「………ここ、どこだ…?」
身体を起こして辺りを見回して見るが、真っ白な壁に大理石の床、豪華だと思いつつも少し寂しい風景に視線を巡らせていると、背後に気配を感じ勢いよく振り返る。
「起きた途端に状況把握か、普通ならばそれで良いのだがな、もう少し気配を探る術も身につけた方が良いのではないか?」
さっきまでの寂しい風景が一変し、壁には羽衣を纏った美しい女性の描かれたタペストリーが貼られており、机にはタペストリーに描かれている女性と同一人物と思われる人形が所狭しと置かれており、人形の他には殆どが大陸に包まれた地球儀が置いてある。
大陸ってここまで多かったか?
そして、机の向こう側には、タペストリーに描かれた女性が着ている物と殆ど変わらない羽衣を着たおじさんがいた。あごひげ!あごひげスゲェ!
「聞いているのか?」
「あごひげスゲェ!…あ」
「適応能力は充分…いや、充分すぎるな」
おじさんが溜息と共に頭を抱えていた。
なんかごめんね。
「ふぅ、んでここどこ?」
「お前は死んだのだ!」
「ふぅん、そっか」
「え?あれ?それだけ?」
気合十分に目を見開き宣言したおじさんであったが
俺の軽い返事に戸惑い、茫然自失としていた。
「いや、あのさ。俺、最後の記憶がアスファルトの上だからさ、次に目が覚めた場所がこんな場所じゃあ、死んだって言われてもああ、そうですかとしかならないだろ」
「適応能力が高すぎるのも面白くないな。ではなぜ死んだかわかっておるのか?」
拗ねた様に唇を尖らせてそっぽを向きつつ質問してきた。
おっさんが唇尖らせてもキモイだけだな。うぇ、吐きそう。
「オロロロロロ」
「なぜいきなり吐き出した!?」
「うぇ、ごめん、おっさんがキモくてつい」
「お前は私が誰だかわかっておるのか?」
鋭く睨み、威圧感たっぷりに尋ねてくる。
まぁ、予想は付くけどさ。ここで言っても面白くなくね?
「近所の頑固親父」
「やま…」
「それ以上言うな!個人情報だ!」
聞いてきた問に対して答えようとしたが、おじさんが焦った様に遮り、フルネームで名乗る事はできなかった。
んだよ、自分から聞いてきたくせに。あ、あと、その頑固親父は山田………
「やめろと言っておるだろうが!」
「んだよもう。ナチュラルに人の心読むのやめろよな」
「話が進まん。本題に戻すぞ。お前はなぜ死んだかわかっているか?」
目頭を揉み解す様に押さえ溜息を吐くと、今度は真剣味を帯びた声で尋ねてきた。
元からそういう態度でいりゃあふざけなかったのにな
「さぁ、覚えてない。けどベビーカーが絡んでいた気がする」
「ほう、そこまで覚えているのか。まぁいい、お前は暴走したベビーカーに轢かれて死んだのだ」
威厳たっぷりに意味のわからないことを宣言していた。
ベビーカーに轢かれて人間って死ぬのか?
「なぁ、人間ってそんなに脆かったか?」
「まぁ、聞け。お前はベビーカーに轢かれ突き飛ばされた後、偶然高速で走っているトラックに撥ねられ、その後後ろを走っていた軽自動車の下敷きになったのだ。」
これまでにないほど偶然に見舞われていた。
まぁ、運が悪かったな。まぁ、現世に未練もないしいいか。
「なぁ、だったら普通死後の世界ってやつに行くんじゃないのか?」
「まぁ、普通はそうなるのだがな、お前には選択肢がある。」
「選択肢?」
「このまま死に輪廻転生し、現世に戻るか
もしくは現世とは異なる世界に転生するか
どちらか選ぶと良い。」
目の前のおっさんがまた意味のわからないことを言い出した。
え?異世界転生?なにそれラノベじゃないんだから、そんなことないよね?
「俺、あんまり良いことしてなかった気がするんだが何故そんなに好待遇なんだ?」
「善行はしてないが、悪行をしてもいないだろう。それに、死ぬ直前お前は赤子を庇っていた。」
そんなことしたかな?覚えてねぇや
「まぁそういうことだ、死ぬのなら地獄行き位は無い様に私から閻魔に取り計らっておく。
転生するのなら特典の三つ四つはつけてやろう」
「マジの好待遇じゃないか。なら転生にしようかな。」
おじさんの発言に対して俺は目を輝かせていたのだろう少し苦笑していた。
「なら、特典を決めると良い。特殊能力、容姿、身体能力何でも良いぞ」
「んじゃあさ、この姿にしてくれよ」
俺は重大な事故に巻き込まれたにも関わらず新品の様に綺麗な携帯を取り出し、とある画像を呼び出した。
「ふむ、これは女か?」
「おう、頼むわ」
「よかろう。そいっ!」
気の抜ける様な掛け声と共におっさんが腕を振り下ろすと、視界が真っ白な煙に包まれた。
煙が晴れた先には少し大きくなった様に見えるおっさんがいた。
「あれ?おっさんでかくなった?」
「お前が小さくなったのだ。女性であれば、お前の身長はちと高すぎる」
「おお、配慮ありがとう」
おっさんに感謝しつつ、意気揚々と何故か近くにあった姿見で自分の姿を確認する。
こんなのこの部屋にあったかな?まぁいいや
姿見に映っていたのは白銀色の髪に、赤いローブっぽい服を着た女性だった。
おお、マジで姿変わってるよ。乳でけぇ。
「ひとつ聞きたいのだが、その姿は…」
「うん、予想通りだと思うよ」
「やはりか、だが、能力まではつけておらぬぞ?」
「当たり前だよ。そこまでは要らない。俺も転生先でチート乙なんて言われたく無いからな」
おっさんが戸惑うのも無理は無かった。何故なら、今の姿は某弾幕ゲームに登場する魔界神の姿そのものだったからだ。
まぁ、唯一神なんて肩書き持ってる奴と同じ容姿の奴が目の前にいりゃあ落ち着かないわな。
「あのさ、これに関する要望をひとつ忘れてたんだけどさ、この服赤地の部分黒く出来ない?無償で」
「はぁ、本当に図々しい奴だな。仕方がない。これで良いか?」
少し面倒くさそうに腕をまた振ると服の色が黒に変わった。
うん、やっぱり自分のイメージカラーの方が落ち着くな。
「んじゃ、後はこの能力三つで良い?」
今度はメモ帳を開き欲しい能力を見せた。
「これでも構わんが、こんな能力でも戦っていけるのか?」
「いやいや、戦うなら尚更この能力の方が助かるよ。戦闘で情報はどんなものにも変え難い大切なものだからな」
「そうか、では。名前もその通りにして付与しよう。
認識眼、完全記憶、移りゆく魂。これで良かったか?」
「おう、頼むわ」
「そうか」
感慨深い声と共に三度腕を振るうと、身体に熱い何かが流れ込んでくる様な気がした。
「助かったよ。これでやっていける」
「そうか、では行ってもらうとするか」
「あ、そうだ。悪いんだけどさ、異世界に飛んだ時点で俺の記憶消してくれるか?
女性として必要最低限の知識と生活で必要な知識、後は自分の体のことだけ植え付けてさ。」
そうすりゃ、この羽だって使えるしな。
俺は一度白銀色に輝く六枚の羽を展開して、軽く羽ばたき中を舞う。
おっさんの方は何故か固まっていた。
「おーい、どうした?」
固まったおっさんを不審に思い、着地して声をかける。
「ん?あ、あぁ。いや、少しびっくりしただけだ」
「んじゃ、記憶の消去頼むぜ」
「あぁ、任せておけ。あと、お前が現世で執筆していた作品なんだが」
「ん?あぁ、それがどうした?」
「私が代筆しておこう」
「ちょ、まて、それはやめろ!ゴーストライター騒動になったら目も当てられないから!」
「だがな、ちゃんとコメントまで貰っているのだろう?だったら待っている読者もいるのだ。知らぬまま凍結などされてみろ。がっかりすることになるぞ」
「だったら、恭弥に任せておけ!絶対にお前は書くな!」
「はぁ、何故そうも拒絶するのだ」
「当たり前だろうが!恭弥ならともかくお前は全くの別人だろうが。
感性も何もかも違う奴が書いちまえばそれはもう別の作品にしかならねぇよ!」
おっさんのふざけた発言に怒鳴り散らして捲し立てた。
こいつは突然何言い出しやがんだよほんとにもう。
「別に良いではないか。私も書いてみたいのだ」
「書くなら自分で考えて書けよ」
「書いてみたがな、娘達にチート乙としか言われんかったのだ」
俯いて悲しげに呟いているおっさんに俺は呆れ果てていた。
まぁ、そうなるわな。
「仕方ねぇな。ほら、この携帯やるから。メモ帳に今後書こうか悩んでた執筆作品のネタと設定が入ってるから。それ使って書いてみろよ。それで好評価が貰えたなら自分でそういう設定を作れるように自分で読み返してみろ。いつかはできるようになるさ」
「すまん。では送るぞ」
「おう。頼む。ここまで世話焼いてくれて助かった。向こうで俺も楽しんでくるわ。ありがとな、伊邪那岐様」
「気づいておったのか」
「気づいて欲しくなけりゃ机の上と壁の嫁さんのグッズをどうにかするこったな」
徐々に光が身体を包み込んでいく中俺はずっと軽口を叩いていた。
「気をつけてな、我が友恭弥の現し身よ」
「おう、恭弥もそこにいんだろ?後は頼んだ」
最後の一言と共に俺の身体は完全に光に包まれ、意識を失った。
「あいつも行っちまったか」
「感の鋭い子じゃったな」
「当たり前だ。あいつも俺なんだから」
………………………
………………
………
…
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この作品は作者が死んだという設定です。
なので今後まえがき、あとがきはありません。