シン・インフィニットストラトス/GrAE   作:天津毬

9 / 18
何ヶ月も更新放ったらかして申し訳ありません。

ゴジラISばっかり書いておりましたので…。
今回は対ゴーレム戦の直前となります。
あと政治的な話がてんこ盛りだったり……(´ω`)




EP-07 壊レタ世界ノ政殿/因果流入

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クラス別トーナメント当日・IS学園

 

クラス別トーナメントが開催されてる学園は来賓者は大いに賑わっている。

生徒たちも織斑が出場するということで熱狂さえしている––––––。

そんな学園の喧騒から蚊帳の外にいる2人が、中庭にいた。

 

「––––––そういや箒、クラス別トーナメントの応援には行かないの?」

 

ベンチに座っていた千尋が不意に箒に尋ねた。

 

「……喧嘩したばかりの奴を応援しにいく必要なんてなかろう。クラス別トーナメントの応援は義務ではなく有志だからな…。」

 

箒は不機嫌そうに応える。

どうやら、織斑と凰の件を未だに根に持っているようだ。

––––––けれど、それは当たり前だろう。どんな生き物だって身に迫る危険に会敵するよりも前に対処すべく、可能な限り接触を回避する。

それはどのような種であろうと、生命共通のモノだからだ。

 

「それに––––––私は、お前といた方が楽しいというか、その…まぁ…なんだ…えっと………と…」

 

ふと箒はどこか恥ずかしそうに赤面し、頭頂から湯気を放ちながら、ごにょごにょ…と口にする。

それを、千尋は面白そうなモノを見る目で見つめる。

 

「う”っ…」

 

箒はその千尋の視線に気不味さを覚える。

––––––なにより、どことなく笑っているように見える真顔の不気味さも相まって、本能的に何かを口にしなくてはいけないと思わされてしまう。

 

「と……」

 

箒は考えた末に口にする言葉を思いつく。

しかし羞恥心が勝り、続かずに途絶えてしまう。

 

「と?」

 

それに千尋は首をコテンと傾げる。

…不覚にも、どことなくその小動物らしい仕草を箒は可愛らしいと思わされた。

それが箒の限界で––––––つい、口にしてしまった。

 

「と、とりあえず私は一夏を応援する気なんかない!…そ、それにお前は放っておくと何をやらかすか分からないから保護しておくだけだ‼︎」

 

必死で思考を巡らせ、縫い合わせた建て前。

確かにそれは理に適っているが、千尋はすぐにそれが本心ではないと悟る。

––––––だから、問いを投げかけた。

 

「本音は?」

 

「んなっ…だ、だから…それが本音だと言っているだろう‼︎」

(だいたい、本当は千尋と一緒に居たいから…なんて言える訳ないだろう‼︎)

 

相変わらずゆでダコのように耳から頰を経由して鼻先まで顔を真っ赤にしながら、頭から湯気を放ちながら、箒は照れ隠しに怒鳴る。

本心は胸の内に秘めながら。

––––––その姿の箒が少し、可愛らしいと千尋は思った。

 

「とにかく!私はクラス別トーナメントの応援には行かないからな。」

 

少し、むくれた顔をして言う。

それに千尋は、あははと相変わらずどことなく常に笑っている顔で空笑いしながら「ごめんごめん」と謝罪する。

––––––そこへ、

 

「あら、今日もお熱いわねぇ…おふたりさん?」

 

ニヤニヤと揶揄うような顔をした神楽がやって来る。

 

「か、神楽…!あのだな、昨日も言ったように私と千尋は––––––」

 

「はいはい、友達以上恋人未満で同居人止まりなんでしょう?」

 

箒は弁解しようとするが、神楽はからかいながら歌うように軽くいなす。

 

「そ、そうだ。…まぁ、本当はそれ以上の関係に進みたい…と、思って、いないわけ、でも……」

 

箒はそれに応じるも、本心を吐露出来る相手だからか、本心を口にする。

しかし千尋が近くにいるからか口が進むごとに声がごにょごにょと小さくなって行く。

やはり羞恥心が邪魔しているのと、箒の内心に秘めた恋心を抱くべきではないという決心が本心を阻害する。

それを見た神楽は呆れて、口にする。

 

「はぁ…箒、そんなんだからね––––––『ツンデレヘタレ』って私に言われるのよ。」

 

「んなっ…!だ、誰がツンデレヘタレだッ!!」

 

思わず箒は叫んでしまう。

––––––ちなみに【ツンデレヘタレ】とは、普段はツンデレなのに恋愛などで此処ぞという時にヘタレになってしまう箒に対してつけた神楽のアダ名である。

 

「…?…箒、ツンデレヘタレってなぁに?」

 

「お前は知らなくていいから!!」

 

しかしツンデレやヘタレという言葉を知らない千尋からしたらその言葉は疑問の塊でしかなく、思わず聴くが、箒はそれをバッサリと斬って捨てる。

そしてそれを、神楽はおもしろ可笑しく笑う。

 

「––––––さて、本題に戻りますか。」

 

ふと、神楽は口を開く。

それを箒は訝しげな表情をして、問う。

 

「本題?」

 

「そそ、ちょっと貴女を呼んでくるように頼まれてねー…千尋の保護者さんに。」

 

それを聞いて、千尋も口を開く。

 

「––––––橙子が?」

 

「そ。なんでも箒に渡したいものがあるんだとか––––––まぁ、付いて来なさいな。」

 

そんな風に神楽は言うと、2人は彼女の後に続くように立ち上がった。

––––––箒の意識に何かが流れ込んで来たのは、その時だった。

 

 

 

 

 

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???・2022年9月15日

東京都墨田区・特務自衛隊八広駐屯地

 

––––––今日も仕事だ。

箒は内心不満気に思いながらも脚を運ばせる。

向かう先は駐屯地の外にある東京副都心と新都心を結ぶ自衛隊臨時専用バスの乗り場だ。

整備された駐屯地から一歩足を踏み出せば、眼に映るのは立ち並ぶ廃墟と化したビル群と、瓦礫の撤去作業を行っている建機車両やシグクライミングクレーンの群れ。

––––––特に、第一展望台のすぐ上からへし折れた旧東京スカイツリーは印象的だ。

半年程前の東京防衛戦にて巨大不明生物の照射した放射線流の被害のひとつである、かつて650億もの税金で作り上げられた世界最大の電波塔。

その残骸はまるで、人類の栄華の終わりを告げるような象徴だった。

––––––否。実際に人類が支配する世界は既に崩壊している。

だからあの塔は、人類の時代は終わったのだと改めて知らしめる存在––––––という方が正しいだろう。

 

––––––ふと、八広駐屯地の正門から軽装甲機動車が出て来る。

そしてそれは、歩道を歩いていた箒の隣に止まると––––––

 

「乗れ。送って行こう。」

 

窓を開けて、光が言う。

一瞬呆気に取られるが、はっと現実に意識を引きずり戻すと、

 

「…では、お言葉に甘えて。」

 

箒はそういうなり、軽装甲機動車の助手席に座り込んだ。

 

「光さ…片桐将補も仕事ですか?」

 

「ああ。…次期装備の件で、西新宿行政府まで。」

 

箒の質問に対して、光はハンドルを切りながら応える。

現在日本政府は東京防衛戦後、都内で唯一被害が皆無だった新宿区に立川防災予備施設から政府機能を移管しており、東京都庁には臨時国会議事堂が開設されていた。

最も、すべての政府機能を移管することは出来ず、また先の東京防衛戦の被害からいくつかの省庁は意図的に西新宿行政府に移管せず立川に残留、もしくは霞ヶ関の奇跡的に被害が出なかった国土交通省、警視庁、警察庁などの合同庁舎に一部を開設することになっていた。

 

「今回私は第2次東京防衛戦の第2段階…アメノミハシラ作戦の指揮官を務めた経験から次期装備に関しての質疑が交わされる…のだそうだ。」

 

––––––普通、臨時国会議事堂とはいえわざわざ次期装備に関して現役自衛官を呼ぶことなんてまずそうそうない。

それに前述の他の省庁が占めている庁舎に別の省庁の施設を開設することも、まず普通ない。

つまりこれは––––––

 

「そうですか––––––やはり、人手不足…なんでしょうか?」

 

「ああ。…東京防衛戦時に閣僚7名を含む衆議院・参議院両国会議員の3分の2が死亡し、どこに行っても人手不足ばかりだ。

…普通なら解散総選挙を開くべきだが、衛星が回復しておらず、詳細が不透明なユーラシアからいつ来るか分からない怪獣を鑑みれば悠長に選挙などやっていられない。

おまけに今まで中国やロシア、朝鮮半島など––––––日本の仮想敵国とパイプの有った政治家は南半球やアフリカ各国に亡命しているからな…選挙をしたとしても、果たして政治家が足りるか……。

それを鑑みれば、しばらく暫定政権を維持するしかあるまい。」

 

「難しい話…ですね。」

 

先に光の述べたように閣僚を含む国会議員は東京防衛戦時、巨大不明生物の広範囲攻撃により––––––【火の8分間】の中でその命を落としている。

…否、国会議員だけではなく、【火の8分間】の中で最も命を落としたのは一般市民だろう。

その犠牲者数––––––およそ1000万人。

過去にも万単位で犠牲者を出した事象は戦争天災を問わずに存在するが、あまりに桁が違いすぎる。

過去最多とされていた広島・長崎原爆投下でさえ、およそ20万人程度なのだ。

––––––その50倍の被害が、 ” たった8分間の間 ” に ” たった一体の怪獣によって ” 引き起こされたのだ。

八広駐屯地を出た時に見えた、スカイツリーの残骸や廃ビル群はその時の爪痕だ。

否、そこだけではない。千代田区、中央区、江東区、港区、品川区、豊島区などに未だに爪痕は残されているのだ。

––––––そんな中で、人々は必死に生きているのだ。

しかし問題がないハズが無い。むしろ問題しか無い。

そのひとつが、今光の述べた人手不足だ。

【火の8分間】の中で犠牲になった人間が多過ぎるのも確かにひとつの要因だ。

だが、先程光が言ったように中国やロシア、朝鮮半島とパイプを持っていた議員らが南半球やアフリカに亡命した事もある。

なぜ亡命したかといえば––––––それら日本の仮想敵国である国家に対して、国内の情報を提供していたからだろう。

例にあげるなら、「日本に核ミサイルを撃つなら原発を狙うべき。」と朝鮮半島北部の某独裁国家に情報提供したことが発覚して袋叩きにあった女尊男卑主義者の議員などだろう。

そして何故それが罷り通ってしまったか…理由は簡単だ。

––––––日本には、【スパイ防止法】など、国家への反逆行為にあたる情報漏洩や工作を罰する法律が存在しないからだ。

過去何度か施行の機会はあったものの、『憲法で定められている表現の自由を侵害する』という指摘から実行されずにいた。

日本は異常なまでに法律で国を固めており、それらを持ってして国民は生かされている。

それはアメリカや欧州よりもかなり国民は法律に甘やかされている程だ。

だが、悪い点があるとすれば法律を改正せずに新たな法律を導入してしまう点だ。

過去に導入した法律と新たに導入する法律が必ずしも噛み合うとは言えない。

必ずしも法律同士が掲げる内容で矛盾という名のバグが発生し、社会問題を引き起こす。

そしてその社会問題を解決しようとしてさらに新たな法律を導入して、また別の社会問題を引き起こす。

それの繰り返し––––––亡命した議員らが情報を漏洩させていたのも、法律と法律が噛み合わずに引き起こすバグを突いて行動してのことだった。

––––––話を戻そう。ではなぜ彼らは国民を見捨てて真っ先に亡命したか。

巨大不明生物による侵攻––––––それもある。

だが実際は情報を漏洩させ、蜜を与えて貰うパイプの繋がっていた先、すなわち仮想敵国の革命による急速な民主化や国土の全土失陥、国家そのものの滅亡など––––––それらによって見捨てられた事が大きい。

––––––そして近年ただでさえ国内に彼らを支持する国民はおらず、さらに巨大不明生物による侵攻を受け、今後さらに日本へ巨大不明生物が侵攻する怖れがある日本に彼らが残る理由などカケラもない––––––それだけ要素が揃えば亡命しようともするだろう。

––––––彼らは、自国民のため、日本国のために、人類のために動こうとする気はさらさら無かったのだから。

 

––––––閑話休題。

 

とにかくこれらの要因により人手不足という問題が蔓延り、日本に山積みにされた問題をより深刻化させている。

それによって人手不足問題を少しでも緩和すべく、前線から遠い後方の自衛官も政治に関わらねばならないという、もはや純粋な議会制民主主義国家ではなく半ば軍政体制にある…というのが現実だった。

そして政治に関わらねばならない自衛官の中には、当然箒や光も含まれている。

 

「だが問題がそれだけではないのがな…––––––自衛隊の次期装備に関しては、海外の最新装備を導入する––––––という話だったという話は知ってるか?」

 

「はい。市ヶ谷に届けた書類で目にしましたから––––––一応は。」

 

「そうか…。」

 

生真面目に回答した箒に若干の嬉しさと、僅かな寂しさを浮かべたような口調で反応する。

しかし数拍開けて、呆れた口調で言葉を放つ。

 

「––––––だがここに来て、野党がゴネだした。」

 

「野党––––––日本維新党ですか?」

 

箒は若干の驚きを示しながらも、勤めて冷静に問いかける。

旧野党連合––––––前述の亡命者達の国外逃亡以降、現政府の最大野党は国粋主義の日本維新党となっていた。

同党はいわゆる右翼であり『一身独立して一国独立す』をフレーズに、対米協調路線を進める与党保守第一党とは政治的に対立している。

 

「『いくら最新鋭の装備を提供すると言おうが、東京防衛戦時に実際に東京に向けて6発の核ミサイルを事前の通告より1時間も早く発射したアメリカは信用に置けない』––––––と。」

 

「それは––––––でも、だからって今そんな事を言っている場合では…」

 

箒は苦虫を噛み潰したような顔をしながら言う。

実際、アメリカは事前に通告した核攻撃のタイムリミットよりも早くSLBM(潜水艦搭載型核弾道弾)を小笠原諸島近海に展開していたオハイオ級原子力潜水艦2隻から計6発を発射し、展開中の自衛隊や独断で日本に踏み止まり作戦に参加した在日米軍、本国との連絡が付かず、有志によって参加した欧州連合極東派遣軍残存部隊、さらに完全には避難が完了していなかった避難民らを巻き添えにしかねない事態を招いた。

それを見越して展開していた空自のペトリオットや即座に対地攻撃から対空迎撃に切り替えた米第7艦隊駆逐艦2隻、仙台へ避難民を移送した後急行してきた護衛艦「こんごう」、「あしがら」の迎撃によってどうにか核ミサイルの撃墜には成功したものの––––––結果的には日本国内に対米不信を抱かせる原因となってしまった。

この出来事から政府のみならず国民にまでアメリカに対する不信を抱き、日本単独で防衛を可能となるように改革を目指す【国粋派】と、あれだけされていながらもアメリカに頼らざるを得ないという現実を受け入れて対米協調路線を唱える【協調派】に別れてしまっている。

そして前者からの支持を得ているのが野党日本維新党、後者から支持を得ているのが与党保守第一党––––––という二党対立状態にあるのが国会の現状だった。

–––––––救いなのは、日本維新党も保守第一党も日本を破滅させてしまわぬよう––––––互いに妥協し、対巨大不明生物戦では協調できるところだろう。

 

「––––––さて箒、問題だ。」

 

ふと、学校の先生のように光が言う。

 

「今回の野党のゴネだが…貴様はどうなる思う?」

 

「どうって……––––––多分、保守第一党に傾くと思います。」

 

「ほう、それはなぜ?」

 

「…––––––それは日本維新党も現在の自衛隊の装備では日本単独での本土防衛は不可能であると理解している––––––と思うからです。」

 

––––––理性的に考えれば箒の言う通りである。

破滅前まで自衛隊はごく僅かな防衛予算のせいで装備の近代化更新がままならず、2010年代以降も1960年代に開発された装備…すなわち冷戦装備を未だに使用していたのだ。

そしてそれは破滅後の今も変わらず、結果として全ての部隊に新型装備と運用ノウハウが完全には行き届いていない––––––そんな現実がある中で、アメリカ無しに日本単独での防衛など夢のまた夢の話だからだ。

 

「––––––うむ、まぁ正解だな。」

 

光が少し楽しそうに言う。

 

「今のところ保守第一党、日本維新党共に『海外の最新鋭装備の運用ノウハウを取得する』という点で同意している。

––––––日本維新党がゴネたのは『アメリカの最新鋭装備』を導入することに関してだろう。あちらさんはいつ自国の都合で延期、あるいは中止するか分からないからな…。

日本維新党としてはまだ信用できる欧州連合のモノを貰いたかったんだろう。

だが––––––依然アメリカの援護が必要な日本は『彼の国の属国』を気取り、アメリカの機嫌を取らなくてはならない––––––これもまた、政治だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

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IS学園・地下格納庫

 

「––––––ッッ⁈」

 

箒ははっと意識を取り戻す。

––––––欠けた、誰かの記憶を観ていたような、あるいは夢でも見ていたのか。

 

「…あ、やっと起きた?」

 

格納庫に停められた73式中型トラックに背を預けていた、メガネをかけた赤髪の女性が柔らかい笑みを浮かべながら話しかけてくる。

––––––初めて、見る人だ。

 

(…それより、これはどういう状況だ?)

 

思わずそう思う。

––––––少し前までの記憶がない。

ふと、自分の隣から。

 

「立ったまま、しかも気絶しても歩き続けてたのよ、貴女。」

 

呆れるように神楽が言う。

––––––しかし、理解が追いつかない。

立ったまま?

気絶していた?

しかもそのまま歩いていた?

 

「え、ちょっと待て、どういう––––––…」

 

「…その様子だと、本当に記憶にないのね……」

 

はぁ、と神楽は溜息を吐く。

 

「千尋の保護者さんに呼ばれてたから貴女を連れて来たの––––––忘れた?」

 

「––––––あっ‼︎」

 

神楽のその言葉でやっと思い出す。なぜ、忘れていたんだろう。

確か神楽に付いて行こうと足を踏み出して、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––それから八広駐屯地の正門を抜けて、新都心と副都心を結ぶ臨時自衛官専用バスの乗り場へ––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…まて、今のは何だ?)

不意にさも当然の様に繋がっている夢の中で出ていた自分に瓜二つの誰かの記憶に唖然とする。

 

「それにしても貴女が千尋と同じ芸当をやってのけるなんてね…ふふっ。」

 

ふと、そんな箒の疑問と疑念を劈くように目の前の女性は笑う。

 

「はぁ…?千尋と同じ…?」

 

ちらりと箒は右を向く。

そこには、目を開けて、普通に立っている千尋の姿が––––––

 

「それ、寝てるのよ。」

 

「…は?」

 

「寝てるの。」

 

「––––––はァ?!」

 

思わず箒は驚く。

––––––先ほど抱いた疑念など何処へやら。

今は目を開けて、立ったまま寝ている千尋にただひたすら驚かされる。

そんな箒を見て女性はクスクスと笑う。

 

「え、あの、え?」

 

「––––––ぷふっ、ごめんなさい。貴女の反応が面白くって。

––––––私は蒼崎橙子。貴女を呼んだ張本人よ。」

 

そう言って、傷んだような色をした赤髪を持つ、メガネをかけた女性は柔らかい笑みを浮かべながら箒に語りかける。

––––––その表情は母性を孕んだ、いかにも女性らしいものだ。

 

「は、はぁ…。」

 

思わず、違った意味で気圧されてしまう。

––––––雰囲気からして、姉と同じ技術屋なんだろうと箒は察する。

 

「まぁ、渡したいものはコレなんだけどね…。」

 

ふと、自分が背を預けていた73式中型トラックの隣に鎮座する金属製の直方体型の物体に視線を向ける。

––––––貨物保管用のコンテナだ。

 

「ちょっと待ってね…これ物理ロック型だから……ふんっ、ぬ…‼︎」

 

そう言って、ギギギという軋むような重低音を鳴らしながら橙子はコンテナのロックを手動で解除していく。

神楽は、立ったまま寝ている千尋に興味深々だ。

(––––––なんだ、この変な雰囲気は…?)

思わず箒は思う。

自分以外ここにいるのはある意味変人だらけだ。

つまりなんというか、とてもやり辛い。

––––––なんて思っていると、ロックを解除した橙子はコンテナを開け放っていた。

 

「…ふぅ。お待たせ。これが渡したかったモノ。」

 

コンテナの中には、僅かに改造の手を施したと思しき朱色と純白のカラーリングとなったIS・打鉄が鎮座していた。

 

「試製20式機動装甲殻【朱雀】––––––打鉄の汎用拡張型モデル。

…つまり、貴女の専用機ね。」

 

「……専用機⁉︎」

 

思わず箒は驚いた顔をする。

どんなに求めても届くはずがない場所にいた存在が、自分の目の前に現れて、尚且つ自分の機体だと言われたのだから。

 

「私の…専用機…」

 

とても驚いて、けれども嬉しくて、声を喪う。

ただ純粋に喜ぼうとして––––––疑問がよぎった。

 

「でも…どうして、私なんですか?」

 

「え?ああ、それは貴女が剣道の全国一位だもの。それだけの実力があるのにテストパイロットに選ばない手は無いわ。」

 

橙子は箒の問いに対して柔らかい笑みを浮かべながら応える。

けれど、箒はそれだけでは無いと、【自分の意思に関係なく】そう察して、再び問う。

 

「…いえ、そんな都合の良いはずがありません。」

 

「あら、どうして?」

 

橙子の問い。

それに箒はやはり、【反射的に】応える。

 

「…『20式』、『試製』と名前についていることから、おそらくそのISは自衛隊機ですよね?そしておそらく、これは試験機かなにか。

––––––なら、テストパイロットは民間人の私ではなく自衛官で行うべきかと思いますが。」

 

–––––––その言葉に、立ったまま寝ている千尋に夢中だった神楽はハッと箒を向く。

今までの箒なら、そちら方面のことに詳しくなどなく、むしろどうでも良いように考えていたのだ。

–––––––だから、【急に箒の人が変わったような】物言いに驚かされたのだ。

 

「………」

 

先程の箒が放った言葉に対し、橙子は沈黙。

––––––ただし、顔に浮かべられた柔らかい笑みは消えていない。

 

「…確かにIS乗りは貴重で、各企業や組織の間で1人のIS乗りを狙った争奪戦に発展するのは珍しくは無い話です。だからIS学園は中立の立場としてIS乗りの安全を確保するための機関としての側面もある––––––そしてその学生達に一組織が試験機をチラつかせて専用機を貸与、帰属先に取り込むことだって珍しくない。」

 

そんな橙子を無視して、箒は続ける。

どうやら相手は聴いたところで答えるつもりはないらしい。

ならば答えるまで踏み込んでみることにしよう––––––と思ったから。

 

「––––––ですが、それはあくまで民間組織の話。20式の寄贈先である自衛隊ではアラスカ条約の『ISによる侵略行為、軍用型の配備を禁止する』––––––という規制に対し、『自衛隊は軍隊ではない』事、ISを邀撃戦闘機やイージス護衛艦、主力戦車と同じように『本土防衛のための実力として運用』する事を理由にISの配備とIS操縦士の確保を行なっていますから、テストパイロット選抜には苦労しないハズです。」

 

箒は言う。

そして、言葉は止まらない。

けれども橙子は微笑んだまま沈黙している。

––––––材料は揃えた。

––––––考え得る要素は纏めた。

 

「それとも––––––」

 

だから–––––––

 

「––––––何か、政治的な問題でもあるのでしょうか?」

 

––––––核心に、踏み込んだ。

 

「ふふ。今時の学生の割には、頭が回るのね––––––」

 

橙子は相変わらず柔らかい笑みを浮かべたまま、そう言う。

そうして眼鏡のフレームに手をかけて、眼鏡を外して、もう一度口を開いた。

 

「––––––正直感心したよ。」

 

橙子の言葉に箒は息を飲む。

そこに居たのは先程まで柔らかい笑みを浮かべていた人間では無かった。

鋭い眼つき。

加虐に満ちた笑み。

そこには慈愛も道徳も感じられない。

ガラリと人の変わった––––––まるで人格が切り替わったかのような。

橙子は口角を吊り上げながら口を開く。

 

「確かに、政治的な事情はある。」

 

ポケットから愛用しているらしいタバコを取り出し、火をつけながら言って、それを続ける。

 

「君に渡す機体は対IS制圧用IS––––––の、試作型だ。」

 

「……⁈対IS…制圧用…⁉︎」

 

橙子がさらりと言った内容に、箒は絶句する。

そんな箒を無視して橙子は続ける。

 

「そうだ。近年そういった対IS制圧兵器の開発が求められていてね––––––何しろIS拡散後に発生した世界規模の紛争で各国は疲弊しているにも関わらず、亡国機業などISを用いたテロに見舞われているからな。」

 

––––––橙子の言う通り、IS台頭後から今日に至るまで、世界中で紛争やテロが相次いでいる。

ついこの間も、大阪にある日本最大の地下街である梅田地下街で化学兵器を用いた無差別テロが引き起こされ、百単位の負傷者と十単位の犠牲者が出たばかりだった。

だが海外ではISを用いたテロまで起きているのだ。

しかもそれらの結末が良い事に傾いた試しなどない。いや、あったかも知れないがそれはごく僅かだ。

––––––つまり。

 

「––––––理論上・技術的に通常兵器で制圧出来ない事もないが、実際の制圧が物理的にも政治的にも困難なISに各国は手を焼いている…と?」

 

箒はそう考え、問いかける。

それに橙子は目を細めながら、物分かりの良い生徒を褒める教師のような顔する。

神楽はやっと普段の状態に戻りつつあるが、やはり箒の人の変わり様には驚いたまま。

そして千尋は––––––立って眠ったまま。

 

「そうだ。現にこの間起きた米国ボストンと蘭国アムステルダムでのISテロでは100人前後の犠牲者を出していながら、ISパイロットの制圧・確保どころか軍の出動にすら至っていない。

何しろISは腐っても世界最強の兵器であり制圧が困難な事と、ISの陳腐化による権力の喪失を避けたい女尊男卑主義者によって軍の出動に政治的な妨害があったからな。」

 

橙子は楽しそうに言う。

––––––その内容に箒は酷い不快感と侮蔑感を抱く。

けれど今は、私情を抑圧する。

今は––––––彼女、蒼崎橙子がこのISをどうしたいのか、ということを明白にする必要がある。

そして––––––今橙子が言い放った言葉から、次に言うべき内容を構成する。

 

「…だから対IS用発展型ISなどという代物を開発し、運用試験を開始しようものなら如何な政治的妨害があるか分からない。

––––––だから自衛隊ではなく永世中立であり独立自治権のあるIS学園で運用試験を行う…と?」

 

「––––––ふむ。まぁ、50点だな。」

 

「え…?」

 

箒の言葉に対して橙子は言う。

つまりそれは、半分しか合っていないということになる。

 

「確かにお前の言う事の半分は当たっている。

だがそれだけでは––––––篠ノ之箒、君に託す理由にはならない。」

 

「あ––––––…」

 

箒はISをどうするつもりなのかを明白にしたいことと、政治的問題を考えるあまり、なぜ自分なのか––––––という疑念を失念していた。

––––––考えてみれば分かる話だ。

今箒が言った内容であれば、アンノ技研のテストパイロットを呼べば良い。

それをせずに箒に託すなど、情報漏洩の危険性があり非効率の極みだ。

 

「君に託す理由––––––それは、『篠ノ之束の妹である君が対IS用発展型ISに乗る』事自体が、政治的アピールに繋がるからだ。」

 

橙子は言う。

 

「それに永世中立のIS学園で運用試験を行うにも、他に理由がある。

何しろ、国連では未だに日本は【敵国条項】の烙印を押されているからな––––––万一対IS用発展型ISなんてパワーバランスを破壊するような兵器を開発しようものなら、敵国条項を口実に経済制裁や武力制裁を食らってもなんら不思議では無い。

––––––現に、IS台頭後の混乱を引き起こした責任として日本はISの養育を全負担することを強制されている。

これ以上日本が負担を背負わないようにするにはIS学園を利用する他ない。」

 

––––––敵国条項。

太平洋戦争での敗戦以降、国際社会から日本に押された烙印だ。

現在は各国と様々な信頼を築いているからこそ、有耶無耶にされているが、もし日本が世界に混乱を起こそうものなら全世界から武力攻撃を受けてもおかしくない––––––。

そしてそれは仕方のない事だ。

––––––日本が敗戦国なのだから。

解決したければ、今後よりいっそう国連のイヌとなり自国民にさらなる負担を背負わせてでも国際社会に媚びを売るか、第3次世界大戦でも起こして戦勝国になるか––––––の、どちらかだ。

 

だからこそ、その敵国条項を口実にされないように橙子は永世中立であり独立自治権を持つIS学園を運用試験場に選んだ。

そして箒自身、束の撒き散らしたISの台頭によって世界が歪んでいると認知していること––––––そしてそんな世界に嫌悪感を抱いている。

要人保護プログラムによって家族から引き裂かれ––––––子供らしい日々を送れないだろう、可哀想に––––––そんな目で見る大人を腐る程見ていた箒からすれば、自分にこうして専用機を差し出そうとするなんてことは容易に想像できる。

もちろん、利用出来るという意味で。

––––––姉がばら撒いたISの所為で歪んだ世界に対し、実の妹が反旗を翻す。

これ以上のプロパガンダ(政治的宣伝)があるにしても下手なものより効果はあるだろう。

 

「…大体貴女が言いたい事は分かりました。

要は私に対IS用の専用機を与えて、あの女の支配下にあるものに対するプロパガンダにしたい––––––そういうことですか?」

 

「ザックリと言うとな。

––––––ところで君、どこでそれらの知識を?」

 

「それは––––––」

 

応えようとして、声が詰まる。

––––––どうして、さっきみたいな発言が出来た?

––––––どうして、こんな知識はないのにスラスラと口に出来た?

––––––どうして、こんな風な知識が、いつの間に頭の中にある?

––––––どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして––––––。

脳が、混乱する。

おかしい、と脳が訴える。

それもそうだ。

––––––本来の箒なら先程の問答で橙子に投げかけた言葉を一問一句全て口にすることは出来ない程、政治的知識は無かったのだから。

だから、自分の異常に固まってしまう。

 

––––––ふと。

 

「––––––ん。」

 

今までずっと立ったまま寝ていた千尋が目を覚ます。

––––––そして相変わらず何処と無く笑っているような顔をして。

 

「––––––来た。」

 

呟く。

 

––––––瞬間、轟音と振動が地下格納庫を揺さぶった––––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何ヶ月も更新放ったらかしてすみません…。

今回はここまでになります。
次回から対ゴーレム戦に突入します。
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