ポケモン(仮) 作:ネコ
遅れてきたレッドは、トレードマークの赤い帽子で顔を扇ぎながら部屋の中を見渡す。
「あれ? その二人は?」
「わしが呼んだんじゃよ。レッドもそこの椅子に座るんじゃ」
「はいよ」
レッドは椅子に座ると帽子を机の上に置き、ラッキーから貰ったジュースで喉を潤した。
「あー! うまい! もう一杯!」
「相変わらずだの。まぁ飲みながら聞くがよい。お主らは今年で15歳になる。つまりはポケモントレーナーになる資格を得ると言うことじゃな」
「それくらい俺でも知ってるぜ!」
「静かに聞けって」
「レッドもグリーンも煩いわよ!」
「「ブルーの方が煩いだろ」」
口喧嘩を始める3人を博士は溜め息を漏らし、顔にてを当てて問い掛ける。
「何故お前たちは揃うといつも喧嘩するんじゃ」
「私は喧嘩してるつもりはないわ。喧嘩は同じレベルの人同士でするものでしょ」
「おれは諌めてるだけだよじいちゃん」
「絡んできたから相手してやっただけだし。別になんとも思ってないさ」
「なに上から目線でカッコつけてんのよ!」
「それをいうならグリーンもだろ!」
「俺を巻き込むな! 元はと言えばブルーが原因だろ!」
再び始まる口喧嘩に、流石の博士も限界に来たのか大声を出した。
「静まらんか!」
「大声だしたら血圧上がるぜ?」
「じいちゃん。歳なんだから……」
「顔が真っ赤よ? 病院に行ったら?」
3人の矛先が自分に来たことを悟り、博士はガックリと肩を落とすが、当初の予定通り静かになったことを思い出し説明の続きを始める。
「お前たちに長々と言っても仕方ないから簡潔に言うが、一ヶ月後に正式なポケモントレーナーの登録をするからここに集まれ。きちんと集まれたらわしからプレゼントをやろう」
「「「!!」」」
博士の言葉は、3人が長年待っていた言葉だった。
それぞれが、自分の思い描くポケモントレーナー像を思い浮かべる。
「話は以上じゃ。そら、行った行った」
上の空の3人を外に出し、博士は家の中に引きこもってしまった。
「旅に出る準備だな」
「「!?」」
グリーンの一言に、レッドとブルーが過剰な反応を示す。
ポケモントレーナーになれば、各町を回ることになる。
その途中で必要なものは多々あるはずだ。今までは漠然とした考えだけしかなかったが、博士に言われたことで現実味が増し、グリーンの言葉で、なんの準備もしてないことを二人は思い出していた。
「私はちょっと用事を思い出したから帰るわね」
「俺もちょっと寄るとこ思い出したわ」
二人はそう言うと、それぞれの家に向けて走り出す。
「分かりやすいやつらだな」
グリーンはそんな二人を見送ると、自分も家に向けて帰っていった。
それから数分後、家に辿り着いたブルーは、玄関の扉を開けて母親を探す。
「お母さん!」
「あらあら。どうしたの? そんなに慌てて」
「私来月にポケモントレーナーになるの!」
「もうそんな歳なのねぇ」
「だから旅に必要な道具を買って!」
「旅には何が必要なの?」
「え?」
「え?」
ブルーと母親はしばらく見つめあって、互いに知識がないことを知った。
「困ったわね。お父さんは旅に出たことなんて無いだろうし……。そうだわ! レッド君とグリーン君も一緒なのよね? 持っていくものを聞いたらどうかしら?」
「それはいや!」
「うーん……」
ブルーの拒絶の姿勢に困った母親へ、助け船が渡される。
「ん?」
母親の手を、メタモンから伸びた手が引っ張っていた。
母親がメタモンの方へ目を向けると、メタモンの手はテーブルの上に向けられる。
テーブルの上には、1枚の紙が置いてあり、そこに旅に必要であると思われる機材が一式書き込まれていた。
「これを買えばいいのかしら?」
「多分そう! さすがメタちゃんね!」
ブルーからの誉め言葉に合わせて、メタモンは器用にVサインをしてみせた。
「確かに、メタちゃんがいれば安心ね。メタちゃん、ブルーをお願いね」
「ピギィ!(任せて!)」
その後、メタモン主導のもと、旅に必要な荷物を買いに出掛けた。
一ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
この間にブルーとメタモンがしていたのは、機材の使い方を覚えることだった。
メタモンが組み立てれば早いのだが、ブルーが自分もやってみたいと言い始めたのだ。
チャレンジ精神は良いのだが、出来るまでやると言う負けず嫌いな性格は、一向に治る気配がなかった。
そのため、ブルーが機材が一通り使えるようになるまで、繰り返されることになり、それに一ヶ月掛かったのである。
「これで、何処だろうと大丈夫ね」
ブルーの言葉に、メタモンも頷いて見せる。
「さて、行くわよメタちゃん」
「ピギ!(ラジャ!)」
慣れ親しんだ道を歩き、博士の家に向かう。
既にブルーは母親に旅立つ挨拶をしており、博士の家に寄った後はそのまま次の町へ行くため、旅の道具を背負っている。
ブルーへの視線が多い中を、ブルーはいつもの事と切り捨てて歩く。
ポケモントレーナーまで後少しだった。
博士の家に着いてからは、緊張した手つきで呼び出しのブザーを鳴らす。
すると、ボタンの上にあるモニターに博士が映った。
「よく来たの。開いとるから中に入りなさい」
「し、失礼します」
ゆっくりと博士の家の扉を開ける。
家の中には、既にグリーンが台の前で立って待っていた。
「よぉ。遅かっ……。ぶふぅ!!」
ブルーを見て必死に笑いを堪えようとしたのだろうが、口から漏れる空気を防ぐことができずに、グリーンはそのまま笑い出す。
「何よ」
その笑いが気に食わなかったブルーは、グリーンを睨み付けながら博士の前に歩いていった。
しかし、グリーンはなかなか笑いが収まらないのか、腹を抱えて踞ってしまう。
そこへフォローをしたのは、年長者であり、理由がわかった博士だった。
「ブルーよ。そんなに大きなリュックを担いでどうするんしゃ?」
「旅の道具を持ってるに決まってるでしょ」
ブルーの機嫌は更に悪くなるが、博士は気にせずに話しかける。
「どうみても、過剰な荷物が見えるんじゃよ。リュックの横にぶら下げとる懐中電灯など、当分使わんじゃろ?」
「途中で洞窟とかあったら必要じゃない。それに、もし外で夜になったりしたら見えないと不便でしょ」
「ここから次の町まで子供の足でも二時間ほどじゃ。昼に出ても夕方までには十分につく。基本的には、次の目的地に行くのに必要な装備を除いたら、全部パソコンに預けといた方がいいんじゃよ」
「パソコンに預ける?」
初めて聞く内容に、ブルーは首を傾げる。
(そんな機能あったな……)
メタモンも、博士が口にするまですっかり忘れていた。
博士の説明では、現在のパソコンは物質の転送を可能にしており、尚且つトレーナーIDがあれば、個人用の格納スペースが貰えると言うものだった。
博士の説明が終わり、ブルーは持っていた荷物をパソコンに預け終わると、未だに笑っているグリーンへ指を突きつけた。
「笑っていられるのも今のうちよ! すぐにあんたは悔しがりながら家に帰ることになるんだから!」
「ハッ! そんな冗談はもういいって。これ以上笑わせるなよ」
火花が散るような視線がはしる空間を破ったのは博士だった。
「そろそろ時間じゃがレッドは来んのぉ」
「じいちゃん。時間通り始めようよ。そもそも遅れてくる方が悪いんだし」
「そうじゃの。では、二人にはこれを渡そう」
「これは?」
博士は、片手で持てるような小さなタブレットを二人の前に置くと、説明を始めた。
「これはポケモン図鑑と言ってな。ポケモンのデータを収集することができる」
「それだけ?」
「それだけではないぞ。送ることだけしかできんが、ポケモンの転送機能も付いとる。更に、ポケナビまでついとる優れものじゃ」
自信満々に言われ、目を輝かせるグリーンを他所に、ブルーにはいまいち有り難みが伝わらなかった。
「それよりも早くトレーナー登録してほしいんだけど」
「既に登録は終わっとるよ」
「そう言うことは早く言ってよね」
「じゃから、ここからはお願いになるんじゃが、これから色々なところへ行くにあたって、その地域のポケモンをその図鑑で調べてほしいんじゃ」
「まあ、ついでだしいいけど」
「任せろじいちゃん! ブルーがやらなくても俺がやるよ!」
二人のやる気の温度差はあったものの、博士は二人からの承諾に頷いて見せると、一番の本題であるモンスターボールを取り出した。
「トレーナーになったからには、ポケモンが必要じゃろう。ここに3匹おる。好きな子を選ぶとよい」
「うーん。どれがいいのかなぁ」
「ブルーが最初に選ぶといい。俺は残った方から選ぶよ」
「そう? なら……この子にしよっと」
ブルーが選んだのは、ゼニガメの入ったボールだった。
「よろしくね、カメちゃん」
「よし! それなら俺はこれだな!」
グリーンが選んだのは、フシギダネの入ったボールだった。
グリーンは、未だにボールを見て話しかけるブルーを見てニヤリと笑う。
「おいブルー。折角だし、ポケモンバトルしようぜ」
「───負ける戦いがしたいなんてあんたも物好きね」
「バトルは外でやりなさい」
博士に言われ、二人は外に出る。
バトルは博士の家の前で行われた。
「使用可能なポケモンは一体のみ。戦闘不能になった方の敗けだ」
「分かったわ。出番よ!(メタちゃん。分かってるわね?)」
「(ピギィ!)」
二人はそれぞれ目の前にポケモンを出した。
グリーンは、博士から貰ったポケモン図鑑を手に取ると、自分のフシギダネに向ける。
「まあ今更だけど教えといてやるよ! 草タイプは水タイプに強い! それに、このポケモン図鑑は手持ちポケモンの技を見れる優れものだ! 行けフシギダネ! ゼニガメにたいあたり!」
「そんな機能があったのね」
フシギダネはグリーンの指示に従い、ゼニガメに突き進む。その間ブルーは、グリーンに言われたポケモン図鑑を取り出し、ゼニガメに向ける。
「今さら遅い!」
グリーンが勝利を確信して叫ぶ。
それは、フシギダネがゼニガメに当たる少し前だった。
ゼニガメにたいあたりが炸裂し、フシギダネが吹き飛ぶ。
そのあまりの光景に、グリーンは口を開けたまま固まってしまった。それは、ポケモントレーナーとしては致命的と言っていい隙となる。
「えーっと。これね。じゃあれいとうビーム!」
「はぁ!?」
更に、覚えているはずのない技の名前に、グリーンは成す術もなく結果を見守るしかなかった。
「くそっ! 覚えてろよ!」
負け台詞と共にグリーンは立ち去り、その後にポケモン図鑑から音声が流れる。
『ただいまの勝負。ブルーの勝ちとなります。賞金については口座をご確認ください。現在1戦1勝0敗0引き分けです』
これがブルーの始めてのバトルとなった。