幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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9話 早すぎる来襲

 

 孫策は揚州呉郡の名家の子女として生まれた。前漢の時代には太守を輩出しており、功曹や督郵といった要職を歴任している家だ。さらに母である孫堅は、長年辿りつけなかった太守(大臣級)にまで上り詰めている。今、揚州で最も興隆している家と言えるだろう。

 

 だが、孫策はそれでは満足が出来なかった。家柄にも、才能にも、容姿にも恵まれ、友は大陸でも有数の軍師。天より与えられた才と友の力を使い、黄巾の乱でも大活躍をした。声望も手に入れた孫策だったが、それでは満足出来なかった。

 

 孫策はいつしかある目標を持つようになった。

 

 独立

 

 臣下としての地位ではなく、自らが王になる事を望んだのだ。そして彼女は確信していた。自分と周瑜の力があればそれが可能であると。

 

 袁術を利用して成り上がってやろうと。若き野心は、この反董卓連合を機に燃え上がった。自らの祖と崇める孫武のように。

 

 そんな孫策の野心を利用し、荊州の太守や刺史を暗殺させ、今もなおその軍事力を利用しようと考えていた者が居た。袁術軍の臣下の筆頭格である張勲である。

 

「そろそろ、利が少なくなってきましたね~」

 

 反董卓連合によって、流民は爆発的に増え始めている。反董卓連合の開かれた一年で、死んだ民は数百万人を超えるほどまでに陥っていた。豫州での死者は特に多く、連合が進軍した際の略奪と内紛によって州人口の半分が消えるほどだ。

 

 豫州は夏王朝が起こった場所である。春秋戦国時代に、宋、楚、蔡、魏が入り乱れて覇を競った四戦の地。袁術、袁紹の他にも独立勢力が乱立し、その地を奪う為の戦いが起こった。

 

 近代の軍隊になるまで、軍というのは略奪が基本である。そして当時の人口密度では、軍が一度略奪を開始すると、直ぐに食料が欠乏する。食料を失った民は流賊となり、爆発的にその数を増やした。

 

 度遼将軍の配下を除き、すべての常備軍を無くした漢王朝は辺境軍の力が強く、そして、地方を安定させるはずの地方軍が中央に集まり、地方の賊を放置して、中央で略奪を行うのである。

 

 地方から武器を持った兵士が押し入り、反董卓連合に参加する為にと物資を奪い、残された民は賊となる。地方では軍隊という抑止力が無い場所で賊が勢力を急拡大していく。

 

 豫州は特にその影響を受けた土地だ。略奪に次ぐ略奪によって民は、今なお、膨大な数を失い続けていた。

 

「豫州は確かに欲しいですが、ここまで荒れてしまうと他の土地からの支援なくしての統治は出来ないみたいなんですよね~。この辺りが限界ですか~」

 

 あっさりと、切り捨てる態度を露わにした張勲に周囲は唖然とするも、張勲はいつもと変わらず、力の抜ける様な声で命令を下した。

 

「周瑜さんを呼んでいただけますか? 今後について話をしておきたいので」

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

「雪蓮ではなく、わざわざ私に話とはなんだ?」

 

 周瑜は、また下らぬ企みでもしているのだろうとあたりを付け、内心で毒を吐きながら、自分を呼んだ経緯を聞こうとした。

 

「そうですね~。まずは祝辞から述べさせていただきましょうか~。周昂さんを討ち、見事にその才覚を示して周家の当主として認められたようですね。おめでとうございます」

 

「同族を殺して才覚もなにも無いのだがな。その言葉だけは受け取っておこう」

 

「いえいえ、長年袁家と助け合ってきた周家の当主が味方になってくれるのであればこれ以上、嬉しい事はありませんよ。それを支援していただいた袁術様への忠義も期待してよろしいのでしょうね~」

 

「……っ!」

 

「あれ? どうしました? 袁安様の時代より、袁家と周家は生涯において助け合う盟約を結んだ家です。乱世においてもそれは同じ事ですよね~。違いますか?」

 

「いや、その通りだ。袁術殿には感謝している。私も周家当主としての責は果たすつもりだ」

 

 この女狐が! と内心罵りながら周瑜は答える。袁家と周家は後漢初期からの付き合いが深い家で、ここまで数々の政戦を二家が協力して乗り越えてきた。それを裏切るとなれば、周家の当主として認められなくなる。

 

 ここで言質を取り、孫家と周家の分断をしようと呼び寄せたのか。と周瑜は警戒をするも、張勲はあっさりと話題を変えた。

 

「まあ、そのお話もいいのですが本題に入りましょう。荊州刺史として南郡に入っていた劉表が決起をしました。本営を襄陽に定めたようです」

 

「……定石だ。我らを脅かすならそこを取るのが一番だ。しかし、早いな。劉表が荊州へ来てひと月も経たないだろうに。この短い期間にこれほどまでに勢力を広げるとは。出来るな。あちらの軍師は」

 

「ええ、一応、大物が出てこないように間引きをしたはずでしたけどね。どうやら漏れがあったようです」

 

 周瑜は間引いたという言葉に反応しかかったが、こいつの事だ。事を起こしそうな豪族を暗殺したのだろうとあたりをつけ、話を続ける。

 

「これほど軍略に長けた者は荊州に五人と居まい。劉表に近いとなれば、さらに限られる。南郡には蒯越が逃れていると聞くが本当か?」

 

「ええ、蔡瑁さんの下に蒯良さんと一緒に逃れていたみたいですよ」

 

「なるほど。納得も得心もいった。蔡瑁の私兵に加え蒯越・蒯良が合わさればこの速さも頷ける。打った手は謀略か?」

 

「いえ、恭順です」

 

「ならば早い方がいい。謀略ならば持久戦の手も無くは無い。だが恭順であれば下手に時間を置くのは悪手だ。内部工作も行ったのだろう? それが上手くいっていないのであれば、先鋒は鄧城から兵を出し、こちらの手の者を排除しているに他ならない。敵は完全に持久戦の体制だ。それを崩さなければ攻略に時間がかかる。速攻で討ち滅ぼすほうがいいだろう」

 

「ええ、私も同じ意見です。敵に時間を与えてはなりません。なので、わが軍最強の将軍であられる孫策さんを荊州に送りたいと思っているのですが、袁家の盟友である周家当主の周瑜さんの意見を聞きたいと思いましてお呼びしました」

 

 張勲は周瑜に微笑みながら言葉を発した。

 


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