幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

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3話 喧嘩するほど仲がいい(強弁)

 

 かつて漢の首都として繁栄を欲しい儘にしていた洛陽。その洛陽は燃え、そして漢という国のあらゆるものも共に燃え尽きていた。

 

 長安遷都後、反董卓連合は分裂した。

 

 諍いの原因は豫州牧の死から始まる。州牧の死後、誰が後任を継ぐのかという問題が起き、袁紹は自分がその地位にふさわしいと主張した。袁家の当主である自分が豫州の代表であるはずだと。

 

 しかし、袁家の一分家に過ぎない袁紹は、当主の娘である袁術に血筋で及ばず、袁術は董卓軍を破り、長安へ撤退させるという大功を立てている。どちらが相応しいのかと聞けば、殆どの者が袁術を挙げるだろう。

 

 自称袁家の当主、連合を組織したのはいいがなにも出来ずに功を従妹に奪われる失態。周りは袁紹を見限り始めていた。袁紹はそれに激怒し、自分の派閥である周昕に豫州を強制占拠するように命じた。

 

 こうなると連合はまともに機能しなくなる。連合から次々と抜けていき、残る者は居なくなった。

 

 袁紹の暴走によって内部分裂に陥り、好機を得た董卓軍。その隙を付こうと賈駆は、奔走するも、うまくいかず、憤っていた。

 

「朱儁のやつ! よくも裏切ってくれたわね!」

 

 黄巾の乱で皇甫嵩に次ぐ功績を立てた名将である朱儁を洛陽に配置し、反董卓連合軍との最前線を任せた。しかし、朱儁は独立し、董卓打倒を宣言する。

 

 当時、孫策軍は物資の補給先としていた豫州を占拠された。背後から襲われ、物資の補給を断たれた形となった孫策は対董卓の前線から下がる事を余儀なくされ、豫州で丹陽太守周昕と戦っていた。

 

 袁紹が癇癪を起こし、勝手に内部分裂している隙に形勢逆転を狙うはずだった。袁紹と袁術の作った反董卓連合は、董卓に兵を向けるだけの余力がなかった状況である。二人が争う背後から襲えばひとたまりもなかっただろう。だが、朱儁は新たに自らを盟主とした反董卓連合を結成してしまった。

 

「賈駆っち、そうカリカリしたってしょうがないやろ。やられたならやり返す。取られたなら取り返す。袁紹と袁術が馬鹿やっとるうちに領土広げとくんやろ」

 

「霞……あんたわかってるんでしょうね。負けは許されないわよ!」

 

「相変わらず、無茶言ってくれるな。朱儁は黄巾の乱以前から戦ってきた英雄や。ぼんぼんの孫策や曹操とは違うからな。足手まといがいたら勝てへんちゅう事だけは覚えといてや」

 

「なにあんた。華雄の事言ってるの?」

 

「それ以外、なにがあるんや?」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 

 賈駆は南方の守備に胡軫を送り込み、その副官として華雄を配置した。

 

 だが、華雄は胡軫の下に就くことも嫌だったが、慎重な胡軫の指揮に不満を覚え、孫策が背を向けて逃亡したという偽情報を流して攻撃させようとした。

 

 急な配置転換の為の強行軍で疲れ切っていたが、敵が逃亡しており、背後から攻撃するだけならば……と、軍を進めた先には、戦闘に備えた孫策軍がおり、疲れ切った軍が馬鹿正直に突撃してくるだけの軍はあっという間に崩壊し、華雄と胡軫が討死した。

 

 ……というのが陽人の戦いであった。

 

 華雄の暴走が無ければ、袁紹と袁術が勝手に暴走して勝てたであろう。それが一転して洛陽放棄にまで繋がってしまった。その人事は賈駆によって強行されたものだ。この戦いで張遼や呂布は圧倒的不利な状況を覆してきたが、それを賈駆の差配で何度も無意味にされている。

 

「しょ、しょうがないじゃない! あいつは派閥の兼ね合いで重用するしかないけど、洛陽に置いておくには危険すぎるし。暴走する可能性を考慮したら直接兵を持たせず副官みたいな職に就けとくしかなかったのよ」

 

「その結果がアレやろ」

 

「ぐっ……なによ、ボクのせいだって言う気?」

 

「そうやない。結局、あんまり強く反対できんかった奴らの責任もあるけど、兵の殆どが賈駆っちが華雄を無理やり送り込まなきゃ、うちか呂布を洛陽に派遣しとったら、もう勝てとった。そう思っとるっちゅう事は覚えといたほうでええで」

 

 張遼はそう言うと、立ち去る。

 

 袁術と袁紹の反董卓連合が勝手に崩壊した今、董卓を討とうとしているのは朱儁の反董卓連合だけ。当面の脅威は去るだろう。

 

 一人残された賈駆は呟く。

 

「どいつもこいつも好き放題言って……できる限りの事はしたわよ。どれもこれも袁紹のせいじゃない」

 

 自分が推薦した人物たちが次々と裏切り、そして失策を犯していく。そしてそれが原因で董卓の身が危なくなるのに苦しんでいるのは自分なのになぜ皆、自分を責めるように言うのかと。

 

 賈駆は限界だった。

 

 全てが上手くいかず、全てが裏目に出る。国家の存亡を担うには彼女は若すぎたし、周りも若く、支える事が出来なかった。

 

 ドロドロと心の中に泥が溜まっていく。

 

 そんな時だった。

 

「賈駆殿、劉表です。先の対策案についてお話があるのですが」

 

 扉の外から声がかかる。

 

 劉表

 

 清流閥の唯一の生き残りにして、現在、董卓政権で政治分野を一任している人物だった。漢王朝に忠誠を誓う者達を纏めあげ、政治分野に疎い董卓達が国家運営をまがりなりにも出来ているのも、劉表の尽力が大きかった。

 

 賈駆にとって、涼州からの付き合いの者以外で劉表は唯一の味方といえる存在であった。

 

 賈駆の政治判断は苛烈にして軍事に依りすぎる傾向にある。洛陽放棄がその最たる例で、軍事的視点の理屈のみで動いている。政治的視点を持つものからしてみればただの暴走でしかない。

 

 ゆえに、政治家は彼女を支持しない。軍という機関を抑えているからしぶしぶ従う者も居るが、多くの者は反対意見を述べ、協力する事を拒んだ。

 

 劉表は、そんな者達との間に立ち、取り持ち、賈駆の案を修正し、双方が妥協できるラインまで擦り寄らせ、政権の崩壊を防いでいる。

 

 唯一、反対をせず、対立せず、癇癪を起しても受け流してくれる存在は賈駆の支えとなっていた。いや、唯一甘えが許される存在だった。余裕が無い状況だからこそ、手元に置いておこうとしていた。

 

「いいわ。入ってきなさい」

 

 入室を許可し、部屋に招くと、劉表は真剣な面持ちで賈駆に話しかけた。

 

「単刀直入に申します。新貨幣の発行を止めませんか?」

 

 それは、賈駆の政策、ひいては戦略そのものを否定する行為だった。

 


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