ポケモン(仮) 作:ネコ
トキワのジムリーダーに勝利し、ポケモンセンターでポケモンを休ませたブルーは意気揚々と次の町であるニビシティへ向かっていたが、その道中で足止めを食らっていた。
「いやーーー!!!」
あるポケモンを見ては、どことも知れない道を走り回っているのである。その原因とも言えるのは、キャタピーとビードルだった。
進化後の動かないトランセルなどやバタフリーにスピアーは大丈夫なのだが、未進化の芋虫は見ただけで鳥肌が立ち、すぐに逃げ出してしまう有り様だ。
メタモンが強制的に対応してもよかったが、たまにはいい運動になるだろうと、疲れるまで放置している。
「ゼェハァゼェハァ」
木に手をつき、荒い息を吐きながらブルーは疲労困憊の状態に陥る。
ブルーはそのまま木に寄り掛かると、ずるずる下がって座り込む。
「なんで、ハァハァ、こんなに、ハァハァ、芋虫が、ハァハァ、多いのよ、ハァハァ」
流石に、もう動けないと目を瞑って愚痴るブルーの負担を軽くするため、近くにいるポケモンへ注意する。
「ピギ、ピギピギピギィ!(すまんが、ゆっくり休みたいらしいから出てくるのは控えてくれ!)」
メタモンの声が聞こえたのか、心配そうに近付いてきていたポケモンたちは、木の裏や茂みの中へ姿を隠す。
その気配を感じたメタモンは、ブルーの前にゼニガメとして姿を現すと、もう一匹の仲間であるゼニガメに声をかける。
「ピギー(カメ出てこーい)」
「ゼニー?(呼んだー?)」
「ピギピギ(ブルーを扇ぐぞ)」
「ゼーニー(りょうかーい)」
メタモンはれいとうビームで氷の塊を作ると、それをブルーの傍に置き、ブルーのリュックから団扇を取り出すと、それをゼニガメに渡し、自らは、身体の形を変えて団扇を作り扇ぎ始める。
「ゼニー(兄貴は慣れてるねー)」
「ピギ(長年やってるからな)」
「ゼニゼニー?(どうやったら兄貴みたいになれるのー?)」
「ピギ、ピギピギ(俺は俺だから、カメが俺になることは出来ないよ)」
「ゼニー(残念だなー)」
久し振りにゆっくりとした時間を満喫していたが、空の色が代わり始めたことにメタモンが気付き、扇ぐのを止める。
ブルーは余程疲れたのか、木にもたれ掛かって寝むってしまっていた。
「ピギピギピギィ(夕方になるから、次の町に飛ぶぞ。ボールに戻れ)」
「ゼーニ(はーい)」
ゼニガメは、ブルーの腰につけられたボールに戻る。
それを確認したメタモンはピジョンへと姿を変えると、それまで静かだったトキワの森のポケモンたちが騒ぎだした。
メタモンはその喧騒から逃れるようにブルーを優しく掴むと、空に向かって飛び上がる。
空は茜色に染まり、遠くに見える町からは、小さな明かりがポツポツと見え始めていた。
トキワの森を越えた先にある、ニビシティが見える位置に着いたメタモンは、そっとブルーを地面に置くと、変身を解いてブルーに取り付く。
そして、意識の無いブルーを操作しながらポケモンセンターへと向かった。
ポケモンセンターは夕方から夜に入っていることもあり、周囲から目立つよう明かりが煌々とついている。
メタモンは自動扉を潜り抜けた先にあるホールの中央へ進む。
「どうかされましたか?」
「ピギ(カメの回復)」
「ラッキー?(え?)」
メタモンはブルーの腰からモンスターボールを取り外すと、ジョーイに手渡した。
聞きなれない声に、ジョーイと隣にいたラッキーは不思議そうな顔をしたが、ポケモンの回復であること以外には思い付かなかったので、そのままモンスターボールを機械にセットして回復させる。
回復自体は、ゼニガメの疲労のみであったため、一分もせずに終わり、モンスターボールはブルーに返された。
「これでゼニガメちゃんも元気になりましたよ。他にご用件はありますか?」
メタモンはジョーイからの言葉に、筆記用具を取り出して文字を書くと、それをジョーイに見せる。
「───なるほど。宿泊施設のご利用ですね。それではトレーナーカードの掲示をお願いします」
メタモンはトレーナーカードが何処にあるか分からなかったため、ブルーの服の中を探るが見つからない。
そんな慌てた様子を見て、ジョーイが助け船を出してきた。
「出身とお名前が分かれば照会できますよ」
「!!」
メタモンは先程の筆記用具で、ジョーイに伝える。
「マサラタウンのブルーさんですね。───はい、確かに確認しました。それでは部屋に案内しますので着いてきてください。ラッキーはお留守番お願いね」
「ラッキー(分かった)」
メタモンはジョーイの言葉に頷いてみせると、ジョーイに続いて部屋へと向かう。
部屋はこじんまりとしていたが、シャワー室とトイレがあり、窓の傍には机と椅子、ベッドが設置されていた。
部屋の中は空調が利いているのか、過ごしやすい気温になっている。
「ブルーさんはこちらの部屋を使ってください。細かなルールについては机の上にある冊子を見てね」
ジョーイは必要最低限のことを伝えると、部屋を出ていく。
メタモンはそれを確認すると、部屋の鍵をかけてブルーの服を脱がせ、そのままベッドに潜り込む。
(全く、何時まで経っても世話の焼けるやつだ)
メタモンは布団を掛けてブルーから離れると、ポケモン図鑑を起動する。
(ゲームでは大雑把にしか分からなかったけど、結構このマップは細かいな……)
興味のある項目以外は無頓着なブルーに代わり、こうやって細かいことのフォローをするのはメタモンの役割になりつつある。
そのことに嘆息しつつもポケモン図鑑でマップを確認していく。
旅をする上で、主要な町や施設の場所は知っておかないと何かがあってからでは遅い。幸いにも、今回の迷子は、トキワシティとニビシティがトキワの森を挟んでいただけであるため、太陽の位置から方角を割り出し、北へ進めば良かっただけだが、この世界は想像よりもかなり広い。現在地が分からないところで迷子にでもなったら、周辺をしらみ潰しに探さなければならない。
そんな苦労をするくらいならと、メタモンは地図を真剣に覚えるのだった。
「んー!! よく寝た。───あら? ここはどこかしら?」
ブルーは身体を起こし、両手を挙げて背を伸ばすと、部屋の中を見渡して呟く。
ブルーの声で目を覚ましたメタモンはのそのそと机の上にある冊子を持ってブルーの前に掲げて見せる。
ブルーは冊子を手に取り、パラパラと中身を見始めた。
「ニビシティ……。いつの間にかニビシティまで走ってきたのね。それじゃあ───」
続きを話そうとして、ブルーのお腹が鳴る。
ブルーはお腹を押さえて顔を僅かに赤くすると、まぎらわすようにベッドから降りた。
「さて、先ずはシャワーを浴びてそれから朝食ね」
ブルー下着を脱いではシャワー室に入っていく。
先程お腹が鳴ったことに恥ずかしがった少女とは思えなかった。
しかも、シャワーを浴びている途中でシャワー室から顔を出し、下着や服の準備をお願いする始末である。
メタモンは眠そうに目を薄く開けながら、リュックの中を漁って準備をすると、シャワー室の前に置いて睡眠の続きをとる。
しばらくして出てきたブルーは、タオルで身体を拭くと準備された服に着替えて髪を整え始めた。
「カメちゃん起きてる?」
「カメー?(なにー?)」
「ちょっと髪がちゃんと出来てるか見てくれない? メタちゃん寝ちゃってて起きそうにないのよ」
「カメカメー(兄貴頑張りすぎだよー)」
ゼニガメは椅子に座ったブルーの後ろに回り、手に取ったブラシでブルーの髪をとかしていく。
ブルーは机に設置された鏡面を見て前髪の方を整える。
「メタちゃん起きてー。ご飯にいくよー」
髪の形に満足したブルーは椅子から立ち上がると、メタモンを起こしに掛かる。
ブルーは鋼鉄のように固くなったメタモンを揺らしたり叩いたりするが、一向にメタモンが起こる気配はない。
「もう! こうなったら奥の手ね」
ブルーはメタモンに顔を寄せて囁くように呟く。
「起きないと襲っちゃうぞ」
ブルーの言葉は劇的な反応を見せる。
固くなっていたメタモンは柔らかさを取り戻すと、目を薄く開けたまま、ブルーの服へと吸い込まれるように入っていく。そして、しばらくモゾモゾと動いたあとに落ち着いたのか、動かなくなった。
「ちょっと重いし……まだ寝ぼけてるのかな? まあいっか、行くわよカメちゃん」
「カメー(はーい)」
ブルーはリュックを背負うと、部屋を出ていく。
この状態がこの後に影響するなど、この時には誰にもわからなかった。