モンスターの生態   作:湯たぽん

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もうすぐモンハンライズ発売です。
体験版をプレイしていた狩友さんの様子を見て思いついたので、今回はライズの舞台である"カムラの里"

…へ出稼ぎ(体験版)に行ってきたハンター(狩友さん)のお話です。いやもうライズ楽しみですね


その30 どくぶつ奇想天外

「わーん!結局タマミツネ倒せなかった〜!」

新大陸のハンターズギルド拠点アステラにて。そう叫ぶなり食堂のテーブルに突っ伏したのは全身を鮮やかな蒼い鎧でコーディネートした女性ハンター、ミゥだった。

 

「おう?ミゥちゃんやないか。出稼ぎは終わったんか?」

そしてミゥが倒れ込むのと同時に食堂に入ってきたのは、剥げ上がった頭に丸い帽子を乗せ真っ白なひげをたくわえた竜人族の老人、モンスター生態研究所の所長だった。

つい先日まで、新大陸を出て"カムラの里"へ出稼ぎに行っていたミゥは、しかしほぼなんの成果も挙げられないまま期限切れとなり帰ってきたのだった。

 

「泡狐竜タマミツネか。割と特殊な生態系の、そこそこ上位に位置付けされる種やな。慣れん土地で狩猟できんかったのは仕方ないんやないかの」

コツコツと杖をつきながら、竜老人はミゥのテーブルに近付いてきた。テーブルとほとんど変わらない高さの身長でありながら妙に存在感のあるこの生態研究の第一人者は、最近妙に人懐こくなってきたと噂されている。一昔前に人気のあった絵本の作者だったのではないかとささやかれるようになった頃からだ。

 

「おじいちゃーん…」

自分の向かいの席につく竜老人に水を差し出しつつ、ミゥは再び情けない声を出した。

 

「変な動きするんだもーんタマミツネ…攻撃当たらないよ」

背中に提げてある二振りの大型ナイフを後ろ手に指差すミウ。彼女はこの二振りで一セットの"双剣"を専門に扱うハンターだった。

 

とはいえ…

「…まあ、ミゥちゃんは"乱舞使い"やったし、の。タマミツネを倒すのはしんどいかもしれん。"双剣使い"にはなれたんか?」

 

「うわん!」

先程よりもさらに勢いよくテーブルにダイブし頭を埋めるミゥ。彼女はどうにも複雑な動きが苦手で、最も威力のある大技"乱舞"のみで狩りを行う非常に大雑把な闘法しかできないのだ。

 

「おじーちゃんに言われたくないしー!本に埋もれてないでモンスターと戦ってきてから言ってよ!」

急に子供かえりしたように喚くミゥに対して、研究所長はにやりと笑った。

 

「そうやなあ。…ではボクの狩りも見せてやろうかの?」

 

「…へ?」

予想だにしていなかった反応に、ミゥは面食らって顔を上げた。

 

「ちょうど仕込みが終わったとこなんや。一緒にフィールドワークといこうやないか?」

腰も折れ曲がり杖をつき、よちよちとしか歩けない身体で食堂の椅子からよっこいしょとゆっくりとしか立ち上がれない老人が、モンスターなど狩れるわけがない。はずなのだが。

その自信たっぷりの口調になぜか反論できず。ミゥはふらふらとついていった。

 

 

 

 

 

 

「…で。ボクの狩りを見せてやる、とか言っておいてこれ?」

森へ出掛けたミゥは、何故か背中に竜老人を背負っていた。妙に重い学者は偉そうに背中でふんぞり返り歩こうとしない。ハンターの拠点、アステラの街の目の前に広がる"古代樹の森"。大した距離ではなく、ハンターの体力は人ひとり担ぐ程度では影響は無い、が…

 

「仕方ないやろ、ボクは脚が悪いんや。杖見て分からんか」

どうにもこの老人の態度が気に障る。

 

「それでどうやって狩りすんの?」

文句を言うわけではなく純粋に気になってミウがツッコミを入れると、竜老人は自分と同じくミゥに背負われた双剣をつついた。

 

 

 

「ミゥちゃんは、毒は使うか?」

 

 

 

ハンターが扱う武器には、さまざまな"属性"がある。火水雷氷などの攻撃属性の他、状態異常により戦闘を有利にする状態異常属性が存在し、毒属性もその一つである。

 

「ん〜、まぁたまにしか使わないけどね。毒属性がまったく効かないってモンスターはそんなにいないから。属性に迷ったら、程度には…」

効果としては微妙…という印象であるようで、あまり乗り気でない時の言い方でミゥは言うが。しかしそれを聞くやいなや、背負われた竜老人が急にテンションを上げた。

 

「んむ、そうやろうな。しかし直接攻撃をせず、毒だけでモンスターを捕獲できたら凄いと思わんか?」

 

「いや…毒ってそーゆーもんじゃないでしょ」

半ば呆れるミゥだが、竜老人はハイテンションに言葉を続けた。

 

「それはせいぜいが"毒属性"のことなんやろ?ハンターが扱う毒はなるべくどのモンスターにも効くように、汎用的な効果でしかないんや。しかし、ボクらのようにモンスター生態研究を突き詰める事で種族特異的に効果を発揮する生存阻害…ある意味での毒…を見出すこともできるんや。これをボクらは"選択毒性"と呼んどる」

急なマシンガントークでまくしたてられて、言葉の半分も理解できなかったミゥだが。辛うじて最後の重要らしいワードだけは拾う事ができた。

 

「選択…毒性?」

 

 

「そうや。ほとんどのモンスターには全く効かないが、特定種族にのみ致命的な毒性を発揮するモノや。毒属性とは違うやろ?」

誇らしげに、ミゥの背中の上でふんぞり返る竜老人。ミゥの足は森の奥地まで進んでおり、道の勾配も強くなってきているので重心をそらされると迷惑この上ないのだが。

 

「…たとえば?」

やたら偉そうな態度の老人を背負わされてしばらく不機嫌だったミゥだが、ようやく話の方向性が掴めた気がして興味を示しはじめた。

 

「その効果をこれから観に行くんや…お、そろそろ。あぁそこや」

竜老人が指差しミゥが足を止めたのは、古代樹の中腹あたり。樹なのに中腹という言い方は適切ではないが、古代樹は小高い丘の上に、周囲の土台や岩ごと持ち上げて成長を続けた巨大樹であるため、全体が険しい山のような形状になっており、樹冠にも土があるほどなのだ。

 

そこは辺り一面、頭上の古代樹の大きな枝から蔦がカーテンのように上から降りてきていた。狩りのために来ていなければ見惚れてしまうほどに、蔦のカーテンが太陽光を調節してくれる美しく過ごしやすい場所であった。

 

「ここは…確かトビカガチの寝床…?」

あたりを警戒しながらミゥはゆっくりと、音を立てずに背中の竜老人を下ろした。いつでも背中の双剣を抜けるように両腕を脱力させつつ蔦のカーテンをかきわけながら歩みを進めると、ふと奇妙な蔦のカーテンが目に入ってきた。

 

「…?」

眉をひそめてミゥがその蔦に感じた違和感の正体を確認すると。

 

それは明らかに人工物であった。

土や草でカモフラージュはしてあるが、よく見ると中心は黄色と黒の紐を縒り合わせてある。真下には少し窪んだ地面に、周囲の蔦が集めて敷いてあった。つまりトビカガチの寝床の真上だ。

 

「なに…これ?」

 

「除電のれん、や」

 

「じょで…の…?」

予想もしていなかった竜老人の答えに、ミゥはぼんやりとオウム返しをしかけて…

 

「除電のれん!?静電気をおとすやつ?」

すぐにピンと来たようだ。

 

「そう、それや。飛雷竜トビカガチにはこの除電のれんが非常に有効…なはずなんや」

そのふんぞり返る学者の言葉に応えたかのように。

 

 

 

ググ…グルルルルル………

 

「…!トビカガチ!」

目的の竜が姿を現した。

 

細身ではあるがしなやかに長く伸びた四肢による四足歩行で、青白く逆だった剛毛に覆われたトビカガチ。全身に電気をまとわせ、飛膜付の両腕の滑空能力と強靭な後脚の跳躍力とで素早く動きハンターを翻弄し、強力な電気を帯びた一撃を見舞う牙竜の一種だ。

 

が、蔦のカーテンをくぐって現れたそのトビカガチは、何故か満身創痍であった。

全身の細かすぎる傷は、縄張り争いのライバルであるアンジャナフなど他の大型モンスターとの戦闘ではなく、大型犬程度の大きさの小型モンスター、賊竜ジャグラスらとの小競り合いに破れた事を示している。本来ジャグラス程度何十匹来ようが蹴散らせる戦闘力を持つトビカガチが、足元をふらつかせるほどの手傷を負わされる事はあり得ない。ジャグラス程度の小物がトビカガチを襲う事すら無い。「コイツになら勝てる」、賊竜にそう思われるほどにトビカガチが消耗していたのだろう。

 

「ほうほう…これほど弱るとはのう!もはや捕獲可能じゃの!」

ミゥの背中を降り、よちよちと歩いてきた竜老人がはしゃいでいる。携帯用の捕獲罠を用意しながら、ミゥはそっとトビカガチに近付いた。

 

 

 

「ふふん、どうや?ボクの仕込みは」

全く抵抗することもなく、罠にかかり麻酔玉で眠らされたトビカガチを前に、小さな竜老人は思いっきり胸をそらしドヤ顔を見せた。

 

「いや、まぁ…てか除電のれんがこんなに効いてたんなら、ラージャンやジンオウガも倒せるんじゃない?」

他の雷属性をもつ大型モンスター(自分が特に苦手なものを思い出して)を挙げてミゥが首を傾げると、竜老人はまたも食いついてきた。

 

「そこが"選択毒性"や!この除電のれんはトビカガチにしか効かん」

そしてどこから取り出したのか、分厚い研究書のトビカガチの頁を開きミゥの方へ向けた。

 

「トビカガチの雷属性は、体毛同士がこすれて発生する静電気を、体毛の中に一定数含まれる"電極針"によって増幅&蓄電したものなんや!除電のれんによる静電気除去がトビカガチに効くのはこのためで、フルフルやラギアクルスは体内器官による発雷、ジンオウガは体表面にまとわせた雷光虫を利用しての放電。キリンに至っては雷雲を操作して落雷の力を利用しとって手が出せん。カミナリとしての性質が全く違うから除電のれんが効くのはトビカガチだけなんや」

一気にまくしたてる竜老人。次の頁をくると、今度はトビカガチの全身に、細かい無数の線が引かれた奇妙な図が描かれていた。

 

「これは…神経図?」

 

「そうや。トビカガチは全身に強力な静電気をはわせるため、自分の体内の神経伝達に使われる電気信号は他の生物よりも極端に強い。トビカガチが自分の電気で感電死しないのはこのためや。そやから、逆に除電のれんで体表面の静電気を取り除くことで体内の電気信号も相対的におかしくなる。特に強力な電気を帯びる大きな尻尾周辺は影響が大きいから、除電のれんをくぐったあとはろくに動かせなくなっていたはずや」

そう言えば…とミゥが後ろを振り返ると、捕獲罠の上で麻酔が効いて眠っているトビカガチの尻尾はぴくりとも動いていなかった。

 

「ほな、次行こか」

 

「まだあるの!?」

 

 

 

次にミゥが連れてこられたのは(竜老人が背中で指図しただけで実際にはミゥがおぶって連れてきたのだが)、古代樹の基部にある、森に囲まれた狭い空き地だった。ちょっとした球技をするにも少し不便しそうな狭さ、さらに地面のあちこちに木の根が張り出している。この狭さでは飛竜や獣竜などの大型モンスターはよほどのことがない限り入っては来ない。来るとすれば…

 

「ドスジャグラスか…クルルヤック?」

 

「クルルヤックのほうや」

そう言いながら竜老人が背中のリュックから取り出したのは、大きなぬいぐるみだった。

 

 

「なにこれ…。かわい〜」

わけが分からず見た目の感想だけを言いつつミゥがぬいぐるみを取り上げると、それは猫の手を模した肉球手袋だった。普通のぬいぐるみと違うのは、リュックとほぼ同じ大きさの巨大ぬいぐるみであること、左右の手がくっついて1つになっていることそして、1つの穴になっている手袋入口だけやけに狭く頑丈な作りになっていることだった。

 

「これと同じぬいぐるみの中に、ホロロホルルの卵を多肉ニンニクで煮詰めた味玉を入れて置いといたんや」

 

「えっあの超おいしいヤツ…」

掻鳥クルルヤックは、ダチョウのような大型の鳥類に近い体躯に、長い指先の器用な腕を持つ「卵ドロボウ」の異名をとるモンスターである。

その異名の通り他モンスターの卵を好むクルルヤックが、ミゥも好物のホロロホルルの味玉をぬいぐるみの中に見つけたなら当然…

 

 

 

 

「ほれ、あぁなるんや」

 

「…!?」

ミゥが指さされた方向を見ると、そこにはやけにおとなしいクルルヤックがうずくまっていた。狭い広場にいてもハンターに気付かれないほどおとなしく佇んでいたそのクルルヤックは、何故か両腕を例のぬいぐるみの中に突っ込んでいた。

 

クキキ…クルルルルゥ…

か細い鳴き声をあげるクルルヤックは、ぬいぐるみの中を掻き回したり、手を引き抜こうとしたりしてはいたが。

 

「さっき見せた通り、あのぬいぐるみ…というか巨大手袋は手を突っ込む入り口を狭くし超強度素材で覆っとる」

そして、手袋の中に入れられたホロロホルルの卵もまた超強度の卵殻を持つため、クルルヤックの腕だけでは割る事は出来ない。クチバシで全力のヘッドバットをしてなんとかヒビが入るくらいの硬さなのだ。

 

「ホロロホルルの卵は割れない、肉球ぬいぐるみ手袋は強化素材で作ってあるから破れないし、入り口が狭いから卵を取り出すこともできんのや…」

 

「素手であれば手袋に手を突っ込む事はできるけど…卵食べたさに持ったまま引き抜こうとしても手袋入り口が狭くて出せないわけね」

鋭いクチバシは残っているが、内部のみ頑丈だが外面は柔らかい肉球手袋にパンチを封じられたクルルヤックは、先程のトビカガチよりも狩りやすい。

 

「この状態になったら、狩ることなんぞ楽ラクやろ?これが、"持つ事"に対する"選択毒性"や」

おとなしくなったクルルヤックに対して、また新たに用意した捕獲用罠を仕掛けにいくミゥ。

 

(…あたし、コイツ相手にも結構苦労するんだけどな…)

心の中でぼやきながらも、"選択毒性"の効果には舌を巻いていた。

 

 

 

その後、爪研ぎ用の木に超強力研ぎ粉をかけられ"深爪"の選択毒性にかけられたナルガクルガや、花粉症にされたアンジャナフなどを捕獲して回ったミゥは、なんとも複雑な気分になっていた。

 

 

「おじーちゃんの仕掛けがあったらこんなにラクに狩れるのに…あたしカムラで何やってたんだろ〜…」

ぼやくミゥの背中で、ん?と小さく声をあげた竜老人は急にミゥの背中をぼすんぼすんと軽く叩き始めた。

 

「違うで、違うで。確かにボクらは各モンスターに対する"選択毒性"を見出したが、大事なのはそこやない」

またもどこから取り出したのか分厚い生態研究書を、ミゥの背中から手を回してどんと目の前に開いてみせるとさらにまくし立てる。

 

「よ〜く観察することや。モンスターを理解することや。"選択毒性"はすべてそれらをもとに見出されたものやからな?自分の弱点ばっか見て凹んどらんと、もっとよく相手を見ぃや。自分のこともよく見ぃや。ハンターも学者も、そうやってモンスターと向き合っていくんや」

ミゥの目の前に開かれた研究書は、カムラの里で返り討ちに遭ったタマミツネの頁が開かれていた。

"泡に対する選択毒性として、アルカリ性洗剤の使用を提案する。泡を消散し皮膚を灼き、タマミツネが発する弱酸性の界面活性剤の泡と反応し、塩素系毒ガスを発生させる三重の毒性を期待"とある。

 

存外、ミゥのことを心配してフィールドワークに誘ったらしい竜老人。

 

 

(ありがたい事ではある、か…またカムラの里に行かないとなぁ〜)

少しだけ、気分が晴れて。

ミゥは竜老人を背中からぽい、と後ろに落として老人の罵声を無視し。軽やかにハンター拠点へ向けて歩きだした。

 


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