こんな比企谷君はどうだろうか」   作:スティッチ

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2話~入学式~

愛用のバンダナを頭に巻き、葉っぱを口に咥える。

 

学校に行くときは基本的にこのスタイルだ、何故かと聞かれるととくに理由はない、この姿がすごく落ち着くからだとしか言えない。

 

事故にあうなどアクシデントはあったが、元々だいぶ早い時間だったこともあり、特に問題はなかった。

 

自分が飼っている三毛猫の5匹家族に餌をやり、子供たちの毛づくろいをする。

 

入学式だということで重さをほとんど感じないかばんを持ち、学校へ向かう。

 

晴れの高校生、門出の入学式、しかし、自分の心はいつもと変わらずただ冷めたままだった。

 

 

 

 

『新入生代表雪ノ下雪乃さん』

 

「はい」

 

凛とした声とともにカツカツと堂々とした足取りで壇上に上がっていく女子生徒がいる。

 

新入生代表ということはこの生徒が自分たちの学年で最も優秀な生徒ということなのだろう。

 

「あたたかな日差しの中、芽吹き始めた草花までもが私達を祝福しているかのように感じられる今日のよき日、私達新入生300名は いよいよこ総武高校に入学することとなりました」

 

まあ、俺には大して関係ないことか。

 

いつも通り、天井のシミを数えながら俺はぼーっと時を過ごす、校長先生のありがたい挨拶も、吹奏楽部による演奏も自分にとってはどうでもいいことだ。

 

大事なのはこの高校3年間で一度も問題を起こさずにひっそりと卒業することだ。

 

 

 

「私がここのクラスの担任となる平塚静だ、生徒指導も兼任しているので、何か困ったことがあったらすぐに私に相談するように。ちなみに担当科目は現国だ、授業で分からないところがあった場合どんどん質問するように」

 

クラス分けによって決められた教室に入ると、スーツの上に白衣を着た、黒髪ロングの女性教師が元気よく挨拶をしてきた。

 

「それでは、出席番号順に挨拶と自己紹介をしてもらおうか」

 

1番、要は窓際席から順に自己紹介をするわけだな、自分の名前は「日」なのでちょうど真ん中くらいだ。

 

何となく名前を右から左へ聞き流しながらぼーっと雲を眺めていると、教師から声をかけられた。

 

「おい、比企谷、君の番だぞ」

 

どうやら早くも自分の番が来たらしい。

 

「比企谷八幡だ。趣味は落語と盆栽」

 

それだけを言い、自分の席に戻る。

 

普通ならばくすくす笑いなどが聞こえるものだが、自分の持つどこか得体のしれない雰囲気とでもいうものに多少なりとも気後れをしているようで、ひそひそと何あいつ、怖いな、などといった言葉が飛び交うのが聞こえる。

 

これでいい、少なくとも得体のしれないやつに不用意に絡んでくるなんて言う奴はどこぞのいじめっ子くらいだ。

 

しかもここは県内有数の新学校という触れ込みだ、直接的ないじめなんて言う自分の成績にとって何も関係のない非生産的な行動をするくらいなら英単語の一つでも覚えた方がいいっていう奴らの集いだと考えれば、自分に悪意をもってかかわるなんて言う奴もいまい。

 

まあ、最も陰口は大量に吐かれるかもしれないが、そんなものは生まれた時から受けてきたものだ、すでに自分にとって陰口は子守唄と同義だ。

 

ふと、どこかしらから視線が向けられるのを感じる。

 

その方向を見ると、その人物は慌てて顔を下に向けるので、誰かは分からなかった。

 

制服からして女子というのは分かるがそれだけだ。

 

いきなり自分にがんをくれてきたわけでもなさそうだし、特に気にする必要もないという判断をして、また雲を見る。

 

その後課題を受け取り家に帰る。

 

周りではメールアドレスの交換やlineの交換などが盛んにおこなわれているが、自分は携帯を持っていないのでまったくもって関係がない。

 

もっともどちらにしても自分にはそんな風に話をする友人もいない。

 

友人が欲しいとは思っていない、だが、友人というのはいなければいけないとは思っている。

 

そうやって学校では教えられてきたからある種強迫観念に近いものなのかもしれないが、それでも友達がいないというのはうまく人づきあいができないものと同列に扱われる、社会からは一人というのは冷たい目で、憐みの目で見られる。

 

そいう言ったことはだめだという風に言われている。

 

だから自分は友達はいなければいけないと考えている。

 

だが、それは義務感であり、欲求ではない。

 

今だってそうだ、友達が欲しいと考えているのであれば周りがこうして仲良く話しているのを見て、うらやましいという考えが出てくるはずだ。

 

しかし、自分の中にそういった感情が浮かんでくることはなく、いつも通り何も感じない心はただ、景色として受け入れている。

 

それがまた、自分が普通とは違うんだということに結びついてしまう。

 

そんなことを考えるのは嫌で、自分の心と同じくらい薄っぺらいかばんを持って帰る。

 

「あ、あの、えっと、ちょっと待って」

 

教室を出ようとすると、いきなり女子生徒が慌てた声を上げてくる、ふと興味がわいたので俺は振り向くことにした。

 

「あの、えーっと」

 

その生徒は、ウェーブのかかった黒髪をお団子にまとめた髪型で、入学式だからだろう、きちんと着こなされた制服と、気弱そうにおどおどとしている姿は、どこか印象の薄い感じがした。

 

しかし、何故か知らないが俺には見覚えがあった。

 

そして、その人物が何故か俺に話しかけようとしていて、言いよどんでいる。

 

「ひょっとして俺に何か用か?」

 

「あ、えっと、用っていうか、何というか、お礼というか」

 

はっきりとしないものいいだが、別段気にするほどのものでもない、気の弱そうな印象だし、あまりせかすというのも余計に腰を引けさせるだけだ。

 

今日はバイトも入れていないので、この人物が意を決するまで待つことにした。

 

「あ、あの、その、えっと、もし違ったらごめんだけど」

 

10分ほど何もしゃべらずに待っていると、ようやく腹を決めたのか俺に本題と思われる言葉を言ってきた。

 

「朝のことって覚えてる?」

 

「朝のこと?」

 

「う、そ、そうだよね、何位も反応がなかったし。 え、えっとそのごめんなさい、違うんだったらそれでいいの、私の勘違いだったからだし」

 

俺がいつもの調子でけだるげに返すと、相手はそれだけで怖気づいてしまったようで、回れ右をして去っていこうとする。

 

だが、それをやられると、今度はこっちが謎ができて困ってしまう。

 

「ちょっと待て、今考えている」

 

「えっと、考えなきゃいけない時点でもう違うと思う気がするんですけど………」

 

徐々にしりすぼみになっていく声を聞き流して、俺は朝の記憶を思い出す。

 

学校へ来るときには何か変わったことはなかったか、特にない。

 

それにこの少女を見かけた記憶もない。

 

ならば、さらに前となると………。

 

一つだけ思い当たる節があり、そしてそれを思い出すと同時にどこかで見たことのある少女のことも思い出した。

 

「ひょっとして、朝の犬の飼い主か?」

 

そう問いかけると、少女は少し目を見開き、こくんと首肯した。

 

「っていうか、なんで朝のことって言ってすぐに思い出せないの!?」

 

なんでか、なんでと問われても俺にはこうとしか返せないんだが。

 

「それは俺が朝のことをすっかり忘れようとしていたからだ」

 

「は?何でだし」

 

「俺らしくない行動だと考えたからだ」

 

受け身なだけの自分、常に流れに従って行動を起こしていた時分、それが一番波風立てることなく過ごせるからだと思っている自分。

 

しかし、朝の時は違う、俺は自分の意思で犬を助け出そうとっ車道に出た。

 

結果的には誰にも被害がなく無事に終わったが、一歩間違えれば警察沙汰だ、そうすれば自分の親が呼ばれる、そうなったときの厄介さを考えればしょせん他人事と見逃してもおかしくはないというのに。

 

「俺らしくないって………どういうこと?」

 

「それはお前に話すようなことではない」

 

「あ、そっか、ごめんなさい、変な詮索して」

 

そういって頭を下げようとしてくるので、俺は別に気にしてないといって行動をやめさせた。

 

「それで、俺に何の用なんだ」

 

「あ、そうだった。 あの時びっくりしたって手お礼言いそびれてたから、名前もわからなくてお礼も言えないしどうしようかって考えてたらさ、バンダナ被った生徒がいたから、それで顔も何となく助けてくれた人に似てたし、もしかしたらって思って。 あの、本当にサブレを助けてくれてありがとうって言いたくて」

 

何やら俺に謝りたくてわざわざ声をかけてきたらしい。

 

「そうか」

 

「あ、あの、今日はいきなりだったから何もお礼とかできなくて、その明日お礼に何か………」

 

「それはいらない」

 

「あ、いやでも、そうしないと私が落ち着かないっていうか、それがけじめっていうか」

 

どうやらどうあっても引く気はないようなので、俺はただ簡潔に一言だけを言った。

 

「食べ物」

 

「へ?」

 

「何か食べるものをもってきてくれたらそれでちゃらだ」

 

「あ、いや、それだけでいいの?」

 

「それだけ? 食べ物というのは非常に大切なものだぞ、人間はエネルギーを摂取しないと生きていけない存在なんだ、いくら訓練を積んだとしてもせいぜい持って1週間から10日、水なんぞ4日も切らせば人間は死ぬんだぞ」

 

「あ、う、うん分かった、食べ物ね、食べ物。 それじゃ、明日持ってくるから」

 

俺が食べ物のありがたさについて話をすると、少女は先ほどとは別種の怯えを感じながら了承の意を出した。

 

「そうか、話が終わったのであれば俺は変える」

 

「あ、うん、じゃあねえっと、比企谷君」

 

一瞬なぜ俺の名前を知っているのかと驚いたが、考えてみればつい先ほど自分で言ったばかりなのを思い出した。

 

「ああ、じゃあな」

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、自分はいつも通り部屋に入る。

 

部屋というか、物置小屋を自分の部屋に改造したので実質自分の家と言っても過言………だな、土地の権利書は父親が持っているのだから。

 

ドアを開けるや否や、いきなり三毛猫家族が自分に襲い掛かってきた。

 

正確にはじゃれているということは分かってはいるのだが、こうも毎度襲い掛かられると俺は少し困ってしまう。

 

だが、困ってしまうだけで嫌というわけではないのだろう。

 

机にかばんを置くと、棚から自分の予備の草笛を取り出し、猫と相手をする。

 

こういうのを癒されるというのだろうかと考えるが、今までの経験からして俺が何かを見て癒されるというのはないだろう。

 

一通り2時間も遊ぶと猫たちは満足したのか、そのまま床でゴロゴロし始めた。

 

猫たち用の草を棚に置き、今日出された課題に取り組むことにした。

 

内容というのは、「高校生になるにあたって」というものだった。

 

要はこれに沿った内容の作文を書けばいいということなのだろうが、特に思いつかないので、今日言ったまま「とりあえず3年間無事に過ごして卒業する」と書いておいた。

 

気が付くと、すでに5時を回っていたので、部屋に備えられている簡易キッチンでとりあえず適当な野菜炒めを作り、少し早めの晩ご飯を食べながら、夕焼けと夜の境目の空を見上げる。

 

いつの間にか床にごろごろと寝転がっていた猫たちも背中なり胡坐を書いたその中だったり両隣りだったりに座ってくる。

 

今日も一日が終わった。




この話を読んでわかると思いますが、比企谷君がサブレを助けたい理由はただ一つ。

自覚はないですが、動物が好きだからです。

比企谷君は帰って来る時もご飯を食べる時も、空を見る時もすべて猫と一緒です。

この物語ではほとんど出番のない雪ノ下さんが見れば逆切れ間違いなしですね。

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