2015年8月13日
東京・千代田区
内神田1丁目・伽藍の堂
––––––そいつに出会ったのは、関東大水害の一か月くらい前だ。
世間では盆を迎えるにあたり、仏教徒の間では先祖を死後の世界から現世にある自分達の家に迎え入れる【迎え火】を焚く日。
時間は深夜。
その晩は雨が降り茂り、辺りは暗く、アスファルトに雨粒が叩きつけられる雨音以外聴こえない闇夜に閉ざされた夜だった。
橙子がふと外を見た時に、それはいた。
入り口のところで薄汚く汚れた黄色いレインコートを羽織って、こちらを見上げている少年らしい人影が。
(こんな時間に子供がいるなんて珍しい。)
普段ならば気にもかけないが、何故か少年らしい人影に違和感を覚えた橙子は入り口のところまで降りて行って入れようとした。
その違和感が何かは分からなかったが仮にも子供だ、あのまま放置しては風邪をひいてしまう。
––––––とりあえず匿おう、そう思ったのだ。
「––––––⁉︎」
だが、入り口の玄関にまで来てガラス戸の前まで迫った時、橙子は少年らしい人影に感じた違和感を察した。
––––––黒い。
少年らしい人影の肌が異様に黒いのだ。
アフリカ系人種のような肌の黒さではなく、それは火傷で爛れ落ちたケロイドと言うにふさわしい有様だ。
それだけでなく、手足の形は明らかに人のそれではなく、まるで爬虫類のものに近い。
なにより、顔は––––––目がギョロリと覗き、歪な程に歯並びの悪い口が口角を吊り上げて、不気味に嗤っていた。
––––––常人ならば絶叫して逃げ去る程の、この世のものとは思えない、人ではない、俗に言うバケモノ。
少年らしい人影の正体はソレだった。
しかし、逆に橙子はそのバケモノに好奇心を刺激されて興味が湧いた。
なんせ、今自分の前に見た事もない生き物がいるのだ。
しかもレインコートを羽織っているあたり、多少の知能がある。
どういう生き物なのか。
主食は何か。
排便はどうするのか。
言葉は通じるのか。
知能はどれだけあるのか。
そして何より、可愛い。
自分達のような俗物まみれの人間より、圧倒的に可愛い。
––––––知りたい。
橙子はそう思い、ガラス戸を開け放ち、そのヒトガタのバケモノを招き入れた。
それが後の黒坂千尋になるバケモノとの、ファーストコンタクトだった。
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2021年・4月中旬
IS学園・第2シャフト・地下駐車場
イギリス製の外車であるアストンマーティンが1台停めてあり、それの持ち主は隣に停車している陸上自衛隊の73式特大型トラックの車体にもたれかかりながらタブレット端末を操作して、搬入した積荷の状況を確認していた。
「––––––久しぶりだな、蒼崎。」
ふと、地下駐車場に入ってきた黒スーツを着込んだ、凛とした雰囲気の女がアストンマーティンの持ち主––––––蒼崎橙子に話しかける。
「千冬か、お互い久しいね。」
橙子は久しぶりに再会した友人––––––世界最強のIS乗りである織斑千冬に対して喜ぶように––––––しかし、何処と無く警戒するような声音で応える。
「学生時代以来に会うから、再会を喜び合いたいところだが––––––単刀直入に聴くぞ。––––––なぜ、アンノ技研は新型ISとそのパイロット、そして学園に持ち込んだ対ISドローンについて、情報を開示しない?」
威圧を込めた、問い掛け。
学園を管理する立場である以上、学園に訳のわからないモノを持ち込ませるわけにもいかないが故の反応。
「簡単な話だ。お前のところのお上が認めたくないような内容ばかりだからだよ。」
それを橙子は軽くいなすように返す。
千冬のところのお上––––––すなわちIS委員会が認めたくないような内容だという代物。
そんなモノの情報を開示すれば学園は新型ISも、パイロットも、対ISドローンも受け入れないだろう。
だから、最初から凡人としてパイロットと専用IS送り込んで、そのドサクサに紛れてドローンや他のモノを送り込む––––––アンノ技研が取った方法はそれだった。
「それは違反行為だぞ。」
千冬は今にも斬りかからんというような声音で橙子に言い放つ。
だが橙子は口角を吊り上げてニヒルな笑みを浮かべながら、返し放った。
「––––––ほう、過去数回に渡って違法行為を黙認したIS学園がそれを言うかい?」
「…え?」
千冬は思わず目を見開く。
今、彼女は、橙子はなんと言った?
過去数回、違法行為を黙認した?
「…なんだ、知らなかったのか……なるほど、お前にその情報は知らされてないわけか…。」
千冬の反応を見て、橙子は考え込む。
だが、それを切り上げると手元の少し大きい紅色トランクケースを開けて、紙媒体の資料を取り出す。
「––––––取り敢えず、対ISドローンの大まかなリストだ。大した内容は書いてないが、大体第2世代ISくらいの技術を使っているから第3世代機の制圧は無理だ…とだけ伝えておく。」
紙媒体に記された情報––––––対ISドローンの大まかなな情報を口にしながらその資料を千冬に手渡す。
––––––しかし橙子の告げた言葉が真実とは、限らない。
「…ところで、千尋はどうだった?」
ふと、橙子は話題を変える。
「…私は普通に迎え入れたが…やはり女子たちからは侮蔑の対象にされてしまっている…。」
千冬は沈んだ声音で言う。
それを聴いて橙子は予想していたような顔をする。
まぁ、女性にしか扱えない兵器であり世界最強の兵器であるISが普及して以来、女尊男卑の社会であればそれは当たり前の状況だった。
––––––特に、日本における女尊男卑の温床たるIS学園では尚更だった。
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4月中旬・IS学園
黒坂千尋、IS学園に入学から15分経過––––––。
「アレが噂の男子?」
「なんかさぁ…フツメンだね。」
「やっぱり織斑くんの方が良いよね‼︎」
「だよね〜!新しくきた男は無いわ〜。」
「激しく同意!やっぱり男はイケメンに限るよね〜‼︎」
「うんうん、それ以外はハッキリ言ってゴミだしぃ。」
転校直後に言われたのはそういった、気持ち悪い言葉の群れ。
今でも廊下を歩く千尋を遠目に、学園の女子たちが口々にしている。
(…ふーん、やっぱりフツメンは嫌われるのかぁ…………変なの。)
千尋は内心呟く。
橙子からIS学園の大体の事情は聞かされていたから、まぁ察しはついていたが…これは流石に––––––
「気持ち、悪いかな。」
千尋は思わず口に出して呟いてしまう。
普通に考えれば彼女らは酷く気持ち悪い。
少なくとも、『彼』の記憶から得た人間の知識を基に育った千尋から見れば、この学園は––––––キモチワルイ。
それは別の者からすれば千尋の感想は誹謗中傷かも知れない。
だがそう思っているのは、実は千尋だけではないのだ。
女尊男卑主義者は胡散臭い、カルトの宗教団体みたいで気持ち悪い––––––それは、何気無い普通の人間の反応。
だが女尊男卑主義者からすれば普通の人間のその反応は不快の塊でしかなく、自分達を正当化するための抗議や罵詈雑言の対象となる。
それに、普通の人間はさらに言葉に出来ない異物を見るような反応を ” 自然に ” とってしまう。そして同時に理解に達する。
––––––彼女らは、自分達と思考が根本的に違うんだ、と。
(こんなトコに3年もいなきゃダメなのかぁ…。)
内心呟きながら、早くも体に凝りが溜まる。
ストレスが溜まってきているのだろうか。
こんな所に居続けたら、洗脳されてしまいそうになる。
だが千尋からすればそれは彼女らが『好きにした』結果なんだろう。だから千尋も『好きにする』事で、素直に彼女らを気持ち悪いと反応する。
「––––––【こっちの世界】は……気持ち悪いね………………牧。」
ふと、そこに居ない誰かであり千尋の起源に存在している『彼』に対して、千尋はポツリと呟く。
その時、後ろの廊下からパタパタと走ってくる音が聞こえて来て、後ろからふと伸びた手が千尋の肩を掴む。
反射的に千尋はその手の主を見る。
––––––黒髪を後ろでくくった、見覚えのある少女だった。
「なに?」
「あ…えと、その…」
千尋は少し興味を沸かされて、その少女を面と向かって見ながら問いかける。
だが少女の方は覚悟が定まっていなかったのか少し挙動不審といえるほどに吃ってしまう。
「…ッ、す、すまんが屋上に…つ、ついて来てくれ。」
少女は千尋の手を握るなり、屋上の方に引っ張っていく。
手は緊張しているのか汗が溢れており時折震えている。
今は引っ張られている千尋には少女の後頭部しか見えないからどんな表情をしているか分からないが長く揺れている黒髪から覗く耳たぶが赤くなっているあたり、どうやら酷く緊張しているか羞恥心に満ちた顔をしているらしい。
––––––それが何処か、千尋には可愛らしく思えた。
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IS学園・屋上
芝生が張られ、学園と学園を取り囲む東京湾への入り口––––––浦賀水道を一瞥できる、リラックスにうってつけであろう場所。
「あ、あの、その……」
屋上に連れてこられたものの連れてきた当の本人である少女は羞恥心のあまりに顔を赤らめ視点が定まらず酷くどもってしまっている。
「––––––取り敢えず、名前教えてくれない?俺はまだ君の名前を知らないし。」
千尋は声をかける。
この状況では名前を知らなければ会話が切り開けない、そう判断したから。
「はっ、あ、そ、そうだな。うん。」
––––––やはり、羞恥心の所為か顔を赤らめて酷くどもったまま、視線を逸らしながら言う。
(女の子ってこんなに恥ずかしがり屋な生き物だっけ…?)
普段、橙子のような変わり過ぎている変人や女尊男卑主義の人間しか見ていない千尋は内心疑問に思う。
––––––少女は、声を上げる機会を窺うが中々その機会が見出せず、視線が宙を彷徨う。
そんな少女に対して、千尋は近付く。
「え?ちょっ…⁈」
驚いている様子の少女を無視して、さらに近付く。
そして、優しく少女の側頭部に触れて、自らの額で少女の額にコツン、と接する。
千尋の虚無感と純粋さを満たした瞳から放たれる視線は少女の瞳にある瞳孔を捕らえて––––––何処と無く笑っているように見える口を開く。
「––––––話をする時は相手の眼を、ちゃんと見て。」
何てことはない、普通に言い放った言葉。
しかしそれは何処と無く命令に聴こえるような、お願いに聴こえるような、注意に聴こえるような、安心させる為の気遣いに聴こえるような––––––そんな言葉。
それを放つと千尋は少女から一歩離れる。
けれど視線は離さない。
「まずは深呼吸して。そしたら落ち着くから。」
「あ、うん––––––」
未だに千尋の行動に驚いたままの少女は深呼吸をする––––––2、3回ほどしてからだろうか先程にような緊張は消え失せた。
そして、少女は先程のように揺れていたものとは違う、凛とした芯の在る強い姿勢で告げる。
「––––––箒。…篠ノ之、箒だ。」
「へぇ…それが君の名前なんだ。…何だか可愛らしいね。」
相変わらず、何処と無く笑っているような––––––いや、今は無邪気さを孕んだ笑みを浮かべている顔で言う。
「俺の名前は黒坂千尋…って、HRで聞いてたから知ってるか。」
あはは、と心の底からの放たれたモノではない。しかし楽しそうな笑い声。
その声は箒が会話を切り出し火薬となった。
「––––––全く、初対面の女にあんな風に接する男子なぞ初めて見たぞ…。」
呆れるような、けれど新鮮さを感じているという声を箒は放つ。
「そうかな?相手に言いたい事があるなら、素直に言わなきゃ相手に伝わらないから分からないでしょ?」
「それはそうだが…直接的に言えば良いとは限らないぞ。」
「ん、そっか。…じゃあ、今度は…オブラート?…に包んで言おうか?」
「そうしてくれ。その方が、相手を逆撫でしたり困らせたりすることもないから。」
「ん。……そういえば何か用があったんじゃないの?」
千尋は本題に入る。
「あ、そうだったな……えーと…」
箒は一瞬言い淀む。
だが意を決して口にする。
「あの…その、御礼が言いたくて……。」
「御礼?」
「そうだ。あの、関東大水害の時に助けてもらった御礼を…。」
––––––それで、千尋は箒に感じた見覚えのある理由を察する。
あの時、関東大水害の時に自分が助けた少女だったのだ。箒は。
「あの時は助けられた後は言う暇が無かったから……その、今になるが…良いか?」
窺うように、箒は問いかける。
当然、千尋は––––––
「うん、良いよ。全然。」
「そうか。…では、改めてだが…」
箒はゴクリ、と喉笛を鳴らして唾を飲み込む。
そして一拍開けて、言葉を放った。
「––––––あの時は、救ってくれて…ありがとう。……6年間、ずっと言いたかった。」
「ん。どういたしまして。」
「……それで、その…厚かましいかも知れないが…」
「…?なに?」
再び顔を赤らめ始めた箒を見て、千尋は問いかける。
「……その、これから、友人になってくれないだろうか?」
箒は、口からそう放った。
千尋「今回カットや場面転換しすぎじゃない?」
え〜だってオリ主の転入シーンなんて腐るほどあるじゃん。
千尋「そんないい加減だからみんなからクレーム来るんだよ。」
ゔ……反論できない…。
千尋「あと内容のスッカスカもどうにかしたら?ゴジラISにネタ使い過ぎとはいえ、酷いよ。」
……はい。
今回はここまでになります。
邂逅の二人––––––は実は二重の意味があったりします。
千尋と橙子が出逢ったという意味。
千尋と箒が再開したという意味。
それら2つで今回の話を書きました(まぁ文章の短いこと短いこと…)
橙子と■■■■■■(■■■■)の絡みをもっと書きたかったけどシン・ゴジラのネタバレになるからカットしました。
ちなみに『黄色いレインコート』は空の境界:俯瞰風景の式やFateのセイバーが羽織ってた感じのやつです。
それからですが…シンISはゴジラISでボツったネタを入れて行ったりしていきたいと思います。
シンISは当初からゴジラISの補完小説として書くつもりでしたので。
次回も不定期ですが、よろしくお願い致します。