ポケモン(仮) 作:ネコ
グリーンに勝ったことで気を良くしたブルーは、ゼニガメに変身したメタモンに声をかける。
「メタちゃん戻っていいわよ」
「ピギ(分かった)」
メタモンはすぐさまブルーの服の中へ姿を消し、しばらくモゾモゾと動いた後、大人しくなる。
「グリーンの考えることなんてお見通しなのよ。今ごろ悔しがってるわね」
口許を吊り上げ、それが見られないよう手で口許を隠すと、ブルーは抑えられないように笑い出す。
一通り笑ってから、旅立とうとしたところで、レッドが来るのが見えた。
「よっ! ブルー」
「あんた遅刻よ」
「来る途中で怪我してるポケモン見つけてさ、治療してたんだ。こっちの用事はそんなに急がないし、それだったらポケモンの方が大事だろ?」
「それなら遅れるなりの連絡や、他の人に頼んだりできるでしょ」
「急いでたんだ。仕方ないさ」
「まあいいわ。私はもう行くし、それじゃあ元気でね」
「おう! ブルーも元気でな!」
レッドはこれ以上遅れても一緒だと思っているのか、特に急ぐことなく博士の家に歩いていく。
ブルーはそれを見届けることなく、町の外へ向けて歩き出した。
「改めて、これが最初の一歩ね……」
ブルーは町から外へ一歩目を踏み出す。
その一歩目の余韻にしばらく浸り、ブルーは元気よく次の町へ歩き始めた。
「暖かい日差しだし、絶好の旅立ち日和ね」
夏前特有の暖かい気候により、周辺には草花が生い茂り、花の蜜を求めてバタフリー等が集まってきている。
ブルーは律儀にも、それらをポケモン図鑑に収めながら次の町であるトキワシティへ向かった。
「ピギ(ストップ)」
「ん?」
メタモンの呼び掛けにブルーは立ち止まる。
すると、ブルーの手から伸びたメタモンの手が、太陽を指差し、次いでサンドイッチの形をとる。
ブルーは眩しさを手で防ぎながら太陽の位置を確認した。
「確かにそろそろお昼の時間ね」
「ピギピギ(そうそう)」
ブルーは手頃な段差を探して座ると、手持ちのポーチから水筒とサンドイッチを取り出す。
「はい、これ」
「ピギィー(サンキュー)」
メタモンはブルーの前に姿を現すと、貰った水筒の中身を口に入れる。
そして、水筒をブルーの横にそっと置いた。
「それにしても、他のポケモンと違って水分だけでいいなんて、メタちゃんって不思議よね」
メタモンはこの世界に来てからと言うもの、ほとんどを水分補給だけで過ごしていた。
他の固形物も食べれるのだが、液体系の物より味を感じないため、積極的に摂る気にはなれないのである。
「さて、お昼も食べたしゆっくり行きましょ」
ブルーの声に反応して、それまでダラッとしていたメタモンはブルーの服の中へ消えていく。
それを確認したブルーは立ち上がり、トキワシティへ向けて歩き始めた。
ほどなくして見えてきた町の入り口に、ブルーはホッと息を吐く。
初めて隣町へ一人で来たのだ。何度か親と共に来たことがあったとしても、一人で来たということが大きかった。
ブルーは、トキワシティへ続く坂を駆け上がっていく。
「とうちゃーく!」
嬉しさのあまり両手を上げて叫び出す。
近くにいた人は何事かとブルーを見たが、すぐに興味を失ったのか、ブルーから視線を外す。
「さてと、早速ジムに挑戦ね! この日のために、トキワジムの位置はバッチリよ!」
ブルーはジムに向けて走り出す。
メタモンが何か伝えたそうにしていたが、そんなことには聞く耳を持たず、それ以前に気付いてもいない。
ショップの前を通り過ぎ、ジムはすぐに見つかった。
「さて行くわよ!」
ブルーはジムの扉に手を掛けて、押したり引いたりするが扉が開く気配は全くない。それでもブルーはしつこく扉を開けようと暴れ始めた。
「私を恐れて鍵を閉めるなんて! ジムリーダーとして勝負しなさい! さもないとこの扉をぶっ壊すわよ!」
それでも、ジムの扉が開くことはなかった。
「そう。そっちがその気ならこっちにも考えがあるわ。───はかいこうせん!」
ブルーが扉に手を向けて叫ぶが、はかいこうせんが出ることはなかった。それをいぶかしみ、ブルーはメタモンに声をかける。
「メタちゃんどうしたの? はかいこうせんよ」
「ピギ(あれ)」
メタモンははかいこうせんの変わりに、矢印を出しジムの壁を指す。
ブルーはその方向に顔を向けた。
その視線の先には、紙が張られており、大きい文字で連絡事項と書かれていた。
「えーっと……1ヶ月ほど所用によりジムを休むため、ジムへの挑戦についてはそれ以降になるですって!? 何のためのジムリーダーよ! そんなんならジムリーダー返上しなさいよね! 全く役に立たないジムリーダーだわ!」
「それはすまなかったな」
「全くよ! ジムバッチを速攻で集めようとしてるのに肝心なときにいないなんて!」
「こちらにも用があってな」
「それで許されるわけないでしょ!」
「代人の件は考えておこう」
「考えておいてよね!」
「ああ、分かった」
ブルーは傍らに立っていた男へ怒るように言い終えた後、立ち去ろうとして逆に男から声を掛けられる。
「おい、嬢ちゃん。もう行くのか? ここのジムに挑戦しに来たのではないのか?」
「ジムリーダーが居ないんじゃどうしようもないでしょ」
「ここのジムリーダーは私だ。忘れ物を取りに来たんだが、少しくらいなら相手してやる」
「それはラッキーね!」
男は、ジムの扉の鍵を開けて中へ入っていく。
ブルーは笑顔でその後に続いた。ジムリーダーの顔はかなり強面であり、黒いスーツを着ているため、更に近寄りがたい雰囲気はあったが、ブルーの方に気にした様子はない。
ジムの中はシンプルに整えられており、バトル用の空間以外に特筆して見るべきものはなかった。
「なんかこざっぱりしたところね」
「バトルをするだけだ。特別なものなど必要ないだろう」
「それもそうね」
「バトルの前に聞くことがある。現在バッチは幾つだ?」
「今日ポケモントレーナーになったばかりだから0よ!」
「なん……だと?」
自信満々に答えるブルーへ向けて、ジムリーダーの男は僅かに可哀想な者を見る目で見ていたが、溜め息を盛大に吐いて続きを聞く。
「───それで? ポケモンは何匹持ってるんだ?」
「カメちゃんとメタちゃんの2匹!」
「本来ならば、受けないところだが、身のほどと言うものを教えてやろう。───モンスターボールは各自2つまで。俺の方はペルシアンとニドリーノだ。どちらかのポケモンが2匹とも戦闘不能になったら終わり。それでいいな?」
「オッケー! やるわよ! 頑張ってねカメちゃん!」
「いけペルシアン」
ゼニガメの前に現れたペルシアンは、ゼニガメを無視してジムリーダーの男に顔を向ける。
「適当に相手をしてやれ」
「ニャー」
「カメちゃん! みずでっぽう!」
先手必勝とばかりに、ブルーはゼニガメに指示を出す。
ゼニガメが戦うのはこれが初めてではなかった。
トキワシティに来るまでに、何度か戦闘を行っていたのである。そのため、新しくみずでっぽうを覚えていた。
しかしながら、少し強くなったからと言って、ジムリーダーのポケモンに敵うはずもなく、ゼニガメの放ったみずでっぽうはペルシアンの顔に当たったはいいものの、なんらダメージを与えることは出来なかった。
ペルシアンは面倒そうに立ち上がり、ゆっくりとゼニガメに向けて歩いていく。
「カメちゃん! しっぽをふる!」
「ゼニー!」
ペルシアンに向けてしっぽをふるが、ペルシアンは何事もないように目の前まで行くと、前足でゼニガメをひっかいた。
咄嗟にゼニガメは甲羅の中に避難したものの、軽く振るわれたペルシアンの前足の威力は凄まじく、ゼニガメはジムの壁に叩きつけられ意識を失う。
「カメちゃんお疲れさま」
「次はなんだ?」
「メタちゃんお願い!」
ブルーの声に反応して姿を表したのは、トレーナーになったばかりの者が持っているはずのないポケモン───ゴーリキーだった。
「何!?」
これには、ジムリーダーの男も驚き目を見開く。
「メタちゃん! でんこうせっかからのちきゅうなげ!」
「ピギィ!(わかった!)」
この時の鳴き声をきちんと聞いていれば、ゴーリキーではないことが分かったかもしれないが、ジムリーダーの男は完全に聞き逃し、慌てたようにペルシアンへ指示を出す。
「スピードスターを散布して距離をとれ!」
「ニャー!」
ペルシアンはゴーリキーの方へ向けてスピードスターを放つが、ゴーリキーのスピードはその程度の障害で衰えることはなく、ペルシアンへ掴み掛かり、身体を持ち上げるとそのまま飛び上がって床に向けて叩きつけた。
ペルシアンはその一撃を受けて気絶してしまい、モンスターボールへ戻される。
「貰い物のポケモンがいたとはな」
「貰い物じゃないわ! ちゃんと私が捕まえたんだから!」
「なるほど。たまにいる先行組か……。まあいい。行けニドリーノ」
ブルーはすかさず、ジムリーダーの出したポケモンへポケモン図鑑を向ける。
「なるほど、毒タイプね……」
「ふん。調べたからと言ってどうにかなるわけではあるまい。どくばり!」
「メタちゃん避けて!」
「ゴーリキーにそこまでの速度は……」
言い掛けたところで男は止める。先程の戦いでも、ペルシアンが速度で負けるはずがないにも関わらず、負けたのである。油断をしていい相手ではなかった。
「ニドリーノ。どくばりを離れながら連射。隙を見てかげぶんしん」
ゴーリキーは、ニドリーノのどくばりを器用に避けてはいるが、あまりの数の多さに近づけないでいた。
ニドリーノはその隙に距離を取り自分の分身を幾つも作り出す。
ゴーリキーは分身したニドリーノのどれをターゲットにするか迷っていた。
「これで終わりだな。ニドリーノにどげり」
「メタちゃん空間全体へサイコキネシス!」
「!?」
信じられない指示に信じられない現象。
ゴーリキーへ殺到したニドリーノは、ゴーリキーの放った不可視のサイコキネシスにより一網打尽となってしまった。
結果だけを見れば、毒タイプがエスパー技で負けただけなのだが、その技を放ったのが格闘タイプのゴーリキーだったのだから納得のできるものではない。
「やったー! 勝利ー!」
「……」
ブルーはバトルに勝利した際の電子音声を聞いて喜んでいたが、負けた方のジムリーダーは興味深そうにブルーを見ていた。
「お嬢ちゃん。ジムバッジだ。持っていけ」
「あ! ありがとう!」
「それと名前を聞いてもいいか? 俺はここのジムリーダーをしているサカキという」
「私はマサラタウンのブルー。カントー地方の未来のチャンピオンよ!」
「そうかい。ところで、そのポケモンはどこで手に入れたんだ?」
「川で拾ったの。なんか物凄く弱ってたからモンスターボールに入れてポケモンセンターで直して貰ったのよ」
「ちなみにどこの川で?」
「えーっと……。トキワの方からマサラタウンに繋がってる川だけど……」
「なるほどね」
「じゃあ私は行くね! バッジありがとう!」
「ああ。それじゃあな」
ブルーが元気に走り出していくと、入れ替わるようにしてジムに複数の黒いスーツを着た集団が入ってくる。
「ボス。そろそろお時間ですが」
「少し予定を変更する」
先程までとは一変し、サカキは口許を歪ませると、黒スーツの集団へ指示を出した。
「トキワへ繋がる川の上流を探れ。そこで、特殊なポケモンを見つけた場合は報告しろ。残りは予定通りお月見山だ」
『はっ!』
「くっくっく。良いことを聞かせて貰ったぜ」
黒スーツの集団は恐れるようにして笑うサカキを見つめていた。