幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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エロい事をするだけの2話目周瑜編の続を更新しています


20話 生まれながらの将

 孫策は兗州へ軍を進める中、張勲の言葉を思い出していた。

 

「曹操さんとはまともにやり合ってはいけません」

 

 いつもの軽薄な雰囲気はなく、真剣さが感じられていた。

 

「曹操さんは生まれながらにして漢王朝を背負う将軍となる事を期待され、英才教育を受けてきた天才。最大軍閥であった西北列将の後裔です。先代の皇帝の粛清によって勢力こそ失っていますが、軍閥の影響力は高く、親族の者もまた将としての才を磨かれた者で構成されています」

 

 後漢王朝七代目の皇帝である安帝から順帝、沖帝、質帝、桓帝、霊帝と六人の皇帝の時代を生き抜いてきた男の作り上げた大軍閥。三公になった者も少なくなく、曹一族が霊帝の皇后の一族と婚姻関係をも結ぶほどにまで興隆した曹家の名は全国規模の知名度を誇る。

 

 将軍になるべくして生まれた天才に期待して、反董卓連合の際には太守が自らの兵士の指揮権を全て曹操に委任する者までいた。霊帝もその才能に期待し、自らの近衛騎兵を曹操に預け黄巾の乱の征伐を任せるほどに。

 

 連合での敗北はあったが、逆にそれを糧とし忠臣としての地位を確固たるものにしている。足りないのは兵。だが、黄巾の兵を吸収した。足りなかったものを補った曹操は、張勲からしてみれば袁紹よりも厄介な存在として認識されていた。

 

「孫策さんは陳留の北東に位置する匤亭からに布陣し、こちらが陳瑠郡攻略を進めている間に攻撃を加えるであろう曹操軍の足止めをしてください。幸い、曹操さんは本来の東郡の治所である濮陽にはいません。匤亭から約四百八十里(約200キロ)の甄城から駆け付ける。そこを狙います」

 

「へぇ、どうするつもりなの? それだけじゃないでしょ?」

 

「私達が封丘に布陣し、陳瑠攻略を進めれば、曹操さんは動くしかありません。その為には匤亭に居る孫策さんを無視できません。曹操さんは孫策さんに攻撃を加えるはずです。孫策さんが曹操軍を抑えている間に私達が回り込み、曹操軍を挟撃します」

 

「……随分とそちらに都合の良い作戦ね。二頭の虎が一つの餌を食い争っているとき、餌を盗む狐役になりたいという事かしら?」

 

 挟撃するタイミングは張勲の采配にかかっている。つまり、孫策と曹操が疲弊してから戦えば、孫策の兵力を削りつつ、自らは安全に曹操軍を攻撃できるというわけだ。

 

 睨み付ける孫策に、張勲はくすりと笑う。

 

「何を言っているんですか~。私達は味方同士じゃないですか。もちろん、出来るだけ早く駆け付けるつもりです。友軍の兵を態々減らすようなことはしませんよ~」

 

「どうだか!」

 

「心外ですね~。なら、これ以外に策があるのなら言ってみてほしいですね~」

 

 煽るように言う張勲に孫策は自分の激情をぶつけそうになったが無理矢理押さえつける。

 

 こんな時、周瑜が居てくれれば……と思うが、将軍ではあっても軍師ではない孫策にとって戦略面では張勲に二枚も三枚も劣る。

 

「本当はこういう正攻法なやり方は周瑜さんの方にお任せするつもりだったんですけど、亡くなってしまったのであれば私がするしかない。そうじゃありませんか?」

 

 その言葉に反論することはできなかった。反論は出来ずとも感情は納得が出来ないのが人間というもの。

 

 そんな孫策の姿を見て、張勲はため息をつきながら話かける。

 

「本当にそんな事をする気はありませんよ。信用しろとは言いませんけど、利にならない状況でするほど馬鹿に見えます?」

 

「利にならない? どういう事かしら」

 

「この戦いに負ければ、私達は曹操と劉表に挟撃されることになり、滅亡するでしょう。そして勝ったとしても孫策さんに劉表討伐はお任せする事になります。これから必須の兵力をすり減らすなんて事はしませんし、する意味もわかりません。欲しいのであれば揚州は全部差し上げますからどうぞ」

 

 孫策はその言葉に唖然とした。

 

「別に私は天下とかどうでもいいんですよ。お嬢様を可愛がれればそれで。別に滅びようとどうなろうと興味ないんです」

 

「……最低な事言っていることは置いておくけど、それで」

 

「さっさと安全地帯を作って、お嬢様が馬鹿笑いできる状況にしたいんです。この状態が続けば何年後になるのかわかりませんから」

 

 孫策が思い出すのは、一族の死体が並んでいるのを見てカタカタと震える袁術。

 

 袁術の下には反董卓連合の際に処刑された一族の死体が次々と来ていた。袁紹の裏切りに加え、袁隗とその一族も董卓を裏切り、暗殺を敢行し、失敗。それが逆鱗に触れたのだ。

 

 董卓が中央で政治を行う上で袁家の協力は必要不可欠だった。袁家は持ち前の政治力を使い、董卓をスケープゴートにしつつも権力の拡大ができる立場を手にしていた。董卓政権は董卓の独裁と思われているが正確には、袁家の当主である袁隗との二頭政治体制になっていたのだ。

 

 董卓が軍事を、袁隗が政治を担う形こそが、董卓の初期の構想であり、董卓も賈駆もそれを許容した。彼女達の目的はあくまでも漢王朝の復興であり、自らの栄達ではなかったのだから。

 

 袁紹の暴走がなければ上手くいっていただろう。

 

 しかし、袁紹の裏切りによって袁隗と董卓の密月のような関係は終焉を迎え、袁隗は乱の早期終結の為に董卓を切り捨てようとした。袁紹と組んで董卓を殺そうとしたのだ。

 

 張勲は計画の失敗を予期して袁術を逃がしたが、それ以外の洛陽に居た一族は殺され、その死体は恩顧の官吏たちが手土産代わりに、袁術の下に持ち帰ってきた。理由は簡単だ。近くて、親族の死体を持って帰れば手厚い保護が受けられるだろうという打算。

 

 何人も、何人も、何人も、ついさっきまで生きていた親戚たちが物言わぬ死体となって帰ってくる。

 

 それに怒りを覚えるよりも先に死への恐怖が出てしまうのも当然と言えた。

 

「七乃……妾は死ぬのかや」

 

 カタカタと震え、布団の中に蹲る少女に言えるのは、大丈夫と何度も言う事だけだった。

 

「……わかったわよ。信じるわ」

 

 孫策は張勲に対してそう言うしかなかった。その後、孫策は顔を合わせずに出陣し、匤亭した。

 

「匤亭から約四百八十里。決戦まで二か月くらいか」

 

 軍の一日の行軍は三十里。一日で進む距離を一舎と言い。計算すると三十六日。報告にかかる時間を考えても四十日かかる計算である。しかし、それは訓練した兵士の話である。黄巾の残党と聞いて思い浮かぶのは、黄巾の乱の時戦った脆弱な兵士。その倍かかっても不思議ではない。曹操が自分に匹敵する武将であったとしてもそれくらいかかるだろうという計算の下、答えを導き出した。

 

「各地で徴収を開始しなさい。決戦まで時間が無いわよ」

 

 南陽郡は豊な郡とはいえども限界がある。補給は脆弱であり、孫策は軍を分け、兗州での徴収を開始した。

 

 それが曹操の手のひらの上とも知らずに。

 


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