幼女を愛でつつ敵をくっころし天下を統一するだけの話   作:ちびっこロリ将軍

7 / 34
第2章 荊州争奪戦
6話 水鏡女学院


 

 

 荊州。そこは宗部と呼ばれる豪族達が跋扈し、四分五裂の状態であった。袁術が、董卓を討つ為に荊州一州から十万の軍と太守、県令を集めた結果、荊州中の武官と文官が消えた。兵は無限に湧くものではないし、兵を集めるには太守や県令を集める必要がある。

 

 袁術の下に太守や県令が、任地から徴兵、徴収し尽くし、南陽へ集結すれば、それ以外の土地に残るのは女子供や老人、そして豪族の荘園に居る私兵達である。豪族達は私兵を集め、兵士の居ない城を奪い、勢力を広げた。

 

 袁紹を盟主とした反董卓連合も同じような状況だ。董卓を討つと集めた太守達の領地では、賊が跋扈している。黒山賊百万を代表に、青州黄巾三十万、白波賊十万、南匈奴三万など、数千規模の賊に至っては数える事も難しいほど居る。それを全て放置して参戦している。後漢全土が無政府状態に近い。

 

 特に荊州は、洛陽と南陽宛城の道中、梁と呼ばれる地の東で起きた遭遇戦にて、孫策が呂布に敗れた際、多くの兵と共に太守や県令達が死亡したこともあり、郡や県の長の殆どが居なくなってしまった。

 

 荊州刺史と南陽郡太守、南郡太守は孫策によって謀殺され、武陵郡太守、桂陽郡太守は梁東の戦いで死亡。江夏郡太守は南陽に居たが、南陽太守を謀殺したことを恨んだ農民による反乱により死亡。長沙郡の孫策は袁術に豫州刺史に命じられたので豫州へ。零陵郡太守は孫策に殺される事を恐れ、逃亡してしまった。

 

 南郡に位置する宜城。

 

 ここもよくあるように、南郡太守が反董卓連合に県令達を連れて行った結果、県令が死に、無法地帯となっており、そこを水鏡女学院の女生徒達が己の身を守る為に占拠していた。

 

 乱世である。

 

 県が賊に襲われ、略奪を行い、身なりのいい少女達が賊に捕まりそうになり、慰み者にされそうになった。彼女達が普通の少女であればそういう未来だっただろう。しかし、その私塾の門下生は一味違っていた。

 

 諸葛亮・鳳統・徐庶・孟建・崔州平・尹黙・向朗・石韜・李言選

 

 その他にも将来を嘱望される少女達の群れである。この中で唯一武技の扱いに長ける徐庶が先陣を切り、若き軍師達、若き政治家達の卵は、残された男手を集め、策を練り、そして撃退し、城を取った。

 

 名目上は鳳徳公が責任者になっている。彼女は鳳統の叔母であり、水鏡女学院の出資者である。しかし、彼女はあくまでも名を貸しているだけに過ぎない。撃退し、その後も城を維持するべきと主張した二人が居り、その二人を中心にまとまっている。

 

 

 一人は諸葛亮。もう一人は鳳統。この二人が今後の方針を話し合っていた。

 

 

「朱里ちゃん、南陽、いや、荊州はどうなっちゃうのかな?」

 

 鳳統は、不安気に諸葛亮に問いかける。荊州の太守や県令が居なくなり、無政府状態が続いている状況の行方は『鳳雛』と呼ばれる鳳統すら打開策を見つける事が出来ないでいる。

 

「うん。揚州の丹陽太守である周昕さんは、袁紹さんと同盟を結んで、孫策さんの新たな本拠地で、袁氏の本来の本拠地である豫州を攻めた。反董卓連合を作った袁紹さんが董卓さんを追い詰めた孫策さんを攻撃している。……袁紹さんにとって反董卓連合は、董卓さんの首を取った者が袁家の代表となる権利を持つ戦いだった。そしてその戦いで負けそうになったから妨害した。それ以上の意味はなかったんだろうけど。これで諸侯同士が争う事は間違いないよ」

 

 董卓が洛陽を放棄した後、孫策が対董卓の前線である魯陽から離れざるを得なかったのも、袁紹による孫策軍への攻撃が原因だ。

 

 その後、董卓は空白地帯となった洛陽に朱儁を派遣している。もし朱儁が董卓を見限らなければ、孫策と周昕の争う豫州へ介入して、董卓が豫州を占領する事態になり兼ねない状況である。袁紹が董卓に与していると言われてもしょうがない暴挙だった。

 

 当時、反董卓連合内でも殺し合いが起きており、すでに反董卓連合が内部分裂に陥っていたが、それを収める袁紹が袁術に攻撃しているのだから、止めようがなかった。

 

「袁紹さんが侍御史の時、袁術さんは尚書の地位にあった。袁紹さんは袁術さんの下働きになるのが気に食わず、退職した事は有名な話だね。袁紹さんは、この反董卓連合でも自分ではなく袁術さんが董卓さんを洛陽から追い払った事が許せなかった。これから袁術さんの下風で屈する事が決まってしまうから。……でも、だからと言って、孫策さんを攻撃するなんて命令を出すのはおかしいよ。今は、みんなが一致団結する時なはず。それを自分が権力を握れないからと言って滅茶苦茶にするなんて」

 

 袁紹がこのような動きをしなければ、董卓を討ち取り、乱世にはならずに済んだかもしれない。袁紹もここで座していれば、袁家の私兵や財産が使えなくなる。そうなれば身の破滅である。袁紹個人が栄達するにあたって必要な決断だったと理解はできる。

 

 しかし、自己都合で多くの民を殺す袁紹を鳳統は好きになれなかった。

 

「雛里ちゃん、ここで文句を言っても始まらないよ」

 

「……うん、そうだね。私たちにできる事は限られてる。荊州はもちろん、南郡の状況も変えられないのが今の私たち。これから生き残る為には考えて行動しないと」

 

 二人は今後の方針を模索する。現在、荊州には誰一人として正式な太守がおらず、県令の多くが逃げるか殺されるかしていた。現在、豪族が独立都市国家のように、県城を占拠している。

 

 これは、太守が居ないこと、そして、袁術が豫州で起こった周昕との戦いを優先させている事が原因だった。

 

「私は袁術さんと孫策さんが荊州に兵を派遣する気が無い今、数年はこの状況は続くと思う」

 

 鳳統は諸葛亮にこのままの推移の予測を述べ、諸葛亮はそれに疑問を呈する。

 

「劉焉さんが董卓さんと組んで荊州へ派兵してくる可能性はないかな? 劉焉さんの手勢……東州兵って呼ばれているんだっけ? その東州兵はその名の通り、益州の東である荊州の人達だから故郷に帰りたいって人も居るんじゃないかな? 元々、劉焉さんは荊州の人だし」

 

「劉焉さんからしてみれば、袁術さんと組んで、洛陽と漢中で董卓さんを挟み撃ちにした方が都合が良いんじゃないかな。董卓さんを倒して陛下を得られるのが一番手っ取り早いし、董卓さんと組んでいると思われれば、反董卓連合に参加した諸侯を敵に回す事にも繋がるから危険が大きい。むしろ袁術さんと組む方が利になると思う」

 

「となると、現状、袁術さんを攻撃して利となる勢力が存在しないね。状況が動くのは二、三年後になるかもしれない」

 

「袁紹さん率いる反董卓連合が崩壊した今、袁術さんが優位。豫州での戦いは周氏の後継者争いも兼ねてるから、袁術さんが勝てば周瑜さんが周氏の実質的な後継者になる。そうなれば中原を取りに行く。逆に豫州を袁紹さんが取れば、荊州の地盤を固めて……豫州を奪還しにいくよね」 

 

 二人は荊州を取る勢力が袁術以外にあるかを検討するが、他の勢力としては田舎の荊州を取るより、中原の領土争いの方を優先させている。

 

 取ってもあまり兵力を集められない荊州は優先順位が低い。袁術がこのまま勢力を伸ばしても、豫州や司隷の攻略を優先し、荊州はこのまま数年は豪族同士の争いとなるし、袁紹に負けて豫州を取られても豫州を奪還に動き、荊州からさらに兵や物資を集め、豪族達を諌める事はないだろうと予測した。

 

 このまま袁術の下にいれば、荊州が豪族同士の争いで荒廃することは間違いないと判断できる。そして諸葛亮は袁術がこの戦略を続ける根拠を述べる。

 

「袁術さんの、南陽から北上し、別働隊を豫州に進める戦術は光武帝を踏襲しているね。だからこそ、それを変えるのは難しい。洛陽、長安を落とした前例があるのはこの戦術だけだから」

 

「前例があるのは大きいね」

 

「袁紹さんが豫州ではなく、河北へ行ったのは光武帝が更始帝のいる司隷から逃れて河北で力を蓄え天下を取った先例に準えてのこと。袁術さんが南陽郡へ行ったのは光武帝が更始帝から洛陽を奪った作戦がそのまま使えるのが大きい。光武帝の戦いを再現するというのは士気が上がるから」

 

「袁術さんの行動を見ると、考えれば考えるほど、荊州に関心が無い事が分かるから嫌になるね」

 

「本当だよ」

 

 二人はため息をつき、意見をまとめる。まず、鳳統が意見を出した。

 

「このまま座していれば、荊州が荒廃し、さらに袁術さんが負ければ、再度、軍を集める為に、酷い搾取が待っている。多くの私兵を抱えている蔡瑁さんとその客将の蒯越・蒯良さんと連合し、襄陽を抑えるべきだと思う」

 

「そうだね。今、袁術さんの軍の物資を支えているのは穀倉地帯である荊州南部。南陽との間にある南郡、特に洛陽へ繋がる洛水を抑える事で、袁術さんに南郡太守の地位を約束させて、統治する名目をもらえれば、荒廃を防げると思う」

 

 二人は策を話し、同盟を持ちかけ……そして失敗する。

 

 二人のみならず、水鏡女学院そのものが舐められたのだ。蒯越・蒯良は元々、県令を務めたエリートであり、蔡瑁も地元の大豪族。一学生など相手にしていられないと無視したのだ。

 

 そうして、ただ時間だけが過ぎていき、豪族達の領地の奪い合いは激化していく。彼女たちはただ自分の城の防衛をするのみで、有効な手立てを打てないうちに時間が過ぎていく。そこにこの状況を打開出来る人物が現れる。

 

「劉荊州刺史がお会いしたいそうですが、いかがいたしましょうか?」

 

 

 足りないピースがはまった音がした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。