剣城・・・小説内で貴重な常識人、たまに黄名子が気になるご様子
黄名子・・・未来とか知らない、現代の人間という設定。剣城に引っ付いては食べ物をねだる大食い
井吹・・・稲妻町に住んでいる設定、雷門にも入学、神童が大好きすぎて色々とおかしい子。神童の衣服を盗んではバレて怒られている
狩屋・・・よく剣城をからかっている、全ては楽しさ故に
影山・・・狩屋の抑制係、だけど剣城と黄名子の関係の話になると善意が好奇心に負ける
夏休みの平日昼時、サッカーの練習が終わり今現在、俺、井吹、影山、狩屋でミーティングルームにて雑談が始まろうとしていた。特に午後の予定がないので、ちょっとした暇つぶしというやつだ。
「俺は剣城に聞きたいことがある。剣城は黄名子のどのあたりに惚れたんだ?」
暇を潰すより先に井吹を潰したほうがよさそうだ。
「少し席を外す、ちょっとこいつを路上に捨ててくるから」
「止めてあげて剣城君!悪気は無かったんだと思うよ!」
井吹の腹に拳を打ち込んで倒れた所を抱え上げ外へ向かう、がその行動は影山によって止められてしまった。
「なんで止めるんだよ景山くん!面白い事起こりそうだったじゃん!」
「狩屋君はもう少し人命を重んじようよ!」
狩屋が面白そうに笑っているが、俺は本気だ。影山が止めなければ今頃井吹の体は路上に放置されていた事だろう、運のいい奴め。
「うぐ・・・俺はただ気になっただけだぞ。いつも一緒にいる癖に全く進展がないじゃねぇか」
伊吹が意識を取り戻したのか俺の腕から抜け出し、至極まじめな顔でふざけた事を抜かす。黄名子は更衣室にいるから不在、それが分かっているから今この話を切り出したのだろう。
「惚れたも何も、俺は黄名子なんて好きでもない」
「あーあ、黄名子ちゃん聞いたら悲しむかもよ剣城くぅーん?」
「・・・・別に嫌いでもないが・・・」
嫌われたくないとかそういう事など一切ないが、誤解されるとこちらも色々とアレなので訂正しておく。
だいたい俺は黄名子に惚れてなどいない、そういうのは自分がよく分かる。仮に俺が黄名子を・・・その・・・恋愛対象として捉えているのなら何かしら心境の変化があるはずだ、俺はそんな感情を強く感じた事はない。・・・まぁ・・・たまに、あるかもだが・・・それとは一切関係ない、はずだ。
「でも剣城君はいいとして、黄名子ちゃんがどう思ってるのか気になるよね」
「確かに気になるな、もし同じ気持ちなら脅しのネ・・・剣城の幸せに繋がる事だし」
影山が手を顎に当てて呟く、それに便乗するかのように井吹も顎に手を当て考え始める。
「迷うなら本人に直接聞けばいーんじゃない?」
「剣城のヘタレっぷりは相当だからな、難しいだろうな」
「聞こえてるぞ、お前が俺の脅しのネタにしようとしている事を含めてな」
本人を目の前にして言いたい放題の井吹を睨むと、ニヤニヤしながらも口を閉じた。狩屋はさぞ楽しそうに笑顔を浮かべている。
「僕らもだけどさ、剣城くんは気になったりしないの?」
「気になるも何も、俺がそんな事気にする必要ないだろう」
「もし剣城の事が気になってたりしたらどうするんだ?」
「・・・・・・・・・」
「見て見て影山くん、剣城くんの顔。めっちゃ必死でその可能性を考えてるような顔じゃないコレ?」
「狩屋くんいい加減に懲りようよ!そのうち僕まで巻き込まれそうで怖いんだけど!」
狩屋が今だふざけるので影山は慌てた様子でそれを止める。この空間内でまともなのはこいつと俺だけなので、貴重な抑制係がとても頼もしい・・・。
「大変だな影山」
「まぁ、狩屋くんはやりすぎちゃう所あるからそれなりに大変かな・・・はは」
「まぁまぁ二人とも、そんな事よりこの前天馬くんがさー」
と、それからは椅子に座りながらぐだぐだとくだらない話を続ける、メンバーの事だったり、些細な日常のことだったり。少しすると、突然井吹が立ち上がった。
「なぁ剣城、やっぱり今から聞きに行こう」
「ん、何をだ?」
「黄名子がお前の事をどう思っているかだ、恋愛対象として好きなのかどうか」
「ぶっ!おい止めろ井吹!楽しそうに更衣室に向か・・・何故お前達は俺の足にしがみ付くんだ!・・・って影山もか!?」
「なんか面白そうな事起こるでしょ絶対!見逃せないっしょ!」
「ごめん剣城くん!それについては僕も少し興味あって!」
床に伏せながら俺の両足にしがみ付き、動きを止めてくる二人。くそっ!影山だけは味方だと思っていたのにここで裏切られるとは・・・好奇心に善の心が負けたかっ・・・!
「じゃ、よろしくなお前達」
「まて井吹!待ってくれ!せめてそれは俺から聞・・・・っ」
ここまで言い終わって、俺は自分がなんて事を言おうとしたのか自覚し、慌てて口を閉じる。が、すでに手遅れだったのか、足元から狩屋が食いついてきた。
「今もしかして、『それは俺から聞く』って言おうとした?ねぇねぇ!そう言っ―――――俺の頭を踏みつけるって事はそういうことだよね!あだだだだ!」
「ついに踏み出す勇気が出たんだね剣城くん!僕も嬉しいだだだだ!」
俺の足を掴む二人を振りほどき、その頭上へ足を乗せて立つ、案外バランスが取れるものだ。
「で、どうする剣城。お前が自分で聞きに行くなら俺は行くのを止める、行かないなら俺が行く」
井吹が問いかけるように言うので、俺は少し考える。ここでこいつを行かせてしまえば、変な誤解が生じる可能性が否定できない、であれば、今出来る最善の方法は、俺自らが出向き黄名子との話をはぐらかして場を逃れる。一度話の場を崩してしまえばこいつらも諦めるだろう。
「くそっ・・・分かった、俺が行く。だからお前達は余計なことはするなよ、絶対に」
「いいだろう。決まったなら早くそいつらから降りてやれ」
そうして床で寝転がっている二人の頭から足をどけ、俺達は更衣室へと向かった。
ミーティングルームを出てほんの1分足らず、更衣室の扉を叩く。俺達が中に入るのは無理なので、扉の前で少し待つ。すると、中からうちのサッカー部のマネージャーである葵が顔を出した。
「どうしましたー?って剣城?」
「あぁ、黄名子に用があってな。今いいか?」
「黄名子ちゃん?黄名子ちゃんならちょっと前に帰っちゃったよ。商店街に用事があるーって言ってたかな」
「そうか、ありがとう」
どうやら黄名子は俺達が雑談をしてる間に帰ってしまったらしい、当人に会えない以上今回の話は無くなる。少しはこいつらもおとなしくなるだろう。
「商店街か、すぐに向かうぞ剣城」
「そこまでしてか!?そこまでして俺を貶めたいのか!ぐっ・・・離せぇえええぇーーーーっ!!」
井吹の手が俺の肩に乗せられ、次の瞬間流れるような動作で3人に担がれる。そうして俺は無理やり3人に商店街へと連行された。
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「いたぞ黄名子だ、距離を保ちつつ偵察を開始する」
「「了解」」
『ふんふんふーん♪』
昼時の商店街、俺達は見つからないように物影から物陰へ素早く移動をくりかえし、鼻歌を歌いながら歩く一人の少女の後をつけていた。言葉にすると実に犯罪的な匂いがする。
「で、こうして尾行している訳だが、一体剣城は黄名子のどこに惚れたんだろうな」
「今日の午後の黄名子ちゃんの行動で分かればいいけどね」
「僕もオフの日の黄名子ちゃんは気になるなー」
電工看板の後ろから顔を覗かせている井吹、狩屋、影山は三者三様の感想を口にしている、どうやら当初の目的意識は既に薄れてきたようだ。しかし小さな看板に男4人が縮こまっている姿は回りから見たらどんな風に映っているのだろうか。
「なぁ、なんで俺達はこんな事をしているんだ」
「なんでって、楽しいからに決まっているだろう、もしかしたら剣城が黄名子に惚れた部分が見れるかもしれないし、チャームポイント探しとでも言おう」
「惚れてない、チャームポイントってお前な・・・」
完全に興味本位でしか動いていない井吹に呆れてため息がでる、狩屋と影山もこの状況を楽しんでいるらしく黄名子の動きを粒さに観察している、さながら気分は探偵だろうか。
「俺はお前らに付き合ってる暇はない、もう帰るからな」
「剣城が帰るなら俺は黄名子に色々と聞きに行くぞ」
「言うと思ってたよちくしょう・・・!」
しかし俺だけ帰ろうにもこの調子なので、仕方なく俺も物陰から黄名子を観察している。他意などないが、ここにいる以上は見ていた方がいいかと思っているだけだ。
「あ、黄名子ちゃん移動しましたよ」
影山の声が聞こえ、黄名子の姿を目で追う。黄名子が向かった先は八百屋、そのまま奥へと進み、黄名子の姿が見えなくなる。
「入ったね、俺達はどうする?行っちゃう?」
「いや、八百屋は狭いし、出てくるのを待つぞ」
狩屋の質問にすぐ答えを返す、きっと俺のこの判断は間違っちゃいないだろう、仮に中に入って見つかったら井吹が変な事を言い出すかも知れないし、今日一日は遠目から見守るしかない。
「しかしただ待つもの暇だな、ここはどうだ、俺が思う神童の可愛い所でも語ろうか」
「「「却下」」」
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『おじちゃんありがとー!おまけもしてくれて!』
『いいってことよー、またおいで!』
10分程隠れて待っていると、中から黄名子が出てきた。両手にかなりの量の荷物を持ちながら。
「黄名子のやつ、よくあんな荷物が一人で持てるな・・・」
「普段一緒にいるのに知らなかったのか?あいつ俺のことも軽々と持ち上げるぞ」
「力がある事は知ってはいるが、実際にあの量を持っているところを見ると驚きでな」
しかし両手に大きな袋を持って商店街を歩く黄名子の体は一切ふらついていない、ご機嫌に歩みを進めている。あんなに小さいのに何処にそんなパワーがあるのだろうか。
「なぁなぁ影山くん、もしかしたら剣城くんはそのギャップに惚れたりしたのかな」
「ギャップ萌えってやつだね!どう剣城くん!」
「だから惚れてないって何回言えば分かる!」
お互いのくだらない憶測をぶつけ合う狩屋と影山に向かって叫ぶ。それだけはキッパリと否定しておきたいので、聞き逃さすに答えを返した。
「怪力女子か。これも黄名子の魅力の一つかも知れないな。書き記しておこう」
「井吹、お前は一体何をメモしているんだ・・・」
「ほらほら二人とも、黄名子ちゃんどっか行っちゃうから」
井吹との会話を一旦やめ、再び黄名子のほうへと目をやる。少し目を離していると、あの荷物を持っているというのに黄名子の背中が遠くに見えた。物陰へと移動し尾行を続行する。
『ふぃ~、お腹空いたやんねー・・・練習大変だったからかなぁー』
息を潜めて様子を伺っていると、黄名子がそう言ってため息をついた。
『う~ん・・・やっぱりちょっと食べていくやんね!・・・すいませーん!』
『いらっしゃい、あら黄名子ちゃん。今日も部活?お腹空いたから食べに来たのね?』
黄名子が店の前で立ち止まり店員らしき人と話し始めた。あそこは確か、稲妻町で有名な「豚まん太郎」か。ここの肉まんはかなりの評判で稲妻町で知らない人はいないとまで言われる店だ、食べ物好きな黄名子が目をつけるのもうなずける。
俺達は店の前にある豚の置物に身を隠し、会話に耳を傾ける。
『今日は特に腹ペコなんよ~、だからいつものより一個多めにお願いするやんね!』
黄名子がそう注文する、「いつもので」で通用するという事はお得意様なのだろう。
『はいはい、16個ね。ちょっと待っててね』
「(おかしくないか!?いつものにプラス一個しても量に違いが感じられないぞ!?)」
「(落ち着け剣城、黄名子の『いつも』は常人じゃ計れない、それだけだろ)」
「(じゃあ何故店員は平気な顔をして16個の肉まんを袋につめているんだ!)」
距離が近いため小声で話す。トングで一個一個丁寧に袋に肉まんを入れていく店員に動揺の色は見られない、いつも注文されているから既に慣れているのだろうか。
「(やっぱり黄名子ちゃんよく食べるんだねー、それであの栄養はどこにいってんだか)」
「(確かに・・・僕達より食べるのに一向に背とかは伸びないよね)」
狩屋と影山は知らないようだが、黄名子の栄養はちゃんと体に反映されている、体重増加という形で。たまに自分の腹をつまんで落ち込んでいる様子を何度か見たことがあるから間違いない。
『じゃあ、はいこれ。そんなに持ってるけど大丈夫?』
『うちは力はあるやんね!これくらいよゆーやんね!』
黄名子が袋をぶら下げる両手をあげて、肉まんの入った大きな袋を抱える。あれほどの荷物を全部持つなんて大変そうだ、そろそろ手を貸してやりたい。
「(まぁ待て剣城、本人は楽そうにしているんだ。もし辛そうに見えたら手を貸しに行く事にしよう)」
俺の心情を察したのか、井吹が後ろから声をかける。
確かに本人は至って平気そうに歩いているし、俺の心配しすぎか。少し浮いた腰を沈める。
「(とにかく、黄名子はよく食べる女子・・・っと。俺が思うに、剣城が一番惚れた所じゃないかと思う)」
「(惚れてないっ・・・!とにかく後を追うぞ、途中で助けが必要になるかもだからな)」
俺達は続けて黄名子の背中を追う、商店街を後にし、黄名子が向かう方向は河川敷だった。
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『それにしても、流石に頼まれた物の量が多いよー。両手塞がっちゃったやんね』
河川敷の上の道には遮蔽物がないので、背を低くして遠くから後をつける。川原の近くではサッカーボールが跳ね、それを4人程の、小学生くらいの子供達が追いかけて遊んでいる、平和だ。
「あの量の荷物はお使いだったのか、にしては量が多いよなあれは・・・」
「黄名子が気にしてるのは荷物の重量じゃなくて質量なんだな」
「僕だったらあんなに持てないな・・・絶対倒れちゃうよ」
「お、俺は多分持てるけどねー、あんなの軽いっしょ」
大の男4人が大量の荷物を抱えている女子一人を見て驚く中、当の本人は重さなど感じさせないが如く歩き続けている、ふらつきもしないので本当に重い荷物なのかと疑いすら出てきた。
ただ黄名子の目的地がいまいち分からない、自分の家に行くなら河川敷なんて通らないし、あの荷物を持ってどこかに行くというもの考えづらい。一体何処へ―――――――――
『あっ、危ないっ!避けてください!』
「っ!」
考えるのをやめ、聞こえた声に反応する。叫んだのは河川敷でサッカーをしていた少年達だ、子供達の視線を追うと黄名子がいるが、その中間には黄名子に向かって勢いよく飛んでいくサッカーボールがあった。
「マズいぞ剣城!このままだと黄名子に当たる!」
「くそっ!間に合わない!」
井吹の焦る声が聞こえる。俺は気付いたと同時に腰を上げ走るが、ボールは既に距離を縮めあと少しで激突する。黄名子も子供達の声のお陰でボールの存在には気付いた、だがあの状態では防げないし避けられないだろう。俺がなんとかするしかない!
そう思い走る、何とか荷物を捨てて避けてくれればいいのだが・・・!
が、黄名子が取った行動は、避けるでも守るでもなかった。
『よいしょっ・・・・ていっ!』
ボールが飛んでくる方向に対して背を向けた黄名子が足を少し曲げる。瞬間、飛んできたボールは黄名子の曲げた足の裏に当たり、高く跳ね上がった。そうして落ちてきたボールは黄名子の足元で何回かの跳躍をくり返し、やがて跳ねるのを止めたところで、黄名子の足がその上に乗せられた。
『わー!お姉ちゃんすごい!』
『えっへん!うちはこう見えても雷門のエースストライカー!このくらい朝飯前やんね!』
近寄ってくる子供達に胸を張る黄名子。流石は雷門の主力だ、どんな状況でもボールに対して反応する動体視力や直感、実際に目の当たりにして、トップクラスの選手だと再認識する。
「サッカーは楽しいけど、周りに注意してやらないといかんよー、分かった?」
『『はーい!』』
『そうだ!お姉ちゃんも一緒にやろーよ!』
子供達は元気な声と共に黄名子の足元のボールを拾い、一礼。黄名子に一緒に遊ばないかと相談し始めた。そんな場面を眺めていると不思議と笑みがこぼれる。
「うち?・・・よーっし!じゃお姉ちゃんとサッカーバト――――おぉ?剣城!」
「あっ・・・しまった・・・」
石段を降りようとした黄名子が突然振り返り、俺の存在に気付いて走り寄ってくる、見つかってしまった。といっても当然か、さっき黄名子の元へ全力で走ったのだから距離も近いし、身を隠しているわけでもない。だがここまで見つからなかったせいか、ここで見つかったのが少し悔しく感じた。
「こんな所で何してるやんね?」
「あーいや別に・・・たまたまここを通っただけだ」
まさか尾行してたなんて言えない。
「んー?まぁ、たまたまでも何でもいいやんね!剣城も一緒にサッカーやろー!皆ー!この目つき悪いお兄ちゃんも入れてくれるー?」
『『いいよー!』』
「目つき悪いは余計だ!」
いつの間にか俺まで参加することになってしまったが、まぁいい。サッカーは嫌いじゃない、子供相手なら少しは手加減が必要だろうが。
黄名子に無言で手を差し出すと、察したのか荷物の半分を俺に笑顔で渡してくれたので、共に石段を降りる。しかし俺は途中であることに気付いた。
「なぁ黄名子、そういえばお前今スカートだろ」
「それがどうかしたやんね?」
「スカートでサッカーはやめてくれ・・・色々と困る・・・」
「なんでー!うちサッカーやる!何も困らないやんね!」
頬をふくらませて講義する黄名子。ズボンなら全然いいのだが、スカートでサッカーは不慮の事故などが起こってしまう可能性が大きすぎる、主に・・・見えるとか、そういう類の事故が・・・。
「・・・・本当に大丈夫なんだな?」
「一体何を心配してるやんね?早くやろやろー!」
念を押して確認しても大丈夫と言い張るので、俺は黄名子を信じる事にした。黄名子も一応女だ、流石にスカートという事を配慮してのプレーを志すはず、そうであってほしい。
『じゃ目つきワルいお兄ちゃんはあっちのチーム!お姉ちゃんはこっちのチームね!』
「目つき悪いって言うんじゃない」
「じゃもみあげ兄ちゃんって呼んであげるやんね!」
『『もみあげ兄ちゃん!』』
「いいかお前達、そいつのいう事を聞かないほうがいいぞ、将来バカになりたくなければな」
「どういう意味やんね剣城!・・・ま、いっか!それじゃ行くやんねー!」
荷物をベンチに置きグラウンドに立つ。黄名子の掛け声で、河川敷での3対3のサッカーバトルが始まった。子供のパスを受け黄名子が走り出す。
『行かせないぞ!』
『お姉ちゃん!こっち!』
「りょーかいやんね!・・・っ!」
こっちのチームの一人がボールを奪いに黄名子達に迫る。速い、子供とは思えない俊足に目を剥く。
対する相手チームの子は黄名子に合図を送ると、いきなりワンツーパスをくり出した。なんてボールコントロールだ、ボールを受け取った黄名子も目を白黒させて足元のボールに目を落としている。そしてすぐに目つきを変えて、味方にボールを元に戻した。
勿論完璧とは程遠い。パスのスピード自体は遅いし、黄名子の足も少し遅れた、まだまだ練習は必要な域ではあるが、初対面で打ち合わせも無しに出来るほど簡単な技ではない。それこそ高いボールコントロール技術がなければ無理だろう。どうやら子供だと高を括っていると痛い目を見そうだ。
相手チームのボールは再び黄名子に渡り、こちらの陣地に攻め込んでくる。ここで俺が止めなければゴール前がフリーになってしまう、そして何より黄名子に負ける。行かせるわけにはいかないな。
「子供は抜けても俺は抜けないだろっ・・・!」
「うちだって剣城には負けられないやんねっ・・・!」
黄名子に必死で食らい付く。少しでも気を抜けば突破されてしまう、俺は僅かな動きも見逃さないように神経をめぐらせる。
「っ・・・かかったやんね剣城!」
「なにっ!」
黄名子が不意に笑い、少し後ろに引く。突如、俺の横を通り過ぎる影が見えた。あれは・・・黄名子チームの子だ!しまった、黄名子に注意しすぎるあまり周りが見えてなかった・・・!
「これで決まり!いくやんねー!」
相手の一人はゴール前、黄名子は既にパスするために足を後ろに引き上げている、サッカーバトルの為オフサイドは存在しない。
このままパスを出されれば選手一人をフリーで打たせてしまうことになる、俺はせめてもの抵抗を試み、ボールを奪おうと黄名子に迫る。
だがそんな俺の最後の賭けは実らず、黄名子は引いた足を高く振り上げパスを出す。とても速い速度のボールではあったが、その素質ある子供は何なくボールを受け、キーパーの隙をつき、ゴールを決めてみせた。
『やったー!僕のシュート決まったー!』
「すごいシュートだったやんね!ふふん、どうやんねうちらのチームワークは!」
「・・・・・・・・・」
黄名子が俺に指を突きつけ勝利をしらしめる。しかし、対する俺は何も言わない、ただ下を向いて体を震わせる。そんな俺の様子が気になったのか、黄名子が俺の顔を下から覗き込んできた。
「どうしたやんね剣城?うちらに抜かれたのがそんな悔しかった?気にする事ないよ?」
少し心配になったのか声のトーンが下がっている。俺はそんな心配を解くように出来る限り優しく黄名子に笑いかける。
「いや・・・大丈夫だ。別に抜かれたなら次防げばいい、だろ?」
「・・・んっ!ならいいやんね!早く早く!次始めるやんね!」
そうすると黄名子は、いつもの笑顔を浮かべてセンターサークルへ向かっていった、その背中を追いながら俺は心の中で叫ぶ。
「(黄名子、イチゴ柄は中学生としてどうなんだ・・・!しっかり見えたぞこのバカが・・・!)」
少しして俺は、ハっと自分の考えている事のアホらしさに気付き、先ほどのパスの時に見えた下着の記憶を振り払うように乱暴に頭を振った。顔が熱いのは、運動したせいだと勝手に決め込んで。
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30分程、黄名子を見るたびに温度を高める顔に困りながらのサッカーは幕を閉じ、子供達に別れを告げて黄名子と共に歩く。井吹達は既に帰ってしまった、後から来たメールには「俺達は空気を読んで退散する、楽しむといい」という言葉が書かれていたので、「明日締める」とだけ書いて返信しておいた。
黄名子から受け取った荷物を右手に持ちながら黄名子に行き先を伺う。ちなみに肉まんは黄名子のブラックホールの中に消えた。
「結局行き先はどこなんだ?お前の家はこっちじゃないだろ」
「え?何処って剣城の家やんね」
黄名子がさも当然のように答える。
「俺の家!?買い物した荷物はどうするんだ、家に持って帰らなくていいのか?」
「何言ってるやんね?これ今日の夜ご飯やんね、今日うちの両親遅くまで帰らないから、剣城の家で食べることになって、うちがご飯の買い物頼まれたから、買いにいってたやんね。もしかして剣城聞いてなかった?」
「うちの母さんの仕業か・・・なんでこういう事を黙っておくんだ・・・」
額に手をあててため息をつく。どうせ俺を驚かそうとかそんな魂胆だろうが、そういう重要な事は普通に教えて欲しいものだ。
「・・・うち、もしかしてお邪魔だった・・・?」
「あ、いやそういう訳じゃない。俺が知らされて無くて驚いただけだ」
不安そうな顔をする黄名子に急いで説明する。俺が難しい顔をしていたせいで勘違いしたのだろう。別に拒むなんて事するはずがない、寧ろ歓迎だ。変な意味とかじゃなくて客人に対して歓迎するという意味だ。
しばらく歩いて俺の家に到着、玄関をくぐりキッチンへ。そこには夕飯の支度を始めようとエプロンを装備している母さんに声をかける。
「ただいま母さん」
「ただい・・・じゃなくてお邪魔するやんね!」
「お帰りなさい京介、黄名子ちゃんもただいまでいいのよ?ここはもう第二の家みたいな場所なんだから」
買い物袋をテーブルに置き、コップに水を注ぎ黄名子に渡しながら会話を続ける。
「で、この量の食材は何に使うんだ?」
「今日は黄名子ちゃんが来るっていうからすき焼きにしようと思ってね。おいしそうじゃない?」
「すき焼きやんね!?うち大好きー!ありがとーおばさんー!」
すき焼きか、確かにあれは美味しいし悪くないな。ただ黄名子一人増えるだけで食材の量がここまで増えた事に驚きを隠せない。
「豆腐、ネギ、糸コンニャク、牛肉、しいたけ・・・・あら?黄名子ちゃんこれは?」
買ってきた材料を確認しつつ袋から取り出していた母さんが手をとめ、一つの食材を手に黄名子に問いかける。
「?。あ、それはおばさんと剣城に買ってきたものやんね!ご飯とか食べさせてもらってばかりじゃ申し訳ないから!おいしいフルーツやんね!」
「へぇ、ありがとうな黄名子。なに貰ったんだ母さん?」
黄名子に感謝しつつ、母さんの手の中にあるものを見る。せっかくの頂き物だ、フルーツなら食後にでも皆で食べるとしよう。
「まぁ、ありがとう黄名子ちゃん。見てみて京介」
そういって俺に手渡したものは、赤い色をした、小さな果実で、甘味と酸味を兼ね備え、それでいて俺の記憶に新しい・・・・・・
「―――――――おいしそうなイチゴ貰っちゃったわね」
その日、俺がそれを食べることはなかった。
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『今日は楽しかったなー、剣城くん最後は黄名子ちゃんとイチャイチャしちゃってさー』
『それ剣城君の前で言ったらボコボコにされるね絶対』
『あいつは照れ屋で感情の表現が下手なんだろうな・・・っと、剣城から返信だ。なになに・・・・「明日締める」・・・?なんだこれは?』
『あー、井吹くん、明日は頑張ってね。俺は関係ないから』
『狩屋君はすぐ自分の保身を考えるね・・・。大丈夫だよ井吹君、きっと剣城君も再起不能にまではしないと思うよ』
『・・・そうか分かった。皆、今から鉄角の元にいって漁船を借りるぞ』
『なに言っちゃってんの井吹くん!?』
『ちょっと井吹君!いくら明日制裁を受けるのが嫌だからって海の果てに逃げる必要はないよ!』
『お前達は何を言っているんだ、剣城が「明日締める」といったのはきっとサバだ。それ以外ないだろ』
『絶対違うでしょ!どこに部活の時間にサバを締めるストライカーがいるのさ!じゃなくて井吹くんが締められるんだよ!』
『あぁ待って井吹君!なんでそこまで全力で走るの!?あぁもう!追いかけるよ狩屋君!』
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自分の気分転換に書いたものでしたが、ここまで読んでいただきありがとう御座います。次はまた長編を書いて、そこでは今回書けなかった神童さんもしっかり書きたいと思います。宜しければ次回もお願いいたします。