…あと書き終えてみたら前半と後半のギャップェ……。
???・2026年2月1日午前11時05分
中華人民共和国・福建省・閩候県
203省道付近
G15泉履高速道路
30メートル近い高さのガジュマロの大木に脇を囲まれて、ガス欠や事故によって生じた渋滞によって放置された車の間を縫うように数え切れぬほどの追い立てられる者達––––––難民が吹雪に身をさらしながら足を進めている。
誰もが皆着の身着のままで、皮と骨だけのようにしか見えなくなるまで痩せ細り、肌は死者のように生気の無いものとなり、埃で黒く汚れた姿をしながら歩き続けている。
負傷者や歩く体力の無くなったものは放置車両の陰に寄り添い、吹雪が止むのを待っていた。
彼らは時折柔らかいものを踏んでしまうが、それは凍死した難民の遺体だった。力尽きた者は凍てついた骸となって野晒しとなってしまっている。
視界は無いに等しく、甲高い風音と遠くから聞こえてくる戦闘音のみが響き渡る。
それでも難民たちは、白い闇を黙々と進んで行く。
ひとり、またひとりと力尽きていくが、誰も慈悲をかけようとする者はいない。
必死で人々は生き残ろうと、国連軍が展開しているらしい福清市沿岸の台湾海峡を目指して、ただただ歩き続けていた。
––––––その中を、13歳になるまで4日を残した少女が歩いていた。
痩せ細り、肌は埃で黒く汚れ、他の難民たち同様死人にしか見えない生気を感じさせない姿––––––しかし、瞳からは生きる意志は失われていなかった。
少女は空腹からくる眠気に耐えるために、今まであった事を思い起こした。
––––––5年前、巨大不明生物と称されるバケモノが北京と上海に出現し、さらに隣国のロリシカからも流れ込みハルビンにまで侵攻。
––––––米軍が国連の名の下に新型爆弾で北京と上海を攻撃して巨大不明生物は殲滅できた––––––が、それがプレートを刺激したらしく黄海沖で地殻変動が起こり、それによる津波で華中華北の沿岸平野部は水没。
––––––さらに悪い知らせで、巨大不明生物は殲滅しきれておらず、再度繁殖。
生まれ故郷の杭州にもバケモノ達が迫り、温州の難民キャンプに避難し、2年前には福州の難民キャンプに避難して来た。
しかしそこにもバケモノの攻勢が差し迫り、今避難している––––––が、人混みの中で両親とはぐれてしまい、今は一人だった。
少女の周りにいるほとんどの人間が福州の難民キャンプにいたものたちで、口にしたのは2日前に軍が配給してくれた白米とトウモロコシのカスで作ったお粥だけだった。
だがそれだけでも食えるだけマシだ。
もっと酷い者はそれすら食えず、餓死してハエやウジがたかっている難民の死体を食べて生きて来たのだから。
雪は口にしていない。
空腹に耐えきれず雪を口にして下痢による脱水症状に陥って死んだ者たちを幾人も見ている。
そもそもこの雪は、ロシア軍がシベリアで大量使用した核兵器の放射性物質を含んだ塵が太陽光を遮ることで気温が下がり、発生しているのだ。
放射性物質が原因かは判らないが、食べる事が宜しくないものであるには変わりない。
––––––決して雪は口にするな。
難民たちの間で決まった、暗黙のルールだった。
ここまで世紀末的な状況に置かれながらも、彼らを突き動かすのは生の欲求だった。
(このまま死んじゃうなんて嫌…!ここで死んだら、私…何のために生きてきたのか––––––)
––––––瞬間、難民の集団後方で轟音と共に響き渡る倒壊音。
難民達が振り返ると、私達を追い立てたモノ––––––巨大不明生物【ギャオス(陸棲種)】の群勢が、ガジュマロの大木森林を薙ぎ倒しながら泉履高速道路になだれ込んでくる光景が、眼球に焼き付いた––––––。
響き渡る難民の悲鳴と混乱によって難民たちは駆け出した。
たとえ怪我をして動けなくなった難民を押し倒しても、凍てついた難民の凍死体を踏み潰しても、ギャオス陸棲種からいち早く逃れようと駆け出した––––––。
(––––––逃げないと!)
少女も難民たちに流されるように駆け出す。
(––––––でもどこへ⁈)
清州––––––しか思い付かない。
しかし人間の平均時速は約5キロ。
対するギャオス陸棲種の平均時速は約30キロ––––––清州にたどり着くまで追い付かれて喰い殺される。
難民たちの悲鳴––––––同時に響く、肉を裂き骨を砕く咀嚼音。
ギャオス陸棲種に、喰われたのだ。
さらなる悲鳴と咀嚼音がまるで悲劇系オペラのように高速道路の放置車両群やガジュマロの森林に木霊する。
絶望を感じた瞬間、甲高い機械の駆動音とキュルキュルという無限軌道の音が響いた。
とっさにそちらを向くと、積雪を掻き分けながら自分達を守るように進軍してくる戦車と、いくつもの青白いジェットを吹かしながら接近してくるヒトガタの影––––––戦術機。
そして戦術機に護衛されながら接近してくるひときわ巨大な、––––––機械の龍。
それらには日の丸、晴天白日、赤い細帯にハ一の金文字、青枠をつけた白細帯の上に青い星––––––日本国自衛隊、中華民国(台湾)国防軍、中華人民共和国人民解放軍、アメリカ軍を意味する国籍識別マーク。
そしてそれら全てに、「UN」のマーク。
「こ、国連軍だ!」
難民の1人が歓喜を含んだ声音で叫んだ。
「国連軍が助けにきてくれたぞ‼︎」
(国連軍⁉︎じゃあ私たちは助か––––––)
笑顔で声を上げた人々の方に少女も希望に満ちた顔で振り返った瞬間。
彼らがギャオス陸棲種に喰い千切られ、赤い紅い鮮血を撒きながら絶命する光景が眼球を介して脳裏に焼き付けられた––––––。
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同日
午前11時09分
中華人民共和国・福建省
長楽市・螺洲
特務自衛隊第1特殊戦闘群【機龍隊】所属の少年––––––【西河千尋】三尉はコックピットに響く機体の主機であるG2機関と跳躍ユニット及びバックユニットのスラスターが発するジェット・ロケット複合エンジンの駆動音––––––それを鼓膜に響かせながら、管制ユニットの戦況ウィンドウに映し出された状況を見て奥歯をギリ、と強く噛む。
「––––––くそッ。」
逃げ場の無い難民の群衆に巨大不明生物が雪崩れ込んで片っ端から殺して行く景色を見たのは初めてでは無い。
––––––【ユーラシア撤退支援作戦】、あるいはそれに近しい類の作戦に参加した人間ならば幾度と無く、嫌という程に見せ付けられる景色だ。
だが、自分達には難民に犠牲を強いても成し遂げなくてはならない任務がある。
だから難民が虐殺されていても、無視するしかない。
それが自分たちの精神に酷く負担を強いる。
––––––これほど自分たちが無力だと思わされる事ほど、もどかしく罪悪を抱く事はない。
『––––––大隊長!このままだと高速の難民が皆殺しにされます‼︎』
ふと、機龍隊の直援に当たっている第1戦術機大隊【ケルベロス】所属の茶髪の若い男性自衛官––––––【佐良真斗】二曹が上申する。
歳は千尋よりふたつ年下の19歳で、ボサボサの短髪に程よく日焼けした、野生児染みた顔立ちをしている。
確か、奄美大島出身だっただろうか。
この撤退支援作戦––––––第5次ユーラシア撤退支援作戦に参加するので、ユーラシア撤退支援作戦には2回参加していることになる。
『せめて支援砲撃を––––––‼︎』
『駄目だ。』
新たに投影される大隊長––––––【神宮司まりも】二佐が感情を殺した表情で、真斗の上申を切り伏せる。
『難民の撤退支援は台湾国防軍の第12戦術機中隊と中国人民解放軍の第3戦術機小隊および第27空中機械化歩兵中隊が行う。我々が砲撃すれば、かえって味方の阻害や難民への被害を誘発する可能性がある。』
まりもの言葉に真斗は辛そうに押し黙る。
『––––––それに、我々はそれ以上にやらねばならないことがある。』
まりもの言葉と同時に––––––目標物を捕捉。戦況ウィンドウに新たに投影される。
五四路のビル群の中に佇むそれは、ビルの瓦礫や鉄筋、ガジュマロの大木を用いて作られた奇妙な形の、牙城と形容するのに相応しい形のオブジェ––––––ギャオスの巣だった。
ギャオスは単一生殖を可能とする生物で、一匹でもいたら卵を10個以上産んで勝手に増えていくという、滅茶苦茶な生き物だった。
そしてそのギャオスの大規模繁殖によって今、ユーラシア大陸から人類は駆逐されつつある。
今逃げている難民達も、一時は清州で落ち着くだろうが、最終的にはさらに南へ南へ––––––そして最後は大陸の外へ脱出することを余儀無くされるだろう。
その為にギャオスの巣を潰し、僅か数秒でも構わないから彼らが脱出できるまでの時間を稼がなくてはならない。
ギャオスの巣は個体飽和状態となれば下位の個体から巣の外へと追い出され、追い出された個体が新たな巣を作る為に侵攻して来る。
だから巣そのものを潰せば時間は稼げるのだ。
それも嬉しい事に、今回潰す目標の巣は建築途中らしく、蟻で言えば働き蟻に該当する個体群が巣の資材集めに福建省各地に分散している。
その所為で巣そのものを警備する個体の数は少ない––––––。
進路上に表示されているギャオスの個体は大小合わせて役300体––––––洛陽市に居た2000体以上もの個体群より、遥かにマシだ。
『––––––ケルベロス01より、大隊総員傾注。まずは進路上の邪魔な個体群を引き剥がす。』
「「「「了解‼︎」」」」
『––––––今だ、下りるぞ‼︎』
まりもの放つ、裂帛の号令––––––。
千尋は、自機の腿部に内蔵されている脚部スラスターの逆噴射機構を解放、急静動をかける。
機体の特性故、他の戦術機とは比べものにならない強烈で殺人的なGが体に掛かり––––––まるで、万力で体が潰されて行くような痛みが全身を痛め付ける。
4万トンもの鋼鉄と生体装甲の塊である機械の龍が化工路のアスファルトを砕き、砂塵を舞い上げながら大地を粉砕するように着地する。
それに続くように千尋の機体である機械の龍を支援する、まりも率いる戦術機【24式不知火】と【A-10Ⅱj凄鉄】の混成戦術機大隊が着地する。
「アルファ01よりCP、オクレ––––––」
千尋が機龍隊司令部である超重特大型攻撃輸送機【しらさぎ】に無線をかける。
アルファ01とは千尋自身のコールサインであり、CPとはコマンドポスト––––––司令部内で部隊の情報や戦域管制と情報処理を担当する将校のことで、オクレとは無線の最後につける言葉だった。
『CP、アルファ01。前方1000にギャオス梯団を確認。可能な限りこれを撃破し梯団を撹乱––––––その隙に巣を破壊せよ––––––オクレ。』
「アルファ01、了解。オクレ––––––」
千尋がCPと無線を終えた瞬間––––––前方1000のギャオス群がこちらを察知したらしく一斉に迫り来る。
「アルファ01よりケルベロス01、上申致します。自分が突撃路を開きますので貴隊はギャオスを撹乱しつつこちらの支援攻撃を願います––––––オクレ。」
––––––機龍隊とケルベロス大隊の混成は、急な編成だった為に指揮系統が統合されていない。
その結果広域データリンクや指揮系統などの面で混成部隊特有の弊害が生じてしまっている。
しかも、あくまでこの混成部隊のキモは機龍隊であり、そこから現場にいる千尋がケルベロス大隊のまりもに上申して、まりもが大隊に指示する形で指揮系統を成り立たせていた。
『ケルベロス01よりアルファ01。了解した、派手にやれ––––––オクレ。』
––––––その指示が来た瞬間、千尋は戦闘態勢に移る。
両腕のアームユニットに搭載された19式120ミリ連装超電磁投射砲計4門を前方に向けて突き出し、バックユニット前方の12式670ミリ対艦誘導弾、上部の95式470ミリ多目的誘導弾および後部側面の98式320ミリ多目的誘導弾を格納しているVLS(垂直発射システム)の安全装置が解除され、カバーも解放される。
ギャオス梯団の最前線まで、距離は800。
おそらく50秒とせずにこちらに接触する。
ならば今は長射程の物よりも––––––短射程の物で対処しつつ突貫するべきだ––––––。
千尋はそう判断すると19式連装超電磁投射砲を前面に突き出し––––––。
「アルファ01、フォックス3––––––‼︎」
フォックス––––––NATO(北大西洋条約機構)で使われている攻撃時のコード。射程の長い順から1、2…と数字を振っていく仕組み––––––。
叫びながら、しかし冷静に勤めて操縦桿のトリガースイッチに力を込めて、押す。
–––––––瞬間、甲高い爆音が轟く。
超電磁投射砲の砲身から青白い稲妻を纏いながら120ミリAPDS弾が大気を焼き、プラズマ化させながらギャオス梯団に吸い込まれて行く––––––。
それに数秒とかからずに彼方のギャオス陸棲種が超電磁によって加速させられた120ミリAPDS弾によって粉砕され、小型の陸棲種はボロ雑巾のように吹き飛ばされる。
––––––それと同時に、赤黒い体液と内蔵物を撒き散らしながら弾け飛び、体液によって純白の雪に包まれていた福州市に奇怪な色彩のオブジェが林立していく。
そしてそれによってギャオス梯団の足が若干鈍る––––––。
だから千尋はそれを狙って––––––
「アルファ01、フォックス2––––––‼︎」
叫ぶと共にバックユニットのVLSから噴煙と共に空を切りながら穿たれる多目的誘導弾の群れ––––––。
「着弾まで5、4、3……弾着、今ッ‼︎」
瞬間、36発の誘導弾が着弾し次々と連鎖する破壊の爆炎と衝撃波がギャオスを焼き、引き裂き、薙ぎ払う––––––。
––––––だが一拍後、ギャオス梯団先鋒の死体を蹴散らしながら、巨体が爆煙の中より躍り出る–––––。
『60メートル級…⁉︎』
真斗の絶句する声。
爆煙を掻き分けながら現れたるは60メートル級ギャオス。
別段、60メートル級のギャオスが現れるなんて珍しくも何ともない、良くある事だ。
だが問題は、その60メートル級ギャオスが【ギャオス飛翔種】であり8体出現したという事だ。
ギャオス陸棲種はさして脅威では無いが飛翔種は別だ。
飛翔種は最高速度マッハ4で飛行する上に音叉のようになっている後頭部の突起を共振させる事によって生じる超音波を用いたサウンドレーザーを口から放つのだ。
その威力は、航空機を軽く両断できる程の威力––––––。
「アルファ01よりケルベロス01‼︎ギャオス飛翔種の相手は自分が引き受けます!貴隊らは陸棲種の排除を頼みます‼︎オクレ––––––」
『ケルベロス01、了解––––––オクレ。』
千尋はそう怒鳴るとアームユニットに内蔵されていた24式メーサーブレードを展開––––––刀身にメーサーを流す。
ギャオス飛翔種の3体がそれに反応し、千尋に襲い掛かる––––––だが、千尋は臆しない。
この程度では、臆しない。
「行くぞ––––––機龍‼︎」
千尋は自機に対して、まるで戦友のような、親に対するような声音で猛々しく声を上げ、突貫した––––––。
■■■■■■
2021年4月21日午前6時23分
IS学園・2016号室
––––––がばり。
黒坂千尋はベッドから身を起こした。
「…変な夢だったなぁ……」
あくび混じりの声音で呟く。
––––––まるで何処かの知らない自分の経験を体験したような……いや、この表現は正しくは無いだろう。
––––––まるで【自分では無い自分と感覚を共有していた】ような夢。
酷く曖昧だがこの表現の方が相応しいし、しっくり来る。
ふと––––––何やら香ばしい匂いが千尋の鼻腔をつく。
匂いの元であるキッチンの方を見れば、テーブルの上には味噌汁の入ったお鍋を中心に千切りにしたキャベツに唐揚げ、沢庵の入ったジップロック、お湯呑みが置かれており、炊飯器のすぐ近くにはまだ空のお茶碗と杓文字がある。
そして肝心の香ばしい匂いの源はキッチンのIHクッキングヒーターを使ってアスパラを豚肉で巻いた肉巻きを作っているフライパンからだった。
––––––そのフライパンを握って焼いているのは、箒だった。
箒の顔を真剣そのもの––––––試しに隣にまで寄ってるが、全く反応すらしない。
どうやら料理は箒の得意分野らしい。
そう、千尋が思った瞬間。
「––––––はっ⁈私は何やってるんだ⁉︎」
––––––まるで、今まで何かに取り憑かれて、見失っていた自分を取り戻したかのような反応をする。
当然、千尋もビクリ、と硬直してしまう。
「……あぁ…しまった…賞味期限寸前だったからといってつい余計に作り過ぎた…。」
頭に手を当て、やらかしてしまった自分を嘆くような顔をする。
「ひとつの空にふたつの太陽が要らぬように、料理にも限度があるというものを……」
「––––––え?じゃあ捨てちゃうの?『もったいないお化け』が出るよ?」
思わず、千尋が聞く。
「––––––いや食べる。予定には無かったが弁当にして昼食に回せば––––––って、えぇ⁉︎」
千尋が声をかけた事でやっと気付いたらしく、箒は驚いて変な声を上げながら千尋を見る。
驚きの余り顔だけでなく耳まで赤くしている。
––––––それが何処と無く、可愛い。
だがそれを口にすればきっと箒は調子を狂わせてしまう。
作業をする中で能率が落ちればそれは怪我や事故に繋がりかねない。
だから––––––
「おはよう、箒。」
普通に笑みを浮かべながら、朝の挨拶をする。
「あ、ああ起きてたのか千尋。……おはよう。」
箒もそれに対し、普通に返す。
「すぐにお茶碗にご飯を入れて、味噌汁とお茶を入れるから待っててくれ。」
「ん。」
ふと、立ち去ろうとして––––––流し台の上にあった電気式の金属製ポットの湯沸かし器が沸騰し、甲高い湯気の音が響く。
とっさに千尋がスイッチを止めて取ろうとして––––––
––––––ジュッ
「…あ。」
電気式とはいえ加熱されて熱くなっていた金属製ポットの容器に指先が触れてしまう。
––––––たいした痛みは無い。
ただ少し、痛覚が反応して、針が刺さったような痛みがポットに触れた皮膚を起点に全身に伝わっていくだけ–––––。
ポットに触れた皮膚は、火傷の所為で赤く変色していた。
「ちょっ!大丈夫か⁉︎」
思わず箒が千尋に声をかける。
だが千尋は何処と無く笑っているような顔をしたまま––––––
「ちょっと火傷しただけ。」
そう応える。
「しただけって…冷やさなきゃダメだろう⁉︎」
思わず箒は有無を言わせないまま千尋の手を掴み、火傷して赤く変色してしまっている指を水道の蛇口の真下に持って行き、蛇口をひねる。
直様蛇口から冷水が流れ、火傷していた千尋の指先を冷やす。
––––––そのまま、数秒が経過して、
「…あっ……」
箒は我に帰る。
一瞬だが、顔には羞恥の表情が露わになっていた。
「し、しばらくそうしておいてくれ。朝食の前に湿布貼るから……。」
「あ…うん。」
千尋も今の箒がとったある意味、大胆な行動に呆気に取られていた。
––––––約2分後
千尋と箒はテーブルに座って迎えあいながら朝食を食べていた。
献立は主に唐揚げとキャベツの千切り、薩摩芋の味噌汁、ひややっこ、白米と沢庵という、和テイストのものだ。
「…ど、どうだろうか…?」
朝食を食べながら、箒が顔を赤くして目を逸らしたまま千尋に向けて問う?
「?…美味しいかどうか?」
「う、うむ…。」
今度は俯いて、返す。
「そりゃ、美味しいよ。…というか和食自体、なんだか馴染みがあるから一番舌に合うよ。」
千尋はニッコリと笑いながら返す。
(––––––多分和食が何処と無く好きなのは……牧の影響かな。)
千尋は内心そう思うが、こればかりは声にしない。
声にしてはならない事だ。
だから黙っている。
––––––ふと前を見ると少し嬉しそうな顔をした箒がいた。
「よかった……私が他人に誇れるのは剣道か手料理くらいだから、そう言って貰えると…素直に嬉しいな。」
––––––純粋に、照れ隠し無しの、喜んでいる笑み。
それは千尋には何処か、綺麗に見えた。
「…しかしお前、さっきのは驚いたぞ。」
「ん?箒が真剣に料理してる隣に立ってて驚かした事?」
「いや、火傷した時のお前の反応だ。」
今度は何処と無く、聞き分けの悪い子供に物事を言う時の教師か親のような顔をする。
「ああ、あれくらいならほっとけば治るから良いやって思ったから。」
「…あ、あのなぁ……」
千尋の如何にも適当……としか言えない考えに、思わず頭を抱えてしまう。
「箒が指を冷やすのを促してくれた時は、そんな大袈裟な…って思ったけど……ちょっと、嬉しくもあったかな。」
それにまた箒は顔を赤くするが、やはり聞き分けの悪い子供を叱る大人のような顔をして、呆れたように言い放つ。
「…はぁ……今度から私がお前の事をフォローしてやる。お前だけでは危なっかしくてかなわん。」
(––––––とりあえず、こいつは保護者が必要なタイプだというのがよく分かった。)
箒は内心そう思わされる。
––––––千尋は純粋過ぎるしその辺は注意すべきだと思っていたが、自分の負った怪我に関する意識というか関心も薄いのだ。一夏とは違う意味で度が過ぎている。
––––––こいつを放置すれば間違いなく問題になる。だから私が指導するしかない。教師染みた事や親みたいな事なんて出来ないが私がやれる範囲でやるしか無い。
「––––––そういや箒、今日放課後空いてる?」
ふと、千尋の質問。
「ん?ああ、空いてるが…ISの訓練でもするのか?」
「そそ。」
––––––思えば、まだ互いにISの技量については見せ合っていなかった。
それに箒自身も千尋の技能がどれほどのものか少し気になった。
––––––なら。
「ああ、分かった。では––––––放課後の5時に予約を入れておこう。丁度訓練用ISを予約する嵐も落ち着いてきたしな。」
「ん。じゃあそれで……あ、俺専用機だけど使って大丈夫かな…」
ふと、その一言が箒を貫いた。
「そっか……専用機、お前も持ってるんだな…。」
少し沈んだ声音で箒が言う。
(––––––ああ、不味い。これ地雷ってやつ踏んだ。)
内心察した千尋は慌てて話題を変えようと何か探すが、思い付かない。
そんな千尋を見て、箒も何処か慌てた顔をして口を開く。
「あ、あ、別に気にしないでくれ‼︎何処の機関にも属していない身分の私が専用機を持てるわけなど無いから‼︎」
––––––無理をして、笑っているような顔をする。
どうやら、専用機を持っていないのが箒のコンプレックスらしい。
だがしかし、どこかの機関や企業に属していない限り専用機の保有は難しい。
「いや、箒の気持ちも分からなくは無いよ。…まぁ、俺の専用機だって帰属先の機関の備品だから丁重に扱わなきゃだし使うには申請書書かなきゃいけないから、面倒臭いんだ。」
そう、千尋の専用機である紫龍はアンノ技研の備品。
普通の専用ISのように訓練でも好き勝手に使える代物ではなく、実物を使うのはかなりの報告書を書かなくてはならない。
それが千尋からしたら飛びっきり面倒臭いのだ。
「め、面倒臭いって……まぁ、専用機持ちも色々大変なんだな。」
「そゆこと。ご馳走様、美味しかったよ。」
「ん。では食器を洗って、学校に行こうか。」
そう言って2人は立ち、食器を下げて行った。
––––––この後、食器を洗っている途中で千尋が皿を割ってしまって箒から軽く怒られたのは別の話。
今回はここまでです。
前半はゴジラISの本編のさらに未来のシーンでした。
後半はシンISの日常シーン。
……『もったいないお化け』がわかる人、何人いるかなぁ…。
それから、この小説のEDについてのアンケートを活動報告で取りますので、宜しければ参加して下さい。
次回も不定期ですがよろしくお願い致します。