モンスターの生態   作:湯たぽん

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今回は、バルトの昔の盟友であるハンター仲間のお話です。
スズナは湯たぽん自身。
シュナ、マコノフ両名は友情出演いただいた狩り友です。
お二方、ありがとうございます!


その3 オトモの秘密

「ンニャ?ご主人、ご主人」

 

アイテムボックスの向こうから、紅色の毛に覆われた首を精一杯かしげて

オトモ猫のメロが話しかけてきた。

 

 

 

「どうしたの?メロ」

 

覗き込んでいたアイテムボックスから顔を上げた女ハンター、シュナは

珍しく丈の長いスカートにヒールの高いブーツ、コートを羽織っていた。

普段はモンスターの強力な一撃にも耐えられる強固な鎧を着込んでいるが

スレンダーでありながらなんとも美人な、ギルドや酒場でよく目を引くシュナ。

久しぶりにかわいい服を選んだ姿は、オトモであるメロにとっても新鮮であった。

 

「そんな珍しい女の子の格好しちゃって、ガーグァも驚いて金の卵産んじゃうニャ」

 

「OK分かった殴られたいのね。イカリハンマーどこにしまったかな」

 

 

 

「・・・・ホントに殴ることないと思うのニャ」

 

「失礼なこと言うからよ」

 

頭だけ地面の上に出した状態で、

しかし何事もなかったかのように平気な声をあげるメロ。

とはいえ、メロでなくともシュナが着ているというだけで、

コートの間からみえる白いセーターが

嵐龍の希少毛を用いたものであるように思えたり

首に下げた大きめの金色のネックレスが

ギルドからの勲章であったりするように思えてしまう。

 

シュナという女は、それほどの一流ハンターであった。

 

 

 

「先週から言ってたでしょ、今日はスズナとお出かけするって。

 メロも家に居ないで遊びに行けばいいのに」

金色の口紅を塗った形の良い唇を尖らせてシュナが言うと、

メロは急にそわそわしだした。

 

「あ、あーそうだったニャ。

 せっかくのお休みなんだからボクもお出かけしなきゃニャ」

 

うん?

 

ふと、シュナの頭の上に疑問符が浮かんだ。

 

(ははーん・・・・そういえば・・・・)

心の中でにやりと笑うと、平然を装いながらシュナは思い出したように口を開いた。

 

 

 

「この間、スズナのオトモのオモチ君がメロとお出かけするって言ってたけど。

 それ今日じゃなかった?」

 

案の定、ビクン!と地面の中で身体を大きく震わせると、

メロが上ずった声を出す。

 

「そ、そうだったかニャ!確か今日だったかも知れないニャ!

 ぜんっぜん大した用事じゃニャかったから忘れてたけど、約束は大事ニャ。

 仕方ないから今日行ってくるニャ!」

 

言うが早いか、深く埋まっていた地面からピョコンと飛び出し、

土で汚れた服をパンパンとはたく。

 

「じ、じゃあ行ってくるニャ!オモチったら仕方ニャいニャあ!

 大した用事じゃニャいんだけどニャ!」

 

必死に平静を装っているようで、

明らかに焦っているのがバレバレな態度でばたばたと街の方へ歩き始めた。

シュナのほうも必死に笑いをこらえながら、メロの背中に声をかけた。

 

「私たち、ドンドルマへ行くんだけど。お土産はマタタビクッキーで良・・・・」

「是非!」

 

くわっと勢いよく振り返ると、メロが吼えた。

 

「・・・・ですニャ。あ、いや覚えてたらで良いニャ。

 いやもうどうでも良いニャ。でもあったら良いニャー・・・・」

 

またしても平静を装ってしどろもどろになるメロ。

未練があるかのように千鳥足になりながら、しかし街の方へと歩いていった。

 

 

 

「プッ・・・・。分かった買ってくるよ。行ってらっしゃい」

 

今度こそ堪え切れずに吹き出すと、

シュナも時間を気にしだしてお出かけの準備に取り掛かった。

 

(あれで誰にも知られていない秘密の会合とか思ってるんだもん。

 可愛いわぁ・・・・♪)

 

 

 

 

 

 

「さて・・・・始めるとするかニャ」

 

暗く、狭い部屋の中でメロがつぶやいた。

 

と、すぐさま隣から別の声が上がった。

 

「フッ・・・・この場では語尾にニャを付けるのは無しだぞ、紅蓮のメロ、よ・・・・」

不敵な笑みを浮かべたのは、スズナのオトモ猫、白猫のオモチだった。

二匹は小さな蝋燭の灯りを真ん中に、中二病のような会話をしはじめた。

 

「あぁ、すまないな白銀の。そして・・・・」

 

そして、蝋燭の向こう側に現れたもう一匹に対して頭を垂れた。

 

「お許しを、マスター・ネコノフ」

 

蝋燭のそばに無意味に黒い幕をはり、そこからことさらにゆっくりと登場したのは

この秘密の会合(のつもり)の主であり、

シュナとスズナの狩猟団の盟友マコノフのオトモ猫である、ネコノフだった。

 

「あぁ、よいよい」

 

鷹揚に頷くと、白黒の毛並みの真ん中に現れた

肉球スタンプの模様を見せ付けるようにゆっくりと席に着いた。

 

 

 

「さて・・・ではそれぞれミッションの遂行具合を報告してもらおうか。

 オモチよ。ニャンターはどうだ」

 

「新人のツミレが、レベル48にまで達しております。

 戦闘力で言えば並のハンターくらいはあるはず」

 

オトモ猫はここ最近新たな能力、ニャンターを手に入れた事により

大幅な躍進を遂げていた。

オモチの言う事もあながち間違いではなく、オトモ猫だけのパーティーで

大型モンスターを狩る事も一般的になりつつあった。

 

 

 

「メロの方は、さらに進んでいるそうだな。調合リストが埋まりつつあるとか」

 

話を則されたメロは、しかし渋い顔をして口を開いた。

 

「リストは埋まったが・・・・”例の秘術”は見つからなかった・・・・こちらは手詰まりだ」

 

 

 

「そうか・・・・ニャンターの能力により、我々オトモでも調合が出来るようになった。

 これだけでも喜ばしい事ではあるのだがな」

 

こちらも神妙な面持ちで、オモチ。

 

「やはり無理だったか。ハンターの会話にも出てこない、か?」

ネコノフも予想通りだったのだろう、若干肩を落としながらも、

しかしわずかな希望をメロに向ける。

 

「・・・・ない」

 

 

 

「”錬金術”、のワードはもはや失われつつあるようだ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「錬金術?メロ君そんな昔の事気にしてるの?」

 

同じ頃、ドンドルマの街ではシュナとスズナが仲良くランチを楽しんでいた。

 

新鮮な海鮮ペスカトーレをぱくつきつつ、スズナが甲高い声を上げると

シュナもイカリングを盗み食いしつつ自分が美味しいと思ったピザを

ひときれスズナの皿に滑り込ませる。

 

「うん。全く別の素材から調合する特別なリストがあるってのを聞いたら

 眼を輝かしてね?」

 

「あ、それってもしかして・・・・」

 

スズナにとってもぴんとくるものがあったらしい。

身を乗り出して、笑いを堪えるようにこわばった顔を近づけてきた。

 

「あれ、を作りたがってるんじゃない?」

 

「やっぱり、スズナもそう思う?」

 

こちらは笑いを隠さず、くっくっと肩を震わせながらシュナ。

 

「いつでも、しかも全く別の素材からでも作れるのなら、

 あの子達にとっては錬金術は夢だよね?」

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、今作でもダメかニャぁ・・・・」

 

一方秘密の会合では、ドンドルマとは違い話が行き詰っていた。

不意に語尾にニャが付いてしまったオモチを、今度はメロが制する。

 

「白銀の。まだダメと決まったわけじゃない。

 気を抜いてはいかん」

 

びく、と背を震わせると。オモチは落ち着きを取り戻すようにひとつ咳払いをした。

 

「こほん、すまない紅蓮の。大丈夫だ。

 まだ我々の理想を諦めるには早すぎる。それは分かっている」

 

 

 

「その通りだ、白銀のオモチよ。このマスター・ネコノフもけして諦めはせん。

 我々の理想はいつかきっと達成できる。そうボク・・・・私は信じている。

 それまで人間どもから離れず、技術を盗み我々のものとし、

 我々の手で進化させるニャ・・・・のだ!」

 

興奮混じりに、しかし努めて厳かに宣言すると、

ネコノフは3匹の真ん中においてあった蝋燭の火を静かに吹き消した。

 

 

 

「”あれ”を我々の手で作れるようになる日のために、まっすぐ進み続けるのだ」

 

 

 

 

 

 

「オモチもメロもネコノフも、みんなオトモは大好きだもんねー”あれ”」

「そのための”秘密の会合”とかいうの、今日やってるみたいよ」

 

 

 

「マタタビ無しで、マタタビ爆弾を作る為の会議なんだってね?」

「あーそのための錬金術ねー」

 

ハンターとオトモ猫たちの、平和な休日はこうして過ぎていくのだった。

 




マタタビ爆弾の用途は狭い部屋で爆発させて、
マタタビ充満パーティーを行うようです。ヘロヘロになるけど楽しそう。

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