幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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19話 駄目群雄と駄目軍師

 黄巾の乱、反董卓連合にてその武を轟かした張遼の参入は武将不足に悩む劉表軍にとって、まさに慈雨に等しい価値を持つ。諸葛亮と鳳統はそのことに関しては喜び、劉表が語る袁術と劉焉による政略に唖然とし、劉表がそれを見抜いた事に忠誠を新たにした。

 

 しかし、劉表の皇帝を迎え入れる案を聞いた瞬間、眉を潜ませる。

 

「今、皇帝陛下を迎え入れる事は出来ません」

 

 諸葛亮と鳳統にとって皇帝を迎えることによるリスクが高すぎる。劉表を皇帝にする為、いつかは手に入れる必要があるものであると思っていたが、時期が早すぎる。諸葛亮が劉表に説明する。

 

「皇室はその力を失いました。その結果、群雄と呼ばれる実力者が割拠し、漢から失われた天下を争っています。この争いの勝者こそが次代の覇者になるであろう事は劉表さんならお分かりだと思います。彼らはあくまでも漢臣として領土を拡張していますが、最後に皇帝に天下を返却するなどという事は万が一にもありません」

 

 その言葉に劉表は頷く。

 

「今、皇帝の側近たちもそれを分っています。それ故に皇帝という名の価値がある時にその力を使おうとするでしょう。迎え入れた群雄を漢王朝の臣下として使おうとするはず。その結果、起こるのは政戦です。もし起こらなくても皇帝の意志を尊重すれば劉表さんの権威が弱くなり、尊重しなければ逆臣扱いを受けるでしょう」

 

「それは反董卓連合と同じことが起きるという事か?」

 

「はい、皇帝の名を使って劉表さんが優位になるような詔勅を出すことは出来るでしょう。しかし、それは敵対勢力に皇帝を蔑ろにする者を討伐しろという大義名分を与え、結束させてしまう可能性が高いのです」

 

「なるほどな。反董卓連合ならぬ、反劉表連合が結成されるというわけか……」

 

「朝廷には海千山千を乗り越えてきた謀略家達が居て、劉表さんの権力基盤を乗っ取ろうとしてくるでしょう。劉表さんでさえ謀略家達の手にかかって荊州に単身でやってくるという事になりました、その者達を常に制御する事が出来る者が荊州にいません。外は連合を組んで襲ってくる敵対者、内は謀略家達の陰謀。二つの脅威を抱え込むことになります。董卓軍は間違いなく最強の軍事力を保持していた勢力でした。呂布さんと張遼さんという名将に精鋭たちが居て、それでもなお滅ぼされる。そんな劇薬なのです」

 

 史実で赤壁の戦いの大義名分が、「皇帝を蔑ろにする曹操を討つ」という詔勅を受けた劉備に協力するというもの。その大義名分を使う事で孫権は反対意見の多かった臣下を黙らせ決戦へ持ち込んでいる。劉備があれだけの勢力を築けたのも劉備個人の能力もあるが、皇帝から曹操を殺せと命令を下された事が大きい。それほどの力があるのが皇帝なのである。討ち漏らした残党ですらそれほどの力を発揮してしまう。まさに劇薬だった。

 

「皇帝に反逆する逆賊を討伐するという大義名分に本物の詔勅を使える利はあります。しかし、それ以上に害が多すぎるのです」

 

 諸葛亮の懸念は当たり前のものであり、鳳統は軍事的な面からも反対した。

 

「おそらく、詔勅を使っても従わない勢力はいくつもあります。まず劉焉さんは間違いなく従わないでしょう。劉表さんのお話を聞くに、劉焉さんは皇帝を目指して益州に入ったという事で間違いないでしょうし、そんな方が命令を聞くわけがありません。そして袁術さんも当然聞く事はありません。そして敵対する袁紹さんも同様でしょう」

 

「我々の当面の敵である二者の背後を突く者が居ないというわけか……」

 

「はい、もし組めるとするならば、徐州と幽州、揚州の勢力になります。それすら希望的観測でしかありませんが、それらが全て味方についてもあまり意味がありません」

 

 そしてなにより……と鳳統は前置きをする。

 

「洛陽を再建しようとしていた劉表さんを自らの命の為に棄てた董卓さんが信用できません」

 

 自分の命の為に劉表を切り捨てた者が、今度は切り捨てないと信じられるほど彼女達は子供ではなかった。

 

 その言葉に劉表の隣に帯同していた張遼は何も言えなかった。なぜなら、董卓の友は、董卓の命と引き換えなら劉表を必ず切り捨てるだろうと思ったから。

 

「……そうか、百害あって一利があるかどうかというところか。朱里、雛里。君達の見識はやはり頼りになる。甘い考えのまま重大な決定をしてしまう所だった」

 

 その言葉に二人は説得できたと安堵の声を漏らした。しかし、その安堵した二人に対して劉表は首を振って否定した。

 

「それでも、私は長安へ向かおうと思う」

 

「なぜですか!」

 

 諸葛亮は激情をもてあまし立ち上がって疑問を声に出し、劉表は答える。

 

「たしかに皇帝を手にする事は害が大きい。そして二人はあえて言わなかったのだろうが、このままただ待てば、華北と華中の経済は崩壊し、貨幣経済そのものが数百年の間衰退する事になる。その時、劉焉と袁術の戦略を乗っ取り、華南を中心とした経済を作り上げれば労せずして華南に割拠できる。天下を望めなくとも、地方で王として名を刻める」

 

「はい、袁術さんの南陽を奪えばそれが可能です」

 

 鳳統がそれに肯定する。

 

 南陽郡には戦国七雄と呼ばれた「楚」が作りあげた楚の長城が存在する。楚の長城は宛を中心として桐柏山脈に継ぎ足すような形で東の南陽盆地を囲い、西部は森林地帯が垣根となり、自然の防壁と成している。いわば南方の万里の長城である。

 

 これは北方の群雄から守る為に楚が長い年月をかけて作りあげた首都のある南陽盆地を守る為の壁である。他の六雄の作り上げた長城は破壊されたものの、この楚の長城は残っている。

 

 二人は南下政策を進言するつもりであった。

 

 楚は南部に自らに匹敵する勢力がなかった。その為、楚の長城は南部からの攻撃に弱い。想定していないのだから当然だ。そもそも後漢になってからなのだ。荊州南部の人口が増大したのは。

 

 前漢のものに比べて華南人口が五倍になったのは三十年以上昔の話である。それから三十年経ち、南増北減傾向は進んでいる。南方からの攻撃に弱い南陽郡を奪う事は直ぐには難しくとも、勢力が整えば可能と考えていた。

 

 南陽を取ってしまえば華北と華中の脅威を怯えずに済むほどの地の利ができる。

 

 楚の長城を擁する南陽と隣接する潁川郡には南陽からの勢力侵攻を防ぐ術が大軍を置いて迎撃するしかないにも関わらず、南陽郡は長城を使った防衛戦に徹すれば容易に勢力の侵攻を防げる点にある。南陽を得て、華南地域を統一すれば、あとは機を待てばいい。

 

 防城戦ならば華北の精強な騎馬軍団も役に立たず、さらに揚州の防衛ラインを長江の水軍によるものにしてしまえば華南での割拠は難しくないのだ。

 

 それに加えて経済の中心を華南に移すというとんでもない方法で、華南の王朝を作り上げようとした張勲。戦略とも戦術とも違う政略の使い手であり、平気で数百万規模の人間が死ぬ計略を躊躇いもなく実行できる謀略家。割拠だけではなく天下を狙える手に昇華させてしまう智謀をもつような怪物だ。しかし、その怪物の策の肝を偶然にも抑えたのであるのなら、それを利用してしまえばいい。

 

 二人はそう思っていた。しかし、それは華北と華中の人間がどうなるのかという事を考えなければという話。だが気づかなかったふりをすれば、天下は転がってくるのだ。

 

「私は賈駆を止められなかった」

 

 劉表は呟くように言葉を発した。

 

「私なら気が付けたはず、いや、私にしか気が付けない事だった。そして止めきれなかったのは自分の命が惜しかったからだ。私の無能によって、そしてわが身惜しさに逃げた結果、数十万、数百万の人間が死ぬことになってしまう」

 

 それに……と言葉を続ける。

 

「賈駆が限界であった事に気が付かなかった。あのような裏切りの連続の最中に居て、頼りになる者も居ない中、見捨てたも同然の事を言った私を信用できなくなるのも当然の事だ。彼女にも失敗はあったかもしれない。しかし、それ以上に年長者でありながらそれを受け止められなかったのだ」

 

 劉表は、諸葛亮と鳳統に謝罪の言葉を告げる。

 

「すまない。私には数百万人の人間を見捨ててまで天下を得ようと思えない。そして、私の過失によって起こってしまった事は私が責任を取らなければならない。長安には私が置いてきてしまった娘のような子も居る。今なら間に合う。しかし、時が経ち過ぎれば死に果てるだろう」

 

 劉表は気づかなかった事にすればいいだけの事ができなかった。

 

「頼む。私に手を貸してはくれないだろうか? 私は失敗ばかりだ。そんな事が出来る力はないのかもしれない。しかし、目の前で多くの人が苦しんでいるのに、見て見ぬふりをすることはしたくないのだ」

 

 群雄としては失格な考えだ。血に濡れた手でしかつかめないものが天下だ。もし軍師を名乗る者が目の前の劉表の姿を見れば百人の内九十九人は見捨てるだろう。凡庸な人間であると言って。

 

「劉表さんは馬鹿ですね……」

 

「本当にお馬鹿です」

 

 諸葛亮はため息と共に呟き、鳳統もそれに続く。そして二人は笑って劉表の手の上に自分の手を重ねた。

 

「……でも、私達も馬鹿になっちゃったみたいです」

 

 理屈ではない。理屈ではなく感情で物事を決めるなど軍師失格だ。しかし、群雄失格な駄目な主君には駄目な軍師で十分なのではないだろうか? そんな事を考えてしまう親友と共に二人は笑う。

 

その時だった。

 

「劉表様! 緊急の報告が!」

 

 扉の向こう側から焦っている様子が伝わってくる声が聞えてくる。劉表は入るように促すと、顔面を蒼白にしながら劉表に伝える。

 

「袁術軍が兗州へ侵攻。曹操軍と交戦に入り……大敗。曹操軍本体は袁術軍の退路を断ち、攻撃を加え続け、袁術軍は揚州方面へ追いやられています。さらに本拠地である宛城は曹操軍の分隊が攻撃を加えており、陥落まで猶予はないだろうとの事です」

 

 二大勢力の一角とまで言われた袁術軍の余りにも早い滅亡に大陸はどよめく。大陸は二袁の時代の終焉を迎え、そして英雄たちが立ち上がろうとしていた。

 




次話へのフラグを書き忘れていました。曹操様登場回フラグを忘れるとか死刑になってしまう。
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