幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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2話 泥船は行くよどこまでも

 

 董卓軍と曹操軍の遭遇戦が勃発。曹操軍は敗れ、潰走した。しかし、それは董卓軍の勝利を意味しない。董卓の狙いはあくまでも連合であり、そこへの奇襲が失敗したという意味では敗北である。

 

 連合も無能ではない。奇襲を仕掛けてきそうだったという報告を受け、守りを固め、巡回を強化した。これでは今後、奇襲は成功しない。させるとするなら、よほどの策を練る必要があるだろう。

 

 立て直しを求められるのは董卓軍の方であった。洛陽は商業都市であり、それだけで自給自足をしているわけではない。食料、物資を各州から送られる税で賄っており、今は良くとも、貯蔵される物資が尽きてしまえば、戦力維持が困難なのだ。

 

 連合は軍事的な勝利こそ得ていないが、経済封鎖という縄で董卓軍を締め上げ続けている。

 

 長期戦になれば董卓軍は完全に不利である。洛陽周辺は人口数が多く、兵力の動員数こそ多いものの、それを維持する為の機能がない。正確には、経済封鎖によって他州からの物資の流通が止まってしまい、商業都市としての機能が停止状態になってしまっていたというのが正しい。

 

 このまま膠着状態が続けば、董卓軍は内部分裂を引き起こす。ならば、戦線を下げて、今の四方を囲まれている状況を改善する方が良いのではないか?

 

 賈駆の頭にはその考えが過る。

 

 長安は防衛に適した土地で、堅固な城もある。脆弱な洛陽とでは軍事拠点としての信頼度が違う。そもそも洛陽は防衛にまったく適していないのだ。

 

 しかし、洛陽を棄てるということは漢王朝の権威や劉協の正当性そのものを無くす。政治的な意味でのデメリットがありすぎる。

 

 決断できないでいる中、凶報が入る。

 

 『孫策軍、陽人を突破する』

 

 華雄は味方と諍いを起こした挙句戦死し、重要拠点である陽人を突破されるという最悪の状況を生み出した。

 

 賈駆は一つ決断をする。洛陽を棄てたのだ。

 

 ……という事らしい。いきなり、遷都するとか言ったかと思えば、洛陽の民を長安へ強制移動させろと言い出した。無理と言いたかったが、遷都に反対した奴らが獄に入れられたのを見て、そんな気はなくなった。

 

 恐怖政治反対!

 

 やばい、熟睡している内に逃げ時を失った。司馬家とかの有名どころの人たちが、奇襲失敗で董卓を見限って脱走した模様。そのせいで監視の目が強化されてしまった。袁紹の時といい、見限りのタイミングが早すぎる!

 

「さっさと、遷都の準備を進め、洛陽の市街地を燃やすわよ。邪魔な市街地を燃やして洛陽を純軍事拠点化すれば、まだ華中への圧力をかけつつ、連合の進撃を防ぐことができる」

 

 他の人が尻込みをするような事を平気で言う……賈駆先生は相変わらずです。

 

 たしかに、反董卓連合からみれば、長安へ撤退されたら追撃なんてしたくないだろう。あそこは大軍の利を活かせない地形だし、占拠している拠点から離れすぎる事は出来ない。

 

 元々、仲が良いとはいえない連中を背後に進撃ができないからこそ、今の膠着状態がある。

 

 ……だが、ちょっと故郷燃やされる立場とかも考慮に入れてほしい。決着がつかないと乱世突入していくんだけど。人口は国力だけど、移民させた人たちの食糧物資とかどう調達するつもりなんだ? 餓死とかさせたら、意味ないどころか反乱軍になるぞ。

 

「はぁ?それがあんたの仕事でしょ?」

 

 貴方軍師ですもんね。政治の事なんて知らないですよね~。と無茶ぶりにも慣れてきた今日、この頃。

 

「では、当面は、貯蔵された物資で食い繋ぎつつ、救荒作物を栽培しましょう。救荒作物で今の時期ですと蕎麦がよろしいかと。現在の気候、温度から考えるに寒さに強い作物でないと難しいですし、約三ヶ月で収穫まで行き着けます。長安の土地はかつて羌族の移民地として開拓した土地がありますので、そこを使えば、貯蔵された物資の消費は抑えられます」

 

 毎日蕎麦とか嫌だろうけど、背に腹はかえられない。物資が足りん。それでも10万人以上の食糧物資の確保は出来ない。税金が取れるようになるまで三年は最低でもかけなければいけないだろう。

 

「それだと時間がかかりすぎるわ。さっさと、長安周辺の治安及び、流通を回復させて物資をあつめさせればいいじゃない」

 

 経済封鎖受けている事分かってんのかな~この人。金はあっても買う先が無ければ意味が無いんだけど。戦場の中に物資を運んでくれるような挑戦者や商人なんて居ないとは言わないけど、万人規模の物資なんてどっから持ってくるんだよ。

 

「商人なんて、金があれば寄ってくるものよ」

 

 そういえば墓荒らしとかしていましたね。しかし、長安への物資運搬費って桁が違う。なんたって、前漢の時代に対匈奴戦の為に軍事物資を大量に集めたせいもあるが、二百億銭とかいう大金が毎年かかるほどだった。

 

 山に囲まれた攻めにくい土地は逆に物資の運搬には向かない。大量の船団でも持っているならともかく、陸路での長安への物資運搬は現実的じゃない。希少になった食料に運搬費。まともに運用したら、値段は数十倍に跳ね上がるだろう。

 

 どっから金を持ってくるつもりなんだ? 俺はドラえもんじゃないんだが……

 

「長安には、鋳造施設と銅山があるから、それで貨幣作ればいいでしょ?」

 

 なにそれ? どこのジンバブエ? 貨幣が無ければ作ればいいじゃない! ってハイパーインフレフラグしか見えません。

 

 ハイパーインフレ……長安……董卓……うっ!

 

 嫌な予感しかしない。しかし、あれか~。あれはヤバい。今までの行為とかと比べ物にならん。すっかり忘れていた。

 

 董卓銭

 

 中国史最悪の貨幣であり、世界の歴史上でも稀に見ない貨幣価値の暴落を引き起こし、数世紀に渡って古代中国の文化、経済を逆行させた悪魔の貨幣の名前だった。

 

 


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