シン・インフィニットストラトス/GrAE   作:天津毬

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今回は雑かもしれません…ご了承下さい……。

そして久々の一万文字越えです。





EP-05 昼食のち訓練/壊レタ世界ノ冬

2021年4月22日午後1時12分

昼休み・IS学園屋上

 

「あら、出会ってからたった1日で2人はラブラブの中なワケ?」

 

「ブッ……⁉︎」

 

神楽の言い放ったその声の所為で、箒は口に含み、飲み込もうとしていた緑茶を吹いてしまう。

––––––昼休み開始から2分ほど経った今、千尋と箒は神楽に誘われて屋上で弁当を食べているところだった。

千尋は使い捨てプラスチック容器の弁当箱、箒は女の子らしい桃色がかった赤色の弁当箱、神楽は黒い質素な弁当箱。

 

「か、神楽⁈お前何言って……⁉︎」

 

先程の言葉に箒がひどく焦りながら神楽に食ってかかる。

それを神楽は面白おかしそうな、意地悪そうな顔を浮かべてからかうように言う。

 

「あら違うの?私にはそんな風にしか見えなかったけどなぁ〜…」

 

「お前なぁ……どうしたらそう見えるんだ…」

 

「あらぁ…分からない?2人っきりで夜を過ごし、2人っきりで登校し、2人っきりで待ち合わせの屋上にまで来たのに、それを見てラブラブと思わないワケ––––––」

 

「わーわーわー‼︎それ以上言うな‼︎こちらの身にもなれ‼︎……千尋!お前も何か言ってくれ‼︎」

 

「ほへ?」

 

箒は肉巻きを口にくわえながら食べている千尋に対して、この状況を打開すべく救いの手を求めて縋る。

 

「んー…ラブラブ––––––では、無いと思うよ。」

 

「そうそう。ラブラブではない!」

 

千尋の言葉に箒は同調して、うんうんと頷きながら言う。

 

「ただ仲が良いだけだね。」

 

「そうそう。」

 

「昨日だって急に屋上に連れて来て友達になって欲しいって言うし…」

 

「そうそ……っておい!」

 

「今朝だってポットに触れて火傷した時には必死の形相で湿布まで貼ってくれたし。」

 

「お、おぃぃぃぃぃぃ‼︎」

 

「なんていうか、仲が良くて尚且つ面倒見の良い女の子って感じかなぁ…」

 

「も、もうやめてくれ!恥ずかしいから‼︎」

 

素直にペラペラ話し過ぎる千尋の両肩を掴んでガクガクと揺らしながら箒は羞恥に満ちて赤々と変色してしまった必死の形相で千尋に訴える。

 

「へぇ〜…ふーん…単に箒が恥ずかしがり屋なだけかぁ…」

 

「あ、うぅ…」

 

神楽が妖しく、それでいてより一層からかう姿勢で箒を見る。

そんな神楽と素直過ぎる千尋の所為で箒は涙目になる。

 

「––––––そういえばさ、今朝方別のクラスの子が何処か悲しそうな顔をして学園外のモノレール乗り場に行くのを見たんだけど」

 

ふと、千尋が別の話題を出したので、箒は胸をなで下ろす。

 

「ああ、それね。その子のお姉さんが一昨日、勤め先の会社で––––––」

 

神楽はつい先程の雰囲気とは打って変わって、何処か醒めた瞳をしながら、一拍開けて––––––声を放った。

 

「––––––投身自殺したのよ。」

 

––––––ピタリ。

2人の箸を動かす手が凍りつき、止まる。

 

「え…と、投身自殺……?」

 

「そう。…ま、今時女性の自殺なんて珍しくも何とも無いけど。」

 

神楽の言葉に箒が驚愕に満ちた顔をする。

 

「あら、そんなに驚く話?」

 

「あ、当たり前だろう。女尊男卑のこの御時世で何故そんな事が––––––」

 

「こんな御時世だからこそ、よ。」

 

神楽は箒の言葉を遮り、醒めた、現実を突きつける様な声音を放つ。

 

「––––––自殺したその子のお姉さんはガチガチの女尊男卑主義者で自信家だったんだけどね…」

 

この女尊男卑の御時世––––––そういう女性はエリート路線を突っ走れる。

それが箒の認識だった。

 

「でも、会社にそこを突かれたのよ。」

 

「え…」

 

「女は男より優れているなら、男の倍仕事をしても文句は無い。さらに女性優遇制に従って男性より給料は上なんだから給料泥棒されないように給料に見合った働きをさせる–––するとどうなるか––––––もう、分かるわね?」

 

「…過剰労働を……」

 

「そう、労働基準法でさえ男性を酷使するためとかそんな理由で改変されたけど、女性優遇制で仕事を優先させてもらえる女性にだってそれは適用される––––––」

 

まるで生徒に物事を教える教師のように神楽は言う。

 

「結果、その子のお姉さんのような女尊男卑主義者の上に自信家な人はそれの餌食になる。––––––女性は男性より体力が無いのに会社から男性以上の仕事量を押し付けらるのは当たり前。仕事が終わってもまた別の仕事を押し付けらる。別の仕事が終わってもさらに他の仕事を押し付けられ………気が付けば日付けが変わっていたなんて、当たり前だったそうよ。」

 

箒はその事実を聞かされて、やはりまた、凍り付く。

千尋は内に何かを秘めつつも黙っている。

 

「……そんな過剰労働による過労が彼女に対して延々と続く螺旋のように毎日巡って来る……そしてそんな環境が彼女の壊れて行く心身のブレーキを壊して背中を押した瞬間、『世界【ここ】から逃げたい』という強迫観念に駆られて––––––彼女は、身を投げたのよ。………脚色してはいるけど、一連の出来事はこんな感じよ。」

 

神楽は冷めた声音で呟く。

箒と千尋は、やはり沈黙している。

特に箒はショックを受けたらしく、未だに見開いた目が収まろうとしない。

 

「……3万6000人。」

 

「…え……」

 

「3万6000人。厚生労働省が公表している、一年間あたりの過労による女性自殺者数よ。」

 

さらなる衝撃が走る。

箒が社会の授業で習った範囲において記憶している中で確か年間の自殺者数はおよそ18万人。

––––––つまり、その中の6人に1人は確実に女性の割合で自殺しているのだ。

 

「詰まる所、今の世の中は女尊男卑だの女性優遇だの女性解放だのと言ってはいるけど、女性に無理に仕事や役目を無理矢理押し付ける社会になっちゃったって感じかしらね……こんなくらいなら、白騎士事件前の社会の方が断然良いわ。」

 

神楽が言い終わると、ふと暗いムードの2人を見て慌ててしまう。

 

「あ、あ、ごめんごめん!食事中に話す話題じゃ無かったわね…」

 

––––––時計を見ると、昼休み終わりまであと10分を切っていた為に、3人は急いで弁当の残りにがっついた。

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

2021年4月22日午後4時16分

IS学園・第5アリーナ

 

そこでは多くの生徒が修練に参加して––––––いなかった。

何故ならこのアリーナは不調が多く、射撃訓練などは浮遊式ドローンの不備で他のアリーナでやった方が技術が上がるとさえ言われるほどであった。

おまけにアリーナの中で一番小さい為機動訓練にも向いていない。

近接訓練なら可能だが、先日利用した生徒の所持品が紛失したりなど、良からぬ出来事が起きているため、使用する生徒は減少しつつあった。

今日利用している生徒も、千尋・箒と織斑・凰の僅か2ペアのみだった。

 

「さて……まずは射撃でもするか。」

 

鉄色の装甲と両肩付近に浮遊固定ユニットとしてある大袖型の装甲、そして斬馬刀クラスの長さを持つ近接長刀。

まるで武士の甲冑を彷彿とさせられる国産第1世代(国際基準では第2世代)IS【打鉄(うちがね)】を纏った箒が呟く。

 

「でもこのアリーナは射撃訓練には向いてないんじゃ?」

 

思わず紫龍を纏った千尋が箒に問う。

 

「ああ、浮遊式ドローンを用いた訓練はな。」

 

箒が応えた。

それと同時にアリーナの一角––––––千尋と箒の目の前にある強化コンクリートの壁に壁面固定展開型ターゲットユニット––––––的が展開される。

 

「ISの射撃訓練は機動射撃が求められるが基礎は生身の人間が行う射撃訓練のそれと変わらない。基礎射撃訓練を行うのにここはうってつけなんだ。」

 

「ああ、なるほどね。」

 

理解した––––––というような反応を千尋は示しながら拡張領域からAU-Type99突撃小銃を取り出し、右手に保持する。

 

「それにしてもお前のIS…なかなか厳ついな。」

 

訓練用のWS-16C突撃小銃を保持して弾倉を搭載しながら箒が千尋の紫龍を見上げて呟く。

––––––確かに、荒魏は少しばかり厳つさを兼ね備えた見た目の機体だった。

全体的に黒鉄色を基調としたカラーリングで、編隊灯兼精密センサー部は赤い蛍光色に機体各部に突起があり、箒の纏っている打鉄がベースにもかかわらず何処と無く荒々しさを潜めているような見た目だった。

 

「うーん…そうかなぁ……紫龍をデザインしたのは橙子だし、あいつの趣味なのかな。」

 

「…まぁ、あまり詮索はしないから、気にしないでくれ。」

 

そう言いながら突撃小銃を構える。

 

「さて、まずは基礎射撃からかな……実を言うと、私は射撃が下手でな…動かない的になら真ん中にあっさり当てられるのだが…………まぁ、見ていてくれ。」

 

そう言いながら突撃小銃の銃口をターゲットユニットに向ける。

アイアンサイドを覗き込み、打鉄のFCS(火器管制システム)が目標を捉え、ロックオンのサインが箒の網膜に投影され––––––引き金を引く。

瞬間––––––銃弾の火薬が炸裂し、銃口から弾頭が穿たれる。

銃弾は空気を焼きながらターゲットユニットに向けて直進し、的の中央に命中––––––しなかった。

上空で機動戦闘訓練をしている織斑と凰が起こした突風に煽られて弾頭の軌道がそれたからだ。

 

「………」

 

「………」

 

––––––2人の間に流れる、気不味い沈黙。

背景には、今の張本人である織斑が凰との模擬戦を繰り広げる音が響いていた。

 

「…えっと……」

 

沈黙を破ったのは千尋だった。

気不味そうに口を開く。

 

「……ま、まぁ、カール・フォン・クラウゼウィッツが唱えた戦争論のように、自分が思い描いた事が現実では様々な要因によって上手くならないのはよくある事だから……」

 

はにかむように苦笑いを浮かべながら箒も千尋に返す。

 

「…そ、そうだね……カールなんちゃらは知らないけど自分の思った通りにならないのはよくあることだね…。」

 

千尋もまた、苦笑いを浮かべる。

 

「––––––では、気を取り直して…」

 

再び箒は神経を研ぎ澄ます。

その顔は真剣そのもの。

瞳はまるで獲物を仕留めんとする鷹のように鋭い眼光を持ち、呼吸は先程より遥かに静かだ。

上空で機動戦闘訓練を繰り広げる音が聞こえてこないかのように、千尋も箒のその雰囲気に呑まれる。

目を見開き、瞳孔が収束する。

瞬間、鳴り響く銃声。

––––––火薬が炸裂し、銃口からセミオートで穿たれた銃弾が空を焼きながらターゲットユニットに直進。

今度こそ命中––––––しなかった。

何故なら凰の専用IS甲龍が放った衝撃砲の流れ弾によってターゲットユニットが粉砕されてしまったから。

 

「……」

 

「……」

 

再び流れる気不味い沈黙……というかそれすら通り越して箒に至っては苛立ちに変換されてしまっていた。

千尋もモヤモヤした感情を内に生み出している。

 

「……はぁ…」

 

苛立ちに混じりの溜息を箒は吐く。

 

「––––––おい」

 

箒は苛立ちのあまり、空中で機動戦闘訓練を繰り広げている織斑と凰に対して通信を入れる。

 

『なによ?今一夏と訓練してるんだけど?』

 

応じたのは凰。

声音からして酷く鬱陶しそうな様子だ。

 

「訓練をするのは結構だ……が、周りへの配慮も少しばかりして欲しいものだな。」

 

少し上から目線ではあるが、箒のごもっともな言葉。

ふと、次の瞬間、織斑の声が聞こえた。

 

『別にいいだろ?俺が使ってるんだし勝手にしても。俺が使い終わるまでお前らが退いてたら良い話でさ。』

 

「アリーナは私物ではなく公共施設だ。個人が独占していいものではなかろう。」

 

『別に俺らはいいだろ?』

 

「なんだその超自分勝手理論…」

 

––––––思わず、千尋は声に出してしまう。

先に箒が言った通り、このアリーナは学園一不備が多く、利用者数が少ないとはいえ、公共施設だ。

個人が独占私物化して良いものではない。

さらに織斑の言っていることは、他人は駄目で自分は構わない––––––自己中心的なモノだった。

––––––ざわり。

千尋はそこに、生理的な嫌悪を抱く。

他者は駄目で自分は構わない––––––それに対する感情は、牧に影響されて増幅されただけかも知れない。

けれどそれは確かに、かつて自分の住処や家族を奪った者達に向けたモノと同じだった。

さして危害を加えてこない以上は殺意は抱かないし嫌う要因なんて無い。

けれども、どういう訳か苦手ということには変わらなかった。

…いや、変われなかったというべきだろうか。

 

『…一夏、あんたも何タメ張ってんのよ。さっきは悪かったわ。じゃあね篠ノ之、邪魔したわ。』

 

ふと、凰が言うと一夏は何か言いたげだったがすぐに引き下がった。

織斑と凰がピットに戻って行くのを見ながら箒は溜息を吐く。

––––––まだ、苛立ちは覚めない。

だがすぐに切り替える。

確かにモヤモヤや苛立ちは残るがこのままグチグチ言っても訓練の時間が無駄になるだけだ。

 

「…千尋、気分転換に訓練試合しようか。」

 

日本刀型のブレード、14式近接長刀【葵】を持って構えながら言う。

 

「ん、そだね。」

 

千尋も突撃小銃を背部兵装担架にマウントさせると拡張領域からアンノ技研の試作第2次16式特殊近接長刀【玄龍円谷】を展開し両手で持ち、構える。

そして2人はアリーナの中央に移動する。

 

「…ふぅ………」

 

深呼吸。

箒は集中する為に体内の二酸化炭素を吐き出し、新鮮な酸素を取り込む。

––––––同時に先程の苛立ちも霧散する。

千尋も同じ様に息を整える。

玄龍円谷はもはや太刀というより日本刀に近い形をした赤黒い刀身を持つ大剣と言うべきだろうか––––––そんな刀を千尋は構える。

構えた刀の刀身をブレさせてしまう事はなく、一切の不動を維持して、切っ先を箒に向ける。

それは箒も同様だった。箒の使用する葵は大した能力は無いが、量産型特有の安定性と扱い易さを持っている。

だが千尋と箒にとって、スペックなどどうでもいい。

今はただ––––––眼前の敵に集中すればいいのだ。

––––––2人は互いに刀を構え、静止する。

いや、確かに2人は息をしているし生きている。だが微動だにせず、構えたまま立っている様は静止している––––––と言い表すに相応しい。

––––––静止している2人の間を風が吹き、砂塵が僅かに舞う。

5秒後、風が止んだ––––––瞬間、火蓋が切り落とされた。

紫龍を纏いながら玄龍円谷を手に、千尋は箒との間に隔てられた十数メートルもの距離を一息で駆け抜けるかのように地面を蹴り飛ばす。

打鉄を纏いながら葵を手に箒も、迫り来る千尋目掛けて駆け込んで行く。

––––––玄龍円谷と葵の刃がぶつかり合い、衝撃波とガギィン‼︎という甲高い金属音が、空気を震撼させる。

 

「っ––––––」

 

箒は口を思わず歪める。

––––––打鉄の馬力では、紫龍の暴風染みた斬撃に到底敵わないのだ。

だから思考操作で、打鉄の安全装置を外す。

本来ならそんなことはあまりに危険極まる愚行中の愚行。

しかし、箒は気にも止めなかった。

 

「––––––はぁっ‼︎」

 

再度、千尋に箒は打鉄のスラスターを吹かして突撃––––––そして、機体の自重を安定させるためなのか骨太の脚部の膝底部に斬撃を見舞う。

葵の刀身は堅牢な脚部装甲に弾かれて火花を引き起こしながら弾かれる––––––だが、手答えはあった。

 

「––––––ッ」

 

千尋の紫龍は一瞬バランスを崩し掛けるが、すぐ様体勢を立て直す––––––しかし、箒はそれを許さずに、追撃を加える。

 

「––––––ふんッ‼︎」

 

打鉄の機体各部に取り付けられた姿勢補助スラスターを起動し、メインスラスターを吹かしたまま千尋の斬撃を喰らわぬようにすべく再び低空から迫り––––––メインスラスター、サブスラスター、姿勢補助スラスターの全てをランダムに点火。

––––––安全装置を外した所為で機体の反動が身体のあちこちにダメージを与える。

だが、そんなものは無視する。

そしてそのまま箒は葵を握り締めながら、じゃじゃ馬の打鉄のスラスターをランダムに点火したまま突撃。

––––––旋風を纏った葵の刃による豪雨のような斬撃の連撃。

各部のスラスターの出力を調整することで機体にも人体にも負担がかかるが、それで並外れた連撃を叩き込むのだ。

ガガガガガガガガ‼︎、とマシンガンのように響く甲高い金属音。

しかし、一瞬後、箒は今の攻撃は悪手だったと悟り、瞳を見開く。

何故なら、千尋はそれら全てを反射的に腕部の籠手型装甲を盾がわりにして防いだのだ。

 

(素人の割に、やる––––––‼︎)

 

箒は悪態をつくような、それでいて高揚に満ちた感情を自身の内に生み出していた。

訓練の前に千尋は近接戦はからっきしだと聴いていたが、今の箒にはそんな風には感じられなかった。

今の箒に千尋は––––––得難い強者という認識だった。

 

(––––––ああ、またスイッチが入ってしまっている)

 

自覚する。

箒は近接戦で難敵を相手にすると、何処か戦闘狂じみた行動を取るスイッチが入ってしまうのだ。

例えば、今がまさにそうだった。

瞬間、箒を覆うように影が出来る。

千尋が無理な体勢から玄龍円谷を振り下ろそうとしているのだ。

しかし箒は恐れることはなく側面にバックステップの要領で躱しながら跳躍––––––。

玄龍円谷は箒が2秒前に立っていた空間を斬り裂き、地面に刃を突き刺してしまう。

そこに、跳躍した箒が玄龍円谷の峰に降下––––––衝撃で玄龍円谷がさらに深く地面に沈む。

そしてそのまま箒は葵を振りかぶり、千尋に斬撃をかます––––––。

 

「ッ––––––‼︎」

 

だがしかし、千尋は玄龍円谷の柄を手放す。

––––––そして、上半身を弾かれたように背後に倒れるようにのけぞり、葵による斬撃を紙一重で、躱す。

さらに、上半身に千尋は体重を加え––––––倒立の要領で箒目掛けて右足で蹴り上げる。

しかし、箒はそれを躱してしまう。

––––––だがしかし、千尋とてそれは織り込み済みだった。そのままでは、終わらない。

体を支えていた両腕のうち、右手を地面を離し、腕の間を通して堅牢な装甲で固められた右脚部で打ち上げるように蹴り上げ、さらに左手を離した瞬間に同じく堅牢な装甲で固められた左脚部で突き刺すような蹴りを放つ––––––しかし、これも躱されてしまう。

だがそれらの一連の動きで生み出された勢いは殺さぬまま、右足を軸にして体を回転––––––そして今度こそ、箒の腹に左足の蹴りを入れる。

しかしこれで安堵してはならない。気を抜けば、またあの斬撃が来る。

その前に出来るだけシールドエネルギーをすり減らす必要がある。

だから、まだ勢いは殺していない。

今度は付いた左足を軸に回転し––––––堅牢な脚部装甲を持つ右足による蹴りを放つ。

それで箒は吹き飛ばされる。

––––––この間、わずか6秒。

その威力は、生身の人間が鉄筋で殴りつけられたものだった。

だがまだ気は抜かない。

気を抜けば負ける––––––橙子からはそう教わった。

確かに今の状況はまさにそうだ。

つい先程まで自分は箒に押され気味で、今やっと巻き返し始めている。気を抜けば負けるのは間違い無かった。

なら、最後の最後まで叩き潰す。

千尋はそのまま地面を蹴る。

ドンッ、と千尋がアリーナの地面を蹴り飛ばすだけで、箒との距離は一息で縮まる。

 

「––––––ぐ、ぬッ‼︎」

 

しかし姿勢補助スラスターで体勢を立て直した箒が迎撃すべく、葵を投擲––––––千尋はそれを左腕で防ぐが、それで隙が生まれてしまう。

そこに、箒は拡張領域から展開した予備の葵で玄龍円谷と刃を交える。

だが、それは一瞬。

箒は玄龍円谷の刀身を受け流し、それをレールのように走らせながら千尋の首を狙う––––––。

 

(––––––本当に箒は上手い)

 

自身に危機が迫りながらも、千尋は尊敬の念を示していた。

箒の一撃一撃の繊細さと計算された攻撃だ。

千尋はハッキリ言って近接戦は力でごり押しすることくらいしか出来ない。

だが箒は必要な箇所を必要な時に攻めて来る。

無駄のない、洗練されている腕前––––––それには感服せざるを得ない。

でも、今すぐに箒並みの腕前を手に入れるなんて、無理だ。

なら今は––––––力押しでやるしか、ない。

 

「ふッ–––––––‼︎」

 

千尋は玄龍円谷の刃を45度回転させると、肘部に内蔵されていた補助スラスターを点火。

ガギィン‼︎という甲高い金属音を上げて、箒の葵は弾かれる。

そして、追撃。

千尋は玄龍円谷をそのまま返す刀で、力を込める。それと同時に玄龍円谷に赤い紅い鮮血のような色をした神経回路の形をしたエネルギーバイパスらしき蛍光が刀身に浮かび上がり––––––

 

「––––––とどめ‼︎」

 

––––––一閃。

ガンッという、重低音に満ちた金属の発する音とは思えない異様な音を轟き、暴風のような衝撃が箒を吹き飛ばし––––––試合は終わりを告げた。

 

「……ん?あれ?…箒〜?」

 

ふと、吹き飛ばされた箒に声をかけるが、返事が無い。

 

(…あ……やばい…)

 

瞬間、千尋は何故だか分からないが ” やらかしてしまった ” という感覚に襲われ、酷く焦燥に満ちた表情をした。

––––––このあと、かなりテンパった様子の千尋が箒をお姫様抱っこした状態で保健室に駆け込むのを神楽が目撃したそうな……。

 

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎

 

 

???・2026年3月2日午後2時47分

––––––国連極東方面軍館山基地

 

湾上には沿岸警備の為に【タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦】と【こんごう型ミサイル護衛艦】、【モンタナ級戦艦】が航行しており、湾港には【アーレイバーク級ミサイル駆逐艦】に【そうりゅう型潜水艦】複数隻と【もがみ型砲撃護衛艦】、【ブッシュ級通常動力型戦術航空母艦】が停泊しており、鋼鉄の牙城群に満たされていた。

その真上を、戦術機カーゴを搭載した【CL1201輸送機】が180基のジェットエンジンと4基のNNリアクターエンジンの爆音を轟かせながら滑走路に向けてランディングして行く–––––。

浦賀水道の入り口にある––––––かつて、【IS学園】と呼ばれていた施設の跡地を流用した極東防衛の要所たる国連軍館山基地は、そこに置かれていた。

 

「寒……」

 

外套(がいとう)––––––いわゆる軍用コートを身に纏いながら、特務自衛隊第1特殊戦闘群【東雲箒】三尉は雪雲が掻き消され始めてはいるものの、やはり暗い空を見上げながらそう呟いた。

春先に入り、毎年恒例の【核の冬】と地形変動による大規模寒冷前線が日本列島から遠去かり、暖かくはなり始めてきているものの、やはり5年前––––––2021年の3月と比べれば今の方が圧倒的に寒い。

東北地方や北海道などでは毎年のように起こる冷害による影響で農作物には甚大な被害を被っている。

近年はある程度マシになりつつあるものの、やはり被害そのものは出てしまうらしく、未だに市場における天然農作物は高騰化して、今や安価に手に入れられる食材はバクテリアを合成して生産される合成食糧と輸入食糧のみとなっていた。

これが美味いなら未だしも不味い。

栄養になる事にはなるがとにかく不味い。

––––––調理や味付け次第では美味くなるのだが、普通に食べると我慢できなくはないが不味い。

それでも、この状況––––––ユーラシア大陸は次々と陥落し、日本列島各地にも巨大不明生物が襲来し局地的に被害を引き起こしているという現状では、合成食糧の味の問題なぞ我慢しなくてはならない。

––––––閑話休題。

そもそも国連軍指揮下とはいえ特務自衛隊の箒が何故ここにいるかと言うと––––––

 

「あ、箒!来たんだ‼︎」

 

陽気な声音。

声の源を見ると、そこにはウサギを連想してしまいそうな可愛らしさを持つ金髪の女性––––––国連軍特殊作戦群M-03中隊所属の元フランス人にして現在は日本人である【シャルロット・デュノア】少尉がいた。

 

「どうしてまた?」

 

「いやなに、次の作戦はお前の部隊と共同だろう?だから挨拶に来たんだ。」

 

「へぇ…わざわざ八広駐屯地から?」

 

「ああ…だが、それはついでだな。本題はこいつだ。」

 

ふと、箒はカバンから封筒を取り出してシャルに渡す。

封筒には『開封厳禁』と日本語の明朝体と英語で書かれていた。

 

「それをここの司令に渡してくれ。お前たちの役に立つモノだ。」

 

「ああ、ありがとう。…ところでさ」

 

「ん?」

 

––––––ふと、シャルが意地悪めいた顔をしながら箒を見て、口を開いた。

 

「最近、千尋とはどうなの?相変わらずラブラブ?」

 

––––––瞬間、箒の顔が真っ赤になり、頭から湯気を立てて羞恥に歪んだ顔をする。

 

「んな…な……」

 

「あはは、照れてる照れてる。まるで茹でダコみたい。」

 

「⁈う、うるっさい‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

そんな箒をからかうようにシャルは言って、それに対して照れ隠しとして箒は怒鳴った––––––しかしその声は、滑走路から離陸したP-3哨戒機のジェット音に掻き消された––––––。

 

「……太平洋における海棲巨大不明生物の掃討作戦………かぁ…今までだったら対潜駆逐艦や対潜潜水艦、空母の役割だったのにね…」

 

「…それだけの戦力では抑えきれなくなったんだろう……つまるところ、私たち人類はそれ程にまで追い詰められているんだ。」

 

箒の憂いを孕んだその声にシャルも頷き、飛び立つP–3哨戒機の先––––––遥か果てまで続く太平洋の水平線を眺めながら、2人は呟いた。

 

 

 

 




今回はここまでです。

前半は弁当タイム&シンIS世界の女尊男卑に関しての状況でした。
…てか、現実世界で女尊男卑やったらこんな感じになるんだよなぁ……。

訓練時の一夏の自己中心的な思考の元ネタは「誠氏ね」なアイツもですが、他にもいます。それも現実世界に。
…なお、今回の千尋を見て分かるかもですが、千尋は牧教授による影響と核廃棄物投棄を行なった自分勝手な考えの人間を嫌悪する傾向にあります。
………ただコレ、盛大なブーメランなんだよなぁ…。
訓練試合のシーンは…書くのすっごい疲れました…。

そして平行世界の2026年の未来における日本……の、旧IS学園跡地に作られた国連軍館山基地。
次なる作戦に赴く箒とシャル……こちらの箒もシンISの箒みたく可愛げはありますが…色々なモノを失い過ぎたんですよね…。

次回も不定期ですがよろしくお願い致します。


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