平和の旗幟   作:hashibami

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一話『うざったいやつ』

年季の入った椅子に腰掛ける。椅子の上に尻をつけたのと同時にぎしっ、という小気味いい音が聞こえた。

 

背の高いテーブルは先日購入したばかりなので新しい。

 

目新しいガラスペンにインクをつけた後、ため息をついた。

 

「相変わらず書くことがない。平和だ。」

 

白紙の報告書を退屈そうな目で見つめる。

 

 

 

いや、違った。今白紙じゃなくなった。インクが垂れた。一枚紙を無駄にしてしまった。

 

一回目より大仰なため息をつき、紙を丸めてゴミ箱に捨てた。

 

 

一体いつまでこの退屈な生活を送れば良いのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よし、イブン。帰っていいぞ。」

 

アルエリ護衛騎士団の団長、イストは真顔でそう言った。

このご時世、団長が女性なのも珍しかろう。その上、変な名前で美人なのだから他の村でも有名だと聞く。

 

「おい、お前今何か失礼なこと考えただろ。」

 

流石です団長、どうでもいいところで鋭い。

 

「いえ、そんなことは。」

 

「はぁ...。平和な村だからと言って上と下の関係がないわけではないんだぞ。それに」

 

ため息をつかれてしまった。団長のお説教はまだ続くようだ。

 

『おーい、イブーン!ばあちゃんの店で蜂蜜菓子、とやらが売られているらしいぞー!』

 

そういえば朝方、仲のいい騎士がそんなことを言っていた。

この村は物珍しい輸入品などが入ると市場が大賑わいするのだ。

くっ。誘惑に耐えなければ。

 

「〜大体だなぁ、それじゃ騎士団の存在意義が問われ...おい、聞いているのか。」

 

今なら食べる前でもハチミツガシの感想を報告書50枚分ほど書けそうだ。

 

「はい、しっかりと。」

 

「お前、何か急ぎの用事でもあるのか。」

 

「申し訳ございません。村長に少々伝えたいことがありまして。」※大嘘

 

早くハチミツガシが食べたい。聞いた限りだと柔らかな甘みが口に広がって絶品だそうだ。

 

「村長なら輸入品の関税云々で隣の村に話をつけに行っている。疲れているのか?帰って休め。」

 

ありがたいお言葉。早速買ってまいります。

 

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団長の話は正論だが、聞いていると時々母親が叱っている状況のそれだな、と思う。

団長の声は性格と同じように鋭い。おかげで耳が疲れた。

 

市場に向かう。ああ、やっぱりか。目的の店の前には行列ができている。

ざわざわした喧騒が、まだキンキンと響く耳に心地よい。

見た限りは子供ばかりの行列だが、ちらほらと大人が並んでいるのが散見される。

行列に近づくとさらに喧騒が大きくなり、さっきよりも人の多さを感じさせられる。

売り切れてないだろうか、心配だ。

 

 

 

並んでいる間は暇だ。

と、思っていたのもつかの間、行列の先頭の方からハチミツガシを買った子供が喜んでいる声が聞こえてくる。

喜んでいる子供はいつ見ても可愛らしいが、少々周りからの視線を集めすぎな気がする。

 

 

...いや、あれは可愛らしい子供なんかじゃない。ミュラだ。

農民の娘のくせして何故かいつもフードのついた服を着ているので目立つ。

青い宝石の付いたアクセサリーを腕につけている...いや、あれについては考えたくない。

はぁ。今日はため息が多い気がする、団長も含めて。

 

あ、こっち来た。

 

「やぁやぁイブン君じゃないかぁ〜。君も蜂蜜菓子を買いに来たのかい?」

 

ハチミツガシを手に入れたことに対しての嬉しさなのか。ニヤニヤしている顔といい、変な芝居がかった喋り方といい、

相変わらずうざったいやつだ。若干イラっとしてしまった。

 

「何の用だ。」

 

「いやぁさ〜、君も並んでるし、早速手に入れたこれを君の前で食べようかと思ってねぇ〜。」

 

...うざっ。

 

ついカチンときて、やってしまった。ハチミツガシの袋を奪い取り、それをミュラの前で全部平らげてしまった。

ハチミツガシは、上質な蜂蜜に酸味の強い果物のドライフルーツを入れ固めたもの。

ただでさえ値が張る素材に輸入品というレアな肩書き付き。正直、かなり高い。

それだけあってか一言では言い表せないほど美味かった。

外側はカリッとした食感ではあるが、中の蜂蜜はサクサクした感じだった。

口の中に広がる甘さは余韻を残し消えていく。ドライフルーツの酸味も加わるのでしつこい甘みでない。最高だ。

 

 

しかし、口の中の甘さは急激に後悔の苦味へと変化していく。

ミュラが号泣してた。

 

「な、なぁ。これから買うところだったから許してくれよ。ちょっと多めに買うから。泣き止んでく...」

 

ミュラは下を向いたまま右手で指をさす。

俺はそっちを向いた。

やってしまった...。これじゃあもうどうしようもない。

 

 

 

店の前には『売り切れ御免』の文字が書かれていたのだ。

今更だが、ハチミツガシは蜂蜜菓子と書くのか。店の輸入品一覧に表記されていた。

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さっきからミュラの視線が痛い。ついでに怒りの叫びが耳に痛い。これなんてデジャヴ?

 

「なんで!?楽しみにしてたのに!私まだ一つも食べてないんですけど!」

 

「あれはお前がうざったいから悪いんだ。」

 

ちょっと反省してるけど素直に言うのは癪に障るのでそう言った。

 

「なんですってええ!」

 

適当にミュラの言葉を躱す。

 

あ。

 

「ちょっと!反省してるのよね!?」

 

「いや、あれ。あの人、蜂蜜菓子をこの村に売りつけに来た行商に...」

 

すごい勢いで走ってったな、あいつ。

あ、しょんぼりしてる。やっぱりもうなかったか。

 

ん?なんか話してるな。...戻ってきた。

 

「ねぇ、あんた。この村は退屈だ、って言ってたでしょ。」

 

...嫌な予感がする。

 

「それがどうかしたか。」

 

 

 

 

 

 

「あんた、この村の外に出る気はない?」




どうでしたでしょうか、一番最初の一話。話の進みとしてはかなり遅いですが、
僕としては割と書けた気がしなくもなくもなくもないです。
今回出てきたミュラですが、フードのついた服、と言われてピンとこない方も多いのではないでしょうか。
僕のイメージでは「いけにえと雪のセツナ」のクオンみたいな感じなんですが。まぁ性格はさておき。
ああ、大丈夫です。完結させると誓いますよ、誓いますとも。原動力は読者様方の感想なので、ぜひ軽い気持ちで送信していただけるとありがたいです。投稿間隔は一週間だったり1日だったりまばらなのでそこらへんは承知していただけると...。あとがきってなんでこんなに書くの楽しいんだろうか。では。
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