モンスターの生態   作:湯たぽん

5 / 35
またもスズナ達のお話。
今回は厳密にはモンスターの生態ではなく、ハンターの生態です。

ハンターとしての戦闘力は非常に高いマコノフ、しかし致命的な弱点があり・・・?



狩り友マコノフさんに出演いただいております。ありがとうございました!
そしてごめんなさい!




その5 タイムアタッカーの事情

「ハンターにとって最も重要な事は何だと思う?」

 

「あははー・・・・何度目かな、この話のループ」

 

ドンドルマの大酒場の片隅で。

いつものハンター三人、スズナ、マコノフ、シュナは仲良く酔っ払っていた。

 

「そう、確実に獲物を仕留める事だ」

 

「うん。何が”そう”なのか分からないけどそうだよね。

 多分3回目のループあたりの会話がよぎって返事してくれてるんだろうね?」

 

しかし、既にシュナはテーブルにうつ伏せてスヤスヤと眠っている。

酔いのせいというよりも、面倒くさい話を始めたマコノフの相手を

スズナに押し付けてただ夢の中へ逃避しているように見える。

 

「そのために必要なのは何はともあれ”準備”だ」

 

「お、新しい切り口。次はどう展開してループしてくるのかしらね」

 

下戸のスズナは香りを楽しむ程度にブレスワインを舐めているだけで、

ほぼ素面のままマコノフの相手をしている。

マコノフのほうはというと、テーブルに肘を付き、顎を腕に乗せたまま

スズナのほうを見ているのか

つまみのルドロスの海綿炙り最後の一つを狙っているのか

良く分からない目つきで延々とハンター論を展開していた。

 

「その準備ってのは、やっぱり武器が一番大事なのかな?マコノフさん」

 

律儀に会話を進めるスズナは、ハンターの腕としては平凡。

街の闘技場でギルドも驚くタイムを次々と叩き出すマコノフに

狩りのコツを聞き出そうと、シュナも誘って酒場に入ったのだった。

 

「違う違う違う違う・・・・防具じゃない。スキルよりも大事なものがある」

 

「あ、もう聞いてないっぽいね。あたしも逃げちゃおうかな・・・・」

 

デザートのケーキを取りに、皿片手に席を立とうとするスズナの手を、

急になさけない顔になったマコノフが掴んだ。

 

「聞けよぉ~話をぉ~」

 

「あっはは~・・・・面倒くさいよお」

 

結局、店員を呼び寄せてケーキを注文して席に戻るスズナ。

 

「結局の所はよぉ~。武器とか防具とかアイテムとかじゃなくてよぉ~・・・・

 自分なんだよ」

 

「・・・・?」

 

今度こそ完全にテーブルに突っ伏して、

それでもタンジアビールだけは手を離さずにマコノフはうめいた。

この状態のマコノフの発言にも反応しようとするスズナの律儀さと包容力には、

普段からシュナも呆れ半分に舌を巻いていた。

 

「だからねぇ・・・・。モンスターの特徴、動きをちゃんと把握してるか?

 地形を理解してるかぁ?何よりだな・・・・」

 

 

 

「自分の状態を冷静に分析できなきゃダメなんだよ」

 

「あ、なんか言いたい事読めてきた」

 

ぴんと来るものがあって、スズナは急にマコノフに対して真面目に向き直った。

知っていたのだ。

 

(やっぱり、怖いんだろうな・・・・)

 

ドンドルマの闘技場で、知らぬものはいないタイムアタッカーであるマコノフが

ハンターズギルドでは無名の存在であるそのわけを。

 

 

 

「ギルドの判断は分かる。当然正しい。ハンター自身の自己管理も

 また必要な能力ってことはよぉ」

 

「・・・・うん、そうだね」

 

さっきまでとはうって変わって優しくも哀しい眼をマコノフに向けるスズナ。

彼には、ハンターとして致命的な弱点があったのだ。

闘技場ではその欠点を見せずに済むのだが。

 

「あなたほどの実力あるハンターになら、

 ギルドもちょっとくらい特別扱いしてくれても良さそうなものなのにね?」

 

自虐に走りそうになるマコノフを慰めようと、

うつぶせた頭に手を伸ばそうとして・・・・

スズナは手を引っ込めた。これ以上は侮辱になってしまう。

 

(なにより、まだマコノフさんは諦めていないものね。

だから明日狩りに同行してくれるわけだし)

 

「いいんだよぉ、ダメなのがギルドじゃなく俺なのは誰が見てもそうだぁ。

 それも分かってるぅ」

 

ろれつがどんどん怪しくなっているマコノフだが、

これは自虐ではなく冷静な自己判断だろう。

現状、どうしようもない。受け入れるしかない現実には間違いなく向き合えている。

それがハンターとしてのマコノフの最後の矜持だった。

 

「でもよぉ、モンスターは確実に仕留める。それまでの過程はどうあれ

 それだけは信じてくれよぉ」

 

捨てないで、と請い願うようにスズナにすがりつく。

 

「あはは、それは安心して。みんな信じてるよ」

 

マコノフの手をしっかり握り、スズナは満面の笑みを返した。

仮に、仕留める事が出来なくても見捨てる事はないだろう。

ハンターとしてではなく、友人としてそれだけの時を共に過ごしてきた。

 

 

 

「・・・・と、まぁこれで終わりならハンター同士の美しい友情、

 なんだけれど・・・・

 あはは~・・・・明日怖いよお」

 

完全に酔いつぶれ、寝てしまったマコノフの手を握ったまま、

しかしスズナは情けない弱音を吐き酒場の天井をうつろな眼で見上げていた。

怖いのはもちろん、明日受注する予定のクエスト。

内容はスズナの苦手とする金獅子の狩猟なのだが。

 

最も怖いのはモンスターではなく・・・・

 

 

 

 

 

 

「うおおぉぉおぉおおおえええええええええ!!!!」

 

スズナの肩を借りてベースキャンプへ直行した途端、マコノフは倒れこんだ。

 

「あ・・・・ボクの樽・・・・また旦那ですかニャ」

 

最早常連なのか。タル急便ニャン次郎のタルを奪うと、

恐ろしく慣れた手つきで蓋をブチ抜き

マコノフは昨日の酒場で摂取したモノを全てタルの中に吐き出した。

 

 

 

「うーん、相変わらずの吐きっぷりね」

 

クエストの事は一旦忘れて、のんびりベッドに腰掛けながら、スズナ。

前日呑み過ぎたわけではない。これが平常運転なのだ。

 

 

 

 

 

 

乗り物酔い。

 

しかも超ド級の何にでも酔う酷い体質なのである。

 

 

 

「おヴぇ・・・・飛行・・・・船・・・・うぉ・・・・

 怖い怖いぃぃぃぅぉうぇえええ」

 

街の中にある闘技場なら自分の足で行ける。

それ故の闘技場タイムアタッカーなのだが。

飛行船に乗るとこれだ。

 

 

 

「なんか・・・・スマンですニャ」

 

マコノフのオトモ、ネコノフが律儀に謝ってくる。

 

「あはは、大丈夫よマスター・ネコノフ。いつもの事」

 

「たぶん・・・・いつも通りニャらあと30分。動けるようになると思うニャ」

 

しかし、このまま平衡感覚が戻るまでベースキャンプから1歩も動けない。

 

「当然、ネコタクも無理なのよね」

 

「・・・・ですニャ」

 

一度モンスターにやられてしまったら最後。

ネコ達に救出されようともその担架に酔い、

今度はクエストタイムリミットが尽きるまで再び吐き続けるのだ。

 

 

 

「いやー・・・・平衡感覚が戻りさえすれば金獅子でも

 5分で沈めてくれるんだけどなぁ・・・・

 まぁそもそもこの状態からだと5分で沈めないと

 ハンターとして成り立たないもんね。

 凄いのは間違いないんだけれど・・・・」

 

マコノフの背中をさすりながら、前日同様うつろな眼で空を見上げるスズナ。

 

「あり・・・・がヴぇ!?おぇぇぇぇ・・・・アリガト」

 

まともに喋る事も出来ない状態のマコノフを見ながら、

スズナはハンター生活の過酷さを改めて噛み締めていた。

 

「モガの森、ジャンボの密林、ポッケの雪山、

 ユクモの渓流、シナトの天空山、か・・・・

 ハンターズギルドも手を広げすぎよね。あはは~・・・・移動大変だわあ」

 

 

 

 




なんか吐くお話が多い気がします。ごめんなさい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。