシバかれてたなー」
少し表情を取り戻したネコノフも懐かしみながら、ラージャンが待っているであろう調査拠点へと、とぼとぼと歩みを進めていった。
年末の例の番組です。今回も面白かったですね。
アレと違うのは、連続シバきアリなのと、二匹だけでやるという点です。
『ふぅるぅ』とか言う、ハンターズギルドの謎の技術力により新大陸のハンターはもちろん現大陸でもこの2匹の様子は見ることができるらしいのです。よく頑張ったね、マスター・ネコノフ。