ポケモン(仮) 作:ネコ
目覚めたら、真っ暗な闇の中だった。
夢でも見ているのだろうと、もう一度目を閉じて寝ようとするが、眠れないうえに目を閉じたことで、感覚が鋭敏化してくる。
仕方なく目を開けて、今度は闇を見渡そうと目を慣らしていると、次第に周囲の状況が見えてきた。
ごつごつとした岩肌が、僅かながら湿り気を帯びているようで、うっすらと濡れている。
(ここどこだ?)
目が慣れたことで周囲の状況を探ろうと、身体を動かしたところで気がついた。気がついてしまった。
「ぴぎぃ!?(身体が溶けてる!?)」
暫く混乱したまま暴れまわっていたが、数分経って落ち着きを取り戻した。暴れたところで現状が変わるわけではなかったので、当然ではある。
(んー。これってスライム? だよなぁ……)
手を動かすと、スライム状の身体から手に当たる部分が盛り上がり、意思に従って動く。そんな身体の動作を確認し、目が覚める前のことを振り返った。
(えーっと……。寝る前何してたっけ……。やばい、思い出せない……)
そうやってぐにゃぐにゃと動いていると、なにかが近づいてくる気配を感じた。
その気配の方を見てみると、でかいコウモリが大きな羽を羽ばたかせながらスライムに近付いてきている。
(なんだ? あれは、コウモリって言うよりも……そうだ! ドラキーだ! と言うことは、ここはドラクエの世界か!)
スライムは近付いてくるコウモリを見て、満足したように頷いていたが、突如として襲ってきたコウモリに、それまでの余裕を崩して焦り出す。しかし、ドラクエの世界と思い出し、強気になり始める。
(ドラクエは5くらいまでしか知らないけど、ドラキーなんぞに負けるわけがない! 初期の最弱はスライムだが、差なんて無いに等しいからな!)
敵の正体が分かりスライムは強気に出る。
敵の攻撃を逆手に取り、カウンターを合わせて反撃し、相手がふらついたところに追撃してたいあたりを食らわせる。
(ゲームではターン制だったけど、リアルでは関係ない!)
スライムの体当たりによりコウモリは壁に叩きつけられた。
スライムは好機と捉えて更に攻撃を食らわせる。
一方的な戦いは暫く続き終わりを迎えた。スライムが攻撃を続けたことで、コウモリが途中からピクリとも動かなくなったのである。
(よし! 勝った……?)
コウモリを倒した瞬間に、スライムは力が湧いてくるような感覚に襲われた。酔いしれるような高揚感に身を任せ、再びスライムの身体に目をやる。
(強くなった感じがした。これがレベルアップかな?)
身体のあちこちを見て、身体的特徴に変わりが無いことを少し残念に思いながら、スライムはこれからの事を考え始める。
(取り敢えず、夢のような話だけど、夢じゃなさそうだし、ドラクエのどれに当たるかは分からないけど、最低でも生き残る力は必要だな。スライムだから高が知れてるかもしれないけど、レベルが上がれば素早さも上がるし、危険も回避できるはず! そうと決まればドラキー狩りだ!)
そうしてスライムのレベル上げが始まった。
コウモリを見つけては襲いかかり、動く丸い岩は見つからないように逃げまくる。
一時期はコウモリが居なくなることもあったため、止めは指さずに身動きできないくらいまでの戦いにシフトした。
しかしながら、何事にも限度はある。
とうとうコウモリが姿を見せなくなった。
仕方なく、スライムは標的を大きな動く岩に変える。
(爆弾岩に勝てるかなぁ……。まだ、ギラすら使えないんだけど……。爆弾岩って腕あったっけ?)
スライムは標的を暫く観察してから、腕の有無は誤差であると切り捨てて戦闘プランを組み立てる。
(長期戦で、相手にメガンテの気配が見えたら即逃げ作戦かな)
スライムは、助走をつけて大きな動く岩にたいあたりを敢行した。
たいあたりを受けた大きな動く岩は背後からの攻撃に対して機嫌が悪そうに振り返る。
しかし、そんな行動の隙をスライムが見逃すはずもなく、スライムの身体を利用して大きな動く岩の下に潜り込み投げ飛ばす。
投げ飛ばされた大きな動く岩は、壁にぶつかったものの、コウモリの時とは違いダメージを然程受けているようには見えなかった。
(やっぱりレベル差が有りすぎかな……)
少し弱気になったものの、ヒット&アウェーを繰り返していく。
背後からばかり攻撃が来たことで、流石に我慢ができなかったのだろう。大きな動く岩は振り返らずに、我慢しているような動作を取った。
スライムは違和感を感じとり、体当たりの代わりに、石を投げつける。
その石が当たった次の瞬間。
大きな動く岩を中心に爆発が起こった。
その衝撃は、離れていたはずのスライムにまで届き、スライムは壁に叩きつけられる。
(ぐぅ……。流石にヤバい……。まともに食らったらおしまいだな)
こうして、大きな動く岩に勝ったスライムは、動く大小様々な岩を狙い始める。
月日が経ち、洞窟内で敵がいない程にまで成長したスライムは、レベル上げの片手間に、魔法の練習をしていた。
(既にギラを覚えるレベルに達してるはず!)
壁に向かってギラ! ギラ!と念じることを何度も繰り返し、その魔法の合間に、やけつく息などにも精を出していた。
しかしながら、なかなかうまくいかず、途方に暮れ始めたところで、考え方を変える。
(そもそも、魔法の感覚が分からないんだから無理だな。ここはひとつ、諸先輩方に教えを請いに行こう)
スライムは洞窟から出ることを決心し、洞窟内をさ迷い始める。
これまで、レベル上げのみを考えており、洞窟の探索をほとんどやっていなかったため、出口がサッパリ分からないのだった。
(ここは冒険者左手の法則で……右手だっけ? どっちでもいいか!)
スライムは道中にいたモンスターを倒しながら、外に出るための道を模索し続けた。
洞窟内をさ迷うこと数日。
洞窟の外から差し込む光を見つけた。
(やっと外か……)
眩しさに視界を奪われながらも、小さな隙間を抜けて洞窟の外に出る。
それと同時に感じる浮遊感。
スライムは、自分がどうなっているのかを理解した。
(やべぇ!? 崖から落ちてる!!)
スライムは慌てて崖にすがり付こうとするが、掴んだ傍から崖は崩れ、落下の速度を少し緩和した程度にしかならない。
それでもなんとか掴もうともがいていたが、それも間に合わなかった。
崖の下にあった激流に叩きつけられた上に飲み込まれ、スライムはそのまま意識を失った。
スライムが次に目を覚ました時、スライムの隣には小さな少女が興味深そうにスライムを見ていた。
少女は時折スライムの身体をつついたりと、興奮を抑えきれていない。
どこぞの宇宙人と同じように、少女の指に合わせて身体の一部を盛り上げてみると、少女は目を見開き、立ち上がって「おかあさーん」と叫びながら部屋を出ていった。
次に少女が戻ってきたときには、少女の傍に大人の女性が一緒にいた。
「かなり弱ってたみたいだけど、動けるようになったみたいね」
「わたし一杯看病したよ!」
「よく頑張りました。えらい、えらい」
「えへへ」
大人の女性───母親は少女の頭を撫でた後、スライムへと視線を戻す。
「この子は私たちの言葉が分かるかしら?」
「博士は分かるって言ってたよ」
スライムは、言葉が分かると言うことを伝えるため、両手を伸ばし身体の上で丸を作って見せる。
「あら。博士の言ってたことは本当みたいね」
「うん!」
少女は、机の上に乗せられたスライムに抱きつくと、嬉しそうに頬擦りする。
「全くこの子は……」
母親は、娘の行動に対して呆れたように溜め息を漏らしたものの、注意などはせずに、スライムへ話し掛けた。
「あなたは、川岸で弱っていた所をこの子に助けられたの。そのとき治療のためにモンスターボールに入れてるんだけど、あなたは住み処に帰りたい?」
「いやーー!! 一緒にいるのーー!!」
「駄々をこねないの! ポケモンの嫌がることをしちゃダメって言われてるでしょ!」
「それでも嫌なの!!」
スライムを抱えて少女は部屋の隅に身を潜めるが、母親の見ている前で身を潜めても意味はない。
少女はスライムを離さないように、更に強く抱き締めた。
(えーっと……。ここはドラクエじゃなくポケモンの世界? と言うことは、今の俺はスライムじゃなく……)
「メタちゃんはわたしのなんだから!!」
スライムと思っていたのは間違いで、本当はポケットモンスターのメタモンであることが判明した瞬間だった。
それにより、これまでの謎が解けてくる。
ギラが使えないのも、やけつく息などが使えないことも。
母子で言い争いをしていたが、謎が解けてスッキリとしたスライム改めメタモンは、母親に対して、更にジェスチャーで丸を返す。
「えーっと……。この子と一緒に居てくれるってことかしら?」
メタモンは再度丸を作る。
それまで必死に抱きついていた少女は、メタモンの行動を見て、母親に泣きそうな表情の顔を向ける。
「一緒に居ていいよね?」
不安そうに問いかける少女へ、母親は少し困ったような表情をしたものの、深く息を吐いて許可を出す。
「きちんと面倒を見るのよ」
「はーい!」
さっきまでの泣き顔が嘘のように笑顔になった少女をメタモンは改めて見やり、少女へ手を差し出した。
「よろしくね! メタちゃん!」
「ぴぎぃ(こちらこそ)」
これが少女───ブルーとメタモンの出会いだった。