幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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10話 龍と鳳凰の目覚め

 孫策軍が豫州から兵を引き、南陽へ撤退したという報が劉表の下に齎される。今、孫策を下げる理由は一つしかない。荊州へ派兵するための準備という事だ。

 

 孫策軍の兵数は呂布によって蹴散らされ、かつて十万を超える軍から大きく数を減らしていたがそれでも約五万の兵を揃えていた。劉表が集めた兵数の約五倍である。集まった豪族達は、あまりに早い南下に唖然し、軍師の二名は、想定の範囲内であるが一番取ってほしくなかった手を打たれ、強敵である事を再認識した。

 

 しかし、劉表はそんな周りの心配を他所に超然としている。周りの者は「さすがは劉表殿よ。やはり暗黒期の政戦を生き抜いてきた男は違う。孫策など相手にならぬとお思いのようだ」と先ほどまで狼狽えていた事を恥じる。

 

 正確にはたった一人逃げ出した男であり、そんな事は毛ほども思っていない。

 

(やべぇよ。やべぇよ。なんでいきなりラスボス級来ちゃうの? 様子見とかして来てよ。なんかもっといただろ。噛ませキャラみたいなのがいっぱい。なんでいきなり孫策? 様子見とかしろよ! ばか!)

 

 内心はこんなものだったが、動揺は外から見えないものだ。

 

(大丈夫かな? さすが孔明と言えど兵力差ありすぎじゃね?)

 

 と、心配になり、諸葛亮に声をかける。

 

「朱里、敵は豫州の軍団を向けてきた。周昂を討ったもののまだまだ独立勢力が乱立する土地だ。袁家の本拠地である豫州よりも荊州を優先した理由だが……分かるか?」

 

「はい、劉表様を恐れたからでしょう。襄陽城を取るのに三日。南の江陵を得るまでに二十日。実際、あと一月もあれば南陽郡を除く荊州全土を確保する事も可能な状況にありました。その状態で袁紹と手を組み、北と南を挟みこむ準備を進めていたのですが、それを読まれ、迅速に手を打たれたという事でしょう。強敵ですね」

 

 諸葛亮と鳳統の目は新しい獲物を狙う獣のごとく鋭く光る。

 

(いや、それ、俺の手腕じゃない。なんだよ。三日って。三国志の魏呉蜀が争った堅城をなんてやり方で落としてんだ)

 

 やる気満々の二人に対して、劉表は内心でそうツッコミを入れる。

 

 孫策等が荊州の兵士を引き抜いた結果、殆ど兵士の居ない襄陽城は、荊州江夏郡において勢力を拡大していた川賊の陳生と張虎によって占拠されていた。

 

 陳生は襄陽城には兵士の数は少ないが一人では落とせないと見て、同じ郷の出身である張虎に協力を依頼して以来の付き合いである。その日も陳生は張虎を労う為に宴会を開いていた。

 

 陳生と張虎の力関係は微妙だ。陳生は張虎を同盟相手ではなく配下として扱いたいが、張虎はあくまでも力を貸してやっているだけという認識があり、上手くいかない。陳生は贈り物を欠かさず、仲を深める為に飲食を共にする事にしていた。

 

 そんな中である。張虎の妻が陳生の振る舞った食事の中から丸薬が出てきたと言ってきたのは。

 

 張虎は自分を殺して、兵力を吸収するつもりではないかと常々心配していた。そして、その心配が現実のものとなったのだ。張虎はそれを毒だと確信し、その場では言わず、城に帰り、兵を集めて陳生を攻撃し、陳生は反撃をし、互いは殺し合いになった。

 

 諸葛亮は、両者が内部での争いをしている内に、襄陽付近で兵力を集めた軍を争っている二人の背後から攻撃させた。

 

 もちろん、陳生は毒など仕掛けていない。諸葛亮の謀略である。

 

 毒はどこから出てきたのかと言えば、張虎の妻からである。張虎は、陳生から妾として送られた女性に夢中になっていた。それに気を良くした張虎の姿を見て陳生は何人もの美女を送った。張虎の妻はそれに激怒した。自分の夫にではない。妾を送った陳生に。

 

 だから夫に陳生を殺させる謀略を企んだ。入れ知恵をしたのは諸葛亮によって買収されていた張虎の妻の奴隷である。

 

 さらに辛辣だったのが、鳳統の策である。背後から襲われた際、窮地故の団結をするかもしれない可能性を潰すため、両陣営に矢文を送った。

 

 陳生には張虎の頸を差し出せば降伏を許し配下にする。という文を。

 

 張虎には陳生の頸を差し出せば降伏を許し配下にする。という文を。

 

 こうして、互いに必死に戦う両者が疲弊しつくした時を狙い、総攻撃をかけたのだ。

 

 この時の劉表の兵力は二百程度である。対して陳生と張虎は千五百。兵力差七倍の状況下の城攻めで損害無しで討ち取る。

 

 そのあまりに異常な成果と荊州刺史という正当な官位を持った者が居るという状況。豪族達は勝ち馬に乗りたいものである。大義名分と軍事力を併せ持つ者が居るなら転ぶ。十日も経つ頃には南郡に劉表の武名は響き渡り、二十日が経つ頃には南の江陵を得るまでに至ったのだ。

 

(これが孔明と鳳統。ガチすぎる。天下取れるとか伊達に言われてないわ。むしろ、俺要らなくね?)

 

 襄陽城を取った時、劉表は口をぽかんとあけながらそんなことを思っていた。

 

 襄陽の惨状を語り、陳生と張虎は絶対に討つべきと主張し、前もって準備した策をもって打ち滅ぼした際、可愛らしい少女の軍師が忍者絶対殺すマンもビックリの盗賊スレイヤーと化したところを見て、少女といえど女か……やっぱり、女って怖い。と再認識した劉表。

 

 今もなお、自分要らなくないか? とか思いながら諸葛亮の話を聞いていた。

 

 諸葛亮は指を三つ立てる。

 

「今の状況で取れる手は三つ。下策は野戦。鄧城は野戦支援の為に建造された城ですが、兵数で圧倒されている事はもちろん、将の質、兵士の練度において、黄巾の乱から連戦を続ける孫策軍に敵いません。多少の地の利があった所で蹴散らされるでしょう」

 

 指を一つ折り、諸葛亮は話を続ける。

 

「中策は、樊城での防衛戦。樊城は襄陽を守る為に築かれた対岸都市であり、堅城でもあります。漢水を隔てた最後の防衛線になる場所ですし、陣を敷きたい所ですが、敵は元々洛陽を落とす為に編成された軍で城攻めの備えもあります。この兵力差では、孫策軍の持つ攻城兵器の量を鑑みて、防衛は難しいと言わざるを得ません」

 

 諸葛亮は二つ目の指を折る。

 

「上策は、襄陽での持久戦です。襄陽へ渡るには水軍は不可欠です。今まで南陽に居た孫策軍がそれほどの数の船を用意する事は難しいですし、攻城兵器を持ち込むことも困難。河を渡ろうとする孫策軍を各個撃破し、時間を稼ぎ、城に籠る軍と敵の補給路を破壊する軍の二つに分けて兵糧攻めを行い、撤退させます」

 

 城に籠っての持久戦か……

 

 兵力で劣る勢力の定石である。だが、それだけではないと劉表は確信していた。

 

(だって、諸葛亮と鳳統だぞ。そんな誰でも思いつくような手を打つはずがないだろ)

 

「……朱里、雛里、もったいぶらずに教えてくれ。上策ではあってもそれでは孫策には勝てない。ならば別の手があるのだろう?」

 

 その言葉に諸葛亮と鳳統は笑顔になる。

 

 そうだ。自分たちに求められているのはそんな平凡な手ではないと。十万の兵士と同等以上の働きをしなければこの人の期待以上の成果など出せないと。高揚する気持ちを抑えながら、答える。

 

「ええ、下策中の下策。敵を奇襲し、そのまま野戦に持ち込み孫策を討ちます」

 

 それは、兵力差十倍以上の敵の大将首を野戦で取ってくるという常軌を逸した策であった。

 


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