シン・インフィニットストラトス/GrAE   作:天津毬

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今回は前回の銀龍戦後です。

千尋「…ここに来て、日常を書きたかった事を思い出しギャグにひた走る作者であった。」

たまには日常的なシーン書きたかったんや…(´・ω・`)
あ、それと今回は楯無さんが登場します。
しかし彼女の帰属先は原作通りロシアはロシアでも…?








EP-13 事後:楯無、帰還。(皇女、来日。)

「––––––ラウラ…?」

 

…私にソックリの少女。

しかし––––––髪の色、瞳の色は。

かつて私がドイツで教え子として技術を与え、私にひどく懐いていた少女と瓜二つ。

––––––だから不意に、教え子(ラウラ)の名前が口より出てしまった。

しかしそれを否定するように––––––

 

「––––––誰の名前だ?ソレは(Whose name is it? Sole is.)。」

 

窓から吹き込む風に白銀の髪を揺らし、赤い紅い瞳で女を睨みながら。

ベッドから上半身を起こした少女は、全身のあちこちに包帯を巻き、右腕と左脚にはギプスを嵌めて––––––彼女は口を開く。

その回答は半ば分かっていたように、私の認識を修正させる。

…そうだ。

世の中には顔の似た者が5人いるという。きっとソレなんだろう。

そうだ、ラウラがここに来るハズが無い。

…一瞬の落胆。

…とはいえ、彼女はアリーナを強襲した銀龍から引きずり出してきたパイロットだ。

だからともかく情報を聞き出す必要がある。

だがすぐに顔を上げて。

 

「あ、ああ––––––教え子の名前だ(It is the name of a student.)

その…よく似ていたから…つい(That ... It looked like a lot, so it just caught my eye.)。」

 

ああ…それと(ah I see. ... and,)––––––日本語で構わない。」

 

…ごく自然なまでに流れていた英語を用いた会話のキャッチボールを、ここに来て少女は中断した。

…どうやら、若干の訛りがあるとはいえ日本語も話せるようだ。

 

「そうか…では聴くが––––––お前は何者だ?」

 

閑話休題。

ここに来て、話の核心を叩きつける。

…少女は、冷めた瞳のまま。

私/千冬を品定めするように見つめた後。

 

「––––––国連統合軍(・・・・・)太平洋方面第6軍第117航空機兵中隊所属、マドカ=アハト准尉。」

 

ツラツラと少女は所属と姓名を告げる。

––––––だが、千冬は違和感を覚えた。

彼女はこう言ったのだ––––––国連統合軍(・・・・・)、と。

…国連軍自体は珍しくない。

国連軍は第3次世界大戦後の、

––––––EUが崩壊した第3次非核ヨーロッパ大戦。

––––––オーストリア=ハンガリーの始めたバルカン安定戦争。

––––––ニューギニア島の所有権を巡る尼巴紛争。

––––––ロシア帝国が復古したロシア帝国復興独立戦争。

––––––飲み水の奪い合いから始まった南米水戦争。

––––––上海と香港が独立した中国大陸自由解放戦争。

––––––民族衝突激化によって悪化したアフリカ民族紛争。

それらの地域戦争が頻発する混乱期を経て、ヴァチカンで結ばれたクリスマス休戦臨時条約によって戦後復興を目的に設立された常設の軍事組織だ。

基本的に国連軍は地域紛争が続くロシア地域や中東、アフリカ、南米などの各地に展開し、紛争の抑止と難民救援に回っている。

だが、統合軍(・・・)ではなく平和維持軍(・・・・・)

…名称が違う。

公職の軍人が間違えてるとは思えない。

否––––––それ以前に、彼女自身が軍人であるにはあまりに若過ぎる。

教え子である少女(ラウラ)と似たようなその姿に、千冬は僅かに顔が歪む。

 

「––––––で、貴女の名は?」

 

それを断ち切るように、マドカは口を開く。

問いかけたその顔は、まるで人形のようで。

 

「…私は織斑千冬。ここ、IS学園の教師をしている。」

 

「––––––オリムラ?––––––IS学園…?」

 

ふと初めて、少女のその人形めいた顔が疑問に歪んだ。

内心混乱しているのか、目をあちらこちらに泳がせながら頭の中を整理して。

 

「––––––そう…貴女が私の義母にあたるワケか。」

 

––––––とんでもない爆弾発言を口にした。

 

「––––––は?」

 

思わず、思考が停止した。

それは仕方ない。

何しろ––––––身内にマドカ、なんて名前の者はいない。

" 血縁に連なる者が何処かで作った娘か? "

––––––なんて、千冬が頭を抱えていると。

 

「––––––なんだ、苦労してるみたいね。」

 

––––––ふと、温和な声がした。

マドカも千冬も声の音源を視覚した。

…そこには、白いシャツに黒スーツのズボンとラフな格好をした橙子がいた。

 

「橙子––––––」

 

「皆まで言わなくて良いわ、千冬。さて、いくつか聴きたいのだけど––––––」

 

マドカの話に顔をしかめる千冬をねぎらうように微笑みかけ。

メガネを外しながら口を開き。

 

「––––––あの機体。我々に銀龍と仮称しているが…アレは量産機か?」

 

「––––––な、…⁈」

 

––––––冷酷な口調にスイッチを入れ、マドカに問いかける。

息を飲むように絶句したのは千冬。

第3世代機に相当していたあの無人ISをいとも容易く殲滅し––––––ともすれば、モンド・グロッソ(第2回国際IS大会)で機体の性能及び技巧で私と競い合った準優勝者(ヴァルキリー)さえも上回る能力。

さらには––––––零落白夜まで実装している。

…単騎でさえ鎮圧が困難であろうあの機体がただの量産機(・・・・・・)だという。

––––––まだ、決まったわけでは無い。

だがIS技師の橙子が聴くということはつまり。

 

「––––––そうだ。昨年から配備が始まった。」

 

マドカの解答。

" ––––––やはり、そうか。"

橙子の問いと千冬の懸念は具現化した。

千冬は本日何度目か分からない、頭痛に眉間を抑え。

橙子は口を開く。

 

「銀龍にはB型とあったが…意味は?」

 

「B型は地上配備の戦闘攻撃型仕様の機体…主に防空や直接戦闘に回される。」

 

「…他にも型はあるのか?」

 

「––––––現在はB型に統一・廃止されたが先行量産された300機が稼働中の攻撃型のA型、艦載機仕様のC型、海兵隊仕様のM型がある。」

 

––––––少女の話に千冬も橙子も僅かに戦慄する。

…B型に統合・廃止されたが、先行量産され稼働中のA型が300機。

––––––航空自衛隊の戦闘機配備数に匹敵する数がある。

…廃止された先行量産機でこれなのだ。

マドカが乗っていたB型の他にC型、M型も考慮すれば…優に、1200機以上の機体がいてもおかしくはない。

––––––ISコアの個数の3倍以上の数。

数年前ならば不可能だと一蹴されていたが…今ではそうもいかない。

デュノア社が開発した、シールドエネルギーを貯蔵・搭載する事で運用可能とするISコアの代替品––––––ISコンデンサーが普及した今ならば、推定1200機以上の銀龍の量産配備も不可能ではない。

…だが、ここで矛盾が生じる。

アラスカ条約で、一国のIS保有可能数は600機まで––––––と制限されている。

その倍近い数を保有することは、即ち条約違反。

国連からの制裁対象となる。

如何に彼女が国連軍とはいえ、国連軍はアメリカを主とする各国から抽出した戦力の寄せ集めに過ぎず、使用している兵器もほぼアメリカ軍のもの。

––––––であれば彼女の使用している銀龍もアメリカ製であり、アメリカは条約に違反している事になる。

仮にアメリカが600機、他の傀儡国にあたる国が合わせて600機を持っている…にしても無理がある。

––––––何より、北には大イギリス連邦王国領カナダが存在する。

第3次世界大戦後に衰退した米中露の穴を埋めるようにEU崩壊後の欧州が台頭。

––––––特に、イギリスはブリテン島を起点にカナダ、フォークランド、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、スリランカから成るイギリス連邦を拡大。

––––––大イギリス連邦王国に改称。相変わらず世界第2位ではあるが、アメリカ軍との軍事力の差を埋めつつある。

…そんな大イギリス連邦王国が、アメリカの大量配備を見逃すはずが無い。

 

「––––––それと、あの機体には…銀龍でなく、JMS-20(ヴァルチャー)という名がある。調べていたのなら知っているだろう?」

 

「ああ、だが千冬に情報を共有する前で君の目が覚めたらしくてな––––––便宜上そう呼ばせてもらった。」

 

––––––思案する千冬の隣では、相変わらずマドカと橙子が会話を継続している。

…橙子としては…趣味半分、情報収集半分であるが、その聞き出した情報を基に、千冬は判断材料の確保に至る。

––––––自然と、2人は面会(尋問)におけるポジションを確立していた。

 

「そうか––––––機体の詳細を調べたければウィ◯ペディアでも調べてくれ。ただの通常兵器なんだから、すぐ出るだろう?」

 

「––––––ああ、そうするよ。」

 

––––––だが、そんな情報はどこにも乗っていない。

橙子の後ろでスマートフォンをもって調べながら、千冬は怪訝に顔を歪める。

彼女は本気で一般情報サイト(ウィ◯ペディア)にも普通に掲載されていると言ったが、やはり無い。

 

" ––––––彼女がウソをついているようには、見えないが…。"

 

千冬が思いながら、マドカに視線を向ける。

内に秘めているのは疑念。

…マドカに対する不信はもちろん。

…アメリカに対する疑惑と。

…彼女と自分達の常識にさえ。

––––––それを裏付けるように。

 

「それとだが銀龍…否––––––JMS-20(ヴァルチャー)は何と戦うことを前提としていた?」

 

橙子の問い。

それにマドカは––––––ポカン、とする。

まるで、常識知らずの田舎者を見たような顔をして。

…あるいは––––––『お前は何を言っているんだ?』と頭のおかしい人間を見るような顔をして。

 

「そんなもの––––––決まっているだろう?」

 

マドカの試すような問い。

…これに答えられないなら、お前は余程の世間知らずか頭の可哀想な奴だ、とでも言うように。

 

「決まっている…とは?」

 

それに、橙子は問い返す。

マドカの言っている事は理解出来ない。

だが––––––マドカに対して、銀龍…JMS-20(ヴァルチャー)に対する仮説が現実になろうとしているからだ。

 

 

「––––––巨大不明生物以外に、何がいる?」

 

 

––––––湾港に着岸する戦艦ガングートの警笛と共に、この世界に存在しない(・・・・・・・・・・)モノの存在が、2人の鼓膜を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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同時刻・IS学園西区画第2埠頭

ロシア帝国海軍戦艦ガングート

 

「…いや〜、鼓膜破れるかと思った……」

 

桟橋に接舷・停泊したガングートにかけられたタラップを踏みながら、未だに耳鳴りする耳朶を擦りながら––––––学園生徒会長にしてロシアIS国家代表の更識楯無は口を漏らすように言う。

唐突な艦砲射撃の発令に心の準備も耳を塞ぐ暇もなく、至近距離からの砲撃の爆音で耳がイカれたのだ。

…しかし周りのロシア帝国将兵は普通に耳を塞いでいた。

––––––私が少し鈍っただけなのだろうか?

…まぁ、簪ちゃんに見られてないとサボリ魔な側面が出ちゃうから、その辺が悪さしたのかもしれない。

––––––それにしても。

 

「…【産廃の兵器】たる戦艦が間接的とはいえISを打ち負かすなんて。」

 

思わず口に出る。

事実、制空権を統べる者が戦場を支配する存在となる現代で戦艦は無用の長物だった。

…それは氷河期を乗り越えられず、哺乳類に世界の支配権を明け渡してしまった恐竜のように––––––鋼鉄の化石と化していた。

…それが、現代兵器を凌駕する超兵器であるはずのISを結果的に打ち負かす要因になるなんて。

現実に見た事とはいえ、にわかには信じがたく、そして皮肉な話だった。

––––––と。

 

「––––––第3次世界大戦とその後の混乱期にシーレーン確保に努めた猛者を産廃呼ばわりとは、よく言うわね…タテナシ。」

 

冷水のような声。

それは凍てつくように冷たい氷気を纏いながら、芯には暖かい熱が篭った声。

 

「げっ––––––…!?」

 

" そうだった!よりによってこの人までいるんだった––––––!! "

 

思わず楯無は飛び上がりながら振り返る。

そこには、灰色に近い銀髪の––––––海軍のセーラー服に身を包んだ少女が一人。

…あまりに軍服が似合わないその少女は、どちらかといえば王族や貴族の着るドレスなんかの方が似合うような、そんな少女。

––––––その背後に、体長3メートルのヒグマ(・・・・・・・・・)をペット感覚で連れて行ている事を除けば、彼女だってドレスが似合うだろうさ…ってちょっと待って!

 

「なんでミーシャが居るんですか⁈いくら皇女だからって軍艦にペット持ち込むのは…!」

 

––––––まず普通に考えて無理である。

だが、…ああ、そんなこと?と少女は意外そうな顔をしてから。

 

「ミーシャは海軍二等兵––––––つまり一兵卒の軍人だもの。」

 

ニコリ、と微笑みながら。

––––––その証拠に、ミーシャと呼ばれた体長3メートルのヒグマは、海軍のベレー帽を被り、首輪に二等兵の階級章をぶら下げて重さ1トンにも及ぶ––––––46cm砲弾を3発背負って運搬していた。

 

「…そ、」

 

" そう来たか––––––––––––! "

 

思わず楯無は頭を抱えた。

確かに、一匹の動物が一兵卒の軍人として扱われた例は過去(第2次大戦)にポーランド陸軍第22輸送中隊の兵隊クマ(ヴォイテク伍長)など、前例が存在する。

…しかしまさかソレと同じ様な事をやってしまうとは誰が考えよう。

––––––ていうか貴方、皇室でソファー役にされてたんじゃなかったの?!

 

「––––––あら、失敬ね。ミーシャは私とずっと一緒に居たわ。

…それこそ、まだ陸戦隊の頃はペトロパブロフスク上陸作戦時に赤ロシア人を2人で撃ち殺しながら千切っては投げ、千切っては投げと血祭りに上げ、戦艦勤務となってからはあの凍てつく地獄のオホーツク海海戦だって荒波と冷気の中を2人で砲弾を抱えて給弾に走り回ったりしたのだから。」

 

––––––何その話、凄く気になる。

ていうか何このスーパー皇女とスーパーヒグマ。

…思わず、目が点になる。

そんな楯無を見て。

 

「––––––さて、タテナシ。さっきはガングートを産廃と言って居たかしら?」

 

––––––天使のように。

––––––謳うように。

––––––白い悪魔が微笑う。

––––––背後にスーパーヒグマ(じゃあくなるもの)を引き連れて。

少女は楯無に問いかける。

…ヒヤリ、と汗が零れ落ちる。

その汗さえ氷結しそうなほど––––––威圧に満ちた冷風が私だけを凍て付かせる。

 

「––––––ちょうど良いわ。

…私とミーシャとガングート、私達がどんな戦歴を経て来たか、貴女の納得が行くまでミッチリ話してあげるわ。」

 

「ぇ?いや、は、はは––––––遠慮しま…」

 

––––––後ずさる。

ヤバイ。

絶対コレ1日以上かかるヤツ。

…そう本能で理解したからこそ、楯無は逃げようとして。

 

「ミーシャ。」

 

––––––しかしそれは叶わず。

…眼前に、3メートルを超える壁––––––否、熊が二足で立ち上がり、襲いかかる。

そこには。

––––––人間の頭蓋を叩き砕く爪。

––––––人間の頭蓋を噛み砕ける顎門。

––––––人間を全身粉砕骨折至らしめる体重。

それらを持った怪物が。

…その余りの迫力に、脚が竦む。

…その余りの威容に、ISを展開することさえ思考から弾き出される。

それはそのまま––––––楯無を押し倒す…!

 

「…って、わぎゃ––––––は、離して!離して頂戴ちょっと!ねぇってば!」

 

「では––––––そうね、私の借りた部屋で詳細に綿密に具体的に昔話をするとしましょう。」

 

「ちょ、離して!許して下さいってば、この戦艦脳––––––––––––!!」

 

––––––なんて、情け無い悲鳴が木霊した。

…そして、淡々と作業をこなしながらも、自分達の艦を産廃呼ばわりされた事にはイラっと来ていたのか。

 

(((––––––グッジョブ(отличная работа)…!!)))

 

––––––と、その場に居合わせた全員が思ったそうな。

 

––––––ああ、なんでこうなったんだろ…?

ミーシャと少女に連行されながら、楯無は思わず呟いた。

…それはしばし遡る。

 

 

 

 

––––––48時間前。

 

新生ロシア帝国領カムチャッカ地方

首都ペトロパブログラード・カムチャツキー

キルピチナヤ行政区・ノヴィアゴーニ宮殿

 

––––––肌を刺す、冷気に満たされた世界。

摂氏マイナス10℃の世界に佇む、ゴシック様式の巨大建造物。

…それこそが、この「帝国」を統べる皇帝の住まい––––––「新しい炎」の名を冠する宮殿であった。

 

 

 

––––––その一室。

 

 

 

「…そう、帰ってしまうのね。」

 

粉雪のように、しかし絶対零度のような声音が部屋に鳴る。

声の主は如何にも高級感漂うソファに座しながら、眼前に移る蒼髪の少女––––––更識楯無を見つめながら口を開く。

 

「また宮殿も寂しくなるわ。父様は戦場に赴いてばかり。母様はアレクセイの世話で忙しい––––––せっかく貴女というお友達が出来たのに。」

 

––––––この裏切り者、と約束をすっぽかした友人を睨みつけるような目で言外に告げる。

視線を向けられた相手は。

 

「いや〜、だって貴女にはミーシャとユスポフさんがいるじゃないですか〜。」

 

––––––にゃはは、と。なんてことも無いように笑いながら部屋の主人に言い放つ。

––––––その主人の後ろには、ソファーと一瞬見間違える異形がいる。

––––––3メートルの、ヒグマが。

主人はそのヒグマに子熊(ミーシャ)と名付けて可愛がっていた。

 

「…ミーシャは居てくれると嬉しい。けれど言葉が通じないから分からない。カルヴィンはフランス人だもの。きっと何処かで女を作っている。」

 

––––––少し物悲しく、しかして酷い偏見の混じった言葉を部屋の主人は言う。

…後者は間違いなくフランス人への当てつけ&風評被害だろう。

…楯無は、それで困ったように苦笑いを浮かべる。

––––––それを見て、部屋の主人はほんのり笑う。

 

「…冗談よ。ミーシャはともかく、カルヴィンに女は作らせない。彼を拠り所にしたのは私が先だもの。」

 

––––––浮気したら去勢ものね。と付け加えながら、部屋の主人は相変わらず冷水と湯水が共生しているような声音で言う。

去勢––––––という単語に対談している楯無は「ヒェッ…」とワザとらしく身を縮めるようにして反応する。

…こちらも部屋の主人がどんな反応をするか試しているのだ。

––––––つまり二人共、今見せている表情は嘘という事になる。

片や––––––日本政府内閣府直属情報庁【暗部1課】の長、楯無こと更識刀奈。

すなわち日本の諜報員にしてその長官。

片や––––––新生ロシア帝国皇室第3皇女、オリヴィエ・ミハイル=ロマノヴァ大公女。

すなわち新生ロシア帝国の皇族に連なる少女。

楯無は1人の日本人にして1人の諜報員に過ぎず、対してオリヴィエは新生ロシア帝国臣民––––––4000万人以上の白系ロシア人と800万人以上の緑ウクライナ人、1500万人以上の亡命ロシア人からなる6300万人––––––の上に君臨するであろう指導者の一人。

––––––否。それ以前に彼女は1人の兵士でもある。

…皇族の者が兵役に就くのは当然の話。

そして彼女は核ミサイルが飛び交う中、カムチャッカ半島と樺太にて展開された新生ロシア帝国(白系ロシア国家)独立(祖国奪還)戦争に参加。

––––––戦艦ガングートのクルーとしてオホーツク海海戦などを経て生還している。

 

「ところで軍隊、大変でしょう?」

 

「いいえ。」

 

楯無の気を遣った問い––––––それを両断するように即答する。

 

「この100年間、散り散りとなった白系ロシアの民に比べれば、私の苦労などたかが知れているわ。」

 

––––––白系ロシア人。

1914年のロシア革命に伴う、ロマノフ王朝の崩壊とロシアの社会主義化。

それを嫌い、ロシア国外に亡命する事を選んだ非ソヴィエト系旧ロシア帝国国民。

…難民、と言ってしまえば身も蓋もないが、その実態は旧ロシア帝国で革命後に反革命的であるとのレッテルを貼られるなどし、切迫した危険を感じたことなどにより亡命を余儀なくされた無辜の人々である。

––––––こんな馬鹿げた話があってたまるか、と思うだろう。

だがこれは、1910年代半ばから後半にかけて現実に起きた話なのだ。

もし国内に残留しようものなら思想キャンプに更迭されるか粛清か。

貴族であれば、問答無用で処刑されるか末裔に至るまで延々と差別の対象となる。

…亡命すれば、野垂れ死ぬ可能性はあるが人並みに生きていける。

––––––ソヴィエトでは人並みに生きることさえ許されない。

そしてそのソヴィエトに取り残された者も数多多くいた。

逃れた者達も、欧米や日本などに逃れるしかなく、事実上ロシア帝国は消滅してしまった。

––––––だが、第2次世界大戦終戦後の1961年に至ってから、ロシア帝国は唐突に復刻した。

純血のロシア帝国人はもはや居らず、カナダ系やフランス系に北欧系など混血の者が大半––––––だが、自らの国が欲しい熱意は本物。

それらに加えてウクライナ人にポーランド人、グルジア人も加わり、非ソヴィエト系旧ロシア帝国地域民族連盟をカナダ・ユーコン準州にて構築し、オールドランパードに白系ロシアおよび諸民族自治区が開設された事が新生ロシア帝国の始まりだ。

東西冷戦。

ソヴィエト崩壊。

20世紀の終わり。

白騎士事件。

第3次世界大戦。

––––––混迷の時代の果てに、白系ロシア人はカムチャッカ地方を中心に新生ロシア帝国…正式名称:《カムチャツカ・ロシア=極東ウクライナおよび東方イスラエル・北樺太(サハリン)連合帝国》

 

 

 

 

 

 

––––––––––––

 

その地は、かの世界では【ロリシカ共和国】と呼ばれていた。

 

––––––––––––

 

 

 

 

 

 

の形成にまで至っている。

…新生ロシア帝国の置かれているカムチャッカ半島というと、火山と熊に大自然以外何も無いように見えるがその実、石油に鉄鉱脈、石炭など––––––手付かずの地下資源が大量に埋蔵されている。

おまけにこの地域は地熱発電には持って来いの立地な上に高緯度地域では貴重な不凍港も存在する。

––––––かつて技術の少なかった100年前ならいざ知らず、相応の技術が発達した現在において、アメリカの支援が有ったからとはいえ国家基盤を築くのに1年とかかる事もなく、極東地域の新興有力国家としてのし上がった。

…問題が有るとすれば、食料は日本やアメリカ・カナダからの輸入に依存している点と、未だロシア連邦(旧ソヴィエト)と国境紛争が起きている点だろうか。

 

「––––––未だに茶々を入れてくるピョートル・グラード(ウラジオストク周辺地域)が鬱陶しい事けれど……まぁ、仕方ないでしょうね。彼らも太平洋側の利権を失いたく無いだろうもの。」

 

覚めた瞳でオリヴィエは言う。

––––––ピョートル・グラードは中国と北朝鮮に国境を接する沿海地方南部に位置し、ピョートル大帝湾に面する不凍港ウラジオストクを中心としたロシア極東連邦管区の飛び地であった。

2015年12月25日のクリスマス臨時休戦協定とチューリッヒ条約に基づき新生ロシア帝国が独立した際、太平洋利権を手元に残したいロシア連邦は沿海地方南部・ウラジオストク一帯の領有権を頑なに固辞した。

ロシア沿岸地域はそのほとんどが冬季に氷結する為、不凍港の存在はその地域一帯のみならず国家の生命線でもあった。

アジア方面沿岸部から手を引けば、自らの勢力圏が大幅に後退する。

それをどうにかしたいが故のゴリ押しであった。

新生ロシア帝国としても、それには抗議したいのは山々だったが、何しろ国力は腐っても大国であるロシア連邦の方が上。

善戦の末に条件付き降伏に至らしめるのが限界であった。

––––––故に、休戦と事実上の国境設定が完了して5年が経過した現在でも、ピョートル・グラードはロシア連邦・ロシア帝国双方にとっての火種であった。

故に、ロシア帝国は日本と連携してタタール海峡から宗谷海峡、津軽海峡にまで伸びるロシア連邦封鎖網––––––事実上の海洋封鎖を実施し、ピョートル・グラードに圧力をかける政策を実施していた。

これに日本は何の利益もない––––––という事はなく、第3次世界大戦を経てもなおロシアが実効支配する北方領土とピョートル・グラードを分断する事が出来る。

そしてその状況を維持し、時間が経てば…北方領土奪還に至る可能性もゼロではない。

––––––対ロシア連邦政策ではロシア帝国と日本は利害が一致しているからこそ、実現可能な話だった。

––––––閑話休題––––––

 

「ところで私も日本に行くわ。」

 

「ぶっ……⁈」

 

オリヴィエの唐突な発言に楯無は思わず吹き出してしまう。

––––––まぁはしたない、行儀がなっていないわ。…とオリヴィエは呟きながら。

 

「…何を驚いているの?私の乗艦であるガングートが日本に演習に行くのだから、私が日本に行くのは当然でしょう?」

 

––––––ミーシャの頭を撫でながらオリヴィエはにべもなく言う。

…こうして私––––––更識楯無はヤベェ女と共に日本に帰ってくる事になったのだ。

…国家代表志望先…間違えたかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎

 

 

IS学園保険衛生棟2階・第205病室

 

…瞼は開いたまま、千尋は眠っていた。

––––––瞼がないわけではない。

ただ、以前は瞼のない肉体だった為に「目を閉じる」という動作を知らないだけ。

…ふと、ぴくんと身体が脈打つ。

意識が表層化––––––つまり、眠りから目を覚ました。

しかし視界はブラックアウト。

視神経が脳から切断されていたから当然といえば当然。

なので、目を覚ましたことで––––––視神経が脳に接続する。

––––––ブラックアウトしていた視界に光が差し込む。

…急速な光度の変化に対し、眼球が自立対応することで視界の焦点がクリアになる。

 

「––––––知らない天井だ。」

 

思った事を口にする。

眼前に広がるのは、清潔感のある白い天井。

その下にあるベッドの上に、自分は寝かされていて。

––––––なんでこうなったんだろう?

…銀龍を切り裂いて、その後––––––血管(パイプ)から漏れ出したG元素が連鎖的に体内を焼いて、脳内の血管も破裂して。

––––––そこまでしか記憶がない。

…寝落ち…?でもしてたのかなぁ––––––まぁ、疲れたし。

きっとブレーカーが落ちたみたいに寝ちゃったんだろう––––––と千尋は思う。

無論その通りであるが…実際は––––––立ったまま、おまけに目を開けたまま気絶していたのである。

––––––後に山田先生はアレは軽くホラーだったと語っていた。

 

「ちょ、離して!許して下さいってば、この戦艦脳––––––––––––!!」

 

窓の外から、知らない女の叫び声が木霊する。

––––––誰だろう、なんだか楽しそう。

ベッドから起き上がり、窓枠に頬杖をつきながら、声の主を見下ろす。

寒そうなのに、炎を宿したような女の人とヒグマにドナドナされる、蒼髪に赤目の少女が1人。

…このまま見ていても面白そうだけど。

 

「それより箒…。」

 

ふと、箒の病室を探して足を動かした。

––––––瞬間。

 

「こンの––––––変態がァ!!」

 

ばきゃあっ、と。

『ああ、良いところに入ったな』という音と共に、隣のベッドを仕切るカーテンから、人影がひとつぶっ飛んでくる。

 

「––––––?」

 

反応が遅れる。

そしてそのまま––––––顔面に人影が直撃する。

 

「ふぎゅっ⁈」

 

「………………。」

 

…ごぉん、という除夜の鐘めいた音が鳴ったような幻聴を聴く。

千尋は直立不動のまま。

一方の人影はコンクリートの壁と正面衝突でもしたかのように伸びている。

伸びているのは、金髪の縦髮ロール…セシリア・オルコットであった。

…視線を先に戻すと。

––––––そこには、あの痛ましい肌を晒しながらも。

セシリアに脱がされたらしいシャツで、膨よかな胸の谷間を恥じらうように隠そうとしている、年相応の少女らしい––––––箒の姿が。

…今の蹴り/もしくはパンチを放ったのは箒らしく、肩を上下させながら息を荒げていた。

––––––ふと。

 

「「……あ」」

 

目と目が合う。

––––––そして、互いに思考と肉体の動きが凍結/停止する。

…千尋は、顔を赤面させながら恥じらう箒を前にして––––––全存在が、異形的な歓喜に押し揺るがされた。

血液は奔騰し、器官は興奮の色を讃える。

恥じ入る箒の姿は、張り裂けるばかりに内側から沸々と燃え上がる黒い衝動にガソリンを投げ打ち、今までになく激しく自分の脳を侵蝕する暗く輝かしいものが身体と精神を犯そうと昇って来る。

その、千尋にはよく分からない未知の感覚が全身で滾り狂う。

––––––それは、人間でいう欲情であった。

…箒は、千尋に見られている事に気付くや否や––––––心臓を起点に、混沌が全身に波及した。

血液は沸騰し、内臓は萎縮しながらも、膣は奇妙な燻りを覚える。

熱が迸る器官は憤怒の色を讃えながらも、底無しに溢れくる黒い欲望と純潔を守りたい白い欲望が混じり合い、灰色のなんとも言えない感情が宿る。

…眼前で平静を装いながらも凝視する千尋に対して、怖れと同時に、その純粋さに愛らしさを観る。

––––––しかしそれは。

 

「…かわいい––––––」

 

千尋のその一言で、恥らいと興奮の均衡は崩壊し。

 

「ちょっ…⁈み、見るな––––––––––––!!」

 

羞恥心が興奮を押し殺し、茹でダコのように顔を赤一色に染めた箒は。

––––––千尋の顔面目掛けて、手にした枕を時速150kmという豪速で投げつけた…!

 

「へぶ––––––––––––⁈」

 

…それで、千尋の中で疼いた黒い衝動は霧散する。

 

「あ、あんまり人の裸体をジロジロ見るな!

この––––––…」

 

枕を投げつけた千尋目掛けて、いそいそとシャツのボタンを付け直しながら戒めの言葉を吐く。

…だが、最後になんと締めれば良いのか、言葉が見つからずに喉が詰まる。

––––––数秒、思考して。

 

「––––––この、スケベ…。」

 

頰を赤く緋く紅く染め上げ、湯気さえも出しているかのような錯覚を覚える程に、羞恥心に満ちた顔を伏せながら––––––箒は言う。

…そこには羞恥心以外に、枕を投げつけた事に対する罪悪感も宿しているかのように。

––––––そんな箒の手を、千尋は掴んで。

 

「うん。ごめん。」

 

––––––屈託の無い笑みを浮かべて、箒に言う。

…それに、箒は目を見開く。

どうして謝る?と言外に問うように。

 

「だって悪い事したら『ごめんなさい』するのが掟だって教わったから。」

 

––––––それにやはり、屈託の無い笑みを浮かべて応える。

…箒はその、本能剥き出しのクセにあまりにも純粋過ぎる千尋が眩しく見えて。

 

「––––––うるさい、ばか…。」

 

顔を背けながら––––––口を開く。

 

「––––––それと…枕投げて、すまない。」

 

「うん、いいよ。」

 

屈託なく応えるその少年が、箒には可愛らしくて、何処か恐ろしくて––––––愛おしくて。

––––––だからこれからも、こいつの為に一緒に居てやろうと思わされた。

 

 

 

 

 

 

「…そういえばセシリア伸びてるけど、何があったの?」

 

––––––ふと、良い感じだった雰囲気を台無しにする問い。

…このまま無視していれば丸く収まったのだかま、確かに気になるのも事実。

箒は少し羞恥心が復古してくる自身に鞭を打ち––––––。

 

「その––––––あのあと、胸を強く打ったらしくて…痛くてな…。」

 

「うん。」

 

「だからその…ベッドのシーツで擦ったりしながら和らげようとしていたんだがな…。」

 

「うん。」

 

「––––––オルコットが、来て…。」

 

「うん。」

 

「ユーカリエキスの痛み止めに良い塗り薬があるから…っ、と……。」

 

「…うん。」

 

––––––実際のところ。ユーカリ自体には殺菌・解毒・鎮痛作用がある為、痛み止めに用いることは何ら不思議ではない。

不思議ではないのだけど…嫌な予感がするのは何故だろうか?

 

「…当初は、ありがたく貰おうと思ったんだ……思っていたんだ………。」

 

「……うん。」

 

「……そしたらあろう事か塗ってあげると言って……私のシャツを脱がして、チューブから指に塗り薬をだして………私の胸に…押し付けて、来たんだ………。」

 

「………うん…。」

 

「…突然の事に、抵抗することさえ忘れて……終いには、胸の谷間まで、その……指を、入れられて––––––…乳房、にまで…指を這わせて、来る、し……。」

 

「……………………。」

 

「し、終いには––––––『気持ちいいですか?』なんて、愉しんでる、顔で聴いて来て…だから、ワザとやってると思ったから、蹴っ、飛ば、した––––––––––––。」

 

「…………………………。」

 

––––––羞恥心に抗うように、千尋に言う。

…それはもはや公開処刑。

だが––––––千尋は、理解能力の許容量を超過したのか、表情は普段のままに。

目を丸くして、背景が宇宙になっていた。

 

––––––ふと。

ガタッと音がして。

 

「あ––––––…」

 

––––––振り向くとそこには、退散しようとしていたオルコットが。

 

「あ、あはは…では(わたくし)はこれで––––––」

 

「待って、オルコット。」

 

退散退散––––––と逃げようとするセシリアを、千尋が止める。

 

「…はい?」

 

ギ、ギ、ギ––––––とブリキのような錆びた動きで、恐る恐る振り返る。

––––––そこには、紫色(しいろ)の炎を燃やした虚構の怪物が、一匹。

 

「オレ、オマエ、コロス。」

 

憎悪と嫉妬滾る––––––処刑宣告を告げる。

…それを。

 

「ちょっと待て千尋––––––!!」

 

ベッドから飛び上がり、千尋にのしかかる形で箒が拘束する。

––––––前言撤回。

" 『こいつの為に居てやろうと思わされた』ではダメだ!絶対一緒に居ないとダメだ!!こいつにはやはり保護者が必要だ!!! "

––––––と、箒は改めて思い知ったそうな。

 

 

 




今回はここまでです。
…補足ですが、マドカが巨大不明生物と戦うと言ったことに千冬と橙子が驚いていたのは––––––
「そんな物がいるのか⁈」
という内容ではなく、
「そんな物がいると本気で思っているのか⁈」
という反応です。
…つまり、シンIS世界は【怪獣が存在しない】。
なのにそれに対抗する為、さらには巨大不明生物の存在が常識であるかのようにマドカは言っている。

––––––(以下、略)––––––。

…久しぶりに日常っぽい内容書いてみましたが…案外、良いものですね…(ゴジラISも早く日常回に戻れるようにしないと)。

次回も不定期ですが極力早く投稿致しますのでよろしくお願い致します。


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