剣城と黄名子が交代でディフェンスとシュートを行い、得点できた回数で競います、それだけです。
京黄宗拓要素あり、ではどうぞ
「行くぞ黄名子!」
「そう簡単には抜かせないやんね!」
サッカー棟内に響く声、高く上がるサッカーボール。
週末の金曜日午前中、
今現在は夏休みだが、サッカー部である俺達には勿論練習がある。月火水木金の午前中。真夏のスポーツだ、室内と言えど暑いし疲れたりもする。それでも俺達はサッカーが好きだからボールを追い汗を流す、それが楽しくて仕方ないのだ。
『よし皆!今日の練習は終わりだ!』
円堂監督の指示で、皆がボールを蹴る足を止める。30分程前から通してやり続けた黄名子とのストライカー対決は、俺が10点、黄名子9点で、かなりギリギリだったが俺の勝ちで終わった。
ベンチに置いておいたタオルで汗を拭きながらそのベンチに座る。
「疲れたー・・・でも今回はうちの勝ちやんね!」
「いや、10対9で俺の勝ちだ」
「うはぁー・・・じゃ約束は無しやんねー・・・」
隣で同じく、汗を拭いていたタオルを首にかけ、黄名子が残念そうにうな垂れる。
実は俺達は、1on1をする前にある約束事をしていた。もし黄名子が俺に勝ったら、ちょっとしたお願いを聞いて欲しいといった感じで。こんな賭けのようなことをせずともちょっとしたお願い事ならいつでも聞いてやるのだが、サッカーとなれば話は別、全力で勝たせてもらった。
「で、お願いってなんだったんだ。別にそのくらいなら聞いてやる」
「でもうちは負けたからいいやんね」
黄名子があっさりと諦めの言葉を吐いた。条件付で頼もうとした割には簡単に引くところを見ると、純粋に頼むのが申し訳ないくらいのお願いだったからだろうか。
「じゃ俺が勝ったから俺のちょっとしたお願いだ」
「・・・いいの?」
「いいも何も俺の頼みなんだ。勝ったんだからそのくらいはいいだろ」
別に黄名子なら辛いようなお願いはしない、本当にちょっとした頼み事だろうし俺が受けない理由はない。寧ろ助けになるのなら手伝ったほうが俺もいいしな。
「んー、じゃお願いがあるんやけど!うちまだ宿題終わってないから写させ」
「じゃあな黄名子、明日は休みだ、しっかり休め」
「うそつきー!」
立ち上がり背を向けて更衣室に向かおうと回れ右した背中をポカポカ叩いてくる黄名子、全く痛くない。
「あのなぁ・・・課題やる時間なら十分あっただろ」
確か課題提出の日は3日後、黄名子の残りの課題の量にもよるだろうが、宿題を写させてと頼んでくると言う事は、もう自力では間に合わないくらいなのだろう。俺もまだ終わってはいないが、今日の午後に残りを片付けて、全て終了する予定だ。
「うちは直前になって本気でるタイプやんね!」
「本気の際の力量と残り時間が比例してないぞ。とにかく俺は見せる気はない、そういうものは自分でやるんだ」
「うぅ・・・そうだけどー・・・」
宿題や課題というものは自分でやって初めて意味を成す。ここは心を鬼にして断るしかない。
「・・・午後、課題を持って俺の家に来い。分からないところは教えてやるから、終らせるぞ」
「・・・ん!分かったやんね!ありがとー剣城、うちがんばる!」
まぁ、完全に突き放したりしない辺り、まだ俺も甘いのかも知れないが。
「午後の1時頃でいいな、昼は食べてこいよ」
「はーい!」
だが黄名子もやる気十分、いい声で返事をしてくれた。黄名子はやるときはやる奴だから、俺が少し手を貸せば提出日までには間に合うだろう。
「なぁ剣城、話が聞こえてたんだが、お前達勉強会を開くのか?」
「あ、神童さん。はい、黄名子が課題終わってないようなので午後からそうしようと話してました」
黄名子と午後の予定を立てていると神童さんが話しかけてきた、隣に井吹も並んで
立っている。俺達の会話が聞こえて話かけてきたということは、神童さんも勉強会に参加したいということだろうか。
「神童さんも参加するんですか?俺はてっきり7月中に終わらせている物かと」
「いや俺はもう終わらせた。俺じゃなくて井吹の奴がまだ何一つやってないらしくてな、もし良ければ一緒にやらせてもらってもいいか?」
「神童、俺はやってない訳じゃない。忘れてただけだ」
「余計悪いぞ」
なるほど、井吹のバカの面倒を見るのに、俺の力も借りたいという事か。こちらとしても、一人で黄名子に教えるより神童さんの力を借りれば効率は断然に上がりそうだ、多少の危険には目をつぶろう。
「では1時に俺の家でお願いします」
「分かった、ありがとう剣城。井吹分かったな、午後から剣城の家で勉強会だ。剣城の家は分かるよな?」
「了解だ神童。家なら分かる、現地集合でいいか?」
「大丈夫だ。それじゃ、1時頃に家で待ってますので」
神童さん達と予定を合わせ、俺は更衣室へと足を進めた。
「剣城ー、今日のおやつ何があるやんね?」
「お前の目的は宿題を進めることだというのを忘れるなよ」
~~~~~~~~~~~~~
午後1時頃俺の部屋、折りたたみの机を開き、俺と黄名子、神童さんと井吹が隣同士になって座る。今回の勉強会での目標は、黄名子が自力で出来る範囲まで終わらせること、井吹の課題を少しでも進ませる事。黄名子は少し手伝えば後は、明日から一人でやり切れるだろうし、井吹に関しては神童さんが何とかしてくれるはず、多分。
「じゃ、始めるか。黄名子は何からやるんだ?」
「うちは一人じゃ絶対に出来ない数学から手伝ってもらうやんね!」
黄名子がバッグから数学のテキストを取り出す。確か数学は黄名子の苦手科目の一つ、始めに潰しておくのはいい判断だ。
「それじゃあ神童さん、井吹の方はお願いします。俺は黄名子を見てるんで」
「あぁ、そっちも何か困ったことがあったら言ってくれ。俺で教えられる範囲であったら手伝うからな」
そういって神童さんは井吹と計画を立て始める。俺も自分の残りの課題を取り出し、ペンを持った。
「さて井吹、お前何持ってきた?どれから進める」
「俺はウノとトランプを持ってきた。あとばあちゃんがめんこをくれたからそれからやろうぜ」
「ちょっと待て井吹、お前は今自分が何故ここにいるのか分かっているのか」
「何って勉強会だろ?」
「お前の鞄の中に勉強用具が一つも入っていないのは何故だ」
「・・・?。勉強会をやるとは聞いたが、もしかして俺は勉強する為に呼ばれたのか?」
「当たり前だろ!?まだ何一つ終わってない状態で勉強会に来いとか言われたら流石に気づけよ!」
「いいか神童、人間やる時はやる。なんとかなるさってうちのキャプテンもよく言ってるじゃないか」
「お前の場合は物量的になんとかならないんだよ!」
「ねぇ剣城、さっそくあっちでトラブル起きてるやんね」
「見るな黄名子、今は目先の課題が先だ。あっちは神童さんがきっと何とかしてくれる、根拠はないが」
向かいの場所に座って口論し合っている二人を見る黄名子の目を片手で隠す。今の二人に関わると宿題が進まない。神童さんの犠牲は痛いが、ここは我慢だ。
――――――――――――――――――――――――――――
数分間の口論が終わり、井吹は俺があげた紙に俺の問題集を見て回答し、家に帰ったのちに写すという形で進め始めた。
「ねー剣城!ここの問題、ノート215円をえっくす冊買ったってあるけど、なんで100均で買わないやんね!あとえっくす冊ってなに!」
「100均で文房具揃えたら問題にならないだろ。あとそこは現役中学生として最低限知っとけよ。・・・・・神童さん、ここちょっと分からないので教えてくれませんか?」
「あぁ、いいぞ。・・・ここは教科書のこの部分の方程式に当てはめて計算すると解ける、がんばれ剣城。井吹はどうだ?」
「俺は順調だ。残り日数1日でも提出できる人間だからな・・・・白紙だけど」
「井吹すごいやんね!でもうちも今日頑張って進めて剣城に追いつくつもり!」
「俺なんか目標にするな、神童さんなんか7月中に全部終わらせてるんだぞ」
「別に言われるほどの事でもないさ、井吹くらいの救えないバカじゃなければ可能だ」
「俺はバカじゃねぇよ、あ、黄名子次は赤か8な」
「あ、じゃあうちドロー2!剣城次2枚ドローやんね!」
「ドロー2?お前そんなの持ってたのか、でも俺もあるから使うぞ。じゃ神童さんドロー4枚ですね」
「剣城もやるじゃないか。1、2、3、4枚・・・俺はワイルドで場のカードを青に変更だ」
「じゃ俺は3」
「スキップ!」
「ぐっ、やったな黄名子。じゃ神童さんか」
「よし、ならドロー2で井吹の手札を―――――――・・・・・皆ちょっと待ってくれっ・・・!!!」
神童さんが手札を荒々しく机に叩きつけた。
「あー神童さん手札見えちゃいましたよ。あ、リバースあるなら使ってくれれば良かったのに」
神童さんがばら撒いた手札を揃えて渡す、神童さんはそれを受け取ろうとせずに俺の肩に手を乗せ、訴えかけるように話し出した。
「剣城、よく思い出せ、俺達は勉強会に来たんだ、ウノをしに来たわけじゃない」
「えっ・・・・・・―――っは!そうだ!何故俺はウノなんかを・・・!」
あまりにも会話にスルっと入ってきたウノ、いつの間にか目の前に配られた手札を見て自然とウノを楽しんでしまった。
「神童早くしてくれ、じゃないとせっかくのワイルドドロー4が出せないだろ」
「井吹うちに6枚もドローさせる気だったやんね!」
バカ二人は今だウノに熱中。井吹はどうでもいいとして黄名子は後少し頑張ってもらいたい物だ。
問いかけるように黄名子に声をかける
「なぁ黄名子、お前はもうちょっと頑張らないか、こんな所でウノに惑わされない努力をな」
「剣城のアルバムはっけーん!」
「うおぉっい!?速っ・・・ってかウノ飽きるのも早いな!」
瞬き一回の間に俺の目の前から消えた黄名子は、手札を放り出して部屋の端っこにある本棚の中にある俺のアルバムを手に取っていた。
「早く課題を進めるぞ黄名子、そんなもの見てる暇はない」
「えー!うち剣城の小さい頃興味あるやんね!少しだけっ!ね!」
黄名子が両手を合わせ頼み込む。ここでアルバムを奪い取って無理やりやらせようとするのは可能だろう、だがここはさっさと用件を飲んで一通り満足させた方が勉強に取り組めるかも知れない。
「・・・それ読み終わったら課題進めるんだな?」
「もっちろん!」
「なら早く読め、終わったら課題の時間だからな」
そう言って俺は机のそばに座り直す。別に見られて困るようなものはないし、満足するまで読ませておこう。俺はそう決めて自分の課題を進めることにした。
「剣城の小さい頃か。剣城は途中で雷門に来たから昔の事は俺も知らないし、少し興味あるな」
「面白そうだから俺も見る」
神童さんと井吹が移動し、黄名子の見ているアルバムを覗き込む。
『小さい剣城可愛いやんね!目くりくりしてる!』
『もみあげも柔らかそうだな』
『神童も可愛かったが剣城も幼い頃は中々愛らしいじゃないか』
『一緒に写ってるのはお兄さんやんね?』
『優一さんだな・・・っていうか優一さんといる写真ばかりだな』
『なんだ、俺の事おかしいとかいう癖に自分はブラコンか。おい黄名子、俺達の写真数枚アルバムに挟んどこうぜ、きっと黄名子のなら剣城もよろこ――ブッ!!!』
「誰がブラコンだ誰が。あとくだらない事を黄名子に吹き込むな」
俺の投げた国語辞典の角が井吹のもやし栽培ヘッドに当たる、そうしてそのまま井吹は床に沈んだ。流石のコントロールだと自分を褒めてやりたい。
「いっつつ・・・辞典の角は気をつけろよ剣城・・・マジで凶器だから」
「お前が変な事を言うからだ。ほら黄名子、十分楽しんだろ。そろそろ課題進めるぞ」
「むー。はいはいー、分かったやんねー」
「井吹、お前もだ、今日どこまでやれるかで提出できるかどうか決まる。もし何とか提出できそうな所まで行けたら、明日明後日俺がみっちり教えてやる」
「神童が俺にみっちりだと!よし分かった今すぐやろう、神童に手取り足取り教えてもらえるチャンスを逃すわけにはいかない!」
「そういう意味じゃない!止めろ本気を出すな井吹!」
~~~~~~~~~~~~~~~~
このメンバーにしては珍しく集中して取り組んだ勉強会、気がつけば時計の短針はもう5時を指していた。俺の課題は終わり、黄名子は数学と理科を終了、残すは一人でもやりきれる社会だけ、かなりいい結果だ。
だが驚くべきは井吹、こいつはこの短時間の間に猛スピードで問題を解き続け、なんと黄名子に並んだのだ。一日で終わらせられるというのも案外嘘じゃないかもしれない。
「やれば出来るのに何故最初からやらないんだ」
「分かってないな剣城、やろうと思わなければ出来ないんだよ。今回は神童が付き合ってくれるという条件付きだったからやる気がでた」
井吹がやれやれと言った風に肩をすくめる。たしかにこいつは神童さんを動力源にして生きているような奴だからな、神童さえ絡めばどんなミッションだろうとやり遂げそうだ。ただ神童さんはこの世に1人しかいないので毎回生贄には出来そうに無い。
「なぁ井吹、そこまで終わらせたなら俺が付き添う意味はないだろ」
「無理だ、約束は約束だからな」
「ぐっ・・・・あぁ・・・」
神童さんが軽く絶望しているが、それについては自分で撒いた種なので俺にはどうすることもできない、冥福を祈っておこう。
「なんにせよ、黄名子今日は頑張ったな。よくやった」
「ふしゅー・・・うちもう動けない・・・剣城ー・・・疲れたー・・・」
机に突っ伏したまま動かない黄名子、黄名子にとって3時間以上のぶっ通しで勉強は初めてだったのかもしれない。慣れていないのもそれはそれで問題かもだが、今は少し休ませておくとしよう。
「もう5時か、そろそろ俺は帰るぞ」
「神童が帰るなら俺も帰るか」
神童さんが荷物を鞄に入れ、席を立つ。井吹も紙切れ一枚をポケットに入れて神童に続いて腰を上げた。
「帰るのなら玄関まで送りますよ」
「別にいい。黄名子は疲れて寝てるし、起きるまでいてやれ」
井吹が机のほうを見てそう言った。いつもならからかわれていると思いイラっとするところだが、そのような意図はないようだ。たまに見せるまじめそうな顔、井吹はそれ以上言うことなく、神童さんと部屋を後にした。
残った部屋に聞こえる声は黄名子の息の音だけ。まだ5時だし、あともう少しくらい寝かせておけばいいだろう、その間に俺は、黄名子を起こさないよう静かに扉を開けて、頑張った褒美のシュークリームを取りに1階へ下りた。リビングのドアに手をかけ、開く。
「あら京介、お友達は帰ったの?」
「いやまだ黄名子が上で寝てる、シュークリーム取りにきた所」
ちょうど洗いものを終わらせた母さんがエプロンで手を拭きながら食卓の椅子へ座る。その間俺は冷蔵庫に入れておいたシュークリームを取り出し、トレイに乗せる。
「じゃ、俺戻るから」
「はいはい、寝てるからって変なことしないようにね」
「しない!してたまるか!」
茶化してくる母さんに声を上げる。俺はそのままリビングを出て、再び2階へと足を進めた。まだ黄名子は寝ているだろうから、静かに扉を開けて中にはいる。
「黄名子は・・・まだ寝てるよな」
少しドアを開けて耳を澄ませると、すぅすぅと寝音が聞こえた、やはりまだ寝ているらしい。頑張ってたからな・・・疲れるもの無理はない。
「黄名子、これ。頑張った褒美として買ってお――――――――黄名子?」
独り言を呟きながら机の上にトレイを置きにはいるが、何故か黄名子の姿が見えない。部屋を出る前は机で腕を枕にして寝てたハズだが・・・。
「黄名子・・・?・・・あ、あぁー・・・」
不思議に思い少し首を動かすと、すぐに見つかった。寝ぼけて入ったのか、寝床を机から俺のベットへ切り替え、ガッツリ寝ていた。ちょっと寝るつもりがここで一夜でも明かすつもりかよ・・・。
「おーい・・・起きろ黄名子ー」
ゆさゆさと黄名子の体を揺らし目を覚まさせる。このまま寝かせると最悪朝まで起きないかも知れない、普通の人間なら揺らされて起きるだろうが、俺の周りの人間は大体普通じゃない。
布団越しに黄名子の体に両手を乗せて揺らす。
「おーい起きろー、おーいー、おーきー」
「やっぱり我慢ならなかったようね」
「邪気っ!」
とっさにその場から飛びのき声のした方を睨む。そこにはドアに寄りかかり、エプロン姿で腕を組む母さんが立っていた。
「邪気って何よ京介。でも・・・不安に思って様子を見にきたらやっぱり寝ている黄名子ちゃんに・・・」
「壮絶な誤解だ!思いっきり寝てるから起こしてたんだよ!」
わざとらしくため息をつく母さんに慌てて訂正する。こんな状況でも暢気に寝ている黄名子を指さして叫ぶ。
「ほら見てくれ!この黄名子が普通にやって起きるとは思えない!現にこんな大きな声で叫んでも寝返り一つしないだろ?」
「・・・やれやれね。どいてなさい京介、母さんが手本を見せてあげる」
そう言って母さんがドアから離れ、黄名子を起こすためベット・・・ではなく机へと近づいた。なんだ・・・なにをする気だ・・・?
そう考えている間に母さんは、俺がトレイに乗せて持ってきたシュークリームをおもむろに手に取り、呟いた。
「・・・・・・さて、私が食べちゃいましょう」
「邪気っ!」
布団を跳ね除け飛び起きた黄名子が、母さんの手からシュークリームを奪う、瞬き一瞬の出来事だった。
「んー♪これおいしいやんねー!」
「でしょー?京介ったら今日帰ってきてすぐ店まで買いに」
「あー母さん!俺のユニフォーム洗っておいてくれ!・・・・・で、神童さん達はとっくに帰ったが黄名子、お前はどうする?まだ課題進めたいなら手伝うが」
母さんの背中を押して部屋から退出させた後、おいしそうにシュークリームを頬張る黄名子に問う。俺は黄名子がまだ課題を進めるというのなら手伝えるし、疲れて無理ならば家まで送るくらいはするつもりだ。
「うちもそろそろ帰るやんね、疲れちゃったー」
「そうか、なら家まで送るぞ。よく頑張ったな黄名子、これなら提出日に」
そこまで言った後、窓が光った。正しくは窓の外で何かが一瞬、大きな光を放った。
言葉を紡ぐ口を閉じ窓の外を覗く。しかしその景色は、急な雷雨による妨害で1メートル先すら見えなかった。
その少し後、大きなものを床に叩きつけたように音が鳴る、恐らく雷だろう。
「うはーびっくりしたー・・・大きなカミナリだったやんね!」
「なんだって急に・・・だがこの雷雨で外出するのは危険だな・・・どうしたものか・・・」
「なら泊まっていけばいいじゃない」
急な雷雨に頭を悩ませている時、不意に聞こえた声に後ろを向くと、本日二度目、ドアが開き母さんの姿が見える。
「泊まってって・・・着替えとかもないしそれは無理だと思うんだが」
「大丈夫よ、こんな時を想定して黄名子ちゃん用の買って置いてあるから」
「どんな時を想定して!?」
普通に過ごしている限り黄名子の着替えが我が家に必要になるなんてないはずなのだが、母さんの考えが全く読めない。ただ、過程はどうあれ着替えがあるなら宿泊は大丈夫そうだ。幸い部屋も余っているし、布団もあるとは思う。
「で、黄名子はどうする?泊まってくか?」
「友達の家でお泊りなんて初めてやんねー!するするー!」
黄名子が嬉しさからか声を弾ませる、後は黄名子の両親に連絡すれば決まりか。
となると寝室だが、恐らく黄名子が寝泊りするのはうちで空いてる2つの部屋のどっちかだろう。軽く掃除しておかなきゃいけないし、先に案内しておくとしよう。
「ところで母さん、黄名子の寝る部屋ってどこなんだ?俺先に掃除しておくから決めてくれ」
「京介の部屋に決まってるじゃない」
「そうか、それじゃちょっと掃除するから母さんはその間に晩飯の準備を――――――――は?」
耳を疑うような言葉に思わず聞き返す。その後の数秒の硬直の後に、ようやく口が思うように動いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ母さん!なんで俺の部屋!?兄さんの部屋とか残ってるだろ!その隣の部屋も!」
「あの部屋は両部屋突貫工事中よ」
「つくにしてももうちょっと現実的な嘘をついてくれ!!!」
自宅の部屋が一夜限りの突貫工事中だなんて聞いたことがない。それで騙されるのは知り合いで井吹か黄名子ぐらいだろう。
「それなら仕方ないやんねー、じゃ剣城一緒に寝よー!」
現に騙されている。
「じゃ京介は自分の部屋でも掃除してなさい、黄名子ちゃんその間にお風呂入っといで」
「はーい!」
「あぁ!待てぇ!」
話が終わるや否や、母さんは急いで部屋から退散した。黄名子は母さんと一緒に降りた、風呂場に向かったのだろう。
こういう時、俺は何をすればいいだろう。そんな事を考えて、出ている机をたたんだ。とりあえず、部屋を片付けよう、今出来ることはそれしかない。
~~~~~~~~~~~~~~
入浴を済ませた後、夕食のハンバーグを頬張る。隣で黄名子が伸ばしてくる箸から守りながら食べるのは中々難しい。
「へっくし・・・風呂ちゃんと入ればよかったな・・・」
「京介ー、しっかり浴槽入って温まったの?」
「いや・・・してない・・・」
その、今日はなんとなく入りにくかったので今日はシャワーだけで済ませた為、クーラーの風が少し肌寒い。
「だめやんね剣城ー、ちゃんと温まらないと。うちはしっかり温まったよー?」
「誰のせいだと・・・あっ、食われてる・・・」
小さく呟いた後、自分の皿の上を見るとハンバーグが少し無くなっている事に気づいた。こいつの食欲は底なしか・・・。
仕方ないのでブロッコリーを口に運んで食べる、しかしその脇にあったポテトも1つ無くなっている事に気づいて、隣で幸せそうに何かを頬張る黄名子を横目に食事を続けた。
食べ終えた皿をキッチンに置いた後、食後の茶を啜る。
「じゃあ母さん、黄名子の布団は俺の部屋でいいんだよな。飲み終わったら敷きに部屋に戻るから、何処にあったっけ?」
「そんなものないわよ」
「ぶっ!・・・はぁ!?」
思わず飲んでいた茶を噴出し、声を荒げてしまった。というかそのリアクションが普通だと思う。
「布団がないってどういうことだよ!寝る場所ないだろそれじゃ!」
「京介何言ってるの、我が家は皆ベットで寝てるじゃない、必要性のない布団なんて持ってないわよ」
「なんで黄名子の着替えがあって布団がないんだ!?用意する順序逆だろ!?」
明らかにうちの親はおかしい、そもそも何故布団がないのに宿泊の話を切り出したんだ・・・!
「なら黄名子は何処で寝るんだ。仮にも客人をソファで寝かせるのは流石にあれだろ」
「京介のベット二人で寝れるでしょ」
「いやいやいやいや!それはないだろ!もしかしてこの為か!この為だけか!?なんの得があってやるんだ!?」
「京介の将来が決」
「頼むからそれ以上言わないでくれ!」
頭を真上に振り上げて母さんの声をシャットアウト。幸い黄名子は茶で和んでいて会話をさほど聞いていないのは助かった。
「黄名子ちゃんは京介と寝るの嫌かしら?」
「んー、うち?別に嫌じゃないやんね!友達と寝泊りなんて初めてで楽しみやんねー!」
くそっ・・・こいつは同年代の男子と寝るという危険性を何一つ理解していない・・・!いや別に何をする気でもないが。
「それとも京介ー、黄名子ちゃんを床やソファで寝させる気ー?」
「えー!剣城一緒に寝よーよー!」
「ぐっ・・・初めから俺に逃げ道はないって事か・・・分かったよそれでいいよ!」
「「いえーい!」」
俺が諦めの言葉を吐くと、二人がハイタッチを交わす。その軽快な音が俺の頭に重く鳴り響いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
時刻は夜11時ちょっと前、俺の就寝時間となって俺はベットに入った、ただ今日に限っては少し状況が違う、隣に黄名子が寝ているということだ。
「剣城ー、せーまーいー・・・」
「ダブルベットじゃないんだから当たり前だろ・・・少し空けてやる・・・」
体を横にずらし、握りこぶし2個分程度の隙間を空けてやる。何故こんなことになったのか俺にはもう分からない、とにかく今は早く寝て朝を迎え、この夜を終える。そうしないと俺の中の何もかもが耐えられない気がする。
「うち寝る時は抱き枕を抱いてないと寝られないんよー・・・やっぱり駄目ー?」
「狭いんだからそんなもの加えたら寝られないだろ、おとなしく寝ろよ」
「はいはーい、おやすみ剣城ー」
「おやすみ」
黄名子の軽い返事に言葉を返し、数秒。
「ぐー・・・ぐー・・・」
「はっや・・・」
その間10秒にすら満たなかったと思う。なんだこいつは、三大欲求に忠実すぎるだろ。
まぁいい、寝たのであれば俺もさっさと寝よう。
「はぁ・・・おやす―――――――ふぅっ!?」
黄名子のいる方と逆方向に寝返りを打ち寝ようとすると、突然脇腹にこそばゆい感覚が走った。慌てて体をくねらせその感覚から逃れる。
「ふっふっふ、剣城ったら油断だらけやんねー」
「黄名子・・・お前まだ寝てなかったのか・・・!くすぐりは卑怯だろ・・・!」
逆を向くと、いたずらっ子のような悪い笑みを浮かべた黄名子が指を触手のように動かしている。こいつ・・・まだ攻めてくる気だ!
「えーい!食らうやんねー!」
「ぐっ・・くふっ・・・!だがっ・・・狭いベットの中なら・・・条件は同じだっ・・・!やられたら・・・やりかえす!」
「っ!?ひゃはははは!くすぐったいーー!!!」
狭いベットの上で繰り広げられる攻防戦。黄名子に脇腹をくすぐられながらも、何とかこちらも反撃に移る。黄名子の脇腹を捕らえ、指を動かす。
「くはっ・・・ふふっ・・!そろそろっ・・・諦めたらっどうだ黄名子っ・・・!」
「あははははっ!やめっ!あははーーーっ!・・・あー!今剣城変なとこ触ったー!」
「なっ!?いやそんな気は全く―――」
「うっそやんねー!おりゃー!」
「――っ!?きっ・・きたね・・・ははっ・・・!やめっ・・ろ・・!」
「止めないやんねー!」
そうして、俺達は体力尽きるまで戦い、やがて倒れた。簡単に言えば寝落ちした。
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目が覚めた、カーテンの隙間から射し込む日の光が朝だということを視覚的に教えてくれる。雨の音はしない、と言う事は雷雨は去ったらしい。寝ぼけた頭ではそれ以上考える気など起きず、とにかく体を起こそうと力を入れ起き上がろうとする。
するが、体が動かない、いや、動けない。動こうとは思えるのだが実際に体は動かない。
不思議に思い、力を抜いて身の回りを見てみる、腕も軽くではあるが何かで押さえ込まれているように動かないので、何とか動く首だけを回す。
何も変わったことはない、やわらかいベットの感触、朝の気だるい気持ち、俺の体に抱きつくように寝ている黄名子、至って普通の朝、何も変わったことは・・・ない・・・ない?
「黄名っ!?こ・・・!この状況は一体・・・!?」
俺の体の上に手足を乗せ、抱きつきながら寝る黄名子を見て混乱する、唯一感じるのは触れる黄名子の体温のみで・・・ってそんなことを考えている場合じゃない!
「おっ落ち着け俺・・・慌てるな・・・とにかくこの状態は色々マズい・・・」
静かに呼吸を整え状況を再度把握。ゆっくりと心拍数を落ち着かせる。
「確か昨日・・・抱き枕どうこうって言ってた気がするな・・・ってことは寝てる間に俺を抱き枕と間違えたってことか・・・?」
そんな推理をしたところで何が変わるわけでもないが、理由が明確になるのは悪いことではないだろう。
とにかく、俺が動けない理由は黄名子が抱きついているからで、この手足の拘束からゆっくり逃れて部屋を出れば、この状況は無に帰す。万が一母さんに見られたらかなり面倒くさい。
「起こさないように・・・ゆっくり・・・ゆっくり・・・」
まずは俺の体から黄名子の腕を外す、何故か触れるだけでやけに緊張するが、寝ている為力の入っていない腕は簡単に離れた、後は足のみだ。
「ここまでくれば大丈夫だな・・・」
そう自分に言い聞かせ、最後の足を持ち持ち上げた、その瞬間
「・・・んぅー・・・・んっ!」
「っ!?」
黄名子がいきなり体を跳ね上げたかと思うと、今度は体全体で覆いかぶさるように抱きついてきた。これじゃ引きはがせない・・・!
「くそっ・・・寝相悪すぎだろこいつ・・・!」
その後、何度か体を動かそうとするが、左腕以外はがっちり包み込まれ、更に上からも押さえられてどうにもならないので。
「・・・もういいか・・・このままで」
結局は諦めた。離れられないなら無理に起こすのもあれなので、俺も力を抜き目をつぶる。別に、嫌な気分ではない・・・と思うから。
今日は土曜日だ、練習もないなら、このまま二度寝でもしよう。のんびりゆったり、ただこの時間に、身を委ねる。
パシャッ
「・・・?」
のんびりした空間に聞こえた鋭い音、その音で先ほど閉じた目を開ける。なんだ今のは・・・まるでカメラのシャッターでも切られたかのような・・・カメラ?
「ま・・・まさか・・・」
一抹の不安がぬぐえない、恐る恐る、俺はブリキのおもちゃのように、ギギギと首を回す。
「京介、朝から中々やるじゃない」
少しだけ開いたドアから顔を覗かせる、カメラのレンズと、獲物を見つけた猛獣のような笑みの母さんがそこにはいた。
「なぁ・・・母さん・・・今のシャッター音って・・・」
「バッチリ撮ったわ、後で現像しとくわね」
「あ」
「声を上げたら黄名子ちゃん起きるわよ」
「ああ―――っ・・・っ!・・・くっ・・・ぐっ・・・!」
声を押し殺し絶望を噛み締める、見られただけならまだ良かった、ただ撮られたっ・・・!一生データとして残るものとして保存された・・・!
「それじゃ、楽しんだら降りてくるのよ。朝ごはん作っておくから」
そう言って母さんは、さぞ愉快そうに手を振って姿を消した。
「すぅー・・・・んぅー・・・」
俺の上で聞こえる小さな呼吸、黄名子が幸せそうに寝ている、いい夢でも見ているのだろうか。
俺はなんとなく、その小さな頭を撫でてみた。髪の毛一本一本が繊細で、手の平に心地いい感触が広がる。
昨日は勉強会にて一騒ぎ、今日は朝から寝起きを撮られ、俺の毎日はどうしてこうも大変なことばかり起きるのか、普通の中学生の日常としては間違っていると思う。
ただ今までこの日々を煩わしいと思ったことはない、この間違った日々を楽しんで生きているのもまた事実だからだ。周りの人間の影響で俺もおかしくなっているのかも知れないな、こんな問題だらけの毎日を楽しいだなんて。
今日はゆっくり過ごしてみよう、朝飯を食べて、お気に入りの試合を見て、外でボールを蹴って、家に帰って体を休めて、きっとその全てにこいつ、黄名子がいるのだろう、俺の日常の起点が隣に立っているのだろう。
手の中で、まだ黄名子は寝ている。俺の日常はまだ始まらない、黄名子が目覚めてやっと、俺の今日の日常は動き始める。
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短編のくせに文字数多すぎって自分でもおかしいと思いますが、連載をはさんでちょくちょく書いていこうと思います。読んでいただきありがとうございました。