…今回でゴーレム戦決着直前の話です。
…その前にちょっと並行世界…。
???・2026年4月28日
マレーシア領ボルネオ島サバ州
中華人民共和国サバ租借地・首都サンダカン市
––––––そこはボルネオ島最北端にして、現在は中華連邦機構・中華人民共和国の租借地がおかれている場所。
もともとサバ州の州都はサバ州東側のサンダカン市とは正反対の西側にあるコナキタバル市だったのだが、そこに置かれることは無かった。
何故ならばサバ州の全てが租借地ではなく、厳密に言えばサバ州を東西に二分するクロッカー山脈を境界にその東側のみを与えられたからだ。
その中で首都機能を置けそうだったのがサンダカン市であったから、というだけ。
もっともサバ州東側とはいえ、そこだけでもサバ州の7〜8割近くある。
国土を失い、物乞いとなった身の者に租借地を分け与えてくれるだけでも有難いのに、これ以上寄越せ––––––というのは、傲慢だった。
「––––––あっつ…」
ふと、中華統一共同機構人民解放陸軍所属の
「…ここにきて5年になるけど、やっぱりこの暑さは堪えるわね……。」
なんて、肌を伝う汗を拭いながらボヤく。
––––––現在は兵舎からサンダカン基地に向かう道中を歩きで向かっている。
周りに映る景色。
現在新たな住宅地区を造成するために開墾中の山。
低密度建築物にトタンや木材のバラック小屋。
サバ州2番目の港町だということを象徴する貿易港。
打ち捨てられた高層マンションの廃墟を再利用した企業のオフィス。
––––––街並みに僅かながら活気は見られる。
だがしかしそれは、首都にしては物悲しいレベル。
そも、都という表現すら危うい貧困具合であった。
(…まぁ、仕方ないわね。そこは我慢しなきゃ––––––あたし達に東南アジア各国が租借地を分け与えて貰えるなんて、それだけでも奇跡なんだから。)
街並みに踵を返し、歩みを進めながら思う。
前政権時代–––––––中国共産党政権時代、領海内の資源や海産物を食い尽くした中国は外洋に進出し他国の領海に侵犯や人工島を作り出し、新たな領有権を主張するなど––––––横暴、としかいえない行為を日本や東南アジア各国に強いていた。
根が御人好し且つ中核派メディアが浸透していた日本は大した制裁措置を取れなかったものの、東南アジア各国はそれに堪え兼ね【チャイナブロック政策】を実施。
中国企業の進出規制や中国船舶の通行禁止など…その内容は多岐に渡る。
そしてそれらは破滅前の話、というわけではなく––––––問題はその政策が破滅後を迎えてもなお健在であることだった。
東南アジア各国は自国領内にある豊かな漁場や開発の余地がある天然資源などを中国に侵されることを嫌い、居留地と独立自治権は許容しても漁業権や資源開発権、企業の進出拒否、必要最低限の軍需設備設置、工業汚染を起こさないために工業まで許されていない。
さらに、破滅前の中国は偽札防止の為に電子マネーによるスマホ決済を年間6兆円にまで登る規模で行なっていた事や電子マネーを管理していた企業の一部が脱出出来なかった、あるいは元の暴落などにより経済的に衰弱している。
––––––故に生産拠点や経済的基盤は軍事同盟を締結した台湾と華僑経済の進出したフィリピンかサバ租借地から5000キロ離れたアフリカ・モザンビークの租借地に構えるしかない有様だった。
革命によって樹立した新政権にも、前政権時代に失った信用と根付いてしまった不信感などの負の遺産は重くのしかかっている––––––それが現実だった。
もちろん、そんな状況に対して国民が不満を起こさないハズがない。
だからこそ、暴動が起きる事を抑制すべく、95-B式突撃小銃を装備した憲兵隊が市街のあちこちに配置されている。
とてもじゃないが、マトモな状況ではない。
––––––例えるなら、
それほどに情勢は不安定で、いつ爆発してもおかしくない。
(はぁ…頭が痛い……)
ふと––––––気がつけば、すでにサンダカン基地司令部施設。
サンダカン空港を改装したこの基地が、今や中国の行政府であり軍司令部であった。
––––––施設内部は冷房が効いており、蒸し暑い外とは正反対の空間が広がっている。
「はぁ…やっぱクーラーは人類の叡智の結晶ねぇ…。」
だる〜ん、とソファに寝転び脱力しながら鈴は言う。
多少大袈裟ではあるが、現在兵舎のクーラーは故障しており、毎夜毎夜赤道付近の蒸し暑さにうなされている鈴からすれば冷房の効いた世界に対するその反応は当たり前というか、仕方ない反応だった。
––––––ちなみに司令部のクーラーは安心と安全第一の日本製である。高いけど。
というか、今時アジア地域に出回る電化製品は日本製か台湾製にフィリピン製、あるいは米国製のみだ。
––––––なにしろ、中国の企業は大陸失陥の際に大半が活動基盤を喪失。
その後の経済は台湾––––––否。中華民国と同国が齎らした華僑経済で発展したフィリピンによる支配が大きく、生き残った中国企業はほぼ全て台湾企業に吸収合併されている。
唯一活動基盤を維持出来た軍需公社も西側装備への転換を迫られ、フィリピン領カガヤン・バレーに置かれた台湾の租借地にて研修中…というのが現状であった。
…このような悲惨な状況でも、比較的マシだ。
もし共産主義体制のままならば国家として残っていたかさえ疑わしい。
彼女––––––孫華輦臨時国家主席兼外相の働きのおかげで、少なくとも問題解決には向かっている。
…まぁ、その問題自体が無数にあるから、結局イタチごっこなのだけれど。
––––––閑話休題。
とはいえ冷房は良い文明だ––––––そう、鈴は思わされる。
「お、ソファの上に猫饅頭はっけ〜ん。」
––––––ふと、陽気な声が鼓膜を震わせる。
「んぁ…?––––––あ、なんだ
「え、ひっでぇ。『なんだ』は無いじゃん。」
そんな鈴の反応に抗議する男性が一人。
歳は鈴と変わらない––––––21歳。
––––––名を、
人民解放軍の兵士であり、鈴の同期でもある男性であった。
「出所早々二度寝とは良い御身分だねー…」
ケラケラと陽気に笑いながら、全く悪意の無い笑顔を浮かべて口を開く。
対して鈴は、アンニュイにソファーへ沈めていた身体を引き起こす。
そして呆れた口調で声を放つ。
「アンタは朝っぱらからヘラッヘラヘラッヘラ軽いわねぇ…」
「それだけが取り柄だからなぁ…眠気があるならコーヒー淹れてやろうか?」
「いや、良い。アンタの淹れたヤツ甘過ぎるし、飲んだら虫歯になりそ––––––って、ちょっと⁈」
なんて事のない会話を交わしながら自分のコーヒーを淹れる国峰を見て、思わず鈴は絶句する。
コーヒーに注ごうとしているスプーンには大さじでは済まない量の砂糖。
しかもそれが一杯だけではなく既に三杯目。
" ––––––そりゃ、彼奴が淹れるコーヒー甘過ぎるワケだわ。 "
…以前、国峰が淹れたコーヒーをあまりの甘さに吐き出してしまった記憶が蘇り、頭痛が走る。
––––––頭痛がすると言えば、近い将来中国は台湾に併合され、
勿論私は歓迎だし、少なくとも国峰も「資本民主主義万歳!」なんて騒いでいる。
だが––––––そうなれば中国には軍事力以外何も残らない。
今こそ政府があるから私達はゆっくりしていられるが、もし中国政府が消滅すれば間違いなく中国軍は「台湾の傭兵」へと成り下がる。
指揮系統の混乱を避けるためには仕方ないのだが––––––勿論反発する輩がいない筈がない。
例えるなら、『アメリカが日本から独立主権を取り上げて合衆国51番目の州として併合します』––––––というのと同じだ。
そしてそれらの反発する輩に先導されて市民が暴動を起こすと考えると––––––胃が、キリキリする。
…同時に、
…ふと思い出して––––––
「––––––ねぇ、またアレ増えてるわよね?」
身体を起こしながら、窓の外に視線を見やりながら呟く。
視線が向けられたのは基地を仕切るフェンス––––––基地と市街地の境界線上に横たわる広場であった。
「…ああ、一層と増えてるな。」
国峰は躊躇いがちに目を向けると––––––案の定、見たく無かった光景が視界に映る。
そこあったのはかつて公園だったらしい、難民キャンプ場であった。
度重なる難民収容により、収容人数が数十万人にまで増大した今では公園の面影など無いに等しく、所狭しとトタンやベニア板で作られたバラック小屋に市販やブルーシートで作られたテントで埋め尽くされている。
––––––それすら叶わず入れなかった者はキャンプの端々に絨毯やシートを敷いて、その上で干枯らびている。
暑さと飢えで逃げ出す気力も暴動を起こす体力も奪われ、殺人的な密度で犇めき合う光景は中国の歴史の教科書にあった旧日本軍の収容所のよう––––––否、彼方の方がまだ良心的だろう。
ここは食糧と医薬品の供給不足と難民の収容過多にはじまり様々な問題を抱えている。
現在、新たにライフライン設備の整った外国資本のマンモス団地型難民収容施設を建設中だが、完成までにどれだけの難民が生き残っているか––––––。
…確実なのは、" まだ " 難民の数は増えるということだ。
「…救出した残留難民、せめて台湾やフィリピンで一時引き取りとか出来ないもんかしらねぇ…。」
鈴が難民キャンプを見つめて呟く。
「…無理だな。台湾はすでに受け入れられる人数が定数越えしてるし––––––フィリピンは破滅前の前政権が横暴しまくってたから…関係は改善しつつあるけど、依然として距離を置かれてる。」
「…じゃあ、ボルネオ島のインドネシア領は?あそこは元々人口が少なかったし土地にも余裕があるんじゃ…」
鈴が再び問う。
––––––だが、国峰は首を横に振る。
「…あそこはもう東トルキスタンが租借地を構えてる。漢人の難民キャンプはボルネオ島マレーシア領かモザンビーク、フィジー島にしかない。」
「…オーストラリアは?」
「無理だ。主要都市が全滅してもタスマニア島に政府機能を再建したから交渉出来なくはないが、そもそもオーストラリアはインド贔屓だし、インド人と一緒に避難した独立チベット亡命政府が租借地を構えてる。
…ていうか、彼方さんからも嫌われてるから門前払いされるがオチさ。」
「…ホントに、東南アジアどころかオーストラリアからも嫌われてたのね…あたし達。」
「…分からんでもないがな。俺は母親がウイグル人だって理由で虐められてたし、母親からウイグルの惨状をよく聞かされてたし。」
––––––そう、国峰の母親はウイグル人である。
漢民族にとってウイグルやチベットの人間とは弾圧の対象––––––いや、綺麗事を取っ払って言えば単なる暴力の捌け口だ。
その地に生まれたから悪い––––––。
その地の者の血を引くから悪い––––––。
この国との闘争に敗れたから悪い––––––。
単なる弾圧ではない––––––それはもう、民族浄化に至るまでのレベルに発展していた。
…現政権になってからはそのような事態は減りつつある。
…というか、ほとんど無い。
––––––ウイグル人は大陸脱出作戦でインドを経由してインドネシア領へ辿り着き、東トルキスタン共和国を再興。
––––––チベット人はインドが保護していたチベット亡命政府と共にオーストラリアに辿り着き、独立チベット政府を組織していた。
…すなわち、中国は新疆ウイグル自治区とチベット自治区の事実上の独立を許すこととなっていた。
そう言った意味では、「この時代」が有ったからこそ「前の時代」で味わった地獄から救われたのだろう。
だが「この時代」が有るからこそ、中国は地獄に叩き堕とされた。
…ある意味では因果応報、自業自得なのかもしれない。
革命で共産主義から民主主義にシフトしたとはいえ、それで「前の時代」に犯した罪悪が帳消しになるわけではない。
––––––だからこれは、贖罪か矯正なのだろう。
鈴のその感情を感じ取ったのか、国峰は口を開く。
「いくら政権が変わって民主化しましたー…って言っても、そう簡単に関係は変わらない。––––––信頼ってのは簡単には壊せるが、治すのには気が遠くなるような時間を要する。
今はコツコツと、ゼロ…いやマイナスから少しずつやって行くしかないさ。」
そう呟くと、再び難民キャンプを直視する。
…ふと、視界の端から1人の女性が歩いて来て––––––2人の視線に気付き、怪訝そうな顔を浮かべて振り向く。
「…何?なんか私の顔に付いてるワケ?」
––––––投げかけられる、えらく喧嘩腰な声。
「あー、いやいや。ただボケーとしてただけだって。」
射殺すような視線を緩和しようと、国峰がたはは、と笑いながら応じる。
「…そう。」
「その様子だと見回りか?」
「…ええ、滑走路をね。アンタたちも見て来たら?数千人を超える負傷者や死体が野晒しにされてるわよ。」
「数千人…⁈」
思わず鈴が声を上げる。
「…福建省で5年も孤立していた中、難民と一緒に包囲網突破してきたみたいだしね。…そりゃ、重傷者や死体が出てもおかしくない。
…部隊番号からして私と同じ––––––
––––––破滅前の中国ではそうした黒孩子が数1000万から数億人は存在していたらしく、かつての中国の人口は13億とされていたが、黒孩子を含めれば20億人は下らない…と言われていた。
…半年で人類の敗北に終わった【第1次巨獣人類戦争】初期には黒孩子が大量に徴兵され、肉壁としてゴミ同然に扱われていたという話も有名だ。
…戸籍を持たず人権も保証されない彼らは人間ではなく、使い捨ての消耗品にはうってつけであったから。
そんな彼女––––––
「黒孩子部隊…まだ生き残ってたなんてな…。」
ふと国峰は驚きを示すように口を開く。
それにムッとした顔で清明は振り向くなり口を開き、苛立ちを孕んだ声を穿つ。
「そりゃ私ら黒孩子だってSFのロボットなんかと違って、人間だもの。誰だって生きたいと思って足掻いて抗うわよ。」
言い終わるとふと、難民キャンプと基地施設を区切るフェンスから木の枝がのびている事に気づく。
…否。それは木の枝などではない。
木の枝と勘違いしたそれは––––––人間の、腕。
––––––痩せ細り、骨と皮だけになった、子供の腕。
痩せ細り、容易く折れてしまいそうなその腕を、こちらに向けて伸ばしている。
…その意図は、聴かなくても分かる。
だからその子供の元に清明が歩み寄り––––––
「…ちょっと、食料は…」
––––––その清明に、釘を刺す鈴の声。
––––––原則として、配給以外の食料を難民に与える事は禁止されていた。
食料を与えれば難民の幾らかは腹を満たせるだろうが、それを行えば食料を求める難民の数は次第に肥大化し、大規模な暴動行為に発展しかねない。
…それだけでなく、食料を与えた難民から食料を奪い取ろうと他の難民に襲われて嬲り殺されるかも知れない。
––––––秩序と基地機能そして難民の生命を考慮した結果が、難民に配給以外の食料を与えずに俯瞰するというモノだった。
「…分かってる。」
だが、その対応でキャンプ内で餓死する難民も増えている。
…所詮、先の対応も混乱の回避と難民に最低限の生命維持環境を与えることしか出来ないのだ。
そこには「彼らを救ってやれる」という選択肢も、要素も存在しない。
––––––どちらに転んでも、死か破滅が待ち構えている。
そしてそれを、自分達はまるで飼育ケースで死ぬ昆虫を見ているような立場に立たされている。
それが虫ならどんなに良いか。
実際に死ぬのは人間だ。私達と同じ人間で、しかも同じ国民で、まだ未来があるかも知れない子供で––––––。
…こんな環境に立たされて、良心が痛まない筈が無い。
だが、自分達にしてやれるモノは何も無い。
ただ俯瞰する事しか出来ない––––––なんて非道。
…この立場に立たされて末に重度のストレスで精神的に弱ってしまう兵士も少なくない。
だが、それ以前に彼らは明日を迎えられるかさえ分からない程に衰弱している。
––––––だから、せめてその意識に対する贖罪のつもりで、清明は子供の手を優しく包み込む。
「…ごめんね。食べる物、何も持っていないの…。」
悲哀に満ちて泣き出しそうな瞳を浮かべながら、清明は口を開く。
––––––この言葉はどれだけ残酷だろう。
––––––この言葉を言う自分はどんなに非道だろう。
そんな自問自答をしながら、清明はただ一つ出来る事だけを、許しを請う罪人のように。赤子をあやす母親のような声音で口にした。
「だから、せめて…私達が、守ってあげるから………。」
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎
2021年
IS学園第2アリーナ
「うおおー‼︎」
織斑が白式の雪片弐型の単一能力・零落白夜で敵IS–––無人型と発覚–––を切断する。
そしてアリーナに響く織斑を賞賛する女子たちの歓声。
––––––それで鈴は現実に引き戻される。
(…何、今の…白昼夢でも見てたっていうの?)
思わず、先程まで感じて、観ていた景色を思い返しながら内心呟く。
「鈴‼︎」
––––––それを遮る、一夏の声。
それにハッとして、同時に、先程までの思考を捨てる。
(そうだ、忘れよう。今は戦闘中だし何より––––––どうせ夢なのだから。)
◼️◼️◼️◼️◼️◼️
IS学園・アリーナ直下電源室間非常用連絡通路
ずん。ずん。と響き伝わって来る震動。
アリーナ直下・電源室へ通ずる非常用連絡通路は薄暗く、ナトリウムイオンランプの電灯が灯すオレンジ色の世界がコンクリート製の狭苦しい廊下に広がっている。
上は戦場。
先の場所も戦場。
震動が伝わるたびに長年放置された証拠である埃がパラパラと通路に舞い落ちる。
––––––そこを歩く人影が二つ。
何故か嬉々とした表情を浮かべながら電源設備の破壊に赴く蒼崎橙子と。
先の土壇場から遠ざかるように、と彼女に連れてこられた四十院神楽が。
(…まるで戦争映画に出て来る地下壕を歩いてるみたい。)
ふと、神楽は思う。
––––––これが戦争ならば情報伝達の伝令や増援部隊が忙しく駆け回り、端には目を背けたくなる負傷者が山積みになっているのだろう。
それがないという事が、この騒ぎは戦争ではなく単なるテロである事を証明していた。
––––––戦争とは、何千何万もの無関係の人間も巻き込むが故に、戦争と言うのである。
それがなく、ただ武器を用いた衝突––––––しかも一般生徒は安全な鳥籠で守られている今この現状は戦争などではなく、単なるテロ行為に過ぎない代物だった。
…もっとも、平和という幻想の中にある日本では単なるテロ行為でさえ致命傷になるのだが。
「…千尋達、大丈夫なんでしょうか…?」
ふと、神楽は思い出したように橙子に対して問いかける。
「ん〜大丈夫なんじゃない?上手く連携出来れば倒せない敵ではないし。」
橙子は、そんな風に気楽そうに応える。
––––––今の彼女は眼鏡をかけており、性格は温厚で女性的だ。
彼女はこんな職業柄であるが故に、眼鏡の有無で性格を意図的にスイッチしているのだそうだ。
…これは別に二重人格というわけではなく、眼鏡というアイテムの有無でそんな性格を演じている––––––本人曰く、演劇で劇団員がキャラクターを演じるようなモノ。…なのだとか。
「…ま、今頃アリーナ外の教師部隊も急行しているだろうし、多分大丈夫でしょ。」
そんな会話を交わしているうちに––––––電源室に到着する。
電源室はそこそこの広さの、4基の発電機が置かれているだけの広場。
先程の通路とは違い、部屋は日焼けマシンの中にあるような青白い電灯によって照らされている。
部屋自体は二階層構造となっており、二階までは吹き抜けになっている。
二階には、管制室らしきブースがひとつ。
壁は暗くてよく分からないが、汚れたクリーム色だろうか。
床はリノリウム製のモノが張り巡らされている。
「んー…車は確かこの下に停めたんだったな、うん。」
ふと、橙子はリノリウム製の床をぺたぺたと、まるで化石を発掘する古生物学者のような仕草で触る。
それに神楽は怪訝な顔をして、橙子に問う。
「あの、何してるんですか…それ。」
「ん?ふふ、準備だよ準備。」
––––––なんて、答えになっていない
ふと、橙子はスマートフォンを取り出すと指を弾きながら番号を打ち込んで行く。
––––––あれ、なんかこういうのって映画のワンシーンで見た事があるような…。
そう神楽が思った時には、既に番号を打ち込み終えていて。
「それじゃあ––––––ポチッとね。」
––––––直後。
爆音が下方から轟き、振動が部屋を震わせて––––––発電機が置かれた床が陥没し、発電機は下層階へと落下した。
––––––つまりこれは、
「ああ、やっぱり…
…有名な例として、今橙子が使ったような電話爆弾や圧力鍋爆弾が挙げられる。
そしておそらく、今の発電機破壊の方法は––––––下層階に駐車した車そのものを爆薬にこのフロアを支えていたメガ柱を爆砕。そして発電機そのものの重みで崩落、自壊させるという方法。
…というか、発電機なんて重いものの下に空間なんてあるのだろうか。
これが非常時に於ける敵性勢力への対抗措置だから良かったものの、本当にテロで起きてたらどうなっていたのか…。
ていうか、コレ自体テロ行為じゃ…。
––––––まぁ、何はともあれ…これで、アリーナはシールドバリアを除いて全ての機能が停止した。
あとはそう––––––あの2人が、無人ISを仕留めれば、それでお終い。
––––––決着の狼煙が、上がる。
尺の都合で今回はここまでです…。
すみません、ほとんど並行世界に尺を使ってしまって…。
次回こそ並行世界要素無しに片付けて決着をつけさせますので…。
次回も不定期ですがよろしくお願い申し上げます。